#インタビュー

一般社団法人障がい者アート協会|障がい者のアートを企業に繋げ、経済的・精神的な支援で「誰一人取り残さない」社会参加への仕組みをつくる

一般社団法人障がい者アート協会 代表 熊本さん インタビュー

熊本 豊敏
1965年 長崎県佐世保市出身大学卒業後、小売企業で婦人服を経験後、約10年経営企画、営業企画と企画部門に従事。経営計画や営業政策の立案、検証、数値管理等を担当。その後、人材業界や水産業界などで多様な業務を経験し、2015年12月にこれまでにない障がい者の自立支援の形を作るべく一般社団法人障がい者アート協会を設立し、社会に対してインターネットを中心に障がい者の創作活動や作品の周知啓蒙活動に取り組みながら現在に至る。

introduction:

障がい者アート協会は、創作活動を続ける障がい者に「作品を発信できる場所」と「経済的対価を得られる仕組み」を提供しています。作品が企業に使用されれば「著作権利用料」を支払うのはもちろんのこと、三か月に一度オンラインギャラリーに作品を発表する登録者全てに「創作活動応援費」を支給します。つまり、「対価還元」と共に「生きがい」という精神的な支えも提供しているのです。

今回は熊本豊敏代表に、同協会の設立のきっかけや、障がい者アートと企業を繋げてゆくまでのプロセス、現状などを伺いました。

「正しいことを正しくやれば継続する」と信じ、起業を決意

–まずは、活動の概要をご紹介ください。

熊本さん:

障がい者の方々が生み出すアートを企業の事業活動に効果的に活用していただくことで、SDGsへの取り組みにも繋がり、障がいがありながらも創作活動を続ける多くのアーティストの方々へ様々な支援ができることになります。そのようなことにご賛同いただける企業の方々に作品を提供しています。結果として、「誰一人取り残さない」かたちで登録者の皆さんがご自身の生み出したアートを通じて社会参加していけることを目指しています。2023年8月現在での登録アーティスト数は1,425名です。

主な支援方法はふたつです。一つ目は、登録アーティストの方々への「経済的自立支援」です。この支援方法には、【企業が「原画を購入して展示する」以外の様々な方法で活用する「二次利用」などで発生する「著作権利用料」を該当アーティストに支払う】、【一定条件を満たした登録者全員に「創作活動応援費」を均等に分配する】の2種類があります。

支援方法の二つ目は「精神的自立支援」です。障害者アート協会のオンラインギャラリー『アートの輪』は、登録者全員の作品公開の場です。作品を公に発信・周知することで、登録者の皆さんに継続的な創作活動への励みや精神的満足、やりがいなどを提供しています。

 

SDGsとして見れば、目標1「貧困をなくそう」、8「働きがいも経済成長も」、10「人や国の不平等をなくそう」という目標に対応する取り組み内容です。

–そのようなかたちで障がい者の方々の支援を始めたきっかけは、何だったのでしょうか?

熊本さん:

私の息子が、3才の時に軽度の知的障がいと自閉症の診断を受けたことが背景にあります。彼は3~4才の頃から部屋の片隅で絵を描くようになりました。絵画は門外漢の私ですが、息子の絵は年齢にしてはすごいな、と思うことが多々ありました。

当時、川口市のある団体が、障がいのある子を集めて2~3時間くらい自由に絵を描かせる集まりを主催していました。息子は小学生の頃に参加し始めたのですが、ほかのお子さんよりも多少絵が上手だったようです。その団体は、企業さんから、参加者の絵を看板やポスターに使ってもらうという「仕事」を時々請け負ってきましたが、息子は、何度か企業さんに絵を使っていただけて、著作権利用料のかたちで収入を手にできました。

欲しいものがあるとなった時、「君、もらったお金があるでしょう?買うことは手伝ってあげるから、自分のお金で買ってごらん」と言ったんです。当時、数千円とは言え中学生としては高額な買い物ではありましたが、ある漫画の全巻を自分のお金で「大人買い」できたわけです。家に届けられたその箱を開けた時に、実に嬉しそうな顔をしていました。あるいは、コンビニで自分のお金で好きなアイスクリームを買って、おいしそうに食べている。そんな姿を見るのは、親としても「良かったね」という気持ちでした。

とはいえ、はたとまわりを見渡した時に、彼はたまたまそういうサポートを得られたにすぎないと気づきました。ちょっと絵が上手だったからですし、その団体にしても、そのような「仕事」を継続的に確保しているわけではなく、事業としては成り立っているとは思えませんでした。その時、私は、これは「事業として良いこと」だから「成立する」と思ったんです。私には、「正しいことを正しくやれば継続する」という信念があり、「この仕組みは正しいことであるはずだから、事業化してみよう」と決意し、起業しました。

オンラインギャラリーの絵は、何でもありの「多種多様」

–業務の詳細をご解説いただけますか?まずは、障がいを持つ方々がアーティストとして作品を発表するまでのステップを教えてください。

熊本さん:

アーティスト登録は、障害者手帳のようにご自身の障がいを公的に証明できるものをお持ちの方であれば、どなたでも可能です。登録にもそのあとも、費用は原則いっさいかかりません。障がいの種類、国籍、人種、年齢などの制限も全くありません。また、参加に際して面談や作品の選定もいたしません。お申込みとアンケートにご記入いただき、障がいを証明できる画像をウェブ上でアップロードすれば登録終了です。

登録後は、オンラインギャラリー『アートの輪』に作品を自由にアップロードしていただけます。その際も、作品の評価などの選定はいたしません。ただし、アートの種類は基本的に絵に限ります。ジャンルは問いませんが、コミック作品、連続する文字が作品の主眼となるもの、複数枚で構成される作品などは対象外です。

『アートの輪』を観ていただければ一目瞭然ですが、本格的な絵画やシンプルなイラストなど、なんでもありの多種多様なギャラリーです。ここは登録アーティストさん全員の「発表の場」であり、作品はずっと掲載されます。サイトの開設当初から参加してくださっている方の作品群は、作風が変化してゆく記録にもなっています。

–作品が『アートの輪』で公開されて以降について伺います。まず、作品が企業に採用される場合、どのようなパターンがありますか?また、アーティストさんにはどのような報酬があるのですか?

熊本さん:

作品が採用されれば、どのような場合でも、著作権利用料が作品への対価となります。当方から企業さんに請求する内容は、ひとつが「著作権利用料」、もうひとつの「運用費」は我々の手間賃です。アート使用料には、基本使用料(一作品いくらというかたち)と従量利用料(ノベルティなどに加工した場合などに、その数量等に応じて支払われるかたち)があります。

基本的に作品自体の販売はせず、『アートの輪』の作品データが利用されます。対価は、企業さんからいただいたアート使用料から、運用費を除いた著作権利用料を採用アーティストさんにお支払いすることになります。(※2023年9月1日以降)殆どの場合、企業さんは採用した絵をグッズなどに加工しますので、その二次利用の仕方(数量や大きさ等)によって、アーティストさんの収入も変化します。

二次利用商品のパターンは、缶バッジ、キ―ホルダーなどの小さなグッズを始め、マグカップ、クリアファイル、タオル、エコバッグなど、多岐にわたります。ある企業さんは、絵を用いて付箋セットを作り、裏に「障がいのある方を応援しています」と記して、会社説明会に来る学生さんへのおみやげとしているそうです。そういう取り組みもする企業だと知ってもらえると、喜んでいただけました。このように、障がいとは関係のない人々のところに作品が届き、周知されるよい機会となります。

意外なところで絵が多く使われているのが、建設現場の仮囲いです。凸版印刷さんと一緒にやっている「可能性アートプロジェクト」では、全国40か所くらいの仮囲いで絵が採用されています。この場合、面積も非常に大きなものなので著作権利用料は、アーティストさんにとってかなりの収入に結びつきます。ここ一年くらい、複数案件に採用され、結果的に3ヶ月間で何十万円という金額を手にする方も出てきたのは、喜ばしいことです。                                                                

–作品が採用され、自分の絵を用いたグッズなどが世に出た当事者の方々からはどんな感想が届きますか?

熊本さん:

もっとも多いのは「やりがいを感じる」ですね。「気にかけてくださる支援者がいることに感謝」「絵での仕事ができるかもしれないと夢を見られることが幸せ」「さらに創作意欲が高まった」など、様々な喜びの声を寄せてくれています。 

障がいにはいろいろな種類がありますが、私は、ハンディキャップのひとつは「発信力」と「コミュニケーション能力」における困難だと感じているんです。当協会がその部分をサポートしていることにも、多くの方が感謝を伝えてくださいます。

「誰一人取り残さない」応援がミッション

–企業に作品が採用されない場合でも、登録者全員に「創作活動応援費」が支給されるということは、驚きです。その意図やシステムの詳細を教えてください。

熊本さん:

三か月ごとに一度は作品をアップロードすることが条件ですが、その条件を満たした全ての登録者に、三か月に一度「創作活動応援費」を支給します。ここが、類似団体さんとの大きな違いと言えます。

昨今、障がい者のアートは注目され、芸術性の高いものも発信されています。ただ、比率から言えば、絵が好きで描いている方々が大半だと思っています。私たちは、才能ある(そもそも何をもって才能あるというのか私には分からないのですが)アーティストを高みへとサポートする、というアプローチだけではなく、そこから取り残されている方々もケアすることが活動のスタンスです。上手な人だけ応援されればいい、とは考えません。創作活動をする障がい者の皆さんを「誰一人取り残さない」ことがミッションです。

アート性が際立って高くなくても、二次利用されるなかでその作品が「生きる」ということを、これまで何度も経験しています。そのようなチャンスもふまえ、登録者全員の創作活動を応援しているんです。

同時に、登録者にとって、オンラインギャラリー『アートの輪』で平等に作品を発表できることが、きわめて大きな精神的満足感に繋がっているようです。「見てもらえる」状況は、障がい者の皆さんには相当に嬉しいことなんだ、というのが実感です。

正直なところ、現在の支給額は1,000円~1,500円程度の微々たるものですが、継続的な創作活動への促しともなり、同時に、所属する団体から「定期的に自分の口座に現金が振り込まれる」という体験が社会に認知されている証として、自信や励みとなるよう願っています。結果的に、この支給が当事者の次の創作活動や、就労という自立に向かって背中を押すものになっていけば嬉しいですね。

システムとしては、当協会が3か月の間に得た運用費の5~10%程度を原資として分配します。見方を変えれば、多くの企業さんが、作品採用者だけでなく、その他アクティブに創作活動を続ける登録アーティストさんを平等に支援している、とも言えます。

もう一つ別の見方もあります。創作活動応援費の分を著作権利用料として絵が採用されたアーティストさんのみに分配してもおかしくない話なんです。そうはせず、その分を登録者全員に分配することで、実は、絵が採用された障がい者の方は、ほかの障がい者の皆さんを支援していることにもなります。

また、我々はその「創作活動応援費」を、源泉徴収ぶんを引いて振り込み、翌月その人々に代わって国庫に納付しています。つまり、「収入を得た登録者全員が納税者」なんです。そんなところからも自信を持ってほしいと思っています。

運営をシステム化し、サステナブルな取り組みを目指す

–「創作活動応援費」は他に類を見ない取り組みでもあり、起業にあたり様々な苦労もあったのではないでしょうか。どのような困難をどのようにして越えられたのでしょうか?

熊本さん:

この領域では新参者であり、名前も全く通っていませんでしたから、まずはどうやって収入を作っていくかが難しかったですね。二人だけでの起業でしたし、私自身はトラックの運転手をするなど、それぞれが副業をしつつしのぎました。

ただ、50才の起業という遅さはあれど、その分、何名かの経営者の方々と面識があり、支援をお願いすることもできました。今でも継続してくださっていますが、そのような支えで現在があります。

軌道に乗せるまでの努力としては、「障がい者アート協会」という名前を世間に知ってもらうことが重要だと考え、SEOを意識してWEB上での露出を増やすことを目標にしました。「障がい者 アート」と検索をかけた時に一番上にくることを意識してホームページを作り、数か月でそれを達成しました。

いろいろと実績を積み上げ、社会的露出も少しずつ増え、信用してくださる企業さんが出てきました。自身の起業にまつわる本を出版したのも、クラウドファンディングを行ったのも、すべて名前の露出を増やすためです。

–今後の展望をお聞かせください。

熊本さん:

実は、先日(2023年9月)、文化庁への「著作権等管理事業者」の登録申請が受理されました。「著作権等管理事業者」とは、著作物作者の著作権や関連する権利を管理・運営する団体や企業のことです。音楽分野で言えば、「一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)」さんが有名ですが、2023年9月時点で申請が受理されているのは、32団体のみです。

障がい者アート協会は、芸術分野での障がい者支援団体としては唯一の登録となります。我々の支援は、これまであまり注目されていなかったアプローチと考えられることから、障がい者支援の新たな一歩として将来的にも意味のあることだと思っています。ある意味「国からの」第三者認証を得たということで、障がい者の皆様にも、企業さんにも、安心してご利用いただけるのではないでしょうか。

展望としては、難しいことではなく、支援する側、支援される側という双方の「裾野を広げていく」ことに尽きます。とはいえ、「誰一人取り残さない」と掲げながら、私たちにも出来ていないことがあります。オンラインギャラリーへの作品のアップロードは、当然、インターネット環境が整っていなければ不可能です。パソコンを持たない障がい者の方々のサポートができないという課題は、今だ解決できていません。

ただ個人的には、障がい者支援という領域において個々の支援団体が取り組んでいることは「部分最適」なのではないかと思っています。それぞれの団体ができること、つまり「部分最適」を突き詰めていき、やがてそれらが合わさって、障がい者支援の「全体最適」に繋がっていけばいいなと思います。

推定としては、3年後には当協会への参加登録者の数は2,000人を越え、作品数はたぶん10万点はいくと思います。にもかかわらず、作品公開はじめ様々な作業が二人で半アナログ状態の作業ですから、疲弊してきているところもあります(私自身も60手前とだいぶ高齢なもので)。このあたりをシステム化して、楽しまれる方々にも運営側にも、もう少し楽なかたちに移行し、サステナブルな取り組みを続けていきたいと思っています。

  

–「持続性」ある取り組みによって、登録アーティストの皆さんの励みと夢も「持続」しますね。今日はありがとうございました。

関連リンク

一般社団法人障がい者アート協会:https://www.borderlessart.or.jp/