菅公学生服株式会社 谷岡さん・柄川さん インタビュー
谷岡 美樹(写真右)
カンコーブランディング本部 ブランディング室 室長2002年入社。社長室、経営企画室を経て2015年よりブランディング室で社内外広報・PRを担当。
柄川 麻紀(写真左)
ブランディング室2016年入社。ブランディング室でお客様相談室、社内外の広報を経て、2019年にマーケティング。ノベルティツール企画などを経験後、2024年再びブランディング室に異動。
introduction
菅公学生服株式会社が創業されたのは、黒船が日本に来航した翌年、安政元年(1854年)。制服づくりは100年以上の歴史ある会社です。
現在は、多様性に配慮した制服や、地球環境にも人にもやさしい制服・体操服などを手掛け、SDGsの取り組みも積極的に行っています。
本日は、谷岡さんと柄川さんにSDGsの取り組みや手掛けている製品について伺いました。
100年以上制服を作り続けてきたリーディングカンパニー
–最初に、菅公学生服株式会社のご紹介をお願いします。
谷岡さん:
菅公学生服株式会社は、学校制服や体操服などを製造販売する学生衣料総合メーカーです。
ブレザーや詰襟、セーラ服、シャツなどを手がけています。
弊社の歴史は古く、創業は安政元年(1854年)、岡山県児島地区で綿糸の卸業を営んでいました。児島地区は干拓地で、土壌に塩分を含んでおり、米の生産には向かない土地でしたが、塩に強い綿の栽培が盛んでした。現在も児島地区は繊維業が活発な地域です。
学生服を扱い始めたのは約100年前、大正12年(1923年)で、木綿地の学生服をつくっていました。戦後、ナイロンや合成繊維を扱うようになり、ヒット商品が生まれ、1968年頃に業界第一位となりました。そして現在までリーディングカンパニーとして、スクールユニフォーム業界を牽引しています。
–とても歴史の古い会社なのですね。長い歴史の中で、御社が受け継いできた思いなどはありますか。
谷岡さん:
弊社は長い間、子どもたちにとって身近な制服を手掛けてきました。
そして私たちの使命は、製品の提供だけでなく、「子どもたちの夢と学びを応援する」ことだと考えています。
弊社のロゴマークは、5つの丸が梅の花のように配置されています。一つ一つの丸はそれぞれ「先駆」「夢」「学び」「安心」「感動」を表しています。
先駆者として業界を牽引していくこと、子どもたちの夢と学びを応援すること、安心と感動をお届けすること、この5つをお客様に約束するとともに、使命としています。
また、先駆者として、社会の発展や社会課題に貢献することも重視し、SDGs活動にも積極的に取り組んでいます。
伝統をつくるのは人 次世代に繋げてきた思いとは
–ここからは、御社が取り組んでいるSDGs活動についてお話を伺いたいと思います。いつごろから取り組み始めたのでしょうか。
谷岡さん:
弊社では持続可能という概念が出てき始めた1990年代から、エコに対する取り組みをいろいろと行ってきました。制服は一着を長く大切に着るという考え方があり、高品質なものが多く、持続可能という考え方と方向性が合っている商材だと考えています。
取り組みとしては、植樹をしたり、ペットボトルをリサイクルした制服をつくったり、エコに関する活動を大事にし、継続してきました。
その後、国連でSDGsが採択された2015年ころに、今までやってきた取り組みを整理し直しました。ですから、SDGsの取り組みを新たに始めたというよりは、それまでの取り組みを継続してSDGsの取り組みと位置づけています。
取り組みは、エコに関することに限らず、子どもたちのキャリア教育支援、従業員にとっての働きやすい環境整備や地域活性の取り組みなど多岐に渡ります。
–では、商品をつくる際やSDGsに取り組む際に、大切にしているのはどのようなことでしょうか。
柄川さん:
制服や体操服を着る子どもたちは、ひとり一人皆状況が違います。
生活環境・部活動や学習の状況などそれぞれですが、すべての子どもたちが、着心地良く、着ていて楽しくなるような制服・体操服をつくることを非常に大事にしています。
全国に各拠点を置き、各地の寒暖差や地域環境にも対応できるようにしています。
また、制服・体操服は子どもたちが着るだけでなく、学校のアイデンティティとしての役割があり、「購入する」、「毎日の手入れをする」のは保護者の方々です。これらの制服に関わる全ての人に満足してもらえるよう、思いを込めて仕事をすることを大切にしています。
これは、SDGsの理念「だれ一人取り残さない」に通じると考えています。
近年は、地球環境にも人にも優しいという考え方も取り入れ、さらに取り組みが進んできていると感じています。
弊社社長の尾﨑は「歴史や伝統を作るのは人だ」と言います。長い年月制服や体操服に携わっている弊社が大切にしているのは、まさにひとり一人の社員が次世代に繋げてきた思いなのではないかと思います。
だれ一人取り残さない どんな人にも同じように制服や体操を着てほしい
–続けて、事業の中で実際にどのような取り組みをしているのか、お聞かせください。
柄川さん:
弊社が取り組んでいる主な二つの取り組みについてお話しします。
一つ目が、多様性に配慮した制服です。
生徒さまの中には、制服の着脱や着用に関する悩みをもつ方もいらっしゃいます。
カンコーでは、着用されるご本人や保護者の方のご要望に応じて、多様な悩み・不安を軽減できるように工夫した制服を製造しています。
では、主な取り組みをいくつかご紹介します。
まず、障がいのある方向けの制服です。
障がいがあっても皆と同じ制服を着たい、保護者からも同じものを着せたいという要望は多いので、私たちは様々な工夫をし、型紙を作る段階から対応しています。
からだが不自由で着脱がしにくい場合は袖口にファスナーを付ける、全く上半身が動かせず、保護者の介助が必要な場合は、背中にファスナーをつける、手の動きが不自由なら飾りボタンにし、マジックテープで止めるような仕様にするなど、個人に細かいところまで寄り添い、生徒さまや保護者の方に合わせた制服をつくっています。
弊社の最年長のパタンナー(型紙を作る人)に確認すると、このような取り組みは40〜50年以上前からしてきたということでした。
《着脱しやすい仕様の制服》
次は、ジェンダーフリーの制服です。
私たちは長い間、心も体も快適に過ごせる制服を目指してつくってきました。
しかし、ある時、トランスジェンダーの方たちの、自認の性ではない制服を着用することに、かなりの抵抗感があったという話を聞いたんです。制服が原因で不登校になってしまったことなど、もともとは楽しい学校生活を送って欲しいと思い提供した制服が、苦しい思いに繋がっていることを知りました。そこで、社員が直接お話を伺うことや、学校からの要望などで取り組みが急速に進みました。
ジェンダーフリーという概念を取り入れ始めたのは、2015年くらいからですが、現在は、詰襟・セーラー服のような男女でわかれている制服から、ブレザーなどの性差を感じさせない制服が主流になっています。
ブレザーは、ボタンの前合わせがどちらにも変更できるもの、男女どちらが着ても見た目や着心地に違和感のないデザインなどがつくられています。
スラックスは、男性用を女性がそのまま着ると、男女の身体的特徴の違いから体型に合わず、着心地の観点から、男子用・女子用とつくっていますが、呼び方をⅠ型・Ⅱ型とすることもあります。
多くの選択肢の中から、自分で選んだ制服を着られるように、非常に細かいところまで配慮し、誰も傷つけないことを考え取り組んでいます。
《ジェンダーフリーの制服》
ジェンダーだけでなく、環境や状況、その日の体調、宗教などに合わせ、自分で選べるということが個性の尊重にもつながると思っています。
–他にも多様性に配慮した製品がありますか。
柄川さん:
感覚過敏の方でも着られる「やさしいワイシャツ」があります。
感覚過敏は、聴覚・視覚・触覚・嗅覚などの感覚が過剰に過敏な状態で、1つだけに症状がある場合と、複数の感覚が過敏な場合があります。感覚過敏は目に見える症状ではなく、周りの人は気にしないような刺激が苦痛になることが多く、理解してもらえないこともあります。制服の着心地が悪い日は、学校を休まなければならないこともあるそうです。
弊社では、子どもたちを取り巻く環境や状況を把握し、調査・分析するために「カンコー学生工学研究所」という研究機関を創設しました。
この研究所は、子どもたちを「カラダ」「ココロ」「時代」「学び」の4つの視点で見つめる「学生工学」という考え方に基づき、時代性、子どもたちの成長、嗜好などを調査し、新たな価値を創出するための研究機関です。
「やさしいワイシャツ」は、カンコー学生工学研究所と感覚過敏研究所所長の加藤路瑛さんが3年にわたり取り組んで開発しました。
当時高校生だった、感覚過敏の当事者である加藤さんが、感覚過敏で学校に通えない人のために何かできないかと考え、同じ症状を持った方たちへのヒアリングや商品開発などを弊社と共同で行いました。
この製品は、通常の糸よりもずっと細い糸を使用した肌触りのとても優しい生地を使い、縫い目やタグの場所など、細かいところまでいろいろな工夫がされているシャツです。
このように、世の中で見過ごされがちなことにも目を向け、すべての人が着られる制服を目指しています。
また、暑さ寒さの感じ方は人それぞれですので、今は一斉に衣替えをしない学校も増えています。弊社としても様々な要望に応えられるようにアイテムを増やし対応していきたいと考えています。
地球にも人にも優しい制服
–では、二つ目の取り組みについてお聞かせいただけますか。
谷岡さん:
二つ目は、地球温暖化対策につながる制服・体操服です。
主な取り組みは3つです。
まず、ペットボトルをリサイクルした原料を使った制服です。
ペットリサイクル原料を使った制服は1990年代から長く手掛けています。
最初に制服として実際に導入されたのは、長野県の学校で1998年でした。現在はかなり普及が進み、一般的になっています。
次は、植物由来の繊維を使った制服・体操服です。
衣類で広く使用されているポリエステルは、石油を使用するため、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを多く排出するとされています。
弊社が2013年ころから使用している植物由来のポリエステル繊維は、サトウキビから糖を絞ったかすを繊維にしたものです。
石油の使用を抑制し、環境に優しい、持続可能なエコ素材の制服・体操服です。
最後は、株式会社JEPLANと行っている制服・体操服の循環型プロジェクト(カンコー×BRING™)です。
株式会社JEPLANは、ペットボトルや服など、あらゆるものを循環させる事業を行っている会社で、BRINGは再生された原料で作られた服を販売するJEPLANのブランドです。
弊社は、JEPLANと協働で学校や制服販売店等での制服・体操服の回収活動を実施しています。カンコー×BRING™のオリジナル回収ボックスを設置し、回収された制服・体操服からつくられた再生原料「BRING Material™」を使用した、何度でも循環する制服や体操服の開発を目指しています。
ボックスを設置している学校では、回収するだけでなく、SDGsの出前授業をしたり、回収した中に着られる服があれば、リユースして次の人に着てもらえるようにする仕組みを生徒たちと一緒に考えたり、教育の機会も一緒に提供できるように取り組んでいきます。
今後も環境に配慮した事業に取り組んでいこうと思っています。
制服・体操服から思いをはせる 地球のこと自分たちのこと
–ここまで、取り組みの詳細をお聞きしましたが、課題は何かありますか。
柄川さん:
どこの企業もそうだと思いますが、カーボンニュートラルなどのサステナブルな取り組みをするための投資です。目先だけでなく、長い目で見て環境や人にやさしい製品をつくり続けるには、現段階では先行投資が必要です。そこは課題の一つではないかと考えています。
もう一つの課題は、制服や体操服として使えなくなった生地の有効利用法です。
制服はモデルチェンジする場合、それまで使ってきた生地や材料は使えなくなってしまい、廃棄せざるを得ない場合があります。制服・体操服に使う生地は、長く着るものなので、耐久性や機能性の高いものを使っています。ですから、もう使わないからと廃棄してしまうのは非常にもったいないんです。
制服や体操服を作った残り布やモデルチェンジで使わなくなった生地は、ワークショップなどで使うなど努力していますが、それもほんのわずかです。ですから、現在の大きな課題は、使えなくなった生地をどう生かしていくかということと、そもそも廃棄が出ないための仕組みづくりだと考えています。
《ワークショップの様子》
–最後に、今後の展望をお聞かせください。
谷岡さん:
制服や体操服は普通のアパレル製品と違い、作った枚数が売り切れたらおしまいというわけにはいきません。個々の学校に独自の制服があり、それを責任をもって最後の一枚までお届けするのが使命だと考えています。様々な学校や生徒の皆さんの多様性に寄り添って製品をお届けできるのは、弊社だからこそと自負しています。
制服は値段が高いと言われることもありますが、それには「品質の良い素材をしっかりした縫製で長く着られるように配慮している」という理由があります。一着一着心を込めてつくっていますので、ぜひ長く大切に着ていただけるとうれしく思います。
柄川さん:
これからは、若い方達とももっとコミュニケーションをとりたいと思っています。
少しでも興味を持ってくれた方がいたなら、議論できるような機会を持てるようにしたいと考えていますし、みんなが着ている制服を自己表現のひとつであったり、仲間との絆を深めるもの、学びを深める身近な教材として感じてもらえればと思います。
–制服は、どんな人でも着られるように配慮されていることがよくわかりました。ありがとうございました。
菅公学生服株式会社公式サイト:https://kanko-gakuseifuku.co.jp/
カンコー学生工学研究所:https://kanko-gakuseifuku.co.jp/lab/