
国際宇宙ステーション(ISS)とは、冷戦後の国際協力の象徴として建設された、地上400キロメートル上空を周回する有人実験施設です。その驚くべき作られ方(建設方法)、託された科学的な目的、そして未来の宇宙探査に向けた技術的な役割について、多角的な視点からわかりやすく解説します。国際宇宙ステーション(ISS)の歩みを知ることは、国境を越えた協力の価値と未来の可能性を深く理解する第一歩です。
目次
国際宇宙ステーション(ISS)とは
【スペースシャトル「アトランティス号」から撮影されたISS ©JAXA/NASA】
国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)は、地球から約400キロメートル上空を秒速約7.8キロメートルで周回する、モジュール(区画)式の巨大な有人実験施設です。
- 長さ約109メートル
- 幅約73メートル
- 総質量約420トン
という規模で、サッカー場とほぼ同じ広さを持つ人類史上最大の宇宙構造物となっています。以下の合計15カ国が政府間協定に基づいて建設・運用を行っており、2000年11月以来、宇宙飛行士が絶えることなく滞在を続けています。
- アメリカ
- ロシア
- 日本
- カナダ
- 欧州宇宙機関(ESA)に参加する国々
宇宙空間中の実験室として
- 生命科学
- 材料科学
- 物理学
- 地球観測
など多岐にわたる研究活動の舞台となるとともに、国際協力の象徴としても極めて重要な役割を担い続けています。このISSを理解するために基本となるポイントを確認しておきましょう。
構造と主な設備
ISSは複数のモジュール(居住・実験・輸送・電力供給など)を軌道上で結合させたモジュール式の構造をしており、各国が開発・製造したパーツで構成されています。
- 宇宙飛行士が生活する居住モジュール
- 研究を行う実験モジュール
- 電力を生み出す巨大な太陽電池パドル
- 船外作業を支援するロボットアーム
など、多数の設備が組み合わされています。これらのモジュールは地上からロケットで打ち上げられ、宇宙空間の軌道上でドッキング(結合)させるという方法で組み立てられました。
日本は「きぼう」と呼ばれるISS最大の実験モジュールを提供しており、
- 船内実験室
- 船外実験プラットフォーム
- ロボットアーム
などで構成されています。きぼうの船内実験室は1気圧に保たれているため、宇宙飛行士は通常の服装で作業が可能です。
一方、船外実験プラットフォームでは、真空や宇宙放射線に直接さらされる環境での実験や観測が行われ、地上では再現が難しい条件下での研究が実現されています。
建設と国際協力の枠組み
ISS計画の歴史は、冷戦終結後の国際協力を象徴する一大プロジェクトとしての意義を持っています。1984年にアメリカが「フリーダム計画」として正式に開始し、1988年9月に政府間協定(IGA)が署名されました。
その後、1993年にロシアが計画に参加することが決定され、1998年1月に新たな政府間協定が署名、2001年3月に発効しました。この協定は、
- 各国が開発したモジュールの所有権
- モジュールの利用権
- 参加国の権利と責任
などを明確に定めています。
建設は1998年11月にロシアの基本機能モジュール「ザーリャ」が打ち上げられたことから始まり、その後各国のモジュールが順次打ち上げられました。
- 1998年12月にはアメリカの「ユニティ」
- 2000年7月にはロシアの「ズヴェズダ」
- 2008年3月には日本の「きぼう」
が打ち上げられ、段階的に組み立てられて現在の姿に至っています。この建設プロセスを通じて、かつて宇宙開発競争で対立していたアメリカとロシアが技術協力することで、平和的な国際関係を構築してきました。
科学的・技術的意義
ISSの最大の役割は、地上では再現が難しい宇宙特有の環境を利用した科学研究の拠点となることです。特に、ものが浮かんで見える「微小重力」(地球上の重力の100万分の1から1万分の1)や、地上よりはるかに強い宇宙放射線にさらされるといった環境での研究は、科学の発展にとって重要です。
宇宙飛行士は通常約6か月間の長期滞在を行い、多岐にわたる分野での実験や研究を実施しています。例えば、微小重力下では、不純物の少ない高品質な結晶が生成でき、新しい医療技術や材料開発に応用されています。
これまでに108カ国から3,000以上の科学実験がISS上で行われ、地上での医療や材料開発に大きな成果をもたらしています。
こうした研究成果だけでなく、ISSで蓄積された宇宙での長期滞在技術そのものが、将来の月や火星を目指す有人宇宙探査に向けた、人類にとって貴重な基盤技術となっています。ISSは最先端の科学技術が集結する研究拠点であると同時に、多くの国々が平和目的のために知見と技術を結集する、国際協力の象徴として極めて重要な役割を担い続けています。
次の章ではISSの目的と役割について、さらに詳しく見ていきましょう。*1)
国際宇宙ステーション(ISS)の目的と役割
【ファルコン9ロケット ©NASA/SpaceX】
国際宇宙ステーション(ISS)は、地上では再現不可能な特殊な環境を活かし、科学研究の最前線として、また人類の未来の宇宙探査に向けた技術実証の場として、多岐にわたる重要な役割を担っています。現在、ISSは約15カ国の協力のもと運用されており、一度に最大7人の宇宙飛行士が滞在可能です。
ここでは、ISSが果たしている主要な3つの役割について、具体的に見ていきましょう。
①科学実験と研究開発の拠点
ISSの最も重要な目的の一つは、地球の重力の100万分の1から1万分の1という「微小重力」環境を利用した、最先端の科学研究です。地上では重力の影響で難しい実験も、宇宙では可能になります。
これまでに80カ国以上の研究者がISS滞在中の宇宙飛行士と協力して、1,760件以上の実験・観測を行ってきました。
具体的な成果として、日本の実験棟「きぼう」に搭載された静電浮遊炉(ELF)が挙げられます。この装置は、静電気力で材料を容器に触れさせずに宙で浮遊させながら、2,000℃を超える高温で溶かすことができます。
地上では重力の影響で浮遊させられる試料に限界がありますが、宇宙では、地上では扱うことが難しかった酸化物などの融液状態の熱物性値(密度、表面張力、粘性)を高精度で取得できるようになりました。
これにより、高性能なガラス材料の開発や新素材の探索が進んでおり、地上での材料工学に大きな貢献をしています。
その他にも、
- 新薬の開発に役立つ高品質なタンパク質の結晶生成実験
- 全天X線監視装置(MAXI)による未知の天体や宇宙現象の観測
- 地球環境の詳細な監視
など、科学の発展に貢献する多様な実験が行われています。
【JEM自律移動型船内カメラ(Int-Ball)】
②宇宙医学と長期滞在技術の確立
ISSは、宇宙環境が人体に与える影響を解明し、将来の長期宇宙探査に必要な医学的知見を蓄積する場でもあります。宇宙飛行士は通常約6カ月間の滞在を通じ、微小重力による骨量の減少や筋力の低下、宇宙放射線の影響など、さまざまな身体の変化を経験します。
ISSでは、これらの影響を詳細に調査し、対策を講じるための研究が行われています。
双子研究(Twins Study)
特に有名なのが、NASAが実施した「双子研究(Twins Study)」です。2015年3月から2016年3月にかけて、一卵性双生児の宇宙飛行士スコット・ケリー氏がISS上で約1年間滞在した際、地上に残った双子の兄マーク・ケリー氏と比較する研究が行われました。
この研究では、
- 遺伝子発現
- 認知機能
- 腸内細菌叢
などの変化が調査され、遺伝子発現の変化のうち91.3%は帰還後に元に戻りましたが、一部は6か月経過後も残存することが明らかになりました。これらの成果は、将来の有人探査における宇宙飛行士の健康管理技術に役立つとともに、地上の骨粗しょう症や筋力低下の予防・治療法の開発にも応用されています。
【血液採取を行う星出宇宙飛行士 ©JAXA/NASA】
生命維持システムの研究
さらに、ISSの生命維持システムの研究も重要です。水再生システムでは、大気と尿から回収された水を飲料水に処理でき、85%の水分回収が可能になっています。
また、二酸化炭素除去装置で処理された二酸化炭素の50%を酸素に変換することができます。この能力だけで3人の宇宙飛行士のための酸素生成が可能です。
こうした自給自足型のシステム開発は、月や火星での長期滞在に不可欠な技術となります。
将来の宇宙探査に向けた技術実証
ISSは、人類がさらに遠い宇宙、つまり月や火星へ進出するための「技術実証」の場としての役割も担っています。将来の長期探査では、地球からの補給に頼らず、宇宙船内で空気や水を再生・循環させる高度な生命維持システムが必要です。
ISSではこうしたシステムの長期的な試験運用や改良が行われており、実運用で得られた経験や知識が蓄積されています。
宇宙ゴミ(スペース・デブリ)対策技術
宇宙ゴミ(スペース・デブリ)対策技術の研究開発も進められています。ISSでは、
- 導電性テザーを用いた衛星の離軌(軌道からの脱出)技術
- 衝突回避システム
などの実証が行われており、これらの技術は次世代の宇宙活動を支えるための運用に欠かせない存在となっています。さらに、2030年代に計画されている月周回有人拠点「ゲートウェイ」に向けた、
- 二酸化炭素除去技術
- 火星での重力環境(0.17G)を想定した低重力科学実験の基礎データ
などもISS上で蓄積されています。
このようにISSは、科学的な成果を生み出すだけでなく、宇宙医学の発展や未来の探査技術の確立を通じて、地上社会と将来の宇宙活動の双方に貢献し続けています。次の章ではISSがどのように作られたのか、構想や技術などを確認していきましょう。*2)
国際宇宙ステーション(ISS)はどうやって作ったのか
【ISSの主な構成要素】

地上から約400キロメートル上空にサッカー場ほどの大きさの建造物を建設することは、地上の常識が通用しない壮大な挑戦でした。ISSは完成した状態で打ち上げるにはあまりにも大きすぎるため、機能ごとに「モジュール」と呼ばれるパーツに分けて地上から打ち上げ、宇宙空間で段階的に組み立てるという画期的な方法がとられました。
この建設プロセスには建設ミッション(打ち上げ)だけでも40回以上と1,000時間を超える船外活動が必要となり、1998年の着工から2011年の完成まで13年の歳月を要しました。
それでは、ISSの建設における重要なポイントについて見ていきましょう。
軌道上組み立てという建設方法
ISSの建設は、「軌道上組立(On-Orbit Assembly)」という工法で行われました。各国が開発した、
- 実験棟:アメリカ「デスティニー」(Destiny)、日本「きぼう」(Kibo)、ESA※「コロンバス」(Columbus)
- 居住棟:ロシア「ズヴェズダ」(Zvezda 「星」という意味)
- 結合ノード(連結部):アメリカ「ユニティ」(Unity ノード1)、ESA「ハーモニー」(Harmony ノード2)
- ISSの骨格となる巨大な「トラス」(鉄骨構造):アメリカ「S0トラス」(S-Zero Truss)
などが、個別に地上から打ち上げられました。打ち上げには主にアメリカのスペースシャトル(ISS建設ミッションで計39回飛行)やロシアのプロトンロケット、ソユーズロケットなどが使用され、建設ミッション全体では40回以上の打ち上げが実施されました。
これらのモジュールを軌道上で正確に結合させていく作業が、十数年にわたり続けられました。
建設を支えた技術(ロボットアームと船外活動)
巨大なモジュールを宇宙空間で正確に結合させるためには、以下の2つの重要な技術が必要でした。
- ロボットアーム
- 宇宙飛行士による「船外活動(EVA)
カナダが開発した「カナダアーム2」は、ISS本体に取り付けられ、ロケットから放出された新しいモジュールを掴み、ドッキング位置まで正確に誘導・保持する中心的な役割を担いました。ただし、ロボットアームでは行えない精密な配線作業や、機器の取り付け・修理は、宇宙飛行士が宇宙服のみで船外に出て手作業で行う必要がありました。
ISSの主要部完成(2011年)までに実施された建設・維持管理のための船外活動は160回、累計時間は1,009時間を超えます。日本人宇宙飛行士も積極的に参加しており、野口聡一宇宙飛行士は2005年のSTS-114ミッションで3回の船外活動を行い、太陽電池パネルやトラス部分の補修作業に従事しました。
構想から完成までの歴史
【ISSの組み立てアニメーション】
ISSの建設は、構想から完成まで数十年にわたる国際的なプロジェクトでした。1984年、アメリカのロナルド・レーガン大統領が宇宙ステーション計画(後の「フリーダム計画」)を提唱し、日本、ESA、カナダが参加を表明しました。
1990年代
1993年には冷戦終結を受け、ロシアが計画に参加することが決定され、現在の国際協力の枠組みが固まりました。1998年1月に新たな政府間協定が署名され、1998年11月20日に最初のモジュール、ロシアの基本機能モジュール「ザーリャ」(夜明け)がプロトンロケットで打ち上げられました。
わずか2週間後の1998年12月5日、スペースシャトル「エンデバー」がアメリカの結合モジュール「ユニティ」を打ち上げ、ザーリャとのドッキングに成功しました。
2000年代
2000年7月12日にはロシアのサービスモジュール「ズヴェズダ」(星)が打ち上げられ、居住機能が整いました。同年11月にはソユーズ宇宙船が到着し、第1次長期滞在クルーによる宇宙飛行士の常時滞在が本格的に開始されました。
2003年2月には、スペースシャトル「コロンビア号」の空中分解事故が発生し、ISS建設は一時中断を余儀なくされましたが、その後の安全対策を経て建設は再開されました。
日本の「きぼう」は2008年から2009年にかけて、3回に分けて打ち上げられました。2008年3月11日にSTS-123ミッション(土井隆雄宇宙飛行士搭乗)で船内保管室が打ち上げられ、2008年5月31日のSTS-124ミッション(星出彰彦宇宙飛行士搭乗)では船内実験室とロボットアームが取り付けられました。
星出宇宙飛行士は、ISSのロボットアーム(SSRMS)を操作して船内実験室の設置に成功しました。最終的に2009年7月15日のSTS-127ミッション(若田光一宇宙飛行士搭乗)で船外実験プラットフォームが結合され、日本最大の有人宇宙施設が完成しました。
2010年代
2011年7月8日に最後のスペースシャトルミッション(STS-135アトランティス号)が打ち上げられ、主要な機器が運ばれました。このミッションの完了(同年7月21日着陸)をもって、1998年から約13年をかけたISSの主要な組み立てが完了したのです。
ISSは、
- 地道なモジュールの打ち上げ
- 「軌道上組立」という高度な工法
- 最先端のロボット技術
- 宇宙飛行士による1,000時間以上の船外活動
という、人類の技術と国際協力の結晶として宇宙空間に建設されたのです。次の章では、よくある疑問に答えていきます。*3)
国際宇宙ステーション(ISS)に関してよくある疑問
【「きぼう」日本実験棟(JEM)の全景 ©JAXA/NASA】
地上から400キロメートルも離れた宇宙を飛ぶ国際宇宙ステーション(ISS)は、壮大なプロジェクトであると同時に、私たちの生活からは遠い存在のように感じられるかもしれません。ここでは、ISSに関してよく寄せられる質問に回答していきます。
ISSの現在地を知る方法は?
ISSの現在地は、専用のウェブサイトやスマートフォンアプリでリアルタイムに確認できます。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が提供する「#きぼうを見よう」やNASA(アメリカ航空宇宙局)の「Spot The Station」が公式性の高い情報源です。
これらのツールでは、ISSの現在位置に加え、自分のいる場所からいつ、どの方角に見えるかを数日前から調べることができます。
肉眼で見える? その見え方は?
ISSは、地上からも条件が揃えば肉眼ではっきりと観測できます。ISSはサッカー場ほどの大きさがあり、太陽光を反射することで、条件が良いときには木星並みのマイナス2等級(1等星の約15倍の明るさ)で輝きます。望遠鏡は不要で、街中や自宅のベランダからでも観測可能です。
見える条件は、地上は夜でありながらISSには太陽の光が当たっている夕方(日没直後)や明け方(日の出直前)の時間帯です。ゆっくりと空を横切る明るい光の点として見え、高空を飛ぶ飛行機に似ていますが、点滅せず一定の明るさで移動するのが特徴です。
約90分で地球を1周するため1日に複数回通過しますが、観測に適した条件が揃うのは限られた日時のみです。
2025年11月現在で日本人はいる?
2025年11月14日現在、JAXAの油井亀美也(ゆい きみや)宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中です。油井宇宙飛行士は2025年8月1日にクルードラゴン運用11号機(Crew-11)で打ち上げられ、8月2日にISSに到着しました。約6か月間のミッションに従事しており、きぼう日本実験棟での科学実験やISSの維持保全に取り組んでいます。
【ライブイメージングシステム(COSMIC)の定期点検を行う油井宇宙飛行士】
将来、宇宙ステーションは増える?
ISS退役後の2030年代には、複数の商業宇宙ステーションが運用される見込みです。NASAは2021年に商業宇宙ステーション開発を支援する「Commercial LEO Destinations(CLD)」プログラムを開始し、Blue Origin社の「Orbital Reef」やVoyager Space・Airbus社の「Starlab」などに資金援助を行っています。
Orbital Reefは2028年頃、Starlabは2028年以降の打ち上げが予定されています。
また、中国はすでに独自の宇宙ステーション「天宮(てんきゅう)」を運用しており、ロシアも独自ステーション「ROSS」の建設を計画しています。日本も文部科学省が米国企業の商業宇宙ステーションに民間主体で参画する方針を固めており、Axiom Space社のモジュール設計への参画も進めています。
一般人が宇宙ステーションに行ける時代はいつ頃来る?
実は、一般人が宇宙ステーションに行ける時代はすでに一部で実現しています。2001年にアメリカのデニス・チトー氏がISS訪問を実現して以来、複数の民間人がISSを訪問しており、日本からは2021年12月に前澤友作氏が12日間滞在しました。
近年では、米国のAxiom Space社が、NASAの協力を得て、民間人のみで構成されたクルーをISSに送るミッションを商業的に実施しています。2022年4月に実施された「Ax-1」では4人の民間宇宙飛行士がISSに17日間滞在し、2023年5月の「Ax-2」では10日間のミッションが行われました。
JAMSSも日本企業としてAx-1ミッションに参加し、光触媒空気浄化装置の技術実証を行っています。
今後、前述した商業宇宙ステーションが2030年代にかけて稼働を始めると、研究施設としてだけでなく「宇宙ホテル」としての活用も計画されており、現在よりも宇宙ステーションに滞在できる機会は増えると予想されます。
ただし、費用は依然として非常に高額です。NASAが2019年に公表したISSの滞在費は1泊3万5,000ドル(約380万円から500万円)で、打ち上げ費用や訓練費用を含めると、1回のミッションにかかる総額は数千万ドル(数十億円規模)にのぼるとされています。
一般人がもっと気軽に宇宙ステーションに滞在するにはコストの低減が進む必要があり、まだ時間が必要な状況です。*4)
国際宇宙ステーション(ISS)とSDGs
【「きぼう」の船内保管室】
国際宇宙ステーション(ISS)は、国境を越えた協力と先端技術により人類の未来を拓くものであり、SDGs(持続可能な開発目標)が目指す「誰一人取り残さない」社会の実現と本質的に一致しています。宇宙からの実験成果や観測データは、医療革新や気候変動対策、資源管理といった地上の課題解決に直結する科学的根拠を提供します。
それでは、ISSが貢献する主なSDGs目標について見ていきましょう。
SDGs目標3:すべての人に健康と福祉を
ISSの微小重力環境では高品質のタンパク質結晶が生成され、難病治療薬の開発が加速されています。筑波大学と第一薬科大学の研究では、微小重力下で生成した結晶から筋ジストロフィー治療薬の設計が進み、臨床試験が進行中です。
また、宇宙飛行士の骨量減少研究から得られた知見は、地上の骨粗しょう症予防や高齢者医療の向上に応用されています。
SDGs目標6:安全な水とトイレを世界中に
ISSで実証された日本独自の水再生技術は、尿や呼気から85%以上(将来的には98%)の水を飲料水として回収します。NASA製システム(80%回収率)と比較してメンテナンス不要で、消費電力も30%削減できており、災害時や水資源制約地域の水供給に貢献する設計指針となっています。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
ISSのセンサーと関連衛星データにより、
- 温室効果ガス濃度
- 森林破壊
- 土地被覆の変化
などが監視されます。JAXA の観測衛星は温室効果ガス排出量の検証手段として国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で継続的に活用されており、各国の気候対策立案の科学的根拠となっています。
SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
ISS計画は参加15カ国の国際協力の象徴です。JAXAと国連宇宙部(UNOOSA)の「KiboCUBE」プログラムでは、「きぼう」から超小型衛星を無償で放出し、開発途上国の宇宙技術者育成と地球観測能力向上を支援しています。
ケニア初の衛星は野生動物や農業のモニタリングに活用され、技術格差解消と国際協力を通じたグローバルな持続可能性の実現に貢献しています。*5)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
【種子島宇宙センターから打ち上げられたHTV-X1号機】
国際宇宙ステーション(ISS)は、15カ国が協力する軌道上の巨大な実験施設です。その最大の意義は、微小重力を利用した先端研究で地球の課題解決に貢献し、国際協調を30年近く実践しながら、未来の有人宇宙探査の基盤を築いている点にあります。
現在のところ、ISSは2030年末の運用終了が予定され、その役割を民間企業主導の商業宇宙ステーション(Axiom Space、Orbital Reef、Starlabなど)へ引き継ぐ動きが世界的に加速しています。日本でも文部科学省が民間主体での参画を決定しており、日本人宇宙飛行士の継続的な滞在がこの重要な転換期を支えています。
今後の課題は、ISSが築いた国際協調の枠組みをどう発展させるかです。そのためには、
- 宇宙ゴミ(スペース・デブリ)対策
- 観測データの公平な共有
- 新興国も含む国際的なルール整備
- 透明なガバナンス
などが欠かせません。ISSに代表される宇宙インフラは気候監視や災害対応を支える公共財として、世界中すべての国に価値があるものです。
このようなISSの歩みを知ることは、未来の可能性と私たち自身の役割を考えるきっかけとなります。あなたの地域で宇宙データはどう役立つでしょうか?
個人レベルでも、アプリで確認してISSを肉眼で観測することが可能です。このような行動から、宇宙と地球の未来への関心が深まり、より良い社会づくりへの参画意識へとつながります。
科学技術の進歩も国際協力も、実は私たち一人ひとりの好奇心と行動から生まれています。空を見上げ、地球の未来を共に考える一歩を踏み出すことで、あなたも人類の宇宙活動と地球社会の未来に貢献できるのです。*6)
<参考・引用文献>
*1)国際宇宙ステーション(ISS)とは
JAXA『国際宇宙ステーション(ISS)とは』
JAXA『2030年までの国際宇宙ステーション運用延長に日本が正式に参加表明』(2022年11月17日)
JAXA『「きぼう」日本実験棟』
外務省『国際宇宙ステーション協力計画(ISS計画)』(2023年12月)
*2)国際宇宙ステーション(ISS)の目的と役割
JAXA『宇宙環境を利用した医学研究』
文部科学省『ポストISSを見据えた現ISSの科学的利用促進~微小重力科学の推進~』(2025年1月)
Tellus『国際宇宙ステーション(ISS)では何をしている?「宇宙実験」の概要と事例紹介』
NASA『The 2024 Annual Highlights of Results from the International Space Station』(2025年2月)
*3)国際宇宙ステーション(ISS)はどうやって作ったのか
Wikipedia『国際宇宙ステーション』
JAXA『ISS計画の歩み』(2009年4月)
JAXA『国際宇宙ステーションの飛行管制:ユニティとザーリャ』
NASA『ISS20th: High‑Flying Construction』(2019年12月)
RussianSpaceWeb『Chronology of the ISS development』
*4)国際宇宙ステーション(ISS)に関してよくある疑問
KIBO宇宙放送局『#きぼうを見よう』
NASA『Spot The Station』
NASA『Commercial Space Stations』
日本経済新聞『民間宇宙ステーション、JAXA主体の研究も加速 文科省が方針案』(2025年6月)
JAXA『油井亀美也宇宙飛行士 ISS長期滞在ミッション』
*5)国際宇宙ステーション(ISS)とSDGs
外務省『「SDGs実施指針」優先課題②【主な取組】:健康・長寿の達成』
JAXA『JAXAと国連宇宙部によるKiboCUBEプログラム第9回公募を開始』(2025年6月)
JAXA『国際宇宙ステーションでのタンパク質結晶生成実験結果から、世界で初めて、多剤耐性菌・歯周病菌の生育に重要な酵素の立体構造を解明』(2014年5月)
Science Portal『「健康、産業、教育…有人宇宙開発は人類に貢献」ISS船長務めた星出さん』(2022年2月)
*6)まとめ
NOOSA『Benefits of Space for Humankind』
OECD『The Space Economy in Figures』(2023年12月)
ESA『ESA Strategy 2040』
内閣府『宇宙技術戦略』(2024年3月)日経XTECH『世界初の人工重力宇宙ステーション、米ベンチャーが挑戦 2035年計画』(2025年5月)
この記事を書いた人
松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。








