現代のわたしたちの暮らしにおいて、仕事や買い物といった場面で企業との関わりは切っても切れない関係です。
そうした企業が、より持続可能な社会づくりのために活動していることを示す「B Corp(Bコープ)認証」が、今世界中で注目を集めています。
そこで今回は、Bコープ認証について、基本的な知識や制度の中身、実際に認証ラベルを取得した国内外の企業の取り組み事例などを、詳しくご紹介します。
目次
B Corp(Bコープ)認証とは
B Corp(Bコープ)認証とはB Corp Certificationの略で、社会の公正・環境への配慮などさまざまな面に基づいた活動を実施し、高い評価を得た企業だけに与えられる認証ラベルです。
B Corpは「Benefit Corporation(ベネフィット・コーポレーション)」とも呼ばれる株式形態のひとつといわれ、アメリカやカナダ・欧州などではすでに法制化されています。
従来のように利益を株主への還元を行うだけでなく、従業員や消費者といったステークホルダーへの便益・社会へのポジティブなインパクトを活動方針として掲げる企業の形態が、ベネフィット・コーポレーションです。
Bコープ認証は、従来のベネフィット・コーポレーションでは自己申告制となっていた評価の中身を基準化し、厳しく審査することによって持続可能な社会づくりを促すための制度といえます。
そのためBコープ認証は、商品やサービスによって社会・環境へポジティブな影響を与えるだけに留まらず、活動内容の共有や情報の公開といった公正性・透明性の高さと、会社の利益だけでなく公益をもたらす活動を行うことを企業に求める点も特徴といえます。
B Labについて
Bコープ認証の制度を実施しているのは、NPO団体のB Labという組織です。
2006年にアメリカで設立され、現在は日本を含む世界中に支部を抱えています。
人類の歴史において、さまざまな社会の形態が営まれてきましたが、現在の社会で最も優勢なのは資本主義社会です。しかしB Labでは「別のやり方でもっと社会をよくすることはできるのでは」といった想いを持つ同士が集い、現在の経済の仕組みを変えることでより持続可能かつ社会・環境に配慮のある企業を増やすための活動を始めました。
その取り組みのひとつとして、第三者機関として厳しい基準を設け、ベネフィット・コーポレーションを行う企業を増やすための「Bコープ認証」が誕生しました。
Bコープ認証が注目されている理由
ここまで、Bコープ認証について基本的な知識をお伝えしました。次は、なぜ今Bコープ認証が注目を浴びているのかについて見ていきましょう。
持続可能な社会の実現への関心の高まり
Bコープ認証が注目を集めるようになった背景には、世界的に持続可能な社会を模索する動きが活発になったからといえるでしょう。
先ほども説明したように、Bコープ認証は、自社の利益だけでなく公益を目指す企業を評価する手段のひとつで、社会・環境といった多角的な視点から審査を行う認証ラベルです。
企業の活動には、株主・従業員のように金銭のやり取りがなくても地域社会や自治体など、多くの人たちが関わっています。近年、このようなステークホルダーと呼ばれる存在とアカウンタビリティー(説明責任)の概念を取り入れたCSR(Corporate Social Responsibility)が、まさにBコープ認証が掲げる目的とマッチしているのです。
ほかにも、近年は倫理的な購買・消費行動を促す「エシカル」や、生産地周辺の環境を再生し取り戻す「リジェネラティブ」といった概念も浸透しつつあります。そうした動きに伴って、さまざまな視点を取り入れたBコープ認証が注目を集めるようになりました。
Bコープ認証を取得するメリット
Bコープ認証が注目を浴びる理由を理解したところで、次に認証を取得するメリットについて見ていきましょう。ここでは2つの理由を挙げてみました。
企業のイメージUP
まず最初に挙げられるのは「企業のイメージUP」です。
消費者からすると、さまざまな選択肢から商品・サービスを選ぶうえで「公正な社会を目指すために頑張っている」「環境への配慮をしている」といったことを示すBコープ認証のラベルは、大切な指標のひとつになります。
Bコープ認証は、単に利益を追求するだけでなく、企業の活動に関わるあらゆるステークホルダーへの配慮がされていたり、商品の生産過程で使用されるエネルギーへの対策を実施していたりと、さまざまなポイントが評価対象として審査される認証ラベルです。だからこそ、Bコープ認証があると企業へのイメージがよくなることは間違いないでしょう。
ステークホルダーへの理解を得やすい
次に挙げられるのが「ステークホルダーへの理解を得やすい」という点です。
企業にとってのステークホルダーとは、従業員を筆頭に、取引先や企業が位置する地域の人々・消費者といったさまざまな立場の人が当てはまります。
Bコープ認証の審査基準では、ただ企業の利益を追究するだけでなく、従業員によりよい福利厚生をプラスしたり、人々との交流を通して地域の活性化に繋げたりと、ステークホルダーにも何かしらの形でポジティブなインパクトをもたらせるように、利益と公益のバランスを取ることが求められます。
こうした活動方針を固める上で、一方的に決めるのではなく、各ステークホルダーと話し合うことで、よりよい社会をつくり上げるチャンスが増えるでしょう。ステークホルダーと良好な関係を保ちつつ、企業の活動を持続可能にするために、Bコープ認証のラベルがあると役立つはずです。
Bコープ認証の審査基準と取得方法
持続可能な社会を目指すために有効なツールであるBコープ認証の取得には、一体どのような審査基準があり、どうすれば取得できるのでしょうか。
基本となる審査基準は?
Bコープ取得には、以下のような基準が定められています。
- B Labが独自に作成した基準において、すべての項目で80点以上のスコアを獲得すること。項目の内容はガバナンス、環境、コミュニティなど。
- コーポレートガバナンスの構造を変える。企業の株主だけでなく、すべてのステークホルダーへの説明責任を負い、公益を目指す内容を法的責任として記すこと。
- B Labの基準に即した、企業の活動に関する情報公開を行い、透明性を維持すること。Bコープ認証の取得後、B Corpのウェブサイトにて企業のプロフィールが公開される。
以上の条件が整ったら、次は認証取得へのプロセスを始めます。
Bコープ認証取得までの主なプロセス
認証ラベルを取得するためのプロセスは以下の通りです。
まずはB Corpのウェブサイトで登録し、自社がBコープ認証の基準をどれくらい達成できているのかを確認します。ウェブサイト上で公開されているB Impact Assesmentというツールを利用し、複数の質問に答えると自動的に達成度合いを作成してくれます。
主に5つのセクションがあり、例えば以下のような質問があります。
- ガバナンス(Governance):経営陣による企業・社会・環境面のパフォーマンスはどの程度評価されているか
- 従業員(Workers):社長・理事などを除き、フルタイムの従業員は全体の何パーセントか
- コミュニティー(Community):管理職の中に女性や障がいを持つ人、マイノリティと呼ばれる人たちは何パーセントいるか
- 環境(Environment):企業の商品・サービス生産の過程で排出されるごみのモニタリング・記録はできているか
- 顧客(Customers): 企業の提供する商品・サービスが、顧客によい影響を与えていることをどのように確認しているか
ここで評価基準に満たない項目があれば、企業内で努力・向上しなければなりません。すべての項目において80点以上のスコアが出て、はじめてBコープ認証に申請ができます。
※申請する際は、根拠となる情報を提示する必要があります。(例えばコーポレートサイトに記載されている情報・就業規則など)
その後、B Lab側からの更なる審査・面談を経て、無事に通過すればOKです。企業の詳細なプロフィールを特定のフォームに入力することで、毎年の収支やBコープ認証の取得の際に出たスコアといった情報が、Bコープのウェブサイト上で公開される仕組みとなっています。
B Impact Assesmentで、すべての項目で80点を取るのはなかなか大変だといわれています。しかしこうした厳しい基準をクリアしなければならないからこそ、Bコープ認証を取得する意味があるのです。
取得のプロセス・費用は企業の規模によって異なる
Bコープ認証の申請の特徴として、企業の規模や従業員の人数などによって、ガイドラインが多少異なる点が挙げられます。
たとえば、スタートアップや小規模の企業と、年間100万USドルの利益があり、250人以上のフルタイム従業員を擁する企業とでは、それぞれ別のガイドラインが用意されているのです。大枠の内容にはそれほど差がないものの、規模が大きくなるにつれて細かいポイントが増えていきます。
また費用も企業の収入や規模によって違ってきます。ガイドライン内の説明によれば、比較的大規模の企業で、年間100万~500万USドルの企業の場合、取得の費用は2,000USドル(約26.7万円)です。
なお認証の取得後、そのまま永遠にBコープ認証が有効となるわけではありません。ラベルの有効期限は3年となっており、更新の際は再度の審査が必要です。
Bコープ認証のデメリット・課題
ここで、B Corp認証を取得するうえでのデメリット・課題についても触れておきましょう。
デメリット①日本での取得はまだハードルが高い?
アメリカで誕生し、世界各地に広がりを見せているBコープ認証ですが、2023年4月時点でBコープ認証を取得している日本企業は21社にとどまっています。
その背景には、
- 企業活動で消費するエネルギーや排出ゴミの管理ができていない・他国に比べて遅れている
- 人権意識の欠陥
- 従業員のジェンダーバランス
など、さまざまな原因が推測されます。
加えて、日本ではB Corpの目指す企業形態であるベネフィット・コーポレーションに関する法整備がまだ提言の段階にあり、整備までにはもう少し時間がかかる見込みです。
そのため、どうしても他国に比べるとB Corp自体への認知度が低く、取得を検討する企業がまだ少ないのが現状です。
デメリット②申請するためのノウハウがなく手間もかかる
申請に関するノウハウもなく、審査項目が多岐に渡るため手間がかかることも取得企業が増えない理由のひとつに挙げられます。また、面談は英語で行われるため、会話できる従業員がいない場合、外部の通訳を雇うことも考えなくてはなりません。
とはいえ日本にもB Corpに特化したコンサルタントがいるため、検討されている企業担当者の方は依頼してみてはいかがでしょうか。
次では、実際に認証ラベルと取得した海外・日本の企業に焦点を当て、実際の取り組み事例をチェックしてみましょう。
海外のBコープ認証を取得している企業と取組事例
まずは海外の企業からご紹介します。
2023年4月現在、89か国で6,592社の企業がBコープ認証を取得しています。
今回は数ある企業の中から3つの例を挙げて、実際の取り組み事例を見ていきましょう。
United By Blue(アメリカ)
アメリカで2010年に設立されたアパレル企業・United by Blue(ユナイテッド・バイ・ブルー)では、衣服やバッグ・アクセサリーなど幅広い商品を展開しています。
たとえば環境の面では、アイテムが売れるごとに、海や河川のごみを取り除くプロジェクトを実行し、ウェブサイト上にこれまで取り除いたごみの量を公開するなど、熱心な取り組みが見られました。
企業の取り組みがウェブサイトのトップページに掲載されているため、アイテムを選ぶ側である消費者にとって分かりやすい配慮がうれしいですね。
B Corpの評価では、総得点が84.1でした。特にコミュニティーの項目でのスコアが高く、雇用する従業員の多様性やジェンダー平等への配慮が見られることが伺えます。サプライチェーンの情報もUnited By Blueのサイト内に掲載があり、どのような工場と取引しているのかといったことが目に見える点で透明性が高い企業だといえます。
R & A Bailey & Co Unlimited Company(アイルランド)
リキュールで有名なアイルランドの企業・R&A Bailey & Coは、日本でも人気の高い「BAILEYS(ベイリーズ)」という飲料ブランドを展開し、世界中で人気を博しています。
B Corpの評価は、総得点が83.6で、そのうち労働者に関する項目と環境の項目のスコアが高い傾向にありました。
取り組みの例として、従業員が両親と過ごすために最大6カ月の家族休暇を取得できる制度や、リキュールの大事な原料となるミルクの農場におけるアニマルウェルフェア(動物の健康と福祉)への配慮が挙げられます。
環境面では、加工工場における水の使用量を見直したり、100%再生エネルギーへ切り替えたりと、さまざまな項目での向上に努めています。
R&A Bailey &Coは1974年に設立した会社ですが、Bコープ認証は2022年10月に取得したばかりです。このように、歴史の長い企業でも持続可能な形での活動が可能であることを証明しています。
HEVEA(デンマーク)
最後にご紹介するのは、デンマークを拠点に活躍するブランド・HEVEA(ヘベア)です。
ブランド名の「Hevea」は天然ゴムの原料となるパラゴムノキのことで、自然由来の材料を使用した赤ちゃん用のおしゃぶり、ペットのおもちゃ、更には生理用品として注目を集めている月経カップといった幅広いアイテムを展開しています。
天然ゴムは、持続可能な森林の認証制度であるFSCラベルを取得したマレーシアおよびタイの農場から調達され、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可が下りた安全な着色料を使用しています。できるだけ環境を汚染せず、かつ人間の健康にも寄り添った取り組みが大きな評価を得ているようです。
さらに、一度使用されたゴムを再度利用するためのアップサイクル技術を駆使し、ひとつの材料をできるだけ長く無駄にしないための取り組みにも積極的です。
こうした取り組みもあり、B Corpの評価では総合点が85.9と高く、労働者ケア、コミュニティー、環境の項目ではいずれも良いスコアを獲得しています。
自社の利益だけでなく社会・環境に貢献した企業活動を上手に両立している一例といえるでしょう。
日本のBコープ認証を取得している企業と取組事例
2023年4月時点で、日本でBコープ認証を取得しているのは21社のみですが、企業の創立年や業界はさまざまです。
今回はそのうちの2社を取り上げてご紹介します。
株式会社ナイスコーポレーション(岡山県)
岡山県で1990年に創業されたアパレル企業・株式会社ナイスコーポレーションでは、デニム生地を中心とした衣料品を生産しています。
2022年8月よりBコープ認証への動きがはじまり、2023年4月に取得したばかりです。
B Corpでの評価は、総得点が95.3と非常に高く、特にコミュニティーでの項目が突出していました。
株式会社ナイスコーポレーションの取り組み例として、2002年から続くインドネシア・ジャカルタに設立された日本語学校との関わりが挙げられます。すでに20年の歴史を持つこの学校では学費が無料なのに加え、量の設備も充実し、日本語を真摯に学びたい学生をサポートしています。ナイスコーポレーションの縫製工場では少人数の実習生を定期的に迎え、一緒に働きながら仕事を学んでもらう機会を設けています。
このように、国を超えた繋がりをつくり、新たな雇用の機会や将来の就職の選択肢を広げる活動が高く評価されているようです。
ライフイズテック株式会社(東京都)
次にご紹介するのは、東京都で2010年に設立されたIT企業・ライフイズテック株式会社です。
2011年より中高生に向けたITプログラミングに関するプロジェクトを中心に、さまざまな事業に取り組んでいます。
子どもに向けた情報教育の遅れが見られる中、中高生をターゲットとしたプログラミング教材「Life is Tech!」の開発や、キャンプ・スクールの運営など、未来の社会を支える大切な存在である子どもたちに、質の高い教育を提供する機会を作っています。
また講師には提携先の大学から学生を迎え、子どもたちとより対等な目線でコミュニケーションを取れるように工夫も満載です。
こうした、消費者や学校・行政などステークホルダーとの連携につながる取り組みが大きく評価され、B Corpでは総得点が94.4となっています。項目別ではほかではあまり見られない「カスタマー(顧客)」での評価が高い点が特徴です。
このように、企業の業界や年数はもちろん、どの項目が特に重点を置かれているかといったポイントはそれぞれ異なります。ただしBコープ認証の取得に置いて最も大切なのは、すべての項目でバランスよく取り組みを行うことです。
今回ご紹介した企業を参考にしながら、皆さんの仕事環境に反映できるヒントが見つかるかもしれません。
Bコープ認証とSDGs
最後に、Bコープ認証とSDGSの関係性についてご紹介します。
働き方や環境への配慮など、多岐にわたってSDGsと関連があるBコープ認証ですが、今回は特にかかわりの深い目標8「働きがいも経済成長も」と、目標12「つくる責任つかう責任」の2つを挙げています。
SDGs8「働きがいも経済成長も」
目標8「働きがいも経済成長も」では、誰もが均等に雇用機会を与えられ、暮らしに必要な給与・待遇を求めると同時に、国・地域の経済成長との両立を目指しています。
評価に「労働者ケア」や「コミュニティー」、「ガバナンス」といった項目を設けるBコープ認証を取得することで、持続的に従業員の健康とウェールビーイングを保ちながら、よりよい社会を作るために貢献できる企業活動を行うことが可能となります。
SDGs12「つくる責任つかう責任」
もうひとつ、Bコープ認証とのかかわりが深い目標は、「つくる責任つかう責任」です。
アイテムの生産から消費、さらに廃棄までの過程へ配慮し、環境に出来るだけ負荷をかけない原料・技術の選択や、消費者への啓発を含む活動を企業と行政に呼びかける目標でもあります。
Bコープ認証では、環境への配慮はもちろん、企業とサプライチェーンの公平性や透明性も評価対象としています。さらにステークホルダーの一員である消費者との関係が持続可能な未来をつくるとし、生産・提供する側と消費する側の相互理解を求めています。
【関連記事】SDGs12「つくる責任つかう責任」|日本の現状と取り組み、問題点、私たちにできること
まとめ
今回は「B Corp(Bコープ)認証」について、制度の概要や仕組み、実際に認証を取得した企業の取り組み事例などをお伝えしました。
近年、さまざまな認証制度やラベルがある中で、企業の利益と社会の公益を両立させることに重点を置いたBコープ認証は、持続可能な未来の社会を考える上で大切な選択肢となっているのではないでしょうか。
これからBコープ認証の取得を考えている企業はもちろん、わたしたち個人がいち消費者として、Bコープ認証について学び、今後の暮らしの中で最善の選択をできるよう準備し、行動に移すことが必要です。
<参考リスト>
B Lab Global Site
Benefit Corporations – B Lab U.S. & Canada
株主資本主義からの脱却(後編) ——ベネフィットコーポレーションとBCorp認証がもたらす可能性 | GREEN×GLOBE Partners
ステークホルダー(すてーくほるだー)とは? 意味や使い方 – コトバンク
B Impact Assessment
Certification Guide – Large Enterprise_14 Sept 2022
日本のB Corp取得企業は21社 (2023年4月時点)|Be The Change Japan
ベネフィットコーポレーション等に関する調査|一般財団法人社会変革推進財団
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