菊地 夏美
1994年生まれ。宮城県で育つ。中学生の頃に途上国の子どもたちへの支援に関心をいだき、学生時代には全国3,500人の学生が所属する国際ボランティア団体の支部代表として国内外でのボランティア活動を経験。大学4年次にワールドシアタープロジェクトの代表・教来石の著書『ゆめのはいたつにん』に感銘を受けボランティアとして参画。現在は民間企業にて働く傍ら、ワールドシアタープロジェクトの副代表として活動している。TEDx Kumamoto2021登壇。
目次
introduction
「将来何になりたい?」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。
「生まれ育った環境に関係なく子ども達が夢を描き人生を切り拓ける世界をつくる」という理念のもと活動を行うNPO法人World Theater Projectでは、途上国の子どもたちへ映画を届ける活動を行っています。今回は、副代表の菊地さんをお迎えし、映画が途上国支援にどのように繋がるのか、活動意義と目指す世界観についてお話いただきました。
映画体験を通じた途上国支援
–World Theater Projectの活動内容を教えてください。
菊地さん:
2012年に立ち上がったNPO法人で、カンボジアをはじめ途上国と呼ばれる国々の農村部で暮らす子ども達に「映画体験を届ける」という支援活動を行っています。
職業の選択肢を知る機会をつくりたい
–食糧支援や医療支援など様々な支援がある中で、なぜ映画体験を選んだのでしょう?
菊地さん:
映画を観ていろいろな世界を知ることで、職業の選択肢の幅を拡げるきっかけになるのではないかと考えたからです。例えば、映画の主人公がサッカー選手であればサッカー選手という職業を、音楽に関するものであればミュージシャンや作曲家などのように、いろいろな働き方があることを発見できます。
–なぜ、選択肢を増やすきっかけ作りが大切だと思われるのでしょうか。
菊地さん:
途上国の子どもたちにとって、職業の種類を知る機会が少ないからです。
映画体験プロジェクトの立ち上げ以前、代表の教来石が途上国のドキュメンタリー番組を撮るために途上国を訪れ、現地の子どもたちに「将来の夢はなんですか?」とインタビューをして回りました。子どもたちから返ってきた答えのほとんどが「先生」や「お医者さん」だったんです。
–出てくる答えから選択肢の少なさを実感したんですね。なぜそのような状態なのでしょう?
菊地さん:
生まれた場所、住む場所によって違いがあるんだと思います。
日本ではテレビや動画配信など、通信技術が発達していますよね。映画やドラマも自由に観られ、画面を通して、クリエイターとかエンジニアとか研究者など、様々な職業を知る機会があります。代表の教来石自身も、幼い頃から多くの映画に出会い、夢を描いてきたうちの一人です。一方で、途上国の農村部では電気が通っていない村も多く、職業に関する情報が少ないどころか、映画自体知らない子もいます。
–環境の差が影響しているんですね。
菊地さん:
途上国の子どもたちも、もっと世界を知ることができれば同じように夢を描けるんじゃないかと感じ、2012年に映画を届ける活動がスタートしました。
映画であれば、通信環境がなくても必要機材さえあれば作品を届けることが可能だからです。
–環境に左右されずに職業選択できるようになりますね。
菊地さん:
はい。私たちは「生まれ育った環境に関係なく子ども達が夢を描き人生を切り拓ける世界をつくる」という理念を掲げています。
映画は食糧やワクチンのように生きる上で必ず必要なものではないため、本当に途上国支援ができるの?と、なかなかイメージしづらいかもしれません。
しかし、生まれた環境によって将来の夢を制限してしまうのはとてももったいないこと。すべての子どもたちが同じように夢を描けるようになることが、私たちの目指す世界です。
学校の教室や村の広場が映画館に早変わり!移動映画館とは!?
–電気も通信機器もない場所での映画上映と聞くと、なかなかハードルが高いのでは?と感じましたが、どんな工夫をされているんですか?
菊地さん:
学校の教室や村の広場にプロジェクター、スクリーン、発電機やスピーカーなどの機材を設置し、即席映画館を作っています。
何もなかった場所に機材さえ揃えばそこはもう本格的な映画館となり、これを私たちは「移動映画館」と呼んでいます。
–移動式の映画館とは斬新です!
菊地さん:
イメージとしては、昔、公園や広場で子どもたちに紙芝居を上演していた「紙芝居おじさん」のような感覚です。私たちの中では、映画を配達するスタッフを「映画配達人」と呼んでいます。
–何だかイメージが湧いてきました。現地ではどんな方が映画配達人として活躍されているんですか?
菊地さん:
観光地で働くトゥクトゥクドライバーをしている方に副業としてご協力頂き、映画上映のお知らせからスクリーン等の設置、上映まで行って頂いています。
–雇用を生み出すきっかけにもつながっていますね!ちなみに、どんな種類の映画を上映しているのですか?
菊地さん:
日本のアニメーションが中心です。一部をご紹介すると、やなせたかしさんの「ハルのふえ」。田舎で育った男の子が都会に繰り出し音楽家に成長していく物語です。他には「劇場版 ニルスのふしぎな旅」などです。また、累計上映動員数(2020年3月時点)で79268人です。
–冒険心をくすぐるような作品が多いんですね! 映画を選ぶ際、何か基準はあるんですか?
菊地さん:
子どもたちの心を育む作品を中心に選んでいます。
プロジェクトに賛同いただける映画会社から許諾を頂いた上で、現地の声優さんに吹き替えをしてもらい制作しています。
–様々な方の協力を得ながら移動映画館が成り立っているんですね。
映画の主人公になってみよう!夢を分かち合うワークショップ
–移動映画館開催の際に、ほかに行っている活動はありますか?
菊地さん:
上映後、映画の世界を体験するような「体験型のワークショップ」を行っています。
–具体的にどんなことをするんですか?
菊地さん:
例えばですが、上映した作品の主人公になりきってみよう!というものです。
例えば、音楽家の映画であれば楽器を弾いてみようだったり、スポーツの映画だったらサッカーをしてみよう!野球をしてみよう!と、映画の世界を体現してみる時間を設けています。
–みんなで映画を観るからこそ実現するワークショップですね!
菊地さん:
まさにそれが活動の意義だと感じています。
同じ場所で同じ映画を観ることで共感できる部分や共有し合えるものが生まれます。すべてひっくるめて「映画体験」なのです。
子供たちの知っている職業が50種類以上に!
–映画体験をした際の子どもたちの反応はいかがですか?
菊地さん:
突如現れた移動映画館に子どもたちは興味津々です。スクリーンに映像が映し出されると、一瞬も逃すまいという表情で真剣に見つめています。
「何が起きるのかな」とドキドキする様子が伺え、新しい世界の扉を開くことへの喜びが伝わってきます。
–子どもたちの将来の夢に変化はありましたか?
菊地さん:
ありました。映画を観る前は「学校の先生になりたい」と言っていた子が、上映後に「映画を作る人になりたい」と教えてくれたんです。
–映画という存在を知ったことで、作る側になりたいと思ってくれたんですね!
菊地さん:
私たちの活動が実を結んでるようで嬉しかったですね。また、「知ってる職業を出し合ってみよう!」というワークショップを開催した際に、なんと50種類以上の職業を出してくれたことがあります。
–驚きです!身近な大人の存在からしか情報を受け取れなかった子どもたちが、映画を通じて知ることができているんですね。
いつか観た映画が人生のスパイスとなって実るとき。計り知れない映画の影響力
–World Theater Projectがスタートしたのが2012年と、SDGsに先駆けて誕生していますね。これまで伺ってきて、活動そのものがSDGsに貢献していると感じましたが、意識されている目標はありますか?
菊地さん:
SDGs10「人や国の不平等をなくそう」に寄与できると感じています。
私たちが考える平等とは、支援を受けたことで得る生活環境の平等だけでなく、考え方や価値観を自由に持って行動できることです。
映画は、途上国の方々のこれまでの考え方を変える力があると思います。
–確かに視野が広がりそうです。
菊地さん:
はい。私たちの活動は、金銭的な支援に比べるとすぐに結果として現れるものではないかもしれません。でも、いつか観た映画が人生のスパイスとなって実になる。そんな「夢の種まき」になっていたらこれ以上に嬉しいことはありません。
–支援を受ける側の人たちが、自ら変わろうとすることに活動の意義があるんですね。
プロジェクト活動開始10周年に向けて
–今後の展望を教えていただけますか。
菊地さん:
実は今年で立ち上げ10周年を迎えます。現在はコロナの影響があって移動映画館は休止している状況ですが、2022年9月からパワーアップして再稼働する予定です。
–具体的にどんな目標を掲げられていますか?
菊地さん:
子どもたちが映画を観た効果がわかる指標づくり、ワークショップなど映画配達の質を高めること、映画作品の拡充、より多くの方に活動を知っていただくための取り組みなどの4つの目標を掲げ、活動のパワーアップを目指しています。
–まずは9月の再稼働に向けて計画を練られているんですね。パワーアップした姿を楽しみにしています!
NPO法人World Theater Project 公式サイト:https://worldtheater-pj.net/