#インタビュー

尾畑酒造「佐渡の自然と共生する持続可能な酒造りとグローバルな繋がりを通じて関係者の幸せを醸したい」

尾畑酒造 尾畑留美子さん インタビュー

尾畑留美子


「真野鶴」五代目蔵元。
佐渡の「真野鶴」蔵元の二女として生まれる。

佐渡高校、慶応大学法学部卒業。
大学卒業後は、東京に残り日本ヘラルド映画(当時)の宣伝部に所属。ハリウッド映画「氷の微笑」「レオン」などの宣伝プロデュースを担当。
1995年、角川書店「Tokyo Walker」編集者(現:弊社社長)と結婚し、故郷の蔵を継ぐ。現在、尾畑酒造・専務取締役。二女の母。
2014年から佐渡の廃校を仕込み蔵として再生させた「学校蔵プロジェクト」をスタート。
2017年5月『Forbes Japan』により「ローカルイノベーター55人」に選ばれる。
2019年12月、「新潟女性活躍アワード2019」を受賞。
2020年9月、the Japan Times “Satoyama大賞”受賞
著書『学校蔵の特別授業~佐渡から考える島国ニッポンの未来』

清酒専門評価者 WSET Level 3 SAKE きき酒マイスター 開志専門職大学 客員教授

Introduction

新潟・佐渡島で地酒「真野鶴」を造る老舗蔵元「尾畑酒造」。酒造りの三大要素といわれる「米」「水」「人」に、それらを育む「佐渡」を加えた「四宝和醸」(しほうわじょう)を掲げ、地域の自然と文化を活かした酒造りをしています。2014年より、地域の廃校を仕込み蔵として再生した学校蔵を稼働し、様々な企業や組織、学校とのコラボレーションを実施。毎年6月に開催している「学校蔵の特別授業」では国内外を問わず多くの参加者が集っています。今回は専務取締役である蔵元の5代目、尾畑留美子さんにSDGsに関する取り組みとして、酒造りを通じた地域への環境配慮や学校蔵の取り組みについてお話を伺いました。

原料調達から飲み手に届けるまで、持続可能な形で酒造りをする

-本日はよろしくお願いいたします。まずは尾畑酒造さんについてご紹介をお願いします。

尾畑さん:

私たちは明治25年(1892年)に創業した地酒メーカーで、新潟の佐渡市にて「真野鶴」というお酒を作っています。2014年からは、廃校を酒造りの場として再生させた学校蔵という二つ目の蔵で、「酒造り」「学び」「環境」「交流」という4つの柱で運営しています。

「米・水・人、そして佐渡。四つの宝の和をもって醸す、四宝和醸(しほうわじょう)の酒造り」をモットーに、酒造りを通じて、飲み手や作り手はもちろん、お取り組み先、地域などすべての関係者の幸せを醸す「幸醸心」を持って日々進化を目指しています。

-「幸醸心」は、まさに三方よしの考え方ですね。

尾畑さん:

はい。SDGsは、紐解いていくと日本でいう「三方よし」だと考えています。日本酒造りには醸造地の米、水、人が必要不可欠です。原料の調達から飲み手に届けるまで、持続可能な形で酒造りを行うことは、当たり前の取り組みとして捉えられてきました。世界的にSDGs的思考の重要性が認識されるようになってから、これまで当たり前に取り組んでいたことの大切さを改めて認識するようになりました。

地域づくりに繋がる米を使用し、環境や景観の保全にも貢献する 

-具体的にどのような取り組みを再認識されたのか教えてください。

尾畑さん:

まずは原材料となるお米です。酒造りに使う米がどのように地域づくりに繋がっているのか、ということに目が向いていきました。

-地域づくりに繋がっているとはどういうことでしょう?

尾畑さん:

私たちが使うお米は単に「地元産のお米」というだけではなく、地域の活性化や環境保全につながっているということです。
代表的な例で言えば、佐渡市が実施している「朱鷺と暮らす郷認証米制度」※の認定米の活用があります。

※環境に優しく、朱鷺との共生を目指し減農薬・減化学肥料で栽培される佐渡米
参考:新潟県佐渡市「朱鷺と暮らす郷」認証米HP https://www.city.sado.niigata.jp/site/sato/1165.html

尾畑さん:

佐渡では、2008年に朱鷺の放鳥が開始されました。それ以降、野生の朱鷺との共生を図るため、環境保全活動が積極的に進められており、現在は約450羽が生息しています。農家さんの中には、朱鷺をはじめ生き物が暮らす環境を維持するために、それらの餌を用意したりビオトープ設置したりしながら米作りをしている農家さんがいるんです。私たちは、このような農家さんから原料を調達することで、地域の米作りの支援と同時に、間接的に環境保全や朱鷺の保護に関わっています。

-原料から加工までのライフサイクルで、地域資源の循環に貢献する取り組みですね。

尾畑さん:

他にも地域の持続性について、関わっていきたいと考えています。佐渡市は、地域全体で生き物を育む農法に取り組んでいる事や、棚田などの美しい景観、伝統的な農文化が評価され、世界農業遺産(GIAHS)※に認定されています。ただ、課題も抱えているんです。

-どのような課題でしょう?

尾畑さん:

例えば、「岩首昇竜棚田」と呼ばれる400年続く伝統的な棚田があるのですが、大型機械が入らないなど重労働で、後継者不足に悩んでいます。そこで尾畑酒造では、棚田のお米でお酒造りをはじめました。継続的な収入の見通しを立たせる事によって、後継者探し、ひいては地域の持続にも役に立ちたいと考えています。

世界農業遺産(GIAHS:ジアス)とは

世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を、国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する制度。

https://www.city.sado.niigata.jp/site/giahs/

-地域の伝統的な風景を守る事にも繋がりますね。

尾畑さん:

佐渡島は「日本の縮図」といわれるほど多様性に富んだ里山です。文化や歴史を大切にしながら里山循環型の日本酒を作る。それが世界的な文脈でいうSDGsにあたります。

-SDGsが注目されたことで、ものづくりの在り方が考えられるようになりましたよね。

尾畑さん:

そうですね。世界がそのようなものづくりに注目をしているタイミングは、我々のお酒造りにとっても、日本酒産業にとってもチャンスと捉えています。私たちは地域の環境を守りながら地域に根ざした酒造りを行うことで、その土地についても広く伝えていきたいと思っています。

-海外に向けた発信もされていますね。

尾畑さん:

私どものお酒は15か国に輸出しています。外国の方で日本酒に興味ある方はたくさんいます。そして、佐渡の日本酒を飲むことで、佐渡に来島するきっかけにもなっています。

学校蔵をきっかけとした、グローバルに広がる関係人口と様々なコラボレーション

尾畑酒造

-さきほどお話に出た学校蔵ではどのような取り組みを行なっているのですか?

尾畑さん:

学校蔵は「酒造り」「学び」「環境」「交流」という4本柱で活動しています。廃校となった小学校を酒蔵として再生させ、原料から酒造りに使われるエネルギーまでオール佐渡産を掲げた酒造りをしています。現在では毎年夏に、一週間から20日間の「酒造り体験プログラム」を実施し、世界中からの参加者を受け入れています。アジアだけではなくアメリカやヨーロッパからも参加希望があるんですよ。

-学校を舞台に、日本酒の仕込みの学びを軸にインターナショナルな交流ができるのですね。

尾畑さん:

「交流」という観点で言えば、2014年から毎年6月に「学校蔵の特別授業」と称して、ワークショップを開催しています。酒蔵の役割は酒造りに留まらず、地域の次世代の人材を育てることや、地域の関係人口を増やすこともあると考えています。

特別授業の生徒さんは年齢、性別、国籍問わずに多様性に富んでいて、年齢でいえば、下は高校生から上は70代、赤ちゃん連れのご家族もいます。いろんなバックグラウンドの人たちが集まって混ざって学ぶことで化学反応が生まれていると感じます。

-話を伺っているだけでワクワクしてきます。様々な形で佐渡や日本酒のファンが育っているのですね。

尾畑さん:

そうですね。学校蔵をきっかけに佐渡に魅力を感じて、移住した方もいらっしゃるんですよ。酒造りは地域を学ぶことに近いので、学校蔵での体験を通して、佐渡の関係人口が増えてくれるといいなと思っています。また、NTT東日本さんなど企業とのコラボレーションでの酒造りも行ってきており、伝統的な酒造りにITの視点を取り入れるなど新しい取組も行っています。

-まさに「学校」ですね。最近特に力を入れて進化させていることがあれば教えてください。

尾畑さん:

今年のGW前後から学校蔵にカフェをオープンする予定です。酒造り体験にいらしているいろんな国の人たちと、地域の人たちが混ざりあう場にもなったらいいなと思っています。

人もエネルギーも資源も循環させながらお酒造りを行う、サステナブルなブリュワリーを目指して

-最後に今後の展望について教えてください。

尾畑さん:

大学や企業などと連携して、朱鷺が舞う里山ならではの新しいエコシステムを追求していきたいです。そして、もともとサステナブルなものづくりとしての日本酒について世界に発信し、グローバルな視点で佐渡島のブランド化につとめていきたいと考えています。

-本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

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