
消費税減税のデメリットは、一見すると家計や経済に良いことづくめのように見える減税政策の裏側に潜む課題です。
物価の上昇が続く中、多くの人が「消費税を下げてほしい」と感じているのは自然なことですが、実際には財源の問題やインフレ対策としての限界など、慎重に考えるべき要素が数多くあります。
減税を求める声が高まる一方で、政府がなかなか踏み切れない背景には、政治的にも経済的にも見過ごせないリスクがあるのです。
消費税の役割やその減税がもたらす現実を、正しく理解することが今、求められています。
目次
そもそも消費税とは?いつ・なぜ導入されたのか
消費税は、商品やサービスを買うときにかかる税金で、1989年に日本で初めて導入されました。
この消費税の導入を主導したのは、当時の内閣総理大臣・竹下登氏です。
高齢化が進む中、将来の年金や医療費の財源をどう確保するかが国の大きな課題となっていました。
当時の税収は、主に働く人からの所得税や企業の利益にかかる法人税に頼っていましたが、景気に大きく左右されるため安定性に欠けていました。
そこで、景気変動の影響を受けにくく、国民全体から少しずつ公平に集められる税として、消費税が注目されたのです。
たとえば、100円のお菓子を買うと10円の消費税が加わり、支払いは110円になります。
このように、消費のたびに税を支払う仕組みは、所得の多い少ないに関係なく、幅広く税負担を分かち合うという特徴があります。
また当時、欧米諸国ではすでに付加価値税などの間接税が普及していた背景もあり、日本も国際的な税制度の流れに合わせて導入が進められました。
消費税減税・廃止における3つのデメリット
消費税の減税や廃止には、一見メリットが多いように見えますが、実は大きな落とし穴もあります。
特に財政への影響や政策効果の限界は見逃せません。
この章では、消費税を見直す際に注意すべき3つの重要なリスクについて、具体的に解説します。
財政難に陥る恐れ
消費税減税や廃止を行うと、政府の財政が苦境に陥るリスクがあります。
というのも、消費税は一般会計の重要な財源であり、令和6年度の当初予算では、租税及び印紙収入(約69.6兆円)のうち消費税収が約23.8兆円(21.2%)を占めています(参考:財務省「令和6年度一般会計予算 歳出・歳入の構成」)。
これは、所得税(約17.9兆円、15.9%)や法人税(約17.0兆円、15.1%)を上回る規模です。
この大きな収入が失われると、年金・医療・子育て支援などの社会保障費を充てる余裕が一気になくなります。
結果として、政府は他の手段で財源確保に動く必要が出てしまいます。
例えば、別の増税を検討するか、あるいは公共サービスを削減する選択もあり得ます。
このように、消費税の減税・廃止は、一見すると家計に優しく見えても、実は国全体の安全網を揺るがすリスクが潜んでいるのです。
効果が限定的になる恐れ
消費税を下げれば、物の値段が下がって家計が楽になると考える人は多いでしょう。
たしかに、支払い時の負担が減れば、生活がしやすくなるように感じられます。
しかし、実際にはその効果が思ったほど出ない可能性もあります。
その理由のひとつは、減税で得られた分のお金を人々が「消費せずに貯金してしまう」ことがあるからです。
特に、不景気や将来への不安が強いときほど、お金の使い方は慎重になります。
「今は使わずに、万が一のときに備えよう」と考える人が増えるため、たとえ負担が軽くなっても、その分消費が増えるとは限りません。
実際、コロナ禍で全国民に特別定額給付金が配られた際、多くの人がそのお金を生活費に回すよりも、貯蓄として残していたというデータもあります(参考:内閣府「特別定額給付金が家計消費に与えた影響」)。
また、企業側も「減税=売上増」とは簡単に判断できません。
将来の需要が読めない中では、値下げしても利益が出るとは限らず、慎重になるからです。
こうした状況では、消費税の減税が景気全体を押し上げる「起爆剤」にはなりにくく、結果として効果が限定的になるおそれがあるのです。
根本的なインフレ解決にならない
消費税を下げれば、たしかに物価は一時的に下がるかもしれません。
しかし、それで現在のインフレが根本的に解決されるわけではありません。
なぜなら、今の物価上昇の大きな原因は、国内の需要ではなく、原材料費の高騰や円安、エネルギー価格の上昇といった「外的要因」によるものだからです。
こうした背景がある以上、消費税だけを下げても、物価全体の上昇トレンドを止めるのは難しいのです。
さらに、消費税を減税すれば国の税収が大きく減ることになります。
財源が足りなくなれば、いずれはどこかで増税をしなければならない局面が訪れます。
実際、過去の税制変更でも「一時的な減税の後に再増税」が繰り返された例は少なくありません。
まとめると、減税は短期的には家計にうれしい対策であっても、長期的にはまた負担が戻ってくる「延命措置」にすぎない場合もあるのです。
本当の意味でインフレを落ち着かせるには、エネルギー政策や為替対応、国内の供給力強化など、構造的な課題へのアプローチが欠かせません。
消費税減税・廃止における3つのメリット
消費税の減税や廃止は、家計や企業にとって大きな助けとなることがあります。
物価高が続く今、日々の暮らしや経済活動を支える即効性のある対策として注目されているのです。
この章では、具体的にどんなメリットがあるのか、3つの視点からわかりやすく紹介します。
家計の負担軽減に繋がる
消費税の減税や廃止は、日々の買い物にかかる負担を軽くする効果があります。
なぜなら、消費税はすべての人が毎日のように払っている税金だからです。
食料品や日用品など、生活に欠かせない物にかかる税が下がれば、それだけ家計への圧力が和らぎます。
たとえば、消費税が10%から5%になれば、1万円分の買い物で500円の差が生まれ、月々の支出に大きく関わってきます。
特に、収入が限られている家庭や子育て世代にとっては、この違いが生活の質を左右することもあるでしょう。
即効性のあるインフレ対策である
消費税の減税は、物価上昇にすばやく対応できる「即効性のある対策」として注目されています。
根本的な物価上昇の原因を解決するわけではありませんが、短期的に家計の負担を和らげる効果があるのが特徴です。
その理由は、消費税が下がると商品やサービスの価格がすぐに安くなり、消費者がその変化をすぐに実感しやすいからです。
たとえば、消費税が引き下げられることで、スーパーのレジでの支払額が明らかに減少し、「買いやすくなった」と感じる人が増えます。
特に、食料品やガソリンといった日々の生活に欠かせない分野では影響が大きく、家計への直接的な支援にもなります。
このように、消費税の引き下げは長期的な経済対策ではないものの、すぐに効果が表れる実用的な手段のひとつといえるでしょう。
事業者の負担軽減に繋がる
消費税の減税や廃止は、消費者だけでなく、商品やサービスを提供する事業者の負担も軽くします。
これは、価格への転嫁が難しい現状で、消費税が高いと売上に直結するからです。
特に中小企業や個人商店は「税金分を価格にのせにくい」ため、自分たちの利益を削って対応しているケースが多いのです。
仮に消費税が引き下げられれば、こうした事業者の価格設定の悩みが減り、安定した経営がしやすくなります。
さらに、消費税には「申告・納税の事務作業」も多く、それが減れば労力の軽減にもつながります。
日本商工会議所の調査でも、多くの中小企業が消費税の税務処理の煩雑さを負担に感じているという結果があります。
実際に消費税が減税された世界各国のその後
消費税の減税は、日本ではまだ実現していないものの、海外ではすでに実施された国もあります。
実際にどのような政策が取られ、どのような結果をもたらしたのかを知ることは、日本が今後の税制を考えるうえで重要なヒントになります。
この章では、それぞれの国の取り組みとその影響を、できるだけ具体的にわかりやすく紹介します。
ドイツの例
ドイツでは2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済活動が大きく停滞したことを受け、消費(付加価値)税の一時的な引き下げが行われました。
国民の消費意欲を喚起し、景気の落ち込みを食い止めることが目的でした。
具体的には、標準税率を19%から16%へ、軽減税率を7%から5%へ引き下げ、期間は2020年7月から12月末までの6か月間とされました(参考:財務省「新型コロナ危機における緊急経済対応と評価」)。
この政策によって、自動車や家電など高額商品の購入を中心に、一部の分野では消費が回復したというデータもあります。
実際に「減税前より売上が伸びた」と報告した企業もありました。
しかしその一方で、外出自粛や感染拡大の不安が続いていたため、外食や旅行などの分野では期待されたほどの回復が見られませんでした。
さらに、減税が期間限定であることから、「今のうちに買っておこう」という駆け込み需要が一時的に生まれた反面、期間終了後の反動減も起きました。
つまり、減税による消費の増加は持続的とは言いがたく、景気全体を底上げするには限界があったのです。
このドイツの事例は、消費税減税が短期的な景気刺激策としては有効でも、長期的・構造的な経済回復には単独では不十分であることを示しています。
イギリスの例
イギリスでは2008年、リーマンショックによって世界的な金融危機が広がる中、消費の落ち込みを防ぐために付加価値税(VAT)の一時的な引き下げが行われました。
当時の標準税率は17.5%でしたが、それを15%へと引き下げる政策が打ち出され、2008年12月から2009年末までの約1年間実施されました(参考:国立国会図書館 調査及び立法考査局「諸外国の事例に見る付加価値税の減税等」)。
この政策の目的は、物価を実質的に下げることで家計の負担を軽減し、消費を刺激して景気を下支えすることでした。
実際、一定の分野では消費の持ち直しが見られ、「効果はあった」とする評価も一部には存在します。
しかし、当時のイギリス経済は、失業率の上昇や金融機関の破綻など深刻な不安要素を抱えており、減税だけではその不安を払拭できませんでした。
そのため、消費税引き下げの効果は限定的であり、景気全体を力強く回復させるには至りませんでした。
このイギリスの事例は、消費税減税が一時的な景気対策としては有効でも、単独では十分な効果を発揮しにくく、金融政策や雇用支援など、複数の政策と組み合わせることが重要であることを表しています。
フランスの例
2009年、フランスでは世界的な景気後退の影響を受け、国内の雇用と消費を守るために、消費税(付加価値税)を業種限定で引き下げる政策が実施されました。
対象となったのは外食を中心とする飲食業で、税率はそれまでの19.6%から一気に5.5%へと大幅に引き下げられました(参考:東京財団「Covid-19による経済悪化への緊急支援策の効果:~欧州・付加価値税引下げ、イギリス・Eat Out to Help Out、Go Toトラベル~〈政策データウォッチ(35)〉」)。
この政策の主な目的は、経営に苦しむ飲食業界を支援し、失業の拡大を防ぐことでした。
実際、一部のレストランでは価格を引き下げたことで客足が戻り、雇用が拡大するなどの効果が見られました。
また、調理スタッフやサービス業の雇用が守られたという報告もあり、業界内部では歓迎する声もありました。
しかし、すべての店舗が減税分を価格に反映させたわけではなく、「消費者の実感が乏しい」「利益だけが業者側に残ったのでは」という批判も出ました。
さらに、減税によって税収が減ることへの懸念も広がり、政策の公平性や持続性について議論が起こりました。
このフランスの例は、業種を絞った減税でも経済的な効果を発揮できる一方で、政策の実行にバラつきが出やすく、恩恵が均等に届かないというリスクもあることを示しています。
このように、税制を使った支援は、設計段階でのルールづくりや、実施後の効果検証が非常に重要になることを教えてくれる事例です。
消費税減税・廃止を政府が行わないワケ
消費税を減らしたり、なくしたりすることは、実は政府にとってとても難しい判断です。
その一番の理由は、減税した後の「財源」をどう確保するかという問題があるからです。
現在、消費税は国の収入の約3割を占めており(参考:財務省「令和6年度一般会計予算 歳出・歳入の構成」)、これを失えば年金・医療・教育などの予算に深刻な影響が出かねません。
さらに、いったん減税してしまうと、景気が回復しても再び税率を上げることが政治的に非常に難しくなります。
国民の反発を受ける危険性が高く、結果として財政が赤字続きになるリスクもあります。
過去には、消費税率を引き上げるたびに大きな反発があったことからも、税制を頻繁に変えることは政府にとってリスクが大きいのです。
たとえ減税のメリットがあっても、「その後どうするか」が見えにくいため、政府は慎重にならざるを得ないのです。
まとめ
消費税は、社会保障などを支えるために導入された重要な財源です。
一方で、物価高が続く今、減税や廃止を求める声も強まっています。
実際に海外では一時的な減税が行われた例もあり、一定の効果があった一方で、財政への影響や効果の限界も見られました。
減税には、家計や企業の負担を軽くするメリットがありますが、財源の確保や再増税の難しさといったデメリットも存在します。
政府が慎重になるのは、こうした両面の影響を見極める必要があるからです。
私たちも、この問題を「単なる損得」ではなく、「社会全体の仕組み」として考えることが大切です。
この記事を書いた人

エレビスタ ライター
エレビスタは「もっと"もっとも"を作る」をミッションに掲げ、太陽光発電投資売買サービス「SOLSEL」の運営をはじめとする「エネルギー×Tech」事業や、アドテクノロジー・メディアなどを駆使したwebマーケティング事業を展開しています。
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