職場での性差別、子ども虐待のニュース、インターネット・SNSでの誹謗中傷など、私たちの日常には多くの人権問題があふれています。人権問題をなくすためにはどうしたら良いのかは、一人一人が考えなければならない問題です。
この記事では、人権問題とは何か、日本における人権問題への意識、事例と現状、世界における事例と現状、人権問題をなくすために私たちができること、SDGsとの関係を解説します。
人権問題とは

人権問題とは、誰もが生まれながらにして持っている人間らしく生きるための権利(人権)が守られないことを言います。
日本国内をはじめ、世界には多くの人権問題があります。自分の人権を守ることはもちろんのこと、他者の人権を尊重することは、生きていく上で大切です。一人一人が人権問題について理解を深め、なくすための行動をとることが求められています。
人権は保障されている
人権とは、誰もが生まれながらにして持っている人間らしく生きるための権利であることは先述の通りです。このことは、日本国憲法や世界人権宣言において保障されています。
日本国憲法
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。(第十一条) |
世界人権宣言
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。(第一条) |
私たちは、日本国憲法や世界人権宣言によって自分の人権が守られていることに加え、他者の人権を尊重することに自覚を持つ必要があります。
12月10日は人権デー
日本国憲法や世界人権宣言において人権は保障されている一方、人権問題は今も存在する問題です。そこで、世界人権宣言が採択された12月10日を「人権デー(Human Rights Day)」と定め、人権を尊重することをあらためて考える機会を設けています。
日本では、人権デーを最終日とする1週間(12月4日から12月10日)を「人権週間」とし、人権への理解を深める活動を行っています。
日本における人権問題への意識
具体的な人権問題に触れる前に、日本における人権問題への意識を確認しましょう。令和4年に内閣府から発表された「人権擁護に関する世論調査」*の結果を引用しながら、事例と併せて紹介します。
*日本国籍を有する者3,000人を対象に実施された(有効回収数1,556人、有効回収率51.9%)
日本国憲法で基本的人権が保障されていることを「知っている」人は85.6%
世論調査によると、基本的人権が日本国憲法で保障されていることを「知っている」と答えた人は85.6%、「知らない」は13.2%でした。
■問. あなたは、基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、憲法で保障されていることを知っていますか。
知っている人が多数であるものの、知らない人がいることは残された課題と言えます。人権に関する基本的な知識を共有していくことが必要です。
人権を侵害されたと思ったことが「ある」人は27.8%
次に、人権を侵害されたと思う経験があるかどうかを尋ねたところ、「ある」と答えたのは27.8%、「ない」が71.0%でした。
■問.あなたは、今までに、ご自分の人権が侵害されたと思ったことがありますか。
5年前の前回調査では、「ある」と答えた人は15.9%だったのに対して、今回は11.9ポイント増えています。人権問題は、より深刻になっていることが分かります。
人権が侵害されたと思った場面は「うわさ、悪口、かげ口」が54.5%
続いて、人権を侵害されたことが「ある」と答えた人にその内容を尋ねたところ、上位5位は次の通りでした。
■(前問で「ある」と答えた人に)
問. ご自分の人権が侵害されたと思ったのは、どのような場合ですか。
- あらぬうわさ、他人からの悪口、かげ口 54.4%
- 職場での嫌がらせ 30.1%
- 名誉・信用のき損、侮辱 22.9%
- プライバシーの侵害 18.8%
- 学校でのいじめ18.1%
最も多い「あらぬうわさや悪口」「かげ口」は、日常で耳にすることもあります。人権侵害は、身近なところで起きている問題です。
日本における人権問題の事例と現状
日本における人権問題への意識を踏まえた上で、事例について触れていきます。いずれの事例も今なお続く人権問題であり、私たちが生活する上で関わりのある事柄です。
被差別地区の人権問題
被差別地区の人権問題は、出身地により差別を受ける日本固有の問題です。封建時代には、武具・馬具などの皮革を作る仕事や地域の警備などを担う人々がいました。しかし、住む場所や仕事、結婚などが制限され、差別されていたのです。
この問題に対しては、「部落差別の解消の推進に関する法律」(2016)を施行するなど、差別解消の取り組みが進められてきました。しかし現在でも、就職や結婚での差別が見られます。
女性の人権問題
女性の人権問題は、「男は仕事、女は家庭」といった固定的な役割分担意識などにより、女性が差別を受ける問題です。その他、雇用や昇進による差別、セクシュアル・ハラスメント、配偶者などからの暴力なども含まれます。
男女雇用機会均等法をはじめ、女性の社会参画を促す法律はあります。しかし、固定的な役割分担意識により差別を受けたり、これを見聞きしたりした人は47.0%おり2、男女平等は十分に実現されていないと言えるでしょう。
子どもの人権問題
子どもの人権問題は、子どもが虐待やいじめ、体罰、性被害などによる被害者になる問題です。この問題に関しては、いじめ防止対策法(2013)や、児童虐待の防止等に関する法律(2000)といった法律など、いくつかの法律が整備されています。
しかし、この問題に関連する事件は後を絶ちません。未来を担う子どもが健やかに成長するためには、社会全体がこの問題に対して取り組むことが求められています。
高齢者の人権問題
高齢者の人権問題は、年齢を理由に雇用や賃貸を断られること、介護者や家族による暴力や暴言、財産の無断処分などの問題を指します。
高齢者虐待防止(2006)では65歳以上を高齢者と定め、高齢者に対する虐待の早期発見・早期対応を国や自治体で推進していくことを定めています。
障がい者の人権問題
障がい者の人権問題は、段差や階段などの利用しにくい場所があることや、学校入試や就職での差別、点字・手話のない講演会などを指します。
すべての国民は障がいの有無によって分け隔てられることはないことは、障害者差別解消法(2016)に規定されています。
外国人の人権問題
外国人の人権問題は、言語、文化、宗教、習慣などの違いから差別される問題を言います。外国人であることを理由に、住宅の賃貸をしないなどがその例です。
また、ときに外国人を標的にして差別的な言動を行うヘイトスピーチについては、ヘイトスピーチ解消法(2016)にて基本理念や施策が示されています。
HIV感染者などの人権問題
HIV感染者やハンセン病患者、新型コロナウイルス感染症患者、そしてその家族が差別される人権問題があります。
病気に対する正しい知識がないこと、不正確な情報に惑わされてしまうことなどが、差別や偏見の原因として考えられています。
犯罪被害者やその家族の人権問題
犯罪被害者やその家族の人権問題は、メディアの行き過ぎた取材や周囲の人々の中傷・偏見などにより、精神的な苦痛を受ける問題です。
犯罪被害者等基本法(2005)では、犯罪被害者やその家族の権利や利益を保護しています。
アイヌ民族の人権問題
アイヌの人々はこれまで、就職や結婚をはじめとしたさまざまな差別を受けてきました。そして今でも、差別や偏見は解消されていません。
2019年には、差別や権利侵害を禁止するアイヌ施策推進法が施行されるなど、これまでにいくつかの政策が行われています。
インターネット・SNS利用による人権侵害
インターネットやSNSの利用者は増えています。一方で、他人の写真を無断で公開したり、誹謗中傷の書き込みをしたりするなどの人権侵害も起きています。
マナーやモラルを守り、他者のプライバシーや人権に配慮することが求められています。
北朝鮮当局による拉致問題
1970年代から1980年代にかけて、多くの日本人が北朝鮮当局により拉致される事件が起きました。これを受け、実態の解明と国民の理解を深めることなどを定めた拉致問題対策法(2006)が制定されました。同法では、毎年12月10日から16日までの1週間を「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」と定めています。
災害時の人権問題
地震や津波などの災害により避難している人に対して、根拠のないうわさやデマを流す風評被害も人権問題の1つです。私たちは、正しい情報なのかを見極めて判断する必要があります。
性自認・性的指向の人権問題
性自認とは「自分の性をどのように認識しているか」であり、性的指向とは「どの性を好きになるか」を指します。体の性と性自認・性的指向は、必ずしも皆が一致しているわけではありません。中には、少数しかいない性自認・性的指向を持つ人もいます。こうした人たちへの偏見や差別は人権問題です。
その他の人権問題
上記以外にも、ハラスメントや路上生活者、刑を終えた人などへの嫌がらせや差別・偏見といった問題があります。
世界における人権問題の事例と現状
日本と同じく世界でも抱えている共通の人権問題に、出身地や女性への差別、子どもの人権、インターネット・SNS利用による人権侵害などがあります。ここでは、世界でより大きな問題として取り扱われている人権問題の事例と現状を見ていきます。
紛争による人権侵害
紛争による人権侵害は、罪のない民間人や民間施設が標的にされ、犠牲になることです。ジュネーブ条約や国際人権法、国際人道法では、個人は国家権力から自由であること、戦時における民間人を保護することが定められています。
2024年時点では、ウクライナ侵攻、アフガニスタン紛争、リビア内戦など、世界各地で紛争が起きており、民間人の犠牲者が出ています。紛争がなくならないことに加え、人権が守られない状況が続いています。
難民や移民の人権問題
戦争や紛争のほか、地域で発生した危機などを逃れて、難民や移民となる人たちがいます。こうした人たちの生活や、働いたり教育を受けたりする権利は守られています。
難民の数は、2024年5月時点で1億2,000万人と過去最大です。また「世界移住報告書2024」によると、移民は2億8,100万人います。難民の人道基準を設定している難民条約や、移民労働者の権利を保護する移民労働者条約がありますが、差別や暴力を受けたり、水や食糧、住む場所の確保に困る難民・移民がいることも事実です。
人権問題をなくすために私たちができること
事例を見てきたように、人権問題は私たちの身近な場面にあります。そこで、人権問題をなくすために私たちができることを取り上げます。
「人権のために、私たちが今日からできる10のこと」
一般財団法人アジア・太平洋人権情報センターが公開している「人権のために、私たちが今日からできる10のこと」を紹介します。人権問題に対して行動できる内容になっています。
■人権のために、私たちが今日からできる10のこと
- 「男らしさ」「女らしさ」「子どもだから」「年だから」といった固定観念に穴を開けよう。
- 自分と異なる文化や背景、生き方などを持つ人たちと話してみる。
- 日々の生活で人を傷つけたり、おとしめたりしていないか自分を振り返ってみる。もし周りでそのような事態に遭遇したら、周囲の人たちと相談してみる。
- 自分が主体的に、自分らしく生きるためにはどうすればいいか考える。
- 人権とは何かを具体的に理解するために、一日にひとつでいいから「世界人権宣言」の条文を読んでみる。
- 自分や身近な人にそれぞれの権利を当てはめて、守られているか、守られていないかを考える。
- テレビ番組や新聞記事などメディアからの情報をうのみにせず、主体的に読み解く姿勢を持つ。
- YouTube をはじめインターネット上の人権推進に役立つサイトを探し出して、みんなに紹介する。
- 人権のためにがんばっているグループの活動に参加したり、物心両面で応援する。
- 国内や他の国でどのような人権問題が起きているのかを調べて、自分とどうつながっているのか、何ができるのか考えてみる。
一度にすべてをやろうとせず、まずはできること1つから始めれば、人権問題に取り組む第一歩になります。
「人権のために、私たちが今日からできる10のこと」はこちらから
「じんけん自己診断~こんなときどうする?~」
「じんけん自己診断~こんなときどうする?~」は、人権に関わる場面でどのように対処したら良いのかを選択肢から選んで適切な対処法を学ぶ診断です。

「大人向け」と「こどもむけ」があるので、家族で受けてみるのも良いでしょう。
「じんけん自己診断~こんなときどうする?~」はこちらから
「Myじんけん宣言」
「Myじんけん宣言」は、自らが取り組む人権課題を選択して公に宣言する場です。WEB上で「女性の人権を尊重します」などの項目にチェックを入れてMyじんけん宣言をすると、宣言書を印刷できます。
企業や団体のほか、個人も参加できるのが特徴です。宣言をすると、Myじんけん宣言のロゴをWEBサイトや名刺などに使用できます。
「Myじんけん宣言」はこちらから
人権問題とSDGs
最後に、人権問題とSDGsとの関係について確認します。人権問題は、SDGsに掲げられている「誰一人取り残されない」という人権尊重の考え方と同じ視点です。そのため、多くの目標が人権問題につながっていると言えるでしょう。
例えば、目標1「貧困をなくそう」は飢えのない生活を営む権利、目標3「すべての人に健康と福祉を」は健康的な生活を確保する権利、目標4「質の高い教育をみんなに」は、教育を受ける権利が関わっています。
さらに、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標16「平和と公平をすべての人に」についても、人が人として生きるために必要な権利が述べられています。
SDGsは、持続可能な未来を実現するための目標です。これを達成するためには、人権問題に取り組むことが欠かせません。SDGsの達成には、人権問題が大きく関わっています。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
人権は、誰もが生まれながらにして持っている人間らしく生きるための権利です。当たり前のようですが、実際は守られていないのが現実です。
人権問題は、身近に起きていながら解消することの難しい問題でもあります。一人一人が関心を持ち、取り組んでいく必要があるでしょう。「人権問題をなくすために私たちにできること」を参考に、日々の生活の中で考える時間をつくってみませんか。