一般財団法人 日本GAP協会|GAP認証で築く持続可能な社会

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一般財団法人日本GAP協会 代表理事専務 荻野宏さん 前田悠平さん インタビュー

一般財団法人 日本GAP協会 代表理事専務 荻野宏

東京農工大学農学部卒業。農林水産省を経て、2014年に日本GAP協会に入職。2015年に事務局長、2021年より代表理事専務に就任

普及・広報部 前田悠平

東京農業大学大学院農学研究科修了。食肉商社、広告代理店を経て、2024年に日本GAP協会に入職

introduction

スーパーなどで見かける「JGAP」マークは、一般財団法人 日本GAP協会が運営管理する、生産者に与えられるマークで、安心安全の証であることはもちろん、持続可能な農業に取り組んでいる生産者の証でもあります。今回はGAPとは何か、GAPを通して私たち消費者にもできること、さらに農業に興味がある方に向けたメッセージなどを伺いました。

良い農業の取り組みの証、GAPとは?

–まずは、一般財団法人 日本GAP協会について教えてください。

荻野さん:

GAPとは「Good Agricultural Practices」の頭文字をとったもので、農畜産物を生産する工程で農場が守るべき管理基準とそれを達成するための取り組みを指し、「良い農業の取り組み」や「農業生産工程管理」などと訳されます。

当協会は、その証明でもあるGAP認証制度を農業界のスタンダードにするというミッションを掲げており、制度の運営管理を通して、食の安全、安心、持続可能な農業を実現し、広く社会に貢献することを目指しています。具体的には、農場に守ってもらうべき基準書をつくり、生産者に取り組んでいただき、審査を受け認証を取得してもらう仕組みとなっています。制度運営の他にも、普及活動、審査員や指導員の育成などを行っています。

GAPとは何かをもう少し詳しくお話する前に、なぜこのような基準が必要であるかについて説明します。私たちが普段食べている野菜やお肉、乳製品などは、全国の農場から生産されたものです。その農畜産物を生産する工程では、食中毒や、残留農薬基準違反、労働事故、環境負荷など、避けなければならないリスクが実は多くあります。

それらのリスクの中でも、特に農畜産物を安全に管理することの必要性が認識されるようになったきっかけが、2000年前後に発生した食中毒や食品偽装事件などです。この頃から食品業界、流通小売業界から厳しい視線を集めるようになった農業界は、農畜産物の安全管理に対して以前にも増して各生産者単位で取り組むようになりました。ところが各生産者が各々で取り組む安全管理には統一された基準がなかったため、生産者によって取り組み状況や基準がバラバラだったんです。

このような状況を改善するために日本でも導入されたのが、それ以前にヨーロッパで誕生していたGAP認証でした。当協会は2006年の設立以来、標準的で生産者からも食品事業者からも信頼性の高い、日本版のGAP認証制度「JGAP」を運営しています。

GAP認証を通して消費者と生産者で貢献する持続可能な農業

–普段の私たちの生活とGAP認証はどのような関わりがあるのでしょうか。

前田さん:

GAP認証は農場が食の安全や持続可能な農業に取り組む証として取得するものです。

農場が取り組むべき安全管理は私たちの食生活に直結しますから、例えばもし食中毒などの問題を起こしたらその農場は社会的信頼を失い、廃業せざるを得なくなるかもしれません。GAP認証は事前にそのようなリスクを軽減し、しっかりとした経営基盤を築き、環境にも労働者にも優しい経営に取り組む農場の証です。つまり、GAP認証を受けた農畜産物は、信頼できる農場が生産した農畜産物と言えるんです。私たち消費者がGAP認証について知り、その商品を選ぶことは、安心安全な農畜産物を選ぶことの担保にもつながりますが、同時に持続可能な農業を目指す生産者を応援することにもなります。

 是非、スーパーで「JGAP」のロゴマークが入った商品を探してみてください。

※「JGAP」のロゴマークは付いていないものの、認証を受けている商品もある。

–生産者にとってGAP認証を受けることでどのようなメリットがありますか?

荻野さん:

一つ目は安全性を高めることで、農業経営のリスクを低減できるという点です。GAP認証を受ければ必ず経営が安定するという訳ではありませんが、基準書に従って運営することで、食中毒や残留農薬基準違反などのリスクを減らしたり、労働事故を防止したりできます。

また、GAP認証を受けることで、食品事業者から優先的に購入してもらえるメリットもあります。GAPの基準開発には、生産者や食品事業者など様々な立場の方が参加しており、その認証制度の信頼性の高さが評価されています。GAP認証を「確かな商品が供給できる、信頼できる農場の目印」として活用する企業も増えています。

前田さん:

さらに、農場の管理が効率的になるというメリットもあります。例えば、これまで経験則で運営してきた農場が、人手不足に対応するために外部から人を雇うことになった場合です。経験則による知識や技術を新人が短期間で習得することは難しく、働きにくさから辞めてしまう人もいるでしょう。一方、GAPの基準書では仕事内容を記録することを求めていますから、GAP認証を取得した農場では、新人が定着しやすく、そのことが持続可能性にもつながっているようです。

株式会社ホリ牧場

–普段の農作業で手一杯という個人農家も多いと思います。そのような農家でもGAP認証を受けることができますか?

前田さん:

はい。そのような方のために全国に約1万人の指導員がいます。指導員はGAPを導入しようとする農場に対して、その指導や相談に乗り、二人三脚で基準に取り組み、認証を取得するためのアドバイスをします。「できることから始めれば、GAP認証を受けることはそれほど難しいことではない」ということを伝えるのも指導員の大切な役割です。農業生産者、農業団体職員、食品事業者など様々な立場の方が指導員として活躍されています。

荻野さん:

また、個別に認証を取る他に、団体認証という方法があります。これは取り組みの一部が団体の取り組みとして共通化され、団体の事務局と役割分担を行うことにより、個人の負担も軽減される仕組みです。農業団体単位での認証も多くあります。

–労働事故を防ぐこともGAPの目的の一つということですが、農業が実はケガや事故が多い業界だというのは本当ですか?

荻野さん:

そうなんです。意外だと思いますが、農業は建設業よりも労働事故における死亡率が高いそうです。そもそも機械を多用する農業には危険な作業が伴います。正しい使用方法を守っていてもトラクターが転倒したり、草刈り機の跳ね石でケガをしたりと危険が生じることがあります。他にも、収穫機に絡まった異物をエンジンを止めずに取り出そうとして大ケガをするなど、不適切な使用による大ケガは後を絶ちません。これくらい大丈夫だろうという安易な感覚や、ケガや事故につながる行為を改めて見直し、機械の定期検査などのルールを含め文書化することで働く人の安全を守ることも、GAP認証の大切な役割のひとつです。

GAPで目指す「100年続く産地」づくりの事例

–ここからはGAPに関して優れた取り組みをされている生産者の事例を教えてください。

前田さん:

会津よつば農業協同組合の南郷トマト生産組合の事例をお話します。この組合は福島県南会津郡で「南郷トマト」というブランドトマトを生産しています。この地域では昭和37年からトマト栽培が始まり、現在では102戸の生産者が約30haで生産、その販売額は12億円を超えています。この組合は「100年続く産地」を目指しており、産地全体で品質管理を統一するために、令和元年からGAPの団体認証を導入しました。農家にはそれぞれの事情がありますから、全ての農家が一斉にGAP認証を取得できたわけではありません。先に取得した農家がまだできていない農家に指導を続け、現在では全ての生産者がGAP認証を受けています。この組合は、地域の高齢化を受けて、積極的にIターンの新規就農者を募っていますが、GAPという農業の教科書があることが、定着と効率的な技能習得を助けているようです。

会津よつば農業協同組合 南郷トマト生産組合

時代に応じた基準づくりで持続可能な世の中を

–GAP認証制度の管理運営という仕事の中で、どのようなことに苦労しますか?

荻野さん:

GAP制度の普及は、農林水産省でも農業政策の一つとして位置づけられています。その中で、当協会が一番汗をかかないといけないのは良い基準づくりのための不断の改善です。現場にとっても無理がなく、食品事業者からの信頼を得ることができ、時代の要請にも応じた基準をつくることは正直簡単ではありません。当協会では実際に農業をしている人、研究している人、食品事業者、流通小売業者、職員、農業団体職員などからなる技術委員会が議論を重ね、バランスのとれた基準づくりを目指しています。

–すごく大変そうですがやりがいがあるお仕事ですね。

荻野さん:

そうですね、私たちのつくる基準が農場を良くすることにも、ケガを少なくすることにも、販路を広げることにもつながります。また、食品事業者にとっても持続可能な農畜産物の調達につながりますから、この仕事は持続可能な世の中に貢献できる仕事だと思っています。

このようなGAP認証を受けた農畜産物を買うことが、持続可能な世の中にもつながるということをもっと消費者にも広く知ってもらうためにも、努力を続けたいと思っています。

GAPで想う日本の農業の将来

–ここからはSDGsとの関わりについて教えてください。GAPはSDGsのどの分野に貢献できますか?

荻野さん:

まずは環境です。農業はビニールハウスや土壌表面を覆う農業用マルチ、肥料袋など廃棄物を多く出しますし、エネルギーもたくさん消費しますから、GAPは温室効果ガス削減対策など、環境への負荷を減らす農業のやり方を求めています。

また、環境問題と同じくらい農業における人権も重要視しています。農業は多くの人の手を必要とします。その労働者の人権を尊重するという本来は当たり前のことを守ることが、農業の持続可能性につながります。例えば外国人労働者を差別しないこと、彼らの言語に翻訳した文書、写真やイラストを用いて仕事内容を教えること、適切な水準の給与の支払いや、休日について契約をすることなどが基準書では求められています。

フクトモ株式会社坂東農場

–最後に、農業に興味がある方へのメッセージをお願いします。

荻野さん:

農業でGAPに取り組むということは、持続可能な農業に貢献するということです。ですから、農業を始める場合は是非取り組んでいただきたいです。また、農業法人に就職したりアルバイトをしたりする際には、GAP認証の有無は働きやすい農場を選ぶための目印の一つとなるでしょう。

前田さん:

最近は農業に興味がある若い方も増えています。そのような方にとっても農業はやりやすいと思ってもらえるよう、当協会や認証農場が基盤づくりをしています。そんな農業に是非チャレンジして欲しいと思います。

GAP制度を通して農業の在り方が変わりつつあるということがとてもよく分かりました。まずは持続可能な世の中に貢献できるGAP認証農畜産物を店舗で選んでみたいと思いました。この度はありがとうございました。

関連リンク

日本GAP協会

日本GAP協会インスタグラム https://www.instagram.com/jgap_sustainable/

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この記事を書いた人

あきもと なおみ ライター

元公務員。苔の魅力のとりこになり、農業(苔培養)で起業。プライベートでは読むことと書くことに幸せを感じる3児の母。ライターの仕事を通した出会いに敬意を示して、大好きな文章を紡ぎます。

元公務員。苔の魅力のとりこになり、農業(苔培養)で起業。プライベートでは読むことと書くことに幸せを感じる3児の母。ライターの仕事を通した出会いに敬意を示して、大好きな文章を紡ぎます。

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