
水深200メートル以深の暗黒世界に生きる深海魚は、想像を超える美しさと驚異的な適応力を持つ地球最後の秘境の住人です。2025年に新発見された深海魚の愛らしい姿から、リュウグウノツカイの神秘的な輝きまで、深海魚の一覧と特徴を知ることで、生命の無限の可能性が見えてきます。
全国のおすすめ水族館で実際に深海魚と出会い、彼らが教える生存の知恵と海洋環境の大切さを体感してみませんか。
目次
深海魚とは
【2025年4月に発見された深海魚、イズハナダイ属の1種(希少種)】
深海魚とは、水深200mより深い海域に生息する魚類の総称です。太陽光がほとんど届かない暗黒の世界で、高水圧・低温・酸素不足という過酷な環境に適応して進化した魚たちです。現在知られている海水魚は約1万5,800種ですが、そのうち少なくとも2,000種以上が深海魚に該当すると見積もられています。2023年時点では、生きた魚類が撮影により確認された最深記録は8,336m(西太平洋の伊豆・小笠原海溝)で、魚の生存限界を水深8,200〜8,400mほどと考えられています。
深海魚を理解するために重要なポイントを確認しておきましょう。
深海魚の生息環境と生活様式
【深海とは】
深海は太陽の光がほとんど届かない真っ暗闇の世界で、水深1,000m前後では太陽の光が海面の約100兆分の1しか届きません。また、水深1,000mより深い海域の水温は2~4℃と冷たく、さらに猛烈な水圧がかかっています。
その中で暮らす深海魚は、大きく2つのタイプに分類されます。
- 底生性深海魚:海底付近で暮らし
- 遊泳性(漂泳性)深海魚:海底から離れた中層を漂って生活
それぞれに含まれる種数はほぼ同数と見積もられており、生活様式がまったく異なるため、深海魚の進化や生態を理解するうえで重要な区分となっています。
深海の食物連鎖システム
深海には光合成を行う植物が存在しないため、食物連鎖の基礎は浅海の動植物に依存しています。浅海で消費されなかった生物の遺骸や排泄物がマリンスノー※となって沈降し、最終的に深海に降り積もります。
これらの沈み行く有機物は、オキアミやクラゲなど浮遊性の深海生物に消費されるほか、深海底に堆積した後は貝類やナマコ、クモヒトデなどの底生生物のエネルギー源として利用されます。
それらの生き物は深海魚を含むさらに大型の深海生物によって捕食され、独特な深海での食物連鎖を形成しています。
【マリンスノーの浮遊と沈降に対して、細胞外ポリマー物質がどのような役割をするか】
深海魚の独特な適応戦略
深海魚は過酷な環境に適応するため、独自の体構造と生存戦略を進化させています。多くの深海魚は高い水圧に耐えるために骨が発達しておらず、その代わりに柔らかくて弾力のある身体を持っています。
光がほとんど届かない暗闇では、視力が退化している種類もあれば、逆に視覚が異常に発達している種類もあります。また、深海魚の多くは仲間とのコミュニケーション手段として発光を利用し、この発光は捕食者への警告や求愛行動にも役立っています。
さらに、効率的にエネルギーを消費するため、必要以上に動かずに待機する時間が長いという行動パターンも特徴的です。
深海魚は地球上で最も過酷な環境の一つに適応した生物として、私たちに生命の可能性と多様性を教えてくれる存在なのです。*1)
深海魚がつぶれない理由
【2025年4月に発見された深海魚、フサアンコウ科の1種(希少種)】
深海の水圧は想像を絶するほど強力で、水深1,000mでは地上の約100倍もの圧力がかかります。これは、カップラーメンの容器を深海に沈めると約4分の1の大きさに縮んでしまうほどです。それにもかかわらず、深海魚たちは平然と生活しています。この驚異的な適応能力の秘密を探ってみましょう。
深海魚が高水圧に耐える仕組みは、私たちの常識を覆す巧妙な生存戦略にあります。
体内構造の革命的変化
深海魚の最大の特徴は、体内に空気をほとんど含まない構造です。陸上の生物や浅海魚は体に隙間が多い構造をしているため、高い水圧がかかると押しつぶされてしまいます。
これに対し深海魚の体は、筋肉や脂肪、ゼラチン質で隙間なく構成されているため、外からの力がかかってもつぶれにくい構造となっています。水圧が高くても潰れるのは空気だけで、水や脂は潰れないという物理的性質を巧みに利用しているのです。
極力遊泳せずに浮力を確保するため、水より重い筋肉や骨といった組織が減少し、水分や脂肪分を多く含んだ体の構成に進化しました。
浮き袋の進化的適応
浅海魚は気体で満たされた浮き袋を使って浮力を得ていますが、大きな圧力がかかる深海では気体の入った浮き袋はつぶれてしまいます。深海魚はこの問題を2つの方法で解決しました。
①浮き袋を脂肪やワックスで満たす
一つ目は浮き袋を脂肪やワックス※で満たす方法です。シーラカンスなどは気圧による膨らみの変化が小さい油で浮き袋を満たしています。
②そもそも浮き袋を持たない
二つ目はそもそも浮き袋を持たない進化です。アンコウなどは海底でエサが近づいてくるまでじっとしているため、長い年月をかけて環境に適応し、浮き袋の必要のない特殊な体に進化しました。
細胞レベルでの高圧対策
深海魚の細胞膜には、耐超高圧メカニズムが備わっています。
深海魚の細胞膜は、圧力に強い特殊な脂質でできています。この脂質は常温で液体のように柔らかく、高い圧力がかかって膜の構造が少し崩れても、すぐに元の形に戻って細胞の機能を正常に保つことができます。
タンパク質安定装置の存在
さらに重要なのがTMAO(トリメチルアミン-N-オキサイド)※という物質です。これは「タンパク質安定装置」として機能し、細胞が圧力を受けると水分子がタンパク質の立体構造のすきまに押し入ってくるのを防ぎます。
高い圧力を受けるとTMAOが増えて水分子をしっかり捕らえ、タンパク質の立体構造を守ることが分かってきました。
深海魚のこれらの適応メカニズムは、地球上で最も過酷な環境の一つに生命が適応できることを示す驚異的な例といえるでしょう。*2)
深海魚の一覧とそれぞれの特徴
【おおよその深さで定義された生態学的生息地における代表的な海洋生物】
深海には現在知られているだけで2,000種以上の魚類が生息しており、その多様性は私たちの想像をはるかに超えています。中深層の遊泳性深海魚はこれまでに約750種類が知られ、深海性の底生魚は中深層と漸深層以深を合わせて1,000種以上が記載されています。
これらは円口類、軟骨魚類、硬骨魚類という幅広い分類群にまたがっており、長い進化の過程で独特な形態と生態を獲得してきました。深海魚を生活様式と分類群で整理すると、その驚異的な多様性がより明確に理解できます。
遊泳性深海魚(中深層魚類)
中深層を自由に泳ぎ回る遊泳性深海魚は、深海の食物連鎖において極めて重要な役割を担っています。この中で、特に多いのはワニトカゲギス目とハダカイワシ目という2つのグループです。
ワニトカゲギス目には、
- ヨコエソ科:この中のオニハダカ属は地球上の脊椎動物として最大の個体数を持つと考えられる深海魚グループ
- ムネエソ科:左右に著しく側扁した体型と銀化によるカムフラージュ効果が特徴的な深海魚
- ワニトカゲギス科:多くの種を有する最大のグループで、暗い体色と下顎のヒゲ、生物発光能力を持つ深海魚
が含まれ、合計で414種が確認されています。一方、ハダカイワシ目のハダカイワシ科だけで248種が存在し、30を超える属に分かれています。
これらの魚類は種類の豊富さだけでなく、実際に海中にいる個体数も非常に多く、深海の生態系を支える主要な構成員です。
リュウグウノツカイ
【ウィーン自然史博物館に展示されているリュウグウノツカイの標本】
リュウグウノツカイは遊泳性深海魚の代表格で、現生硬骨魚類の中で最長の種類として知られています。記録上最大のものは全長11メートルに達し、太平洋・大西洋・インド洋の外洋深海中層を回遊しています。体の下側に伸びる長い腹ビレは単なる装飾ではなく、獲物を探知する重要な感覚器官として機能しています。
ハダカイワシ
【ハダカイワシ】
ハダカイワシは深海の食物連鎖ピラミッドの底辺を支える重要な資源種と言えます。北極・南極を含む全世界の海洋に広く分布し、その生物量は莫大です。
【ヨコエソ科の魚】
特にオニハダカ属(ヨコエソ科)の仲間は、地球上の脊椎動物として最大の個体数を持つと考えられています。
チョウチンアンコウ
【ヒレナガチョウチンアンコウ科のジョルダンヒレナガチョウチンアンコウ】
チョウチンアンコウは主に大西洋の深海に分布し、カリブ海などの熱帯域からグリーンランド・アイスランドのような極圏付近までの広範囲に生息しています。太平洋・インド洋からの記録もありますが、その数は非常に少なく、熱帯・亜熱帯域の中層(特に水深200〜800メートル)から捕獲されることが多いとされています。
頭部の発光器官で獲物をおびき寄せる独特な捕食戦略を持ち、オスは極めて小さく、メスの皮膚に食いつき一体化して栄養をもらうという特異な繁殖システムを進化させました。
底生性深海魚
海底付近で生活する底生性深海魚には、水深よりも海底地形に強く影響される分布パターンがあります。底生魚としては、
- ギンザメ目:軟骨魚類の全頭類で、胸鰭で羽ばたくように泳ぎ、背鰭の棘に毒を持つ種もある深海性サメの仲間
- ツノザメ目の仲間:臀鰭を持たず円錐形の吻が特徴的な軟骨魚類で、深海性種を多く含む重要な深海ザメグループ
- ソコダラ科:タラ目最大のグループで、紐状の尾部と尾鰭を欠く特徴的な体型を持つ深海魚
- チゴダラ科(タラ目):体長30~50センチの深海性魚類で、下顎にヒゲがあり、一部の種は肛門前方に発光器を持つ
- アシロ科(アシロ目):細長い体型で尾部が伸長し、腹鰭は喉の位置にある底生魚で、水深8,370メートルまで生息する種もいる
- トカゲギス科(ソトイワシ目):トカゲのように上下に平たい頭部が特徴的で、体長40~170センチに成長する中・大型の深海魚
などが多くを占めます。
ソコダラ科の魚類
【深海魚ソコダラ(ラットテイル):ニグレンキャニオン、水深1579-1310m】
ソコダラ科の魚類は紐のように細くなった尾部を持つ特徴的な形態で知られ、二次性深海魚※の代表的なグループです。
【ウラナイカジカ属ニュウドウカジカ】
ニュウドウカジカは世界中の海に広く分布し、オタマジャクシを連想させる丸い頭部と側扁した体を持っています。体が受ける圧力の影響を和らげるため、ゼリー状の厚い皮膚を発達させています。
キホウボウ
【キホウボウ属の1種(Peristedion greyae)】
キホウボウは魚でありながら「歩いて移動する」ことで人気の高い深海魚です。東シナ海の水深100〜500メートルに生息し、胸ビレの一部であるひれすじを器用に使って海底を歩行します。
体は硬い骨質の板で覆われ、頭部の2本の突起と下顎のヒゲが独特な外観を作り出しています。
軟骨魚類の深海種
深海には多様な軟骨魚類が生息しており、その中には400歳を超える長寿記録を持つ種類も発見されています。軟骨魚類であるギンザメ目・ツノザメ目の仲間は深海適応の優れた例として注目されています。
ラブカ
【ラブカの頭部】
ラブカは「生きた化石」と呼ばれる原始的なサメで、一般的なサメと異なり6対のエラを持ち、頭部まで裂けた口と原始的ながらも大きく開くことができる顎の構造、剣山のような歯を備えています。
数百〜1,500mの深海に生息し、その特異な形質から古代の海洋環境を理解する手がかりとして研究されています。
メガマウスザメ
【鳥羽水族館のメガマウスザメの模型】
メガマウスザメは巨大な口を持ちながらプランクトンを食べる温和なサメで、世界での発見例の約30%が日本で記録されており、日本と馴染みの深い深海ザメです。顎の内側が銀色になっており、これを使ってプランクトンを集めているとも考えられています。
深海の無脊椎動物
魚類以外にも、深海には魅力的な無脊椎動物が多数生息しています。
メンダコ
【サンシャイン水族館のメンダコ】
メンダコは可愛い深海生物の代名詞として親しまれ、8本の腕の間に広がるスカート状の膜と耳のような鰭で移動します。深海の水圧に耐えるため非常に柔らかい体となっており、水から上げると自分の体も支えられないほどです。
ダイオウグソクムシ
【ダイオウグソクムシ】
ダイオウグソクムシは世界最大の等脚類※で、平均20~40センチメートル、大きなものでは50センチメートル近くに達します。鳥羽水族館での5年以上の絶食記録で有名になりましたが、その長期絶食のメカニズムはいまだ解明されていません。
深海魚の多様性は、地球上の生命がいかに柔軟で創造的な適応能力を持っているかを物語っており、私たちの海洋理解を深める貴重な存在といえるでしょう。*3)
深海魚がいる水族館5選
【深海の代表的な生き物たち】
日本には深海魚の神秘的な世界を間近で体験できる水族館が全国各地にあり、それぞれが独自の特色を持った展示で来館者を魅了しています。深海魚の飼育は技術的に非常に困難で、水圧・水温・光の調整など特殊な環境づくりが必要なため、展示できる水族館は限られています。
しかし、最新の飼育技術と地理的条件を活かし、生きた深海魚を展示する施設が増えてきました。深海魚に出会える代表的な水族館を見ていきましょう。
沼津港深海水族館シーラカンス・ミュージアム(静岡県)
【沼津港深海水族館】
沼津港深海水族館は日本で唯一の深海魚専門水族館として、2011年に開業した画期的な施設です。水深2,500メートルを誇る駿河湾に面した立地を活かし、約100種・約2,000匹の深海魚を展示しています。
最大の特徴は、目の前の駿河湾で捕獲された生きた深海魚を当日中に運搬できることです。通常の底引き網漁では2日間港に戻れないため深海生物は死んでしまいますが、沼津港なら飼育スタッフが同行して慎重に運搬可能です。
- 世界で唯一のシーラカンス冷凍標本展示
- メンダコの世界最長52日間飼育記録
- 世界で2例目となるメンダコ孵化成功
など、数々の偉業を達成しています。
名古屋港水族館(愛知県)
【名古屋港水族館】
名古屋港水族館は、約500種5万5,000点の海洋生物を展示する大型水族館で、南館1・2階の「深海ギャラリー」で深海生物の生体や標本を観賞できます。深海コーナーでは一般的な水槽よりも水温を下げることができる特殊な設備を整えており、展示生物に合わせて各水槽の温度を変えることができる高度な飼育システムを導入しています。
2025年4月には深海魚の代表格であるクサウオ科の「ザラビクニン」の展示を開始し、飼育員たちの長年の憧れが実現しました。その他、
- タカアシガニ
- オオグソクムシ
- トラ柄の皮膚を持つトラザメ
- 鮮やかなアカイサキ
など多様な深海生物が展示されています。名古屋港水族館でも駿河湾での深海採集によって得られた貴重な生物も定期的に展示されています。
【カイロウドウケツ】
海綿動物のカイロウドウケツなど、他の水族館では見ることが難しい希少種の展示にも力を入れている点が特徴的です。
海遊館(大阪府)
【海遊館】
海遊館は環太平洋への旅をテーマとした壮大なスケールの水族館で、深海エリアには約20種200点以上の深海生物が水量約120トンの水槽で展示されています。目玉は世界最大のカニであるタカアシガニで、その巨大さに加えて季節によっては繁殖や脱皮などの貴重な姿を観察できます。
希少種のヒゲツノザメやゾウギンザメなども飼育しており、鮮やかな見た目とユニークな姿で来館者を楽しませています。太平洋の深海生態系を総合的に理解できる展示構成となっています。
沖縄美ら海水族館(沖縄県)
【沖縄美ら海水族館】
沖縄美ら海水族館は、沖縄周辺の深海から採集された約130種の深海生物を展示する「深海への旅」エリアが特徴的な水族館です。800回を超える深海生物調査を実施し、920種の深海生物を発見してきた豊富な研究実績を誇ります。
2024年には世界初となるオオアカムツの展示に成功し、2021年に新種として発見されたばかりの貴重な深海魚を間近で観察できます。ROV(小型の無人潜水艇)を使った独自の採集技術により、ホムラカサゴやカイエビスなど沖縄の深海に生息する希少種を生きたまま展示しており、他の水族館では見ることができない貴重な深海生物との出会いが期待できます。
発光するヒカリキンメダイや蛍光するバラハナダイなど、光る深海生物の展示も充実しています。
アクアマリンふくしま(福島県)
【アクアマリンふくしま】
アクアマリンふくしまは、東北地方を代表する海洋科学館として、深海魚の展示にも力を入れています。福島県沖の深海から採集された深海生物を中心に展示しており、地域の海洋環境と深海生態系の関係を学ぶことができます。
2022年には日本初となるカンテンゲンゲの展示を実現し、深海魚が捕食した卵から奇跡的に孵化した稚魚を育成・展示するという世界でも類を見ない貴重な事例を達成しました。「旅する深海魚」をテーマとした企画展では、深海と浅海を行き来する深海魚の生態を体験型展示で学ぶことができ、リュウグウノツカイの稚魚が餌を食べる貴重な映像なども観賞できます。
これらの水族館では、それぞれの地理的特性と技術力を活かした独自の深海魚展示を行っており、深海の神秘的な世界への理解を深める貴重な機会を提供しています。*4)
深海魚とSDGs
【プラスチックゴミは深海にもたまっていく】
深海魚の研究と保護は、持続可能な地球環境の実現という点でSDGsの目指す方向性と一致しています。極限環境に適応した深海魚の生態解明は、気候変動対策や海洋保全、食料安全保障など複数のSDGs目標達成に重要な科学的知見を提供します。
深海魚は海洋生態系の基盤を支える存在であり、その研究成果は持続可能な海洋資源利用と環境保全の両立を実現する重要な鍵となります。また、深海に蓄積するプラスチック汚染の実態把握においても、深海魚は環境指標として極めて重要な役割を果たしています。
SDGs目標2:飢餓をゼロに
深海魚の食用利用は、世界的な食料不足解決に直接貢献できる可能性を秘めています。従来は外見的特徴から敬遠されがちだった深海魚ですが、栄養価が高く持続可能な水産資源として注目が集まっているのです。
ノドグロやマダラ、ズワイガニなど既に食卓に並ぶ深海魚の成功例を参考に、未利用深海魚の有効活用が進めば、飢餓で苦しむ人々への食料供給増加が期待できます。
SDGs目標14:海の豊かさを守ろう
深海魚研究は海洋生態系保全の最前線に位置しています。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査により、水深2,000メートル以深の海底ごみの33%がプラスチックであることが判明し、深海魚の体内からもプラスチック添加剤が検出されています。
深海魚は海洋汚染の「生きた指標」として機能し、その研究成果は海洋保護区設定や持続可能な漁業管理に科学的根拠を提供します。また、深海の無酸素化※が進行する中、深海魚の生息域変化は海洋環境悪化の早期警告システムとしても重要です。
深海魚の保護と研究推進は、海洋生態系全体の健全性維持と人類の持続可能な発展の両立を実現する重要な取り組みといえるでしょう。*5)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
【有人潜水調査船「しんかい6500」】
深海魚は水深200メートル以深の極限環境に適応した生物で、その研究は海洋生態系の理解と持続可能な地球環境の実現に重要な知見を提供しています。2025年4月には海洋研究開発機構(JAMSTEC)が沖合深海底の海洋保護区から15種の新種動物を発見し、7,000歳を超える可能性がある巨大なツノサンゴ類も確認されました。
また、同年3月には水産研究・教育機構が道東太平洋沖で深海生物資源の分布調査を開始し、自律型海中ロボット(AUV)を用いた革新的な調査手法により、未利用深海資源の活用可能性を探っています。
【慣性と音響の航法を交互に利用して航行する自律型海中ロボット「うらしま」】
これらの発見は、深海の生物多様性の豊かさを改めて証明する一方で、深海の無酸素化という深刻な問題も浮き彫りにしています。日本海では約100年後に完全な無酸素化が予測され、世界の海では50年間で2%の酸素が失われています。
この現象は先進国の工業活動だけでなく、途上国の急速な経済成長とも密接に関連しており、グローバルな協力なしには解決できません。深海魚の生息域変化は、漁業に依存する沿岸地域の経済や食料安全保障に直接影響を与え、特に島嶼国や漁業従事者にとって死活問題となります。
私たちは深海魚から持続可能性の知恵を学び、プラスチック削減や温室効果ガス排出抑制など日常的な環境配慮を実践する必要があります。私たちの選択が100年後の海洋環境をどう変えるのでしょうか。
深海魚の神秘的な世界は、私たちに地球環境の奇跡と責任を教えてくれます。一人ひとりの意識と行動が、未来の海と深海魚たちを守る力となるのです。*6)
<参考・引用文献>
*1)深海魚とは
海洋研究開発機構『沖合深海底の海洋保護区から15種の新種を発見』
国際海洋環境情報センター『深海とは』
海洋研究開発機構『マリンスノーの浮遊・沈降に影響する細胞外ポリマー物質の役割』(2024年4月)
国立科学博物館『深海性魚類』
熊本大学『深海魚とは』
国際海洋環境情報センター『深海とは』
sunshain aquarium『深海魚(深海生物)ってどんな生き物?』
sunshain aquarium『深海は発光するいきものだらけ!? どうして深海生物は発光するの?』(2019年12月)
戸田観光協会『深海魚について』
Canon『深海生物ってどんな色?』
HONDA『深海ってどんな場所?マイペースにくらす深海生物のふしぎな生態』
aquqmarine Fukusima『旅する深海魚~どこで生まれてどこで育つのか~』(2024年)
*2)深海魚がつぶれない理由
海洋研究開発機構『沖合深海底の海洋保護区から15種の新種を発見』
高知大学『深海生物のDeepなページ』
魚食普及推進センター『深海魚や深海生物 過酷な環境で生き残る戦略と特徴!』
週刊つりニュース『深海魚たちの環境適応 <水圧が高くても潰れない理由は?>』(2023年12月)
立教大学『マリアナ海溝の底に生きる深海生物の酵素タンパク質の耐圧性のメカニズムを解明〜たった1個のアミノ酸の違いで酵素の耐圧性が変わる〜』(2016年2月)
熊本大学『深海魚の生態』(2023年)
academist Journal『海水魚の浸透圧調整物質は水中で水素結合しない? – 分子シミュレーションと実験から探る』(2018年12月)
清水 建司『深海性底生魚類の摂食行動 : 食物探索を通してみた深海環境への適応戦略』(1998年7月)
子どものためのニュース雑誌「ニュースがわかる オンライン」『深海魚 なぜ水圧でつぶれない?【疑問氷解】』(2023年7月)
*3)深海魚の一覧とそれぞれの特徴
WIKIPEDIA COMMONS『Representative ocean animal life』
WIKIMEDIA COMMONS『Regalecus glesne, Naturhistorisches Museum Wien』
WIKIMEDIA COMMONS『Myctophum punctatum1』
WIKIMEDIA COMMONS『Cyclothone elongata and Bonaparte pedaliota』
WIKIMEDIA COMMONS『Caulophryne species』
WIKIMEDIA COMMONS『Expl9749 (14318998877)』
WIKIMEDIA COMMONS『Psychrolutes phrictus 1』
WIKIMEDIA COMMONS『Alligator searobin ( Peristedion greyae )』
Wikipedia『ラブカ』
WIKIMEDIA COMMONS『Megamouth shark Megachasma pelagios』
WIKIMEDIA COMMONS『Opisthoteuthis depressa Sunshine3』
WIKIMEDIA COMMONS『Bathynomus giganteus hi-res』
TOKYO AQUA GARDEN『深海魚をまとめてみました! 有名な深海魚の種類と会える水族館を紹介します』(2022年4月)
里海談話会『【深海魚一覧・種類図鑑】有名種から巨大・怖い・かわいい・不思議なものまで博物館学芸員が解説』(2022年8月)
日本海事広報協会『海に住む生物の種類』
BBC『How do fish survive in the deep ocean?』(2023年4月)
東京大学『Q.3 どうして深海魚は光を放つの?』
高知大学『「深海性魚類の多様性」理学部 遠藤広光』
aquqmarine Fukusima『東海大学海洋科学博物館×アクアマリンふくしま ラブカ研究プロジェクト』(2016年10月)
*4)深海魚がいる水族館5選
農林水産省『実は身近な地球最後のフロンティア 深海』
WIKIPEDIA COMMONS『沼津港深海水族館』
WIKIMEDIA COMMONS『Port of Nagoya Public Aquarium1』
WIKIMEDIA COMMONS『Venus Flower Basket』
WIKIMEDIA COMMONS『Osaka Kaiyukan01s3872』
WIKIMEDIA COMMONS『沖縄美ら海水族館_大』
WIKIMEDIA COMMONS『Aquamarine Fukushima 20100124』
沖縄美ら海水族館『深海への旅 沖縄の深海をここに再現』
TOKYO AQUA GARDEN『深海魚をまとめてみました! 有名な深海魚の種類と会える水族館を紹介します』(2022年4月)
Wikipedia『沼津港深海水族館』
RECRUIT『【全国】深海魚・深海生物の観賞できる水族館10選!シーラカンスやラブカの標本も』(2023年6月)
八景島Seaparadise『海のすべてがそろった4つの水族館』
aquqmarine Fukusima『ふくしまの海~大陸棚への道~』
海遊館『深海の小さな生き物たち Vol.1』(2013年5月)
海遊館『地上からはじまり、海底まで巡り巡る太平洋の旅』
沖縄美ら海水族館『めんそーれ沖縄美ら海水族館へ』
名古屋港水族館『これぞ深海魚!ザラビクニン』(2025年4月)
新江ノ島水族館『日本初!深海生物の長期飼育に挑戦』
沼津観光ポータル『沼津港深海水族館〜シーラカンス・ミュージアム〜』
Wikipedia『沖縄美ら海水族館』
Wikipedia『アクアマリンふくしま』
*5)深海魚とSDGs
海洋研究開発機構『深海にもプラスチックの溜まり場が! 海のプラスチック汚染を可視化する——深海底や中層に溜まる永遠に消えないごみ』(2024年2月)
海洋研究開発機構『深海生態系の理解と保全に向けた活動』
伊藤芳英『深海魚ミズウオによるプラスッチク類の捕食』
兵庫県立大学『因果関係を解析する情報解析⼿法から深海の古⽣態系の⽣物多様性における⽔温の重要性を指摘』(2021年7月)
海洋研究開発機構『深海生物多様性と環境変動による影響について研究し、海洋資源の持続可能な利用と海洋生物多様性の保全を推進する』
鹿児島大学『かごしま深海魚研究会』
*6)まとめ
海洋研究開発機構『有人潜水調査船「しんかい6500」』
海洋研究開発機構『深海巡航探査機「うらしま」』
海洋研究開発機構『沖合深海底の海洋保護区から15種の新種を発見』(2025年4月)
海洋研究開発機構『JAMSTECとは』
水産研究・教育機構『2025(R07). 3.26 道東太平洋沖における深海生物資源の分布状況調査を開始します』(2025年3月)
海洋AI・データサイエンス学位プログラム『深海魚の食性を分類学と生態学で研究、自分の「好き」「興味」がそのまま研究に』(2022年10月)
海上保安庁『深海用自律型潜水調査機器 (AUV:Autonomous Underwater Vehicle)』
この記事を書いた人

松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。