#インタビュー

しまなみアースランド(今治自然塾)|五感を使って自らが感じ取る環境教育プログラムで、心が動く体験を!

しまなみアースランド(今治自然塾)

しまなみアースランド(今治自然塾) くぅちゃん インタビュー

くぅちゃん

所属:株式会社今治.夢スポーツ/FC今治

職務:しまなみアースランド 今治自然塾環境教育プログラムインストラクター

introduction

愛媛県今治市で一番大きな公園「しまなみアースランド」。

幼児から大人を対象とした体験型の環境教育プログラムを提供しており、県内外からの参加者を多く集めています。今回、環境教育プログラムインストラクターであるくぅちゃんに、しまなみアースランドの役割や環境教育プログラムの内容について詳しく話を伺いました。

フィールドネーム

しまなみアースランドでは、インストラクターに親しみを持ってもらうこと、参加者に名前を覚えてもらうことを目的に、「先生」呼びではなく、「フィールドネーム(あだ名)」で呼びます

「自然との共生を学ぶこと」を目的とした公園

— 最初に、「しまなみアースランド」を運営する株式会社今治.夢スポーツについて教えてください。

くぅちゃん:

株式会社今治.夢スポーツは、サッカー元日本代表監督の岡田武史が代表取締役会長を務めるプロサッカークラブのFC今治を運営している会社です。サッカーを事業の柱としながら、企業理念「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」の実現のために、教育事業や健康事業、スタジアム運営、コミュニティ事業など、あらゆる事業を手掛けています。

今回の話の中心となるしまなみアースランドは、弊社の教育事業のひとつです。ほかにも、地域へのサッカーの普及はもちろん、野外体験を通して子どもの生きる力を育む「しまなみ野外学校」、若い世代が地域の課題に対して解決策を編み出していく「Bari Challenge Unviersity(バリチャレンジユニバーシティ)」などを行っています。

— 「しまなみアースランド」はどのような場所なのでしょうか

くぅちゃん:

「自然に親しみ、体験を通じて自然との共生を学ぶ」ことを目的に造られた公園です。もともとは山だったため、多くの木々に囲まれており、普段は地域の方が散歩などで気軽に訪れるスポットとなっています。

しまなみアースランドで環境教育をすることには理由があります。実はこの場所は山を切り開いて開発される予定でした。ところが、開発中に、当時絶滅危惧種であったオオタカの巣が発見されたんです。そこで一転、オオタカを守ろうという動きに変わり、開発は止まりました。オオタカをきっかけに、環境問題について発信する場所になるようにと、今治市が「しまなみアースランド」をつくりました。

— 環境問題について発信するとは、具体的にはどんなことを行っているのでしょうか?

くぅちゃん:

まず、しまなみアースランドに訪れていただくために、アースマルシェや緑化フェア、親子向けの季節イベントなどを開催しています。アースマルシェには、地域の方だけでなく、市外からの来園者もおり、1日に1,000人〜3,000人もの人が訪れます。

イベント開催の目的は、環境問題に対する意識を持ち帰っていただくことです。そのため、環境問題への気付きにつながるように、アースマルシェのワークショップにタオルの端材を使ったものを取り入れたり、今治市と緑化フェアを開催したりしています。イベントなどを通して、しまなみアースランドでは環境教育を行っているということを伝え、環境教育プログラムの周知も行っています。

富良野自然塾の環境教育プログラムを提供

— では、ここから「環境教育プログラム」について教えてください

くぅちゃん:

環境教育プログラムを提供しているのは、しまなみアースランド内にある「今治自然塾」です。公園のコンセプトに適した事業をとの思いの元、富良野自然塾(※)の環境教育プログラムが取り入れられています。

(※)NPO法人C・C・C富良野自然塾:作家・倉本聰氏主宰。閉鎖されたゴルフ場跡地に植樹をして元々あった森に還していく「自然返還事業」などを行っている。全国に自然塾が広まっており、現在、今治のほか6つの自然塾がある。

今治自然塾には、小学校高学年から大人向けの「環境教育プログラム」と幼児向けの「moricco(もりっこ)」の二種類のプログラムがあります。この二つのプログラムは、受講者に環境問題を自分ごととして感じてもらうために、ご自身の感覚をしっかり使って心に残してもらう、そんな実体験を大事にしています。

五感で感じることで気づきが得られるユニークな4つのコース

くぅちゃん:

最初に、「環境教育プログラム」についてお話します。公園内には、倉本先生のデッサンをもとに造られた4つのコースが設けられていて、それぞれをインストラクターが案内していきます。コース毎に説明していきますね。

①緑の教室

最初に、「自分たちが生きていくために大切なものは何か」を考えることからはじまります。人間が生きていくために必要なものに、順位をつけるとしたら一番は酸素、二番は水です。では、生きていくうえで必要不可欠な酸素と水に関わるものは何だろう?このように問いかけながら、葉っぱの大切さについて話します。

日本の文化でも木の家に住むなど、人間は木材に親しみがあります。ですが、実は私たちに大事なのは木の幹だけではなく、その上に茂る葉っぱであることに気づいてもらうというゾーンです。

②裸足の道

次に目隠しをし、足の裏などからいろいろな情報が得られることを体験してもらいます。現代の人は視覚から多くの情報を得ています。その中で視覚を閉ざしてみると、今まで聞こえなかった小鳥の声が聞こえたり、草の香りを感じられたりするかもしれません。

現代は便利になったため、賞味期限を見れば安全に口にできるとわかりますが、昔は、一口食べたり、におったりと感覚を使って生き抜いてきました。ここでは、感覚を使って、今、自分が置かれた環境がどうなっているかを感じてみる、そんな時間を持っていただきます。

③石の地球

ここは、地球に興味を抱いてもらうゾーンです。現物と同じスケールの話をしても想像力が追いつかないことが多いため、より地球を身近に感じていただくために、1mに縮小した「石の地球」を使います。構造についての話をすることで、地球が奇跡の星だということを感じていただきます。

④地球の道

46億年の地球の歴史を460mという距離に置き換えて、地球の歴史をたどるコースです。環境問題とは何か、また、未来を想像する重要なプログラムです。

— 多様なコースが準備されているんですね。今治自然塾の環境教育プログラムの強みはどこにあるとお考えですか?

くぅちゃん:

やはり、体験によって自ら感じ取ってもらえる点が、富良野自然塾をはじめとする全国の自然塾が提供する環境教育プログラムの強みだと思います。受講された方からも、心が動いたという感想をいただくことが多いのもそこに理由があるのではないでしょうか。

今治自然塾らしさという意味では、環境教育プログラムのコースに今治の特産「大島石」が使われている点です。倉本先生のデッサンをもとに地元の職人さんによって造られたそうです。時代によって変化を遂げる地球を表す役目として、大島石が「地球の道」にふんだんに使われています。

— 環境教育プログラムの受講者にはどのような方が多く、その方たちからはどんな反応がありますか?

くぅちゃん:

環境教育プログラムの受講者は、東京、大阪など県外からの参加者も多くいらっしゃいます。今治市内では、小学5年生になると、必ずこの環境教育プログラムを受けるようになっています。これは、開園当初からの市の取り組みで、毎年、学校単位で参加いただいてます。

受講後は、普段味わえない感覚を味わえて楽しかったと、笑顔で帰っていく子たちが多いですね。小学生にとっては、「裸足の道」の印象が強いようです。なかには、インストラクターの最後の言葉が印象的だとアンケートに書いてくれるお子さんもいます。

プログラムの最後に、「地球は子孫から借りているもの」という言葉を伝えます。これは、倉本先生がネイティブアメリカンの言葉を引用したと聞いています。地球はまるで今生きている自分たちのものであるかのような感覚かもしれませんが、次世代、また、はるか未来の子どもたちから借りているもの。それを踏まえたうえで、地球で生活していくために、私たちは今何を選択していったらいいのか。自ら考えて行動してもらえるようなメッセージを送っています。

森のなかで「自然とあそぶ」を学ぶ、自然体験型環境教育プログラム

— 次に、「moricco」について教えてください

くぅちゃん:

moriccoは、今治自然塾ならではの主に幼児に向けた環境教育プログラムです。「小さいころから自然に親しみを持つことで、自然への感謝と思いやりの心を育みたい」という考えからつくられました。そのため、大事なことは前段の環境教育プログラムと同様、体験を通じて子どもたちにひとつでも心に残るものを持ち帰ってもらうことです。幼児向けプログラムのため、自然との関わり方を伝えたうえで、森の中で遊びながら自然体験をしてもらうことが主になります。

— 具体的にはどのようなことを行っているのですか?

くぅちゃん:

パネルシアターや紙芝居の実施のほか、木登りや崖登り、川遊び、工具体験、秋冬には焚火などが体験できる場を提供しています。紙芝居等で自然との関わり方を知る時間を設けることで、自由に遊ぶ時間の学びが深まると考えています。

moriccoの活動は、一般の方は入れない一部制限区域で行います。特別に使用できる理由は、環境問題について学ぶための区域として最低限の整備のみ行っているためです。

以前、人が住んでいた場所でもあったため、開けた場所もあり、山の中というよりは里山のイメージの方がが近いかもしれません。小さな子が思いっきり自然を堪能できる打って付けの場所です。

— moriccoにおけるインストラクターの役割は何でしょうか?

くぅちゃん:

自然との関わり方を伝えることです。子どもには自ら学ぶ力があるため、ただ遊ぶことにも充分意味はあるのですが、現代の課題は、自然との関わり方がわからないことだと感じています。子どもと接するなかで、「虫をどう触ったらよいかわからない」「どう遊んだらよいかわからない」など、自然と関わる経験の少なさを感じることが多いんです。

私たちが目指すところは、「森の中で遊んで楽しかったね」で終わるのではなく、自然の偉大さを感じ、人間も地球の一部であるという命のつながりや支え合いに気付いてもらうことです。とはいえ、この部分は、主導して伝える人間がいないとなかなか気付くことが難しいのではないかと考えています。そのため、「主導して伝える」部分をインストラクターが担っているというわけです。

また、一緒に参加される保護者や先生方も子どもが自然体験をする重要性を認識しているものの、自分たちが自然とどう接したらいいかわからない方も少なくありません。そうした課題を解消することも、私たちの役割だと思っています。

インストラクターに必要なことは、「実体験を基に伝えること」と「伝わる表現力」

— ここからはインストラクターの方について教えてください。

くぅちゃん:

常駐3名プラス、岡田会長がインストラクターとして属しています。研修は富良野自然塾で行われ、試験の合格者がインストラクターとして働けます。

私達にとって環境教育プログラムを実施することは一種の舞台、演劇であるという認識です。お客さまに1時間半〜2時間の間、しっかり話を聞いてもらうためには、楽しんでいただくことが重要な要素のため、富良野自然塾では、発声方法や立ち方から教わり、演技力や表現力、伝え方に関しても学びました。

また、環境問題に対して自身がどれだけ危機感を抱き、実体験をもって伝えているかという点もとても大事にしています。

— プログラムの実施中、特に気を付けていることはありますか?

くぅちゃん:

お客さまが今どういう表情でいるか気にしています。なぜなら、伝えるべきことを伝えたからといって、伝わったことにはならないからです。お客さまと会話をしながら、伝わっているかを確認しながら進めています。

しまなみアースランドでのイベント内容に工夫を施し環境問題への取り組みにつなげていきたい

— 最後に、今後の課題や展望について教えてください

くぅちゃん:

しまなみアースランドが開園して13年、私が働き始めて3年、この間も環境問題が叫ばれ続けていますが、「なにかアクションを起こしましょう」と提起してもお客さまの意識にはなかなか届かず、もどかしく感じることもあります。クリスマスリースや門松づくりなどには参加者が集まるものの、環境問題の講座となるとなかなか足が伸びてこないのが現状です。

現在の今治が平和で幸せであるということなのだと思うのですが、発信していくべき立場からすると、自分たちが一番伝えていくべきことが、伝わるにはどうしたらいいのか。これは課題として常に持ち続けています。まずはしまなみアースランドで行っている様々な取り組みについて知ってもらうこと。イベントに、環境問題について知ったり、課題解決のアクションにつながる仕掛けを取り入れたりして、お客さまを巻き込んでいける工夫をしていきたいです。

— 本日は貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

しまなみアースランド:https://s-earthland.com