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セルフメディケーション税制とは?概要や手続き方法をわかりやすく解説!

日常生活でちょっとした体調不良はよくあるものです。花粉の季節の鼻水、風の引き始め、肩こりなどは、市販の医薬品で対処できる場合もあるでしょう。そうした医薬品の購入の際に利用できるのが、セルフメディケーション税制です。

この記事では、セルフメディケーション税制とは何か、注目される背景、概要、手続き方法などについて解説します。

セルフメディケーション税制とは

セルフメディケーション税制とは、医薬品の購入金額のうち、年間合計1万2千円を超える金額が確定申告により控除される制度です。控除を受けるためには、1〜12月の合計であること、自分または自分と生計を一にする親族のために購入した医薬品であることと、保険金などで補ったった分は差し引くことが条件で、最高88,000円までと決められています。

セルフメディケーション税制は、健康の維持・促進・予防に関する取り組みとして2017年に始まった制度です。かぜ薬、胃腸薬鼻炎用内服薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬など、薬効のある薬のうち、対象となる品目を定めて運用されています。

セルフメディケーションとは

そもそもセルフメディケーションには、どのような意味があるのでしょうか。世界保健機関(WHO)は、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義しています。

セルフは「自己」、メディケーションは「薬剤」や「医薬」を指す言葉です。セルフメディケーションには、自分で薬を服用し、体調を管理していくという意味があります。健康の維持・促進・予防に必要な考え方として知られています。

セルフメディケーション税制が注目される背景

セルフメディケーション税制は当初、2021年までの期限付きで実施される予定でした。しかし5年後の2026年まで延長されて現在に至ります。こうした経緯には、セルフメディケーション税制が必要とされる理由や、注目される背景に関わりがあります。2つのポイントを確認していきましょう。

医療費の増大

1つ目は、医療費が増え続けている実態です。2019〜2023年度の医療費の動向を追っていくと、2020年度には減少が見られるものの、その後は増え続けていることが分かります。

【医療費の動向】

年度20192020202120222023
医療費(兆円)43.6 42.2 44.2 46.0 47.3
医療費の伸び率(%)2.4 ▲3.14.6 4.02.9
(引用元:令和5年度 医療費の動向-MEDIAS-|厚生労働省、一部著者修正)

2020年に医療費が減少した理由は、新型コロナウイルスが流行し始めた年であり、感染予防として外来受診を控えたことなどがあると考えられています。しかし、その後は上昇を続け、2023年には47.3兆円と、2029年に比べて3.7兆円増加している状況です。

高齢化などが進む中、医療費を含む社会保障費は毎年増加する傾向にあります。2024年度予算では、一般歳出の約56%が社会保障関係であり、医療費の増大もまた、国の財政を圧迫しています。

現役世代の負担増

もう1つの背景が、現役世代の医療費の負担が増えていることです。現役世代の医療費負担を示す後期高齢者交付金は、2022年度に6兆6,989憶円と過去最高を記録しています。(2024年9月時点の最新)

【後期高齢者交付金の推移(単位:億円)】

2020年度2021年度2022年度
63,70365,26666,989
(引用元:後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況)

負担が増えている理由の1つは、医療費の増大でも取り上げた高齢化の進行です。2020年に1,860万人だった75歳以上の人口は、2040年には2,227万人になると予想されています。一方、現役世代の15〜64歳の人口は、2020年に7,509万人でしたが、2040年には6,213万人と減少する見通しです。※1

後期高齢者の増加に伴い医療費が増え、減少する現役世代の負担はより大きくなると見込まれます。こうした負担を減らすためにも、自分で健康を管理するセルフメディケーションと、これを支える税制が必要とされています。

※1我が国の人口について|厚生労働省

セルフメディケーション税制の概要

それでは、セルフメディケーション税制がどのような内容なのかを確認していきましょう。

適用の対象となる人

セルフメディケーション税制は、次の1〜3のすべてに当てはまる人が対象です。

■適用の対象となる人
1.所得税・住民税を納めている人
2.健康診断、もしくは予防接種を受けている人
3.医療費控除を受けていない人

上記に当てはまる人のうち、1〜12月の間に対象となる医薬品の購入額が1万2千円を超えた場合、セルフメディケーション税制の適用の対象になります。もう少し詳しく紹介しましょう。

1.所得税・住民税を納めている人

セルフメディケーション税制は、所得税や住民税から控除されます。そのため、これらの税を支払っていない人、例えば一定額以内の年金で生活している人などは対象になりません。

2.健康診断、もしくは予防接種を受けている人

健康診断や予防接種とは、健康保険組合や市区町村が行う健康診査、勤務先の定期健康診断、インフルエンザワクチンなどの予防接種、メタボ検診とも呼ばれる特定健康診査、がん検診などが含まれます。適用を受ける年に行うこと、申告する人が受けていることが必要です。ただし、生計を一にする親族は不要です。

3.医療控除を受けていない人

セルフメディケーション税制は、医療費控除と同時に受けることはできません。そのため、両方を受ける資格のある場合は、いずれかを選ぶ必要があります。

✒医療費控除とは

10万円を超える医療費を支払った際に、所得控除を受けることのできる制度

適用の対象となるには、これらの条件を満たしている必要があります。

対象医薬品の範囲

セルフメディケーション税制の対象になる医薬品は7千品目を超えます。(2024年9月時点)随時追加されているので、最新の情報を確認しましょう。対象になる薬品名と発売元企業名、有効成分名などが、厚生労働省のサイトにて公表されています。

セルフメディケーション税制の対象品目一覧(厚生労働省のサイトへ)

厚生労働省のサイトでは、対象品目を「スイッチOCT」と「非スイッチOCT」の2つに分類しています。スイッチOTC医薬品とは、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬のうち、医療用から転用された医薬品を指します。以前は、スイッチOCTのみが対象でした。

しかし、2022年よりスイッチOCT以外の品目も対象になったため、非スイッチOCTの一覧が作成されています。いずれも対象になるので、購入する予定の医薬品を調べたいときには、両方の一覧を参照しましょう。

セルフメディケーション税制の手続き方法

次に、セルフメディケーション税制を受けるための手続き方法を確認します。まず必要な書類をそろえ、翌年の確定申告にて申請します。それぞれ詳しく見ていきましょう。

必要な書類をそろえる

はじめに、セルフメディケーション税制の適用を受けるために必要な書類をそろえます。内容は次の3つです。

■必要な書類

1.医薬品の領収書(レシート)
2.健康診断、もしくは予防接種を受けたことを証明する書類
3.セルフメディケーション税制の明細書

1〜3をそれぞれ詳しく紹介します。

1.医薬品の領収書(レシート)

1つ目は、医薬品の領収書(レシート)です。医薬品を購入すると、セルフメディケーション税制の対象である品目名に★印の付いた領収書(レシート)が発行されるので受け取りましょう。

領収書(レシート)の提出は不要です。ただし、自宅で5年間保管する必要があります。

【領収書(レシート)の例)】

なお、セルフメディケーション税制の対象医薬品には、パッケージに識別マークがついている場合もあります。

【セルフメディケーション税制控除対象マーク】

前章で紹介した「セルフメディケーション税制の対象品目一覧」と併せて参考にすると良いでしょう。

2.健康診断、もしくは予防接種を受けたことを証明する書類

2つ目は、健康診断、もしくは予防接種を受けたことを証明する書類です。健康診断の場合は領収書、または結果通知表のいずれかが必要です。予防接種は領収書、または予防接種済証のいずれかです。

健康診断、もしくは予防接種を受けたことを証明する書類の提出は不要です。ただし、自宅で5年間保管する必要があります。

注意として、証明する書類には以下の名称が記載されていなければなりません。

■証明する書類に記載されていなければならない名称

健康診断の種類記載の必要な名称
(職場で受けた)定期健康診断「定期健康診断」「勤務先(会社名)」
特定健康診査(メタボ検診)「特定健康診査」「健保組合名」

健康診断を証明する書類として保管する際は、上記の名称が記載されているかを確認しましょう。

3.セルフメディケーション税制の明細書

3つ目は、セルフメディケーション税制の明細書です。購入した薬局や医薬品の名称、支払った金額などを記入し、確定申告の際に添付します。ただし、インターネットを利用して明細書を自動的に作成する場合は不要です。

【セルフメディケーション税制の明細書の一部】

国税庁が公開している明細書の最後には、支払った金額の合計や保険金などで補った分を差し引く欄があります。この内容を網羅していれば、自身で作成した様式で申告することも可能です。国税庁の様式は、次のサイトで入手できます。

セルフメディケーション税制の明細書(国税庁のサイトへ)

確定申告をする

1〜3の書類をそろえたら、確定申告をします。確定申告は、毎年2月中旬から3月中旬に行われます。申告する前年の1〜12月に購入したセルフメディケーション税制対象の医薬品について、税務署に必要な書類を提出します。

前述の通り、インターネットを利用して確定申告を行うことも可能です。その際の方法は2つあります。1つは、明細書にある事項をすべて画面に入力する方法です。もう1つは、合計金額のみ入力する方法で、この場合は前章で紹介した明細書の添付が必要です。

セルフメディケーション税制に関してよくある疑問

セルフメディケーション税制の内容について解説してきましたが、こういう場合はどうなるの?といった疑問もあるでしょう。ここでは、よくある疑問を通じて3つのポイントを紹介します。

医療費控除とどっちがお得?

セルフメディケーション税制は、医療費控除と同時に申告することはできません。いずれかを選ぶことになります。それではどちらを選ぶとお得なのでしょうか。2つの制度の違いを比較したのが次の表です。

■医療費控除との違い

制度セルフメディケーション税制医療費控除
控除の対象医薬品診療・治療、医薬品、介護保険サービスなど
適用される金額1万2千円を超える10万円を超える※
※医療費控除

その年の総所得金額が200万円未満の場合、総所得金額の5%の金額になります。

例として、年間所得400万円の世帯を例に計算してみます。

*計算式:(医薬品購入額+医療費)ー(セルフメディケーション税制の場合12,000円)(医療費控除の場合100,000円)×所得税率(400万円の場合:所得税20%、住民税10%)

年間購入費用セルフメディケーション税制医療費控除
ケース①医薬品5万円医療費8万円11,400円の控除9,000円の控除
ケース②医薬品5万円医療費7万円11,400円の控除12,200円の控除

上記のように、年間所得額のほか、医薬品購入と医療費の金額の割合により控除額は変わるため、一概に言えません。どちらか迷う場合は、計算式を使って計算してみましょう。

ネットで購入した薬も申請できる?

ネットで購入した薬も申請できます。 ただし、領収書(レシート)をもらえるかを確認してから購入するようにしましょう。

ネット通販の中には、領収書を自分で印刷して入手することもあります。しかし、自宅のプリンターなどで印刷した領収書は、証明書類の原本として認められていません。ネット通販会社などに領収書を請求する必要があります。※2

※2セルフメディケーション税制に関するQ&A (令和4年2月9日現在)|厚生労働省

領収書は不要?

領収書(レシート)は必要です。確定申告時に提出する必要はありませんが、5年間は保管すると決められています。この間、税務署から求めがあったときは、提出しなければなりません。大切に保管しておきましょう。

セルフメディケーション税制とSDGs

最後に、セルフメディケーション税制とSDGsとの関係について確認します。セルフメディケーション税制は目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献します。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

目標3「すべての人に健康と福祉を」は、すべての人々の健康的な生活と福祉を推進し、質の高い医薬品を利用できることなどを目指しています。

セルフメディケーション税制は、健康の維持・促進・予防に関する取り組みとして始まりました。この取り組みは、SDGsの目標に掲げる健康的な生活の実現に貢献します。健康管理を支援していく税制の導入という視点では、福祉にもつながるでしょう。

まとめ

セルフメディケーション税制は、対象の医薬品を年間1万2円を超えて購入したときに所得税の控除を受けられる制度です。これまで期限を延長したり、対象医薬品の範囲を広げたりと、内容を変更しながら続けられてきました。2024年9月時点では、2026年までの期限付きの制度として運用されています。

「自分自身の健康に責任を持つ」というセルフメディケーションは、高齢化の進んだ日本では特に重要な視点と言えます。健康づくりに取り組む中で、セルフメディケーション税制を上手に利用していきましょう。