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HEMSとは?導入のメリット・デメリット、コストなどもわかりやすく解説!

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環境に関することがらを調べていると、アルファベットの略称を数多く目にします。GHG、ESG投資、PPA、ZEHなど色々な略称を目にするのではないでしょうか。今回紹介するHEMSもその一つです。

「また、よくわからないアルファベットが出てきたな」と思うかもしれませんが、HEMSはそれほど難しいものではありません。簡単に言えば、家の中で使っている家電製品の電力消費量や太陽光発電の発電量、蓄電池の充電量などが一目でわかる機器です。

目に見えにくいものを、数字やグラフを使って見えるようにすることを「見える化」や「可視化」といいますが、HEMSはエネルギーの使用量などを数字やグラフで表示し、チェックしやすくしてくれる機器なのです。

今回の記事では、HEMSがどのようなものなのか、メリット・デメリット、導入の手順、選び方などについて解説します。SDGsとの関わりについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

HEMSとは

HEMSとは、「Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネージメントシステム)」の略称です。HEMSを家電や住宅内の電気設備と接続することで、電気やガスなどの使用量を可視化したり、家電を自動でコントロールできるようになります。

HEMSのポイント

HEMSのポイントは以下のとおりです。

  • 住宅で使用するエネルギーの「見える化」
  • エネルギーの一元管理

「見える化」とは、家庭内で使用しているエネルギーを数値で確認できるようにすることです。家電で使用しているエネルギーの量や、太陽光発電の発電量、蓄電池に蓄えられている電力量などが把握できます。

「見える化」で確認できた数値は、タブレットやスマホで一つにまとめてチェックできます。電気を使用している時間帯や、使用している機器の詳細などがわかるため、節電時の目標を立てやすくなるのです。

HEMSの仕組み

HEMSは、住宅内で使用するエネルギーを見えるようにしたり、各機器をコントロールする機器ですが、実際にはどのような仕組みなのでしょうか。HEMSの仕組みについて解説します。

HEMSに必要な機器

HEMSに必要な機器は以下のとおりです。

  • HEMS本体
  • HEMS対応の分電盤
  • HEMSに対応した機器

ベースとなるのはHEMS本体とHEMS対応の分電盤で、この2つがなければエネルギーの流れを計測することができません。HEMSの信号を受け取れる機器があれば、HEMSを通じて機器を操作することができます。

HEMSにできること

HEMSを取り付けると、以下のことができるようになります。

  • 住宅内の電気の動きの「見える化
  • 住宅全体の電気使用量の自動調整
  • スマートフォンなどによる家電の遠隔操作

家全体でどの程度の電気が使用されているのか、太陽光発電でどのくらいの電気を発電しているのか、蓄電池にどの程度の電気が蓄えられているかといった情報を一目で把握できます。

電力使用量の大きい機器を使用している際は、他の機器の使用を控えるなど電力の使用量を自動でコントロールすることも可能となります。

また、HEMS対応機器であればスマートフォンを通じた遠隔操作が可能です。帰宅する30分前にエアコンを作動させたり、電気式のカギの施錠を確認し、遠隔で施錠することもできます。

HEMSとZEH・BEMSとの違い

HEMS、ZEH、BEMSはいずれも建物に関する用語ですが、それぞれの意味が異なります。ここでは、3つの用語の違いについて整理します。

ZEHとは?

ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット ゼロ エネルギー ハウス)の略称で、エネルギー収支をゼロ以下にする住宅という意味です。太陽光発電などによる発電量が、家庭での電気消費量が等しくなるか、発電量が上まわる住宅をZEHといいます。*1)

ZEHは、住宅の気密性や断熱性を高めることでエネルギー消費量を減らしつつ、太陽光発電の自家発電により必要な電気をまかなう住宅を意味する語であるため、電気消費量をモニタリングするHEMSとは全く別物です。

【関連記事】ZEBとは?事例やメリット・デメリット、ZEHとの違いも

BEMSとは?

BEMSとはBuilding and Energy Management System(ビルディング アンド エネルギー マネジメントシステム)の略称で、ビルエネルギー管理システムなどと訳されます。主に、会社や病院、商業ビルなどの比較的規模が大きいビルで用いられる仕組みです。*2)

ビル内で使用されるエネルギーの見える化や設備の自動制御、異常の検知などを行う仕組みであるため、HEMSのビル版といってもよい機器です。しかし、HEMSと異なり一般住宅でBEMSが利用されることはないため、別の仕組みといってよいでしょう。

HEMSを導入する際のメリット

HEMSを導入すると、以下のメリットがあると考えられます。

  • 家電製品の自動制御や遠隔操作ができる
  • 電気の「見える化」による節電しやすくなる
  • DER補助金が受けられる

それぞれの内容を詳しく見てみましょう。

家電製品の自動制御や遠隔操作ができる

HEMSには、信号を受信する機器を自動制御する機能があります。例えば、最初は室温を落とすため、エアコンの設定温度を低く設定していたとします。その後、室温がある程度低下した30分後には省エネ温度である28℃に自動で切り替えるといったことができます。

住宅全体の電力消費量を設定し、設定した電力量を超えると照明の明るさを自動で調節するといった設定も可能です。自動制御ができることで、電気の無駄な使用を減らすことができ、電力使用量とCO2の排出量を削減できます。

また、HEMSと連動する機器を遠隔操作することもできます。自宅から離れた場所からエアコンや照明、電動シャッター、電気錠などを操作できるため、エアコンのつけっぱなしやカギのかけ忘れ、照明の消し忘れなどを防げます。これにより、無駄な電気の消費を抑制できると考えられます。

エネルギーの「見える化」による節電しやすくなる

電気料金は、政府による補助金などによりピーク時よりも低下していますが、2024年の5月以降、上昇しつつあります。2022年9月〜2023年1月の東京電力の平均的な家庭の電気料金は、9,126円でした。

その後、補助金により7,000円前後まで低下していたものの、補助金が停止されると上昇傾向となり2024年7月には8,930円程度になると見込まれています。*7)

その中で、個人で電気料金の上昇に対応する方法の一つが節電です。しかし、効果的に節電するには電気の使用状況を分析する必要があります。HEMSを導入していると、どの時間帯にどの機器が多くの電気を使用しているかを把握でき、節電する際の参考にできます。

また、一部のHEMSでは節電する際のアドバイスも提示されます。HEMSのデータは具体的な対策を打つ際の指標にできるため、効果的な節電が可能となります。

DER実証実験に参加できる

2024年現在、HEMS導入の補助金は存在していません。しかし、DER実証実験に参加するには、HEMSを導入しなければなりません

DERとは、分散型エネルギーリソース(Distributed Energy Resources)の略称で、DER実証実験は、家庭や企業などに設置された太陽光パネルなどの小規模な発電設備を一つにまとめて運用する実験のことです。このDER実証実験に参加するにはHEMSが必要です。

この実験に参加すると、HEMS費用のうち5万円が補助されます。また、蓄電池の購入費用として1kWhあたり2.7万円(初期実効容量)の補助も受けられます。

HEMSを導入する際のデメリット

HEMSには、家電製品の自動制御・遠隔操作ができる点や、エネルギーの見える化などができるといったメリットがある一方、デメリットもあります。HEMSのデメリットは以下のとおりです。

  • HEMSに対応している機種が少ない
  • HEMSの費用対効果がわかりにくい

それぞれの内容をチェックします。

HEMSに対応している機種が少ない

全ての家電がHEMSに対応しているわけではありません。IoT家電が普及する以前の機器は、HEMSに対応していないものが多数あります。そのため、HEMSでの一元管理を優先するのであれば、導入と同時に家電を買い替えなければなりません

また、HEMSのメーカーと家電のメーカーが異なる場合、互換性がないこともあるため、事前に確認しなければなりません。

機器の互換性を確保するため、ECHONET lite(エコーネットライト)という通信規格が採用されています。ECHONET liteは、比較的低速・低容量でもネットワークを構築できるため、HEMSの普及に欠かせません。

HEMSと家電を連携させる際は、ECHONET liteに対応しているかどうかを調べるとよいでしょう。

HEMSの費用対効果がわかりにくい

HEMSは導入時に10〜20万円程度のコストがかかりますが、その割に費用対効果がわかりにくいという指摘があります。実際、HEMSによる省エネ効果はガスで14%、電気で6%程度と推測されています。*7)導入コストと比較すると、決して高いとは言えません。

HEMSの効果を高められるかどうかは、利用している住人の努力によります。HEMSが提示したデータを踏まえ、自身の行動を変化させることができれば、上記のデータ以上のコストダウンができるかもしれません。

HEMSを導入するには

HEMSを導入するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、HEMSの導入手順について解説します。

HEMSの導入手順

HEMS導入の流れは以下のとおりです。

  1. HEMS機器HEMS分電盤を取り付ける
  2. HEMSと家電をつなぐ
  3. モニタリングして電気使用量を確認・管理

旧来の分電盤はHEMSに対応していないため、HEMS機器に取り換える前に対応している分電盤に変更しましょう。その後、ECHONET liteなどHEMSに対応している家電製品を接続します。そうすることで、家庭内のエネルギーの流れを常にモニタリングできるようになります。

HEMSの選び方

「HEMSを導入したいが、取り扱っているメーカーや機種がわからない」といった方もいらっしゃるでしょう。ここでは、HEMSを取り扱っているメーカーや導入コスト、補助金の現状について開設します。

取り扱っているメーカー

HEMSを取り扱っているメーカーは多数ありますが、今回はHEMS市場のシェアが大きい上位3社*9)をとりあげます。

パナソニック

パナソニックのAiSEG2(アイセグツー)は、家庭内のエネルギーの見える化や家電製品の自動制御・遠隔操作ができるHEMSです。家の外からスマホで家電製品を操作できるため、非常に便利です。

家電製品の自動制御による省エネができる点や、火災報知器と連動させて火元を正確に特定できる点などが評価できます。

シャープ

シャープのCOCORO ENERGYは、クラウド上のAIを利用して家電製品の電力消費や太陽光発電の発電量、蓄電池の残量などを一元的にコントロールできるHEMSです。AIによる制御技術や卒FITの太陽光発電設備を活用できる点などが評価され、令和2年度 新エネ大賞 資源エネルギー庁長官賞を受賞しました。*9)

太陽光発電の余剰電力を予想して蓄電池への充電や、エコキュートをはじめとする家電の電力使用などを予測しコントロールする「AI予測制御」、落雷による停電リスクを考慮して蓄電量を増やす「AI雷注意報連携」などの機能が搭載されています。

京セラ

京セラのSmart-REACH HEMSは、わかりやすいインターフェースが特徴のHEMSです。画面表示がシンプルで、機器の操作が苦手な人でも気軽に操作できるのが魅力です。インターネットを利用した「ハウスマイルネットワーク」も利用できるため、太陽光発電や蓄電池の電力量についても把握できます。

導入コスト

HEMSの購入に必要なコストは以下のとおりです。

本体価格10~15万円
分電盤2~3万円
工事費用3万円前後

導入コストは業者ごとで異なっており、設置環境などによっても変動します。設置する前に施工業者などに確認した方がよいでしょう。

補助金の現状

2011年と2013年にHEMS補助金が設定されたことがありますが、現在は終了しています。そのため、2024年6月現在、HEMSの導入補助金は設定されていません。ただし、政府はHEMSの普及そのものを取り下げているわけではないため、状況次第では補助金が復活する可能性もあります。

なぜHEMSが注目されているのか

HEMSは、家庭でのエネルギーの見える化や一元管理ができる機器ですが、なぜ、注目されているのでしょうか。その理由として脱炭素社会への移行が考えられます。

脱炭素社会への移行が進められているから

2015年、2020年以降の気候変動問題について話し合われたCOP21において、温室効果ガスの排出削減を目指すパリ協定が採択されました。パリ協定は2016年に発効し、各国政府は温室効果ガスの削減・抑制目標を定めることになりました。*3)

日本政府は、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年のカーボンニュートラル達成という目標を掲げました。諸外国も、温室効果ガスの排出削減目標を掲げており、世界全体で脱炭素社会への移行が進められています。*4)

日本で脱炭素を進めるには、エネルギー消費量の削減が必要です。なぜなら、日本の電源の約70%が天然ガスや石炭、石油などの化石燃料に依存しているためです。CO2の排出を削減するには、火力発電由来の電気の使用量を減らさなければなりません。*5)

そのため、CO2の排出削減のために家庭内でのエネルギー消費量の削減につながると考えられるHEMSの導入が必要と考えられているのです。

HEMSとSDGsの関係

HEMSは、家庭で使用する電気などのエネルギーの動きを見える化することで節電がしやすくなる機器です。SDGsとどのような関連があるのでしょうか。ここでは、SDGs目標7との関わりを解説します。

SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」との関わり

SDGs目標7のターゲットの一つが「2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる」です。エネルギー効率を高めることで、化石燃料の使用量を減らし、再生可能エネルギーだけで生活に必要なエネルギーを確保できるようになるからです。

【主要国の発電量と再エネの割合】

現在、日本の発電は天然ガス・石炭・石油などの化石燃料に頼っています。政府は再生可能エネルギーや原子力発電の割合を増やすことで化石燃料の割合を減らそうとしています。しかし、この動きを加速するにはエネルギーの使用量そのものを抑えて、化石燃料の使用量を減らす必要があります

HEMSは、家電の自動制御や遠隔操作により無駄な電気の消費を抑える役に立ちます。また、住民の節電意識を高める効果も期待できます。節電を各家庭で行うことで、CO2の排出量を削減することができるでしょう。

まとめ

今回はHEMSについて解説してきました。HEMSは、家庭内のエネルギーの動きを可視化するために必要な機器であり、得られたデータをうまく活用することで家庭の電気消費量を削減する効果が期待できます。

しかし、HEMSを設置するだけでは節電効果は限定的です。電気をはじめとするエネルギー使用量を削減するには、得られたデータを活用する努力が必要不可欠です。エネルギー使用量の削減は経済面でも環境面でもメリットがあります。HEMSを活用して家庭の光熱費削減を目指してみてはいかがでしょうか。

参考
*1)資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~新しい省エネの家「ZEH」
*2)環境展望台「ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS) – 環境技術解説
*3)資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集
*4)環境省「2030年目標、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた成長志向型カーボンプライシング構想について」(p5)
*5)資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2023年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」
*6)NHK「東電 7月請求の電気料金 過去最高水準に近づく見通し
*7)住環境計画研究所「新築住宅に導入されたHEMSの省エネ効果に関する実証研究
*8)株式会社SVPジャパン「SVPジャパン ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)についてインサイト 3/28公開 | NEWSCAST
*9)新エネルギー財団「資源エネルギー庁長官賞【商品・サービス部門】 | 新エネ大賞-New Energy Award
*10)資源エネルギー庁「7.再エネ
*11)