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LGBTQが抱える学校生活の悩みは?現場の現状も

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レズビアンゲイバイセクシュアルトランスジェンダー、クエスチョニング等の性的マイノリティ(以下、LGBTQ)への理解が社会的に進んでいます。インターネット上ではいまだ心無い差別のコメントがみられたり、同性婚が法的に認めていなかったりと、差別の撲滅はまだまだ道半ばではありますが、過去と比べてLGBTQ当事者が「生きづらさ」を感じる場面は少しづつ減ってきています。

一方、2022~23年にかけて行われた調査(※)では、10代のLGBTQ当事者の38.8%が学校でいじめを受けたことがあると回答しており、少なくない当事者が学校生活で生きづらさを感じていることが分かってます。また、学校でのLGBTQに関する教育は少しずつ広まっているものの、まだ試行錯誤の段階にあるといえます。

そこでこの記事では、LGBTQが学校生活で直面している困難や、現在日本の学校で行われているLGBTQ教育の現状や問題点、LGBTQ教育におけるポイントや教育現場で働く人に知ってほしいことなどを取り上げ、解説します。

(※)ライフネット生命保険株式会社「第 3 回 LGBTQ 当事者の意識調査~いじめ被害やカミングアウト、同性婚等に関する声~宝塚大学看護学部日高教授への委託調査」

LGBTQが学校生活で直面している生きづらさ

LGBTQ当事者が学校で直面する生きづらさは、多岐にわたります。ここではその一例を紹介します。

児童・生徒からのいじめ

最も代表的なのが、児童・生徒からのいじめです。振舞いや言動が典型的なものから外れていることに対し「女っぽい」「オカマ」「おとこおんな」「ホモ」「レズ」などの言葉を浴びせたり、仲間はずれにしたりするのがこれにあたります。身体的な暴行や、金銭の要求などにエスカレートするケースもあります。

異性愛を前提として話が進む

小学校高学年以降になると、授業内外で「恋愛」が話題に上がることが増えてきます。この際「異性愛」を大前提として会話が進むことで、ゲイやレズビアン、バイセクシャルなどの児童生徒や、自身の恋愛対象の性別がまだはっきりしていない児童生徒は「自分は普通ではないのか」と感じてしまいます。その結果、自身を異性愛者だと偽ることで場に溶け込む策を取る子どももいます。

教師の声掛け・態度

大人と比べて生きる世界が狭い子どもにとって、教師の発言の影響力は強大です。セクシャリティを笑いのタネにするような教師は最近では少なくなってきたと考えられますが、LGBTQをタブー視したり、腫れ物に触れるような態度を取ってしまったりする人は現在でもいます。

「子どものため」を思った発言だったとしても、自身の価値観だけを信じ、誤った知識に基づいていたものだと、児童生徒はさらに苦しめられてしまう可能性があります。

男女別の活動が多い

学校では、体育の授業や部活動など、男女別の活動が日常的に行われています。また「男子は○○」「女子は□□」のように、性別ごとに指導される機会もあります。

トランスジェンダーの児童生徒や、自身の性別に求められる社会的役割(男らしさ・女らしさなど)に違和感を持っている児童生徒にとって、このような状況は精神的苦痛の原因となります。

制服やトイレの問題

多くの学校で男女別の制服が採用されており、一部の生徒は着用することを苦しく感じてしまいます。制服を原因に不登校になるケースもあります。

近年ではいわゆる「ジェンダーレス制服」が広がっていて、性別に関わらずさまざまな着こなしができるようになってきていますが、それですべて解決されるわけではありません。例えば「女子用スラックスをLGBTQのために用意した」と広報してしまうと、スラックスを履いている女子はLGBTQだというレッテルを貼られ、いじめの原因になってしまう可能性もあります。

また、トランスジェンダーなどのセクシャリティの子どもにとっては、トイレや更衣室も死活問題です。

  • 戸籍上の性別のトイレ・更衣室を使用することに強烈な違和感を抱く
  • 同性の同級生と同じトイレ・更衣室を使用したくない

などが生じます。

学校におけるLGBTQ教育の現状

小学校・中学校・高校では近年、少しずつLGBTQ教育への取り組みが広がってきています。どのようなものが行われているか、現状をご紹介します。

LGBT理解増進法での扱い

2023年に公布・施行された「LGBT理解増進法(通称)」では、学校での教育について以下のように言及されています。

  • 学校(中略)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(中略)の理解の増進に関し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

簡単に言うと、LGBTQへの理解を増進するために、教育や相談機会の確保などを行うということが定められています。一方で「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」との記述が、学校での教育の足かせになるのではとの声も上がっています。

学習指導要領には掲載なし

小・中・高校の学習内容を定めた文部科学省制定の「学習指導要領」には、LGBTQについての記述はありません。学習指導要領に掲載されていないということは、学校で必ずしもLGBTQについて指導する必要性はないということになります。

また、小学4年生や中学1年生の保健体育科で教えるべき内容の中には「異性への関心が芽生える」といった記述があり、異性愛者以外を想定していない記述だとの指摘もあります。

学習指導要領は約10年に1度改訂されます。前回は2016年(高校は2017年)に改訂されたため、次回の改定でどのような扱いになるか注目が集まります。

各教科書が「発展的な内容」として掲載

学習指導要領には掲載されていないものの、社会科や家庭科、保健体育、道徳など複数の教科の教科書には、教師の判断で教えることができる「発展的な学習内容」としてLGBTQについて掲載されています。

現状は地域や学校、教師によってまちまち

このようにLGBTQ教育に関する法律や規定などが曖昧なため、実際に各学校でどのような指導が行われているかは、地域や学校、教師によって差があるのが現状です。

LGBTQ教育に熱意がある教師が教える場合や、そのような教師がいる学校では、授業やその他の教育活動などで積極的に関連の教育が行われています。一方で公立の学校は、地域性や教育委員会の方向性に大きく影響を受けるため、地域によってもLGBTQについての取り上げられ方は異なります。

LGBTQ教育の問題点・課題

それでは、LGBTQ教育においてみられる問題点や課題などは、どのようなものがあるでしょうか。

教師の知識不足・誤認識

ごく若い世代の教師を除き、教師のほとんどはLGBTQに関する教育を受けてこなかった世代です。そのためLGBTQについての正しい知識がなかったり、ステレオタイプ的な見方をしてしまったりするといった問題があります。

校内や自治体での研修で、LGBTQについて学ぶ機会はあります。しかし、教師には他にもICT教育や教科指導、生徒指導など多くの研修があり、LGBTQはそのうちの一項目にすぎません。また近年は報道にもある通り、教師は多忙な日々を過ごしているため、一回一回の研修をどうしても短時間に収めてしまう傾向にあり、十分に知識を得ることが出来ていない現状にあります。

当事者目線の不足

学校でのLGBTQ教育で見られがちな問題点が、当事者目線の不足です。

指導者がLGBTQでない場合でも「当事者の気持ちになって」考えてみることは可能ですが、想像だけでは誤認が生まれてしまう危険性があります。

根強く残る偏見

LGBTQは非常に長い期間、社会で差別され偏見を受けてきました。LGBTQを「異常者」と捉えて差別することが普通な環境で育った人にとって、「差別や偏見はよくない」と理屈では分かっていても、心に根付いた偏見を完全に無くすのは簡単ではありません。特に、理由なくLGBTQに嫌悪感を覚えてしまうタイプの人の場合、それを根底から取り除くのは困難です。

表面上ではLGBTQの人もそうでない人も平等だという指導をしていても、心の中に差別や偏見の気持ちがあると、ふとした瞬間にそれらが外に現れてしまう恐れがあります。児童や生徒は教師の態度をよく観察しているので、教師に差別や偏見があることを見抜きます。このようなケースでは、当事者の児童や生徒は心に傷を負うことになるのです。

LGBTQ教育を実施する際のポイント

それでは学校現場でLGBTQ教育を実施する場合、どのようなことに留意すればよいのでしょうか。

正しい知識を身につける

まず何より大切なのが、LGBTQや人権教育についての正しい知識を身につけることです。正義感だけでは誤ったことを教えてしまう可能性があります。

現在、インターネット上にはLGBTQに関するさまざまな情報が広がっています。YoutubeやTiktokなどにある情報の中には一部、正しくない情報や誤解を招く表現のものもあります。そのため、信頼できる人や団体が発信する情報から知識を得るようにしましょう。分かりやすくまとまった書籍も多く発売されているほか、各教育委員会がリーフレットを発行しています。

児童・生徒に当事者がいることを意識する

国内で行われた複数のLGBTQに関する調査の結果から、人口の8~10%はLGBTQであると考えられています。単純計算で、40人のクラスであれば、3~4人程度の当事者がいることになります。

「私のクラスにLGBTQの生徒はいない」と思っている学級担任の先生もいるかもしれませんが、それは教師が知らないだけかもしれません。LGBTQについての教育を行うとき、「皆さんの中にはいないと思いますが…」といった発言はNGです。また日常の活動でも、LGBTQをカミングアウトしている芸能人やいわゆる「オネエタレント」を異質なものとして扱う発言をしないよう注意が必要です。

常日頃から、児童、生徒の中に当事者がいるという前提の下で指導をするようにしましょう。

当事者が望む対応はさまざま

当事者と接する場面が生じた場合、本人が希望する対応はさまざまです。カミングアウトを望む当事者もいれば、望まない当事者もいます。本人がどのような対応を望むのかを丁寧にヒアリングし、それに沿った対応をとるようにしましょう。

授業にしても日ごろの活動にしても、LGBTQ当事者が疎外感を感じることが無いよう、工夫することが大切です。

教育現場の人々に意識してほしいこと

最後に、主に教育現場で働く方々に向けて意識してほしいことを解説します。

「気を付ける」のではなく「習慣化」を

近頃、LGBTQなどのマイノリティについての話題が上がることが増えています。中には「言ってはいけない言葉」や「気を付けること」が多くて、息苦しさや面倒くささを感じてしまっている人もいるのではないでしょうか。

確かに最初のうちは、気を付けなければならないことが多いかもしれません。しかし、正しい知識を習得したり、マイノリティがどのような時に困難を感じるのかを理解したりすれば、自然とマイノリティを無意識に傷つけない思考が習慣化されるはずです。

マジョリティはそれ自体が「特権」

教育に関わる人に知っておいてほしいことの一つとして「マジョリティはそれ自体が特権である」という考え方です。LGBTQに関わらず、社会のさまざまなマイノリティ側の人々が苦労して獲得する権利を、マジョリティ側の人々は最初から持っています。

つまりマジョリティそのものが「特権」であり、そこに位置する人々はその恩恵を日々無意識に享受しています。“マイノリティに配慮する”ことが求められる社会ですが、これはそもそもマジョリティに特権があるから必要なことなのです。

教職員にも当事者はいる

学校で働く教職員の中にも、当然ながらLGBTQ当事者は存在します。社会の中でも比較的保守的だといわれる学校現場では、当事者の教職員が知らず知らずに生きづらさを感じてしまうシーンも少なくありません。具体的には、職員同士の雑談で「○○さんは結婚しないの?」「彼氏(彼女)はいないの?」「男なんだからしっかりしなきゃ!」などの声掛けを受け、息苦しさを感じることが考えられます。

児童・生徒と接するときにだけ気を付けるのではなく、社会全体にLGBTQなどのマイノリティがいて、自分の「当たり前」が絶対ではないということを意識するようにしましょう。

まとめ:目指すは「全ての人が人権を享受できる社会」

学校にはLGBTQの他にも、さまざまなマイノリティがいます。外国にルーツを持つ子どもや片親・両親がいない子ども、経済的に困窮している家庭の子ども、障害や病気を抱える子ども、宗教的にほかの児童生徒とは異なる習慣を持つ子供など、多岐にわたります。これらマイノリティの子どもたちは、自分らしく尊厳をもって生きるという人権の重要な部分を、十分に享受できていない可能性があります。

LGBTQ教育を通じて、LGBTQだけではなくさまざまなマイノリティへの理解を深め、児童・生徒の人権意識の向上につなげることができます。マイノリティの子どもたちが疎外感を感じず、マイノリティもマジョリティも全ての人が人権を享受できる社会を目指すのが、いま学校のLGBTQ教育で求められている一つの目標なのではないでしょうか。

参考
小学校・中学校・高等学校の教科書にみる性の多様性に関わる記載の特徴と課題―2018 年度~2021 年度検定教科書の分析より― 松尾 由希子(静岡大学 教職センター)
LGBTに関する記述が増加 学習指導要領範囲外の「性の多様性」教科を横断 中学教科書検定 – 産経ニュース
みんなに知ってもらいたい性の多様性「教育編」(千葉県発行
08 性的マイノリティの子ども達が学校の中で抱える困難、課題〈中学校〉 大阪市
性的指向および性自認を理由䛸するわたしたちが社会䛷直面する困難䛾リスト(第3版) LGBT法連合会
子どもの“人生を変える” – 先生の言葉があります
教員21,634人のLGBTs意識調査レポート2019-2020年調査(PDF) 日高 庸晴  宝塚大学看護学部 教授
マジョリティ側が陥りやすい「多様性」の罠 | ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)