もしあなたが会社の上司に「女性だから仕事が出来ない」という理由でやりたい仕事をやらせてもらえなかったら、どう思いますか?
または、例えば友人に「A型だから冗談が通じなさそう、付き合いは控えておこう」と勝手な思い込みによって距離を置かれていたらどうでしょう。きっと皆さんの誰もが、外見や属性で自分を判断しないでほしい、と思っているはずです。
しかし人は、どうしてもこのような無意識な刷り込みによって、間違った判断をしてしまいがちです。このことをアンコンシャス・バイアスと呼び、日常だけでなくビジネスの場においても注目を集めています。
ここでは、アンコンシャス・バイアスについて、基礎知識や具体例・アンコンシャス・バイアスを行わないためのヒントなど、幅広くお伝えします。
アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアス(unconcious bias)とは、特定の人や物事に対して、自らの認識がバイアスによって偏っていることに気づかないまま判断をしてしまい、個人的・社会的な不利益をもたらしてしまうことを言います。
アンコンシャス(unconcious)は「無意識な」、バイアス(bias)は「偏見」「偏向」を意味し、2つの単語を組みあわせた言葉です。
自らの中にある特定の偏見(バイアス)がかかっている状態によって、日常の会話の中、職場や学校といったあらゆる場面で、知らず知らずのうちに相手を差別をしてしまう可能性があるということです。
アンコンシャスバイアスについて詳しく見ていく前に、よく似た言葉であるステレオタイプとの違いに触れておきましょう。
ステレオタイプとの違い
ステレオタイプ(stereotype)は、主にメディアの報道や発信によって形成される価値観のことを指します。
例えば「男性は政治家に向いている」「女性は子供を産むべき」のように、性別や年齢・国籍など、ある属性を基につくられた固定観念やイメージを言います。
対するアンコンシャス・バイアスは、ステレオタイプなどを元に形成されたバイアスによって人や物事を無意識に判断してしまうことです。
ステレオタイプ | アンコンシャス・バイアス |
---|---|
外国人は怖い | 外国人に会ったら無意識に避けてしまう、関わろうとしない、外国人に不利な政策を掲げる |
高齢者は考え方が古い | 「もっとフレッシュな考え方を持った人と働きたい」と年齢を基準に判断してしまい、若い人を優先して採用する |
黒髪の日本人は真面目 | 「風紀を乱す」という理由で地毛が黒ではない生徒に染髪を強制する |
このように、ステレオタイプは「判断材料」、アンコンシャス・バイアスは「ステレオタイプに基づく言動」と考えられます。
アンコンシャス・バイアスの具体例
では、アンコンシャスバイアスは、どのような場面に潜んでいるのでしょうか。具体例を見ながら詳しく知っていきましょう。
日常におけるアンコンシャス・バイアス
まずは、日常におけるアンコンシャス・バイアスです。日々のふとした瞬間にも、アンコンシャス・バイアスは潜んでいます。
・性別や学歴・職歴といった情報から相手を無意識に判断してしまう
→高卒だから稼げない、飲食店に勤めているから収入が低い、など
・見た目の印象によって相手の思考や性格・属性を決めつけてしまう
→マジメそうだから話が合わないだろう、外国人だから不法滞在しているかも、年上だから考え方が古そう、など
男女でのアンコンシャス・バイアス
続いては、男女間におけるアンコンシャス・バイアスについて見ていきましょう。
相手の性別によって、無意識に「できる/できない」「ある/ない」のようなイメージを結び付けて判断してしまっているかもしれません。
・性別によって勝手に役割を振り分けてしまう
→女性は家事や内職・男性は肉体労働、など
・男性の方が稼いでいる、というバイアスによる金銭的な負担の違い
→飲み会では男性の方に多く出させる、など
・性別による社会的な役割を決めつけてしまう
→「女性はみんな子どもを産むべき」というバイアスによって大事な仕事を任せない、「政治家は男性がなるべき」という価値観から男性にしか投票しない、など
職場におけるアンコンシャス・バイアス
最後にご紹介するのは、職場におけるアンコンシャス・バイアスです。
偏った先入観・イメージによって、職業と相手の属性を連想してしまい、仕事や職場でのコミュニケーションに支障をきたしている可能性が考えられます。
・性別や年齢・国籍などによって得意・不得意を決めつけてしまう
→女性にばかり事務仕事をさせる、アジア人は計算が得意だと思い込みから、数字に関するタスクばかり与える、など
・家庭の状況によって配慮したつもりが一方的に業務を決めつける形になってしまっている
→本人はもっと働きたいのに業務を制限する、家族の介護が必要なのに長時間働かせる、など
・本人の特性や能力を無視した指示
→周りに合わせたほうがよい」という先入観から、本人の希望しないプロジェクトに参加させる、など
アンコンシャス・バイアスの何が問題なのか
ここまで、アンコンシャス・バイアスの具体例を見てきました。では、実際にアンコンシャスバイアスがかかることによって何が問題となるのでしょうか。
間違った判断によって相手に不利益をもたらす可能性
アンコンシャス・バイアスは、無意識ながら差別を行ってしまう点が大きな問題です。
特に、判断を下す立場の人が行うことによって誰かが傷ついたり、不公正な結果につながったりしてしまう可能性があります。
例えば、以下のような問題が考えられます。
- 希望の会社の面接を受けたが、面接官のアンコンシャス・バイアスによって判断されてしまい就職できなかった
- アンコンシャス・バイアスによって、学校や仕事で責任ある任務を任せてもらえない
- 単純な不注意による仕事のミスを、自分の属性や性質のせいだと決めつけられてしまい、社内で「仕事が出来ない人」というレッテルを貼られてしまった
本来、何かを判断する際には、対象となる相手や物事そのものの能力・特性を軸に考えるべきです。しかし、アンコンシャス・バイアスがかかると、判断に必要のない情報やバイアスが邪魔をしてしまうのです。
社会に間違ったメッセージを発信してしまう可能性
企業や団体だけでなく、個人の活動などにおいて、アンコンシャス・バイアスによる間違った広告・キャンペーンを打ち出してしまう危険があります。
そのせいで、社会から「この企業のサービスは受けたくない」「一緒に活動をしたくない」と思われてしまい、活動の存続が危ぶまれることも考えられます。
例えば、以下のような事例が考えられます。
・「女性は肌が綺麗でなくてはならない」という思い込みから、過剰に化粧品をアピールする広告を出した
→女性への美的な価値観を押し付ける印象を与えてしまい、性差別とみなされる
・過去に人種差別などの問題発言をした人物を「話題性があるから」という理由で「企業を売り込むのに適した人物」と判断し、キャンペーンに起用した
→話題性のある人物が広告に出れば売れる、という思い込みによるものだが、過去の発言を知っている消費者にとっては「倫理観に欠ける企業」というイメージが付いてしまう
・自分の中でイメージする「よい家族」から、母親が家事をし、父親が仕事に出かけるイメージを前面に出すポスターを作成した
→「仕事は男、家事は女」といった、現代にそぐわない社会・文化的なジェンダーロールを重視するような、保守的な価値観を持つ企業だと受け取られてしまう
組織や個人の「顔」「イメージ」として打ち出す広告・キャンペーンだからこそ、発信する前に「本当に大丈夫かな」と疑いの目を持ち、複数人または複数回にわたって入念に確認することで、アンコンシャス・バイアスによる間違いを避けられます。
アンコンシャス・バイアスを改善するには
では、アンコンシャス・バイアスを改善するためには、何をするのがよいのでしょうか。
【日常生活】決めつけない・押し付けない
まずは、日常生活の中で発する自らの言動に注意をしてみましょう。
思いがけず、相手に「決めつけ」「押し付け」を強いる発言をしていないでしょうか。
こうした言葉は、ちょっとした場面でつい口にしてしまいがちです。しかし実際は、無意識にバイアスがかかって物事を判断している状態であり、相手を傷つけてしまう恐れがあります。
普段の会話やメールなどの中で、アンコンシャス・バイアスに基づいた決めつけ・押しつけの表現をしていないかチェックしてみましょう。
【日常】自分の言動による相手の反応などから、自分の認知に気づく
自らのアンコンシャス・バイアスに気づくのは、なかなか難しいものですが、言動によって相手がどのような反応を示したかで、自分の認知に気づける場合があります。
例えば「○○さんて、いつも明るくて悩みがなさそうだよね」のような発言に対し、相手が「本当はそんなことないのに」と表情を曇らせたり、傷ついたことをごまかすために苦笑いをしたりといった反応をした場合、自らの言動が間違っていたかもしれないと考えられるでしょう。
相手が違和感を示している様子も、自分のアンコンシャス・バイアスに気づくための大切なポイントです。
また、その際には発した言動をそのままにせず、フォローや確認を忘れないように心がけましょう。
【職場】研修を実施する
職場や団体の場合、アンコンシャス・バイアスに関する研修を実施することで、社員・メンバ―間のコミュニケーションの質を上げ、よりよい活動につながります。
研修では、アンコンシャス・バイアスの基礎や具体例、対応方法、集団として間違った方向へ進まないためのポイントを確認などを学びます。
さらに実践を通して、自らのアンコンシャス・バイアスに気づいたり、相手への思い込みを取り除く方法を身に着けたりできます。
アンコンシャスバイアスを学べば、組織の内外におけるコミュニケーションの質が上がるだけでなく、適切なマネジメントや発信・採用活動などにも貢献できます。
アンコンシャス・バイアスとSDGsの関係
最後に、アンコンシャス・バイアスとSDGsの関係性について確認しておきましょう。
17つの目標から成り立つSDGsですが、今回は特に関係の深い目標5「ジェンダー平等を実現しよう」と、目標10「人や国の不平等をなくそう」について触れていきます。
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、性別によって決めつけられた社会・文化的な役割を取り払い、誰もが平等で開かれた社会を実現することを掲げています。
アンコンシャス・バイアスには、性別や年齢による偏った見方や情報から成る価値観が多く見られます。
相手の性別によって判断される社会ではなく、その人の性質や得意なことを活かした社会のほうが、誰にとっても生きやすいはずです。
目標10「人や国の不平等をなくそう」
もうひとつのSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」では、出身地や人種・文化的な背景による差別や不平等のない社会づくりを目指しています。
歴史を振り返ると、さまざまな不当な理由によって、多くの人々が人種や国籍を理由に差別を受けてきました。
アンコンシャス・バイアスは、無意識に植え付けられた偏見や間違った情報によって行われてしまうものですが、権力を持つ立場の人であればあるほど、自らの認知に敏感でなくてはなりませんし、周りの人々も「それは間違っている」といえる社会でなくてはなりません。
このような歴史を繰り返さないためにも、まずは自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気が付くことが、誰にでも平等で開かれた社会への第一歩となるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、アンコンシャス・バイアス(unconcious bias)について、基本的な知識から具体例・改善に向けたヒントをお伝えしました。
アンコンシャス・バイアスは、みなさんの中にも潜んでいます。大切なのは、自分の中のアンコンシャス・バイアスに気づき、改善することです。
毎日の暮らしの中で、誰かを傷つけないよう、まずはアンコンシャスバイアスを知ることから始めてみませんか。
<参考リスト>
Unconscious bias – Monash University
気づこう、アンコンシャス・バイアス~真の多様性ある職場を~ |連合アクション 2020
アンコンシャスバイアスとは?|一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所
BIAS | 意味, Cambridge 英語辞書での定義
アンコンシャスバイアス研修【企業内での無意識の思い込みに気付く】 – 社員研修のリスキル
ダイヤモンド社のアンコンシャスバイアス研修