「自分らしく働きたい」というのは、多くの人が思うことかもしれません。それは、年齢や男女に関わるものではなく、一般的な想いなのではないでしょうか。しかし、障がいや病気など、何らかの理由で働くのが難しくなってしまった場合、どのように「自分らしい」働き方や社会の接し方をすればよいのでしょうか。
そのような場合の選択肢の一つが、就労支援施設を利用して働くことです。就労支援施設は、A型とB型に分かれていますが、両者の違いについてあまり詳しくご存じないかもしれません。
本記事では、就労支援A型とB型の特徴や利用する際のメリット・デメリット、どのような方が対象となっているかについてまとめます。また、就労支援施設で働く際の給与や職員の悩みなどについても紹介しますので、ぜひ、参考にしてください。
就労支援とは
詳しい説明に入る前に、まずは就労支援について内容を確認しておきましょう。就労支援とは、障害者総合支援法によって定められた福祉サービスです。障がいや疾患などが理由で働けない人を対象とし、就労の手助けをします。
4種類の就労支援
就労支援には4つの種類があります。
就労移行支援 | 65歳未満の障がい者が対象一般就労に必要なスキルを身につける標準利用期間は2年 |
就労支援A型 | 障がいのある方に働く場を提供65歳未満が対象雇用契約あり |
就労支援B型 | 障がいのある方に働く場を提供年齢制限なし雇用契約なし |
就労定着支援 | 就労移行支援や就労支援で就職した方を対象に、面談や職場訪問でサポート就労6ヶ月以降の方が対象利用期間は3年 |
*1)
今回は、就労支援にスポットを当て、A型とB型の内容やメリット・デメリットについて解説します。
就労支援A型とは
就労支援A型の正式名称は「就労継続支援A型」で、就労機会の提供や生産活動の機会の提供などを目的*2)としています。就労支援A型の特徴は、就労を希望する障がい者と事業所が雇用契約を結ぶことであるため、雇用型とも呼ばれます。
事業所で労働者として働きながら、就職のための知識・能力を身につけ、最終的には一般企業に就職できるよう支援します。
令和元年度の就労支援A型の利用者は72,197人で、事業所数は3,842か所となっています。
【事業所数の推移】
就労支援A型の事業所は増加傾向を示していましたが、2017年4月に指定基準の見直しなどが行われたことにより、事業所数の増加が鈍化しました。
対象となる人
就労支援A型の対象となるのは、65歳未満の人で就労機会が提供されれば雇用契約を結べる可能性がある人です。具体的には、
・就労移行支援事業を利用したものの雇用に結びつかなかった方
・盲・ろう学校や特別支援学校卒業後に雇用に結びつかなかった方
・就労経験はあるものの今は雇用されていない方
などが該当します。
厚生労働省は、具体的なイメージとして以下の例を挙げています。
- 特別支援学校を卒業して就労を希望するが、一般就労するには必要な体力や職業能力が不足している
- 一般就労していたが、体力や能力などの理由で離職した。再度、就労の機会を通して、能力等を高めたい
- 施設を退所して就労を希望するが、一般就労するには必要な体力や職業能力が不足している
出典:厚生労働省*2)
A型を利用する方は、労働者として働きつつ同時に訓練も受けることで、一般就労のための知識・能力を身につけます。その後、就労移行訓練を経て一般企業に就職することを目指します。
就労支援A型のメリット
就労支援A型のメリットは、一般就労が困難でも福祉的就労の範囲で労働できることです。ここでは、A型のメリットである福祉的就労について解説します。
福祉的就労が可能
障がいのある方の働き方は、一般就労と福祉的就労の2つに分けられます。
一般就労 | 企業や官公庁で働くこと |
福祉的就労 | 障がい者就労施設(就労支援施設A型・B型)で働くこと |
一般就労は、一般企業や官公庁で、障がいのない人と同じ場所で勤務します。一方、福祉的就労は、障がいのある人が障がい者就労施設で働くことであり、厳密には勤務ではなく「就労系の障がい福祉サービス」の利用となります。*3)
そのため、勤務である一般就労に比べると融通が利きます。障がいによる困りごとや体調に合わせて働けるのは、就労支援A型のメリットといってよいでしょう。
就労支援A型のデメリット
就労支援A型のデメリットとして、以下の点があげられます。
- 一般就労よりも給与が少ない
- 労働契約を守らなければならない
- 事業所の面接が必要
上記のデメリットについて詳しく見てみましょう。
一般就労よりも給与が少ない
1つ目のデメリットは、一般就労よりも給与が少ないことです。令和5年度の「賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の年間賃金の平均(男女計)は318万.3000円で月額にすれば、26万5,250円となります。*4)
それに対し、就労支援A型の平均工賃(賃金)は、月額83,551円となっており、一般労働者の賃金の3分の1程度にとどまっています。*5)
労働契約を守らなければならない
2つ目のデメリットは、事務所と結んだ労働契約を遵守しなければならないことです。契約により決められた勤務日数や勤務時間に従って働くことが求められるため、就労支援B型に比べると自由度が低いことに注意が必要です。
事業所の面接が必要
3つ目のデメリットは、採用面接が必要であることです。自治体の窓口に利用申請を出すだけではなく、雇用する企業の書類選考や面接を受けなければならず、そのための準備も必要です。
就労支援B型とは
就労支援B型の正式名称は「就労継続支援B型」であり、A型と同じく就労機会の提供や生産活動の機会の提供*2)などを目的としています。雇用契約を結ばないことから、非雇用型とも呼ばれます。令和元年度の就労支援B型の利用者は269,339人で、事業所数は13,117か所となっています。
【事業所数の推移】
就労支援B型の利用者数や事業所数は、毎年増加しています。
【設置主体別割合の推移】
対象となる人
事業所数が増えているのは、営利法人による設置が急増したからです。
就労支援B型の対象となるのは、就労移行支援で一般企業での雇用に結びつかなかった方や、一定年齢(50歳)に達している方です。*2)
厚生労働省があげた具体的なイメージは、以下のとおりです。
- 就労移行支援事業を利用したが、必要な体力や職業能力の不足等により、就労に結びつかなかった
- 一般就労していて、年齢や体力などの理由で離職したが、生産活動を続けたい
- 施設を退所するが、50歳に達しており就労は困難
出典:厚生労働省*2)
B型を利用する方は、作業訓練などを通じて生産活動を行い、生産したものに対して賃金が支払われる仕組みです。訓練や経験を積むことで、A型や就労移行支援の段階に移ります。
就労支援B型のメリット
就労支援B型のメリットは、雇用契約を結ばなくても働くことができることです。雇用契約を結ぶ必要がない利点について、解説します。
無理のないペースで働ける
就労支援B型のメリットは、障がいの程度や困りごと、症状などに応じて負荷がかかりすぎない程度に働けることです。
事業所ごとのルールはありますが、勤務日数・勤務時間などについては相談することができるため、雇用契約があるA型に比べるとプレッシャーを感じることなく仕事に取り組めます。
就労支援B型のデメリット
就労支援B型のデメリットは、A型以上に賃金が低いことです。詳しく見てみましょう。
生活を支えるだけの収入が得られない
B型は、雇用ではなく訓練が中心となっているため、障がい者が生計を立てられるほどの収入を得ることは困難です。B型の主な仕事内容は、以下のとおりです。
- 農作業
- 部品などの加工
- パンやお菓子の製造
- パソコンのデータ入力
- 手作業
- 調理
これらの作業を行いながら、就職するための能力を養います。工賃の規定は事務所ごとで異なりますが、
・作業内容や生産した品物の量などで支払うケース
・日額で支払うケース
などがあります。
しかし、どの場合であっても工賃は低い金額に抑えられています。令和4年度の平均工賃(賃金)月額を見ると、月額で17,031円、時間額で243円となっています。*5)
就労支援A型とB型の違い
就労支援A型とB型にはどのような違いがあるのでしょうか。両者の違いを表形式で整理します。
就労支援A型とB型の違い
両者の違いは以下のとおりです。
就労支援A型 | 就労支援B型 | |
目的 | 就労機会の提供生産活動の機会の提供 | 就労機会の提供生産活動の機会の提供 |
対象者 | 一般的な事業所での雇用が困難な方 | 一般的な事業所での雇用が困難な方 |
雇用契約 | あり | なし |
賃金 | 給与 | 工賃 |
年齢制限 | 65歳未満 | なし |
利用期間 | なし | なし |
A型・B型に共通しているのは目的と対象者、利用期間の3点です。一方、大きな相違点は雇用契約の有無や賃金、年齢制限の3点です。障がいの状況にあわせ、A型かB型かを選択するとよいでしょう。
就労支援A型・B型に就職する際に気になるポイント
就労支援施設に就職する際、いくつか気になる点があるのではないでしょうか。ここでは、給与面、職員が抱える悩み、向いている人などについて解説します。
給料は?
令和4年度障害者福祉サービス等従事者処遇状況等調査結果によると、就労支援A型の令和4年12月の平均給与は264,520円、B型の平均給与は285,970円でした。*6)
【福祉・介護職員の平均給与額の状況(常勤)】
月収 | 年収 | |
全体 | 315,290円 | 3,783,480円 |
就労支援A型 | 264,520円 | 3,174,240円 |
就労支援B型 | 285,970円 | 3,431,640円 |
児童発達支援 | 281,740円 | 3,380,880円 |
放課後等デイサービス | 260,090円 | 3,121,080円 |
生活介護 | 313,710円 | 3,764,520円 |
施設入所支援 | 365,750円 | 4,389,000円 |
一般企業の平均年収である318万3,000円と比較しても、常勤の就労支援施設職員の給与は、安いわけではありません。
職員が抱える悩みは?
就労支援で働く職員は、どのような悩みを抱えているのでしょうか。主な悩みは以下の3点です。
- 精神的な負担が大きい
- 業務量が多い
- 給与が少ない
就労支援施設の利用者は、何らかの形で障がいや疾病を抱えています。そのため、どのように接するべきか、判断に迷うケースがあるようです。また、利用者の症状によっては情緒が突然乱れるケースもあり、フォローするのに神経を使うといった悩みがあるようです。
施設によっては十分な数の職員が確保できず、業務を消化しきれないといったケースも見られます。利用者の支援以外の業務によって、疲弊してしまう事例もあるようです。
また、他の障がい福祉サービスと比較すると給与が低い点も悩みの一つです。全体平均が月額315,290円であるのに対し、A型は264,520円、B型は285,970円と格差がみられるからです。
どんな人が向いている?
就労支援の仕事に向いているのは、相手の気持ちを思いやれる人です。就労を支援する「職業指導員」は、指導するというよりも利用者とのコミュニケーションを図る能力が必要な仕事です。
就労支援施設を利用する方は、障がいや疾病などがあるため就労が困難な方であり、利用者の年齢や障がいの度合いも様々です。そのため、作業の習熟度は利用者によってかなりばらつきがあります。一律・一方的に教えるというより、一人ひとりの個性を重視し、利用者の話に耳を傾けられる人が、就労支援の仕事に向いているといえるでしょう。
また、冷静な判断力がある人も就労支援の仕事に向いています。利用者が情緒不安定により突発的な行動をとっても、感情的にならず冷静に対処することが求められるからです。
就労支援A型・B型とSDGs
「誰一人取り残さない」というSDGsの目標を達成するには、障がい者の就労についても支援していく必要があります。ここでは、就労支援と目標8との関わりについて解説します。
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」との関わり
SDGs目標8は、障がい者を含むすべての人が「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」で生計を立てることを目指しています。ディーセント・ワークは、1999年のILO(国際労働機関)総会ではじめて使用された言葉です。
また、SDGs目標8のターゲット8.5は、「2030年までに、若者や障がい者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」です。*8)
障がい者も含めたすべての人が、働き買いを持って働くためのサポートの一つが就労支援だといえるでしょう。
まとめ
今回は、就労支援A型・B型について取り上げました。一般企業での就労が難しい人を対象とした就労支援施設は、障がい者の社会参加という点でも非常に重要な施設です。SDGsの観点から見ても、就労支援を含む障がい者雇用はとても重要なテーマといえるでしょう。
就労支援には、賃金の低さという大きな問題点があります。しかし、働く意欲を持ち社会との接点を維持したい障がい者にとって、就労支援は非常に重要です。
障がいを持った方を社会から隔離するという考えは、現代では難しくなりつつあります。なぜなら、ストレスが多い現代社会において、障がいはより身近なものとなっているからです。実際、国民の約9.2%に相当する約1,160万人が何らかの障害を抱えています。*9)
障がいのある方が社会復帰するためのきっかけの一つとして、就労支援A型やB型の施設はとても重要だといえるでしょう。就労支援は、障がい者と社会をつなぐ重要な架け橋となっているのです。
参考文献
*1)厚生労働省「障害者の就労支援について」
*2)厚生労働省「障害者福祉施設における就労支援の概要」
*3)和歌山県「障害のある人の「働く」(就労)について」
*4)厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
*5)厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」
*6)厚生労働省「令和4年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査結果の概要」
*7)職業情報提供サイト「障害者福祉施設指導専門員(生活支援員、就労支援員等)」
*8)スペースシップアース「SDGs8「働きがいも経済成長も」現状と日本企業の取り組み事例、私たちにできるこ
*9)内閣府「令和4年度障害者施策の概況」