#インタビュー

株式会社群馬建水|持続可能な未来を見据えて新たな提案を発信し続ける

株式会社群馬建水

株式会社群馬建水 宮沢勝富士さん インタビュー

宮沢勝富士

1976年1月31日、群馬県生まれ。高校卒業後、祖父が創業した宮沢コーキング工業株式会社に入社。1997年同社の専務取締役へ就任し、代表取締役である父のサポートをしつつ、ほぼ経営全般を担う。2005年に代表取締役に就任すると同時に、株式会社群馬建水へ社名を変更。事業内容を防水工事全般へ拡大し、2013年に埼玉支社、2018年に神奈川営業所、2023年に東京オフィスを開設するなど、ミッション達成のために活動を広げている。

introduction

株式会社群馬建水は、群馬県の本社を中心に、建設や土木の防水・塗装などの事業で関東一円で活躍する会社です。

積極的な現場作業員の正社員雇用化など、時代の変化に合わせた取り組みでも注目されています。

今回は代表の宮沢さんに、「持続可能」をテーマにした自社での取り組みや、思い描く建設業界の未来について伺いました。

業界でも稀な「正社員多数雇用」を実現

–まずは御社のご紹介をお願いします。

宮沢さん:

株式会社群馬建水は、主に防水・塗装などを行う建設会社です。群馬県に本社を置き、大手建設業、つまりゼネコンの下請けはもちろん、BtoCで住宅やマンションの改修工事にも携わっています。

2013年に埼玉、2018年に神奈川にもオフィスを構えていましたが、昨年世田谷にも拠点を作り、本格的に関東一円で事業を展開するようになりました。

企業理念にも「年齢国籍性別問わず挑戦でき、既成概念にとらわれず、唯一無二の企業価値を創造し、社会に新しい選択肢を提供し続け、公平で対等な社会の実現を目指します」とあるように、年齢・国籍・性別に関わらずさまざまなバックグラウンドを持つ現場作業員、つまり各分野の職人を直接雇用しているのが特徴です。

これにより、間に複数の業者が入らないことでコスト面が有利になることはもちろん、ご依頼からの非常にスピーディーな対応が可能になっています。

–現場作業員を直接雇用するというのは、業界でも珍しい取り組みなのでしょうか?

宮沢さん:

数人ならまだしも、50名以上の規模で直接雇用している企業は滅多にありません。ほとんどが、日給や月給で働く一人親方が大半を占めており、これは建設業界の特性によるものです。

建設の仕事というのは、雨が降れば作業ができないケースが多くあります。また、建設業の竣工スケジュールは年度末に集中することが多く、年間を通じて一定量の仕事があるわけではありません。

そのような状況で現場作業員を正社員として雇用すれば、仕事がない時期でもお給料が発生してしまい、企業にとってはリスクになります。

では、なぜ当社が正社員で雇用する選択をしているのかと疑問に思うかもしれません。これは今業界にいる人の雇用の安定を図るのはもちろん、これから働く若い世代の職業の選択肢を増やすという意味合いもあります。

もちろん一人親方のような柔軟な働き方を否定するつもりはありません。ただ、「正社員が良い」と思っている人にも、建設業界を将来の選択肢の1つにしてもらいたいのです。

日頃から現場作業員と近い距離感で働いている私は、若い世代は「お金はそこそこで良いから、それよりもプライベートを充実させたい」と思っている人が多いと感じています。

それであれば当然、ある程度のお給料が保証されていることと、しっかりと休日が取れることなどが求められるでしょう。そうした働き方は、正社員だからこそ実現するものだと思います。

時代に合わせたアップデートというのは、常に考えていることですね。

変化を続けてきた56年

–公式サイトでは、50名ほどの現場作業員のうち20名以上が外国人との記載もあります。こちらも時代に合わせて挑戦したことの1つなのでしょうか?

宮沢さん:

もう10年ほど前のことになりますが、確かにこれもアップデートの1つですね。私は青年会議所に所属していたのですが、そこで外国人技能実習制度の話を聞いたことが始まりです。

異なる文化圏から人を受け入れることに壁があるのは確かですが、建設業界が人手不足に陥り、年々出生率も低下する中で、日本人だけで解決できることは減ってきていると思います。実際、今や日本には40万人以上の外国人がいるそうなんですよ。

それなら業界に外国人をどんどん受け入れて、一緒に頑張っていくことが課題解決につながると考えました。

しかも、受け入れると言っても実習生に対して言葉を教えたりメンタルのケアをしたりということを、すべて当社でやらなければならないわけではありません。

例えば、ベトナムから実習生を受け入れる場合。ベトナムはベトナムで監理団体のようなものがあるので、そこである程度まで言葉などの指導をしてくれます。そして、受け入れる側として、日本には日本の監理団体があり、そこでも定期的な管理・監督が行われています。つまり、当社と実習生の間で、2社がサポートに入ってくれているわけですよね。

しかも現場の日本人スタッフも積極的に指導してくれるので、本当にありがたいですね。

–御社の長い歴史の中では、他にも変化させてきたことがあるのでしょうか?

宮沢さん:

業務内容もかなり変化していますね。今は「アスファルト防水工事」「駐車場工法」「シート防水工事」などといろいろ掲げていますが、私が先代から引き継いだ当時はシーリング工事のみを請け負う会社でした。シーリング工事というのは、建物の防水性や気密性を確保するための工事のことです。

しかし、これではいずれは仕事がなくなる未来が見えていました。ここ、群馬県もそうですが、地方の商店街は元気がないところも多いですよね。それは、それぞれのお店が専門性に特化しすぎている部分があるからだと思います。

そのお店に行っても1つの目的しか叶わないとなれば、郊外のショッピングモールに出かけてしまうでしょう。

だから当社も、なるべくいろいろな選択肢を用意してパッケージ販売のような形で、複数の業務がご提案できるようにしています。

このような背景から、2005年には社名も変更しています。以前は「宮沢コーキング工業」という名前だったのですが、業界ではシーリング工事の専門業者と捉えられてしまいます。

実際に業務内容の幅を広げてからも「コーキングという名前なのに他の防水工事もできるの?」と言われてしまったことが何度かありました。せっかく資格を取ったり社員を教育したりして業務内容を広げてきたのに、これでは悔しいと思ったんです。

何より、社名のせいで仕事を逃すようなことがあってはならないと思います。実体に限らず、名前も商店街の専門店からショッピングモールのような印象に変えていこうと、「建設防水」を略して「建水」と付けました。

「持続可能な」企業と社会へ、言葉でなく行動を

–これまでもさまざまな変革に挑戦されてきた御社ですが、今後はどのような取り組みに注力されるのでしょうか?

宮沢さん:

まだまだ課題が残ることの1つが、女性が働きやすい職場環境を整備することですね。ここ数年で、女性の現場監督が本当に増えてきているんですよ。それなのに職場、つまり建設現場の環境は女性が働くことを前提にしていないところがまだまだ多分に存在しています。

一般的に、オフィスなどで働く場面を想像してみても、男女別のトイレや更衣室があるのは当たり前ですよね?ところが建設現場はそうではありません。

まだまだトイレが男女一緒な場所もあり、現場の女性からは「ついトイレに行くのを我慢してしまう」という声も聞きます。そのような状況では仕事に集中できないばかりか、健康面に影響が出てしまう可能性すらあります。

もちろん、BtoCなどで当社が元請けとなって工事を行う場合は、女性専用のトイレを設置しています。ただ、大手ゼネコンの下で下請けとして業務にあたる場合は、こちらで現場環境を整えるのは難しいですね。

そのため当社としては、まずは自分ができる範囲で職場環境の整備を行って、それを発信することで業界の「当たり前」を変えていきたいと思っています。当社の取り組みが業界での影響力が大きいゼネコンの目に留まれば、少しずつ変わるかもしれません。

よく建設業界では「若い人に入ってきてもらわないと」「女性にも活躍してほしい」みたいな主張を耳にするんですが、それならば、先に環境を整えなければならないと思います。何の用意もなく、「とりあえず来てください」では人が増えるはずがありません。

まずお金を投資をして環境を整えて、「こういう環境を整えたので、ぜひ来てみてください」というのが筋ではないでしょうか。

–そのような変化への積極的な姿勢が、御社が掲げる「SDGs宣言」にも表れていますね。

宮沢さん:

このSDGs宣言は、お付き合いのある栃木銀行さんのご提案で作成しました。作成して良かったと思うのは、実はもう実践していたことがほとんどだと気がつけたことです。

例えば「リサイクルの推進」「エコカーの導入」などは、私が代表になった当時から取り組んでいました。ここまで度々お話ししてきたように、労働環境の整備による「働きがいのある職場づくり」も当初から優先事項の1つにしています。

思えば私は、仕事を始めた当初からSDGsにもある「持続可能」というのを1つのテーマにしていた気がしますね。社会に対してはもちろんですし、この会社に対してもそうです。

ここまでお話ししてきたさまざまな取り組みも、私がいなくなった途端に途絶えてしまうのでは、社会への影響は限られてしまいます。

だから自分に続いて社を引っ張っていく社員が出てくるように、営業の数字でも何でも、いつも自分が一番でいられるように自己研鑽を心がけています。社員も、一番でない社長から指示を出されたりするのは嫌だと思うんですよね。

そんな持続可能な会社作りの1つとして、自分自身で1級建築士の資格を取得しました。年間10%前後しか合格しないと言われている、難関の資格です。

私ももともと現場の職人でしたが、それでも難しい資格が取れると証明したかった部分もあります。

私は生まれた家がこの仕事をしていたから業界に入ったわけで、実を言うと望んで建設業界に入ったわけではありません。本当は、良い大学に入って大手企業に就職して、みたいな将来を描いたこともありました。

それなのに、当時の建設業界は職人に勉強など必要ないという雰囲気で。

でも、他にもそういう人はいると思うんですよ。本当は大学に行きたかったけど、お金がなくて行けなかったとか。他にも事情があって、もうこの仕事しかないという状況になってしまった人もいるかもしれません。

私が資格を取ることで、この建設業界でもいろいろなことができるんだぞと、希望を持ってもらえたら嬉しいと思いました。

そしてそんな希望がある会社・業界なら、社会にも良いインパクトを与え続けられるはずです。

–最後に、宮沢さんが今後力を入れて取り組みたいことを教えてください。

宮沢さん:

実は年内に、身銭を切って一般社団法人を設立することが決まっています。私が理事長になって、「多能工の育成」と「建設業の未来へ」をテーマに、業界の人手不足を解消する取り組みを展開します。

具体的には、建設業界に存在する29の業種で連携してお互いがお互いのスキルを身につけることで、企業や個人が受注できる仕事の幅を広げていきます。当社が業務内容を広げてきたのと、同じことを業界でも実現していくんです。

建設業界は年度末に工期が集中すると申し上げましたが、その時期になると毎年「〇〇の職人さんいませんか?」と争奪戦になります。ところがその繁忙期が去ってしまえば仕事がなく、職人たちは暇になってしまい、収入もなくなってしまうんです。

本当は仕事が集中する時期を分散すれば良い話なのですが、実は仕事が一時期に集中していることにも利点はあります。それは価格競争が生まれにくいことです。

そこで価格競争が生まれない利点を残しつつ、職人がより多くの仕事を受注するための方法として、一人の職人ができることの幅を増やそうと考えました。できることが増えれば、自分の本来の専門業務以外でも働くチャンスが生まれて収入が上がります。

自分が専門とする仕事でなくても、職人は建設現場のことをよくわかっているので、労働力として現場に入る分にはまったく問題がありません。

さらに、専門の職人の指導を受けながら現場でスキルアップすることで、自身の価値も上がります。そうなれば当然、仕事の単価も上がっていくでしょう。

この一般社団法人としての活動もどんどん発信して、取り組みが広く知られれば、業界としての持続可能な形も見えてくるのではないでしょうか。

–建設業界の明るい未来が見えるようですね。今後のご活躍を楽しみにしています。