近年、ライフスタイルの多様化により「仕事とプライベートの時間を適切なバランスにしたい!」と考える人が増え、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が広まってきました。
それに伴い、さまざまな企業がワーク・ライフ・バランスの実現に向けた環境整備を進めています。
今回は、ワーク・ライフ・バランスについて、企業の目線から、推進のポイントや実際の取り組み例も含め、幅広くご紹介します。
ワーク・ライフ・バランスとは
ワーク・ライフ・バランスとは、仕事の時間とそれ以外の生活時間のバランスがとれた状態を指す言葉です。仕事以外の生活時間とは、家族や恋人・友人と過ごす時間はもちろん、ひとりだけの趣味の時間のほか、家事なども含まれます。
ワーク・ライフ・バランスという言葉が登場した当初は、純粋に労働時間とプライベートな時間の両立という側面だけで語られてきました。しかし近年は、より健康で充実した働き方や、仕事だけにとらわれないライフスタイルにも大きな注目が集まり、より多面的な意味合いを含むようになっています。
古いと言われることも
ワーク・ライフ・バランスは、何十年もの間議論されてきた言葉だからこそ、「古い」と感じる人もいるのかもしれません。
仕事とプライベートの両立については、ワーク・ライフ・インテグレーション(Work-life Intergration)という考え方もあります。ワーク・ライフ・バランスに比べると新しい概念で、仕事とプライベートの両者が共存し調和したライフスタイルを目指すものです。
例えば、子どもの送り迎えの時間(プライベート)を利用し、道中の車や電車・子どもを待っている間などに取引先とオンラインで連絡やミーティングをする(仕事)といったように、限られた時間の中で双方をうまく活用していく考え方です。
これは、近年リモートワークで仕事を行う労働者が増加したことから、ワーク・ライフ・インテグレーションの概念が広まってきました。
一方、ワーク・ライフ・バランスは、仕事とプライベートを生活の中で割り振り、それぞれを別の時間で行うものとして考えられています。これは決して古い考え方というわけではなく、むしろ海外で再注目されていることもあります。
なぜワーク・ライフ・バランスが求められているのか
ではここで、なぜワーク・ライフ・バランスが求められるようになっているのか、背景について考えていきましょう。
現代人の意識の変化
1つ目に、近年の労働に対する意識の変化が挙げられます。
2021年、オランダの人材サービス企業randstadが実施した、世界各国の労働者に対象にした労働市場の調査によると、「転職時に最も重視する項目は何か?」という質問に対し、全体を見ると「よい給与」に次いで「ワーク・ライフ・バランス」を重視するという結果が出ています。
特にイギリスやニュージーランド・オーストラリアなどの複数国では、「ワーク・ライフ・バランス」が「よい給与」よりも大事だと答える割合が多く、それほど普段の生活における仕事とプライベートの時間のバランスを気にかける人が増えているといえます。
以下のグラフは、同調査による「運転手の仕事を探す人々が雇用主に最も求める要素」をまとめたものです。
上から順に、「魅力的な給与と福利厚生」「ワーク・ライフ・バランス」「仕事の安定性」が挙げられています。
こちらはあくまでも運転手に業種を限定していますが、全体の調査結果からは、どの職種でも似たような傾向が見られました。
一方、日本でもワーク・ライフ・バランスを求める声が増加しています。
近年、フリーランスのように「雇用関係によらない働き方」を選択する人が増えている日本ですが、内閣府の調査によると第一の理由が「自分のやりたい仕事が自由に選択できるため」であることが分かっています。
反対に、雇用関係によらない働き方が不満足である理由のトップが「収入面」であることも明らかになっているものの、両者を天秤にかけながらワーク・ライフ・バランスを重視した働き方を選択する人が増えています。
共働き世帯の増加も
2つ目に、ジェンダー平等や経済格差の影響といった複数の要因から、パートナーがどちらも仕事をする「共働き世帯」の増加も挙げられます。
下のグラフは、内閣府がまとめた「2000年と2016年での、就業率の変化」です。
特に25歳~44歳の女性において就業率が上がっており、これまでの時代では子育てに専念してきた女性も社会進出し、世帯の収入を支える傾向が高まっていることがわかります。
それまでは、カップルのどちらかが仕事をせず、家事や家族のケアをするのが一般的でした。しかし、現代では多くの場合が共働きのため、限られた時間の中で労働以外の用事を済ませなければなりません。
とはいえ実際には両立がうまくいかず、子どもが家で一人の時間を過ごすことになってしまったり、介護を外部サービスに任せきりになり、かえって費用がかさんでしまったりといったケースも相次いでいます。
介護費用の金額の推移については、以下に示す「サービス種類別介護費用額の推移(平成18年~令和2年度)」で確認できます。
介護サービスにはさまざまな種類がありますが、すべてにおいて金額が右肩上がりであり、利用者の経済を圧迫している状況となっています。
このような状況を改善するという意味でも、プライベートの時間を十分に確保し、普段の生活基盤を整えるワークライフバランスの重要性が求められるようになりました。
ワーク・ライフ・バランス推進に向けた具体的な取り組み
では、企業はその推進に向けて、どのように取り組めばよいのでしょうか。
【準備編】企業の目指すゴール・理想像を設定する
まずは企業として「従業員にとってどんな会社でありたいか」を考えることから始めてみましょう。
働きやすい環境をつくることで、企業として・社員にとってどんなメリットがあるのか?を見直すことで、目指すべき姿が見えてきます。
また、社員に「どのような環境を求めるか」についてのアンケートを取るのもおすすめです。労働時間を調整してほしいのか、休日を増やしてほしいのか、労働環境のどの部分を改善してほしいのか、など具体的な要望をもとに、ワーク・ライフ・バランスの見直しを行います。
大切なのは、社員が気持ちよく働け、企業に労力を還元できる環境です。誰にとってもワーク・ライフ・バランスを大切にできるような環境づくりを意識してみましょう。
フレキシブルな仕事スタイル
しかし、子育てや介護・副業といった多様な生活スタイルが浸透してきた現代では、
- 9〜17時の固定された就業時間で働く
- 必ず出社しなければならない
などの、現在の働き方では厳しい、という人もいるはずです。
特に子どもや高齢の家族がいる社員の場合、こまめにケアしながら仕事をしたいという人もいます。
そこで、企業の役割分担や業務内容を整理し、フレックスや週休の増加・リモートワークができるように対応を検討してみましょう。
今よりも柔軟に仕事が出来るようになれば、適度にプライベートの時間を充実させ、気持ちを切り替えて仕事に励める人も増えるはずです。
休みやすい環境づくり
フレキシブルな働き方のほか、特別休暇の設定や、制度の取得をしやすい環境づくりも、ワーク・ライフ・バランスを充実させるためのポイントといえます。
現在の労働基準法では、既定の休日のほか、1年で最大20日の年次有給休暇が雇用者に与えられることになっています。
しかし、
- 平日の日中に銀行に行かなければならない
- 予期せぬ病気や生理での不調といったアクシデントに見舞われる
など、様々な理由により有給休暇が不足してしまうケースも見られます。
一方で海外に目を向けると、1カ月近くの休暇を義務付けているところが複数国あるほか、国や地域によっては別途で有給の病気休暇を取得できたり、日本よりも長い期間の出産・育児休暇を男女ともに取得できたりする制度が多く存在します。
また宗教行事・学校のスケジュールなどの影響で、普段の休暇とは別にイースターやクリスマス・子どもの夏休みにあわせて長めのホリデーを満喫する人も多く、仕事とプライベートの時間を上手に切り替えてワーク・ライフ・バランスを確立しています。
有給休暇に加えて、社員のニーズに合わせた休暇を設定することを検討してみましょう。そして、実際に休暇を取得してもらえる環境づくりも大切です。上司が積極的に休暇を取得したり、社員に周知するといった取り組みも求められます。
ワーク・ライフ・バランスのメリット
ここで、ワーク・ライフ・バランスを取り入れるメリットについて見てみましょう。
企業への貢献に繋がる
ワーク・ライフ・バランスを意識した制度を充実させることで、間接的に企業の業績の向上に繋がることが挙げられます。
多くの人は高等教育機関を卒業してから、年金を受け取る年齢になるまで多くの時間を仕事に費やします。1日の中でも大きな割合を占める仕事を無理なくこなしてもらうには、やはりワーク・ライフ・バランスを意識し、快適な環境を整えることが不可欠です。
社員はプライベートな時間を充実させることでリフレッシュでき、気持ちを切り替えて仕事に集中できるようになるため、結果として企業の業績UPにも繋がります。
社員同士のコミュニケーションUP
ストレスなく働ける社内環境が整えば、社員にも気持ちの余裕が生まれ、円滑なコミュニケーションが取れるようになります。
社内全体の雰囲気がよくなるうえ、ミスコミュニケーションによるトラブルが減り、生産性の高いパフォーマンスを発揮できるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスの課題
続いて、ワーク・ライフ・バランスの課題も確認しておきましょう。
周囲とのスケジュール調整が必要な場面も
社員によって稼働スケジュールが変化するということは、仕事のミーティングや社外での取引のような場面において、時間の調整が難しくなる可能性もあります。
大切なスケジュールは出来るだけ早めに周知する、それ以外のミーティングなどは自由参加にし後日資料を共有する、など、フレキシブルに対応できるよう、制度を設定する前に、それぞれの業務内容を整理しておく必要がありそうです。
ワーク・ライフ・バランスを推進する企業の取り組み事例
では次に、実際にワーク・ライフ・バランスを推進する企業がどのような取り組みを行っているのかについてご紹介します。
目的に合わせた休暇を設置
有給休暇のほかに、さまざまな目的にあわせた特別休暇を制度化している企業が増えています。
例えば、株式会社ツナグ・ソリューションズでは、家族や友人・それに準ずる大切な人の誕生日にあわせて年に1度取得できる「LOVE休暇」や、最大5日間まで連続して業務に関する資格を受講できる「勉強休暇」といった制度を導入しました。
それぞれの休暇には、目的に合わせて上限ありの金額を支給しており、誰もが気兼ねなく取得できるよう努めています。
取得した社員は社内ブログで感想を掲載し、ほかの社員がコメントすることができます。こうしたコミュニケーションによって、社内全体で特別休暇を取得しやすいような雰囲気づくりを行っている点もポイントです。
働きやすさを重視した、多様な雇用スタイルの制定
仕事に打ち込みたい人、子育てや介護といったケアと両立したい人、副業も頑張りたい人など、働く人によってさまざまな事情を抱えています。
近年は、そうした多様な働き方を受け入れるべく、週休2日のフルタイムにこだわらない形で正社員採用を行う企業も出てきました。
静岡県に拠点を置く企業・株式会社お佛壇のやまきでは、お客様によりよい接客をしてもらうことを目的とし、従業員それぞれのニーズに合わせて5つの雇用スタイルを採用しています。
年齢や状況にあわせて、1日の労働時間の短縮だけでなく、週休3日制度も設けており、全従業員のうち全体のおよそ7割が女性となっています。
社員にプライベートな時間も大切にしてもらう取り組みを、企業が積極的に推進することで、働きやすい職場づくりに繋がっている例といえます。
ワーク・ライフ・バランスとSDGs
最後に、ワークライフバランスとSDGsの関連についてチェックしておきましょう。
SDGsには、社会や経済に関連する項目がいくつかあり、ジェンダー平等や雇用機会など、多様な目標が設定されています。ここでは、その中でもワーク・ライフ・バランスとの関連が深い目標8「働きがいも、経済成長も」との関係をまとめます。
ワーク・ライフ・バランスと関連が深い目標8「働きがいも、経済成長も」
ワーク・ライフ・バランスには、仕事とプライベート時間の両立という視点から、仕事に関する目標と、それ以外の時間に関する目標に当てはめることができます。
目標8「働きがいも、経済成長も」では、誰もが平等に働く機会を得るだけでなく、充分に生活できるよう安定した収入を得られることを目指しています。ただ働ければよい、ということではなく、誰もにとって働きやすい環境を整えられるよう、企業への助成も目標の中で述べられています。
まとめ
今回は「ワーク・ライフ・バランス(Work-life balance)」について、需要の高まりの背景や実際の取り組み例についてお伝えしました。
利益や社会貢献のため、つい社員にさまざまなタスクを請け負ってもらいたくなってしまうかもしれません。しかし、立ち止まって労働環境を俯瞰してみると、やはりワークライフバランスのとれていない状況は社員を圧迫するものであり、長期的な利益を考えても良いこととはいえません。
大切な人たちとの時間を十分に持てるような制度が企業側から整えば、多くの社員にとって生産性の低下やマンネリを防げ、気持ちを切り替えて仕事に励めるため、結果として企業への貢献につながるのではないでしょうか。
何事もバランスが大切です。まずは今の状況をすこし見直して、社員それぞれにとって適切なワーク・ライフ・バランスに声をかたむけてみて下さい。
<参考リスト>
WORK-LIFE BALANCE definition | Cambridge English Dictionary
A new way to navigate work and life|BBC
Work-Life Balance: What It Is and 5 Ways to Improve Yours | Coursera
Work-Life Integration vs. Work-Life Balance | CO- by US Chamber of Commerce
Randstad-Employer-Brand-Research-Global-Report-2021.pdf|randstad
Work-Life Balance or Better Pay? Two-Thirds Choose Balance
労働時間・休日 |厚生労働省
社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集|内閣府