#インタビュー

株式会社さとゆめ|伴走型コンサルティングで進める、これからの持続可能な地域づくり

株式会社さとゆめ

株式会社さとゆめ 嶋田 俊平さん インタビュー

嶋田 俊平

京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。大学院修了後、環境系シンクタンク・株式会社プレック研究所に入社、新規部署「持続可能環境・社会研究センター」の立上げに参画し、地域資源を活用したコミュニティ・ビジネスの事業計画立案等に従事。9年間の勤務後、2013年に株式会社さとゆめを設立(登記は2012年)。「ふるさとの夢をかたちに」をミッションに、地方創生の戦略策定から商品開発・販路開拓、店舗の立上げ・集客支援、観光事業の運営まで、一気通貫で地域に伴走する事業プロデュース、コンサルティングを実践。2018年、ホテル開発・運営会社株式会社EDGEを設立し、代表取締役に就任。2019年8月には、山梨県小菅村に、「700人の村がひとつのホテルに」をコンセプトとした分散型ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」を開業。その他、山形県河北町の地域商社・株式会社かほくらし社、人起点の地方創生を目指す株式会社100DIVE、JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと株式会社の代表取締役も兼務。

introduction:

人口が減少し、都市部への人口集中が進む日本において、地方創生※は大きな課題です。

その中で「伴走型コンサルティング」をモットーに掲げ、全国各地で地方創生に取り組むのが株式会社さとゆめです。「700人の村がひとつのホテルに」をコンセプトに、村全体をひとつの宿に見立てた山梨県小菅村のプロジェクトや、JR東日本との共同での沿線活性化事業「沿線まるごとホテル」などで注目を集めています。

今回は代表取締役CEOの嶋田俊平さんに、持続可能な地域づくりの新たなビジネスモデルや、これからの地方創生のあり方について伺いました。

地方創生

地方の人口減少に歯止めをかけ、将来にわたり活力ある日本を維持していくことを目的とした施策のこと。各地域がそれぞれの特徴を活かした自立的で持続可能な社会をつくり、誰もが住みよい環境を確保することを目指している。

計画を立てるだけでなく、夢をかたちにしていくために。

–まずは御社のご紹介をお願い致します。

嶋田さん:

さとゆめは「ふるさとの夢をかたちに」というミッションを掲げて、地方創生に取り組む会社です。

目指すのは「すべての人がふるさとに誇りを持ち、ふるさとの力になれる社会をつくる」ことです。我々コンサルタントや公務員、プロデューサーのような専門家だけが地方創生に取り組んでいても世の中は良くなりません。我々は、日本人全員が地方創生に取り組む社会になったらいいなと思っています。そのために“ふるさと”という思い入れのある地域があってほしいんです。それがあると、その地域のために役に立ちたいという想いが生まれてくるはずです。我々は、そういう想いを持った人たちを支援していけるような会社になりたいと思っています。

創業10年を迎え、ありがたいことに北は北海道、南は沖縄まで、50ほどの地域からお声がけいただき、地方活性化のプロジェクトを進めてきました。地方創生を謳う会社は少なくありませんが、我々の特長は地域に伴走することです。計画、戦略立案から、商品やサービス設計、店舗、宿泊施設の立ち上げなど、目に見える形で事業を作り出し、それが安定軌道にのるまでサポートしています。本来は軌道に乗ったらフェードアウトするつもりだったんですが、気づいたらコンサル会社から事業会社のようになっている感じです(笑)。

–創業のきっかけは何だったんでしょうか。

嶋田さん:

これには私の生い立ちも関係してきます。幼少期の9年間、父親の仕事の関係でタイとインドに住んでいました。3年おきぐらいに世界を転々とするようなキャラバンのような生活でした。楽しそうだと思うかもしれませんが、私はふるさとが欲しいと思っていました。高1で日本に帰ってきましたが、そこはあまりふるさとだと思えなかったんです。

そこで大学進学を機に、自分のふるさとを探すべく、京都に行きました。大学では農学部に入り、森づくりを現場で体験するため、林業の村に6年間通いました。そこではじめてふるさとと思えるところを見つけたんです。

でも林業は衰退の一途を辿っていて、学生の自分は何もできませんでした。その経験からふるさとを守れる人間になりたいと思い、まちづくりのコンサルティング会社に入社しました。でも計画や戦略策定、調査に特化した会社だったので、なかなか自分がつくった計画が形にならないというジレンマをずっと抱えていたんです。それでどうせ関わるなら最後までやり遂げたいと思い、さとゆめを立ち上げました。 

–計画だけで終わることなく、継続的に地域づくりを進めていくことはとても大切だと思います。そこには今、どのような課題があるのでしょうか。

嶋田さん:

「地方には仕事があるが人がいない」という課題です。10年ほど前までは「地方には仕事がない」とよく言われていましたが、今は仕事はいくらでもあるのに人がいない。何か新しいことを始めようにも、誰がやるの?という話になるわけです。

それで我々は事業の立ち上げ方のプロセスを見直しました。従来の、行政と一緒に計画をつくり、資金を集め、最後の最後で人を探すというやり方を改め、一番希少な資源である人とつながり、共に資金調達や計画立案、事業化をする形に転換しました。これを我々は「計画起点」から「人起点」へと言っています。

また、その「人起点」で事業をつくっていくという方針を明確にするために、2年前、コーポレートアイデンティティ(CI)を新たにつくりました。それが「LOCAL BUSINESS INCUBATOR」です。

このCIに基づく事業概念は、次のようなサイクルで表現されます。まず想いを持った人たちをコミュニティ化して、特定の地域から具体的な課題が寄せられたら、それに関心のある人でチームをつくり、試行錯誤してプロジェクトを始める。その中からビジネスの芽を見つけ、事業を立ち上げる。さらにそこにまた想いを持った人たちが入ってきて、2周目、3周目のサイクルが生まれたりするわけです。我々は今、このサイクルを地域で何回転できるかということに取り組んでいます。

日本全国のふるさとの夢をかたちにしていく、さとゆめのプロジェクトとは?

–地方創生の課題に直面しながらも、御社では様々なプロジェクトを継続的に成功させています。主な取り組みを教えてください。

嶋田さん:

さとゆめの事業には、大きく3つの柱があります。1つは「まるごと事業」。例えば弊社のシンボル的なプロジェクト、山梨県小菅村の「NIPPONIA 小菅 源流の村」は、「700人の村がひとつのホテルに」をコンセプトに掲げ、地域内にホテルの客室を分散させることで村全体をまるごとホテルに見立てています。また東京都青梅市と奥多摩町では、JR青梅線沿線をまるごと楽しむことを目指した「沿線まるごとホテル」という事業をスタートしました。沿線地域に点在する資源を発掘し、モビリティツアーでつなげ、集落の方々に案内してもらうといった取り組みを進めています。暮らしが見えることで地域をまるごと楽しめる、そういう観光事業を目指しています。

2つ目は「地域商社事業」です。例えば温泉や道の駅、都市部にあるアンテナショップなど、中核的な施設の立ち上げや経営改善、経営支援を行っています。また、それらを運営する商社的な会社を設立することもあります。地域産品の開発、販売促進などを担う、山形県河北町の地域商社「かほくらし社」の運営参画がこれにあたります。

3つ目は「健康・癒し事業」です。実は我々、さとゆめを立ち上げる前から長野県信濃町で「癒しの森事業」というものを20年近くやっているんです。ここはもともとスキーで栄えた町でしたが、スキーブームが去り、ペンションがどんどん廃業していったんですよね。その時に何かスキーに変わる新しい産業をつくろうということで、お客様をガイドしながら森の中を歩くことで癒しを提供する、森林セラピーや森林浴のようなことを始めました。特徴としては、一般の観光客ではなく企業を対象にしている点で、社員研修やオフサイトミーティングなどを受け入れています。現在約40社と提携していて、年間約6,000人が信濃町を訪れるようになっています。ちなみに、この事業で出会った人たちと一緒にさとゆめをつくったんですよ!なので我々のルーツのような事業です。

地域と企業をつなぎ、SDGs推進に貢献するワーケーションプログラム。

–「Local SDGsワーケーション」という取り組みも展開していますよね?こちらはどういったプロジェクトなのでしょうか。このプロジェクトが生まれた背景などもお聞かせください。

嶋田さん:

「Local SDGs ワーケーション」は、地域と企業、社会の未来を考える異業種交流型プログラムです。講義形式のセッション2回と、2泊3日で地域を訪問して行うワーケーション3回を合わせたプログラムを、約5カ月の期間で実施します。 

ワーケーションには、1.0から3.0の種類があります。1.0は、企業の課題解決を目的とした「業務型ワーケーション」です。生産性の向上や新規アイディアの創出を目的として実施されるものですね。これはまだ全然普及していませんが、先程の信濃町での「癒しの森事業」は、この業務型ワーケーションにあたります。員のメンタルヘルスケアや生産性向上、チームビルディング、新規採用につながることもあり、実際「癒しの森事業」に参加している企業では、離職率が下がったり、生活習慣病予防につながったりという結果が出ています。

我々はこのワーケーション1.0を20年間続けており、次はワーケーション2.0にきているんです。これは、企業と地域の課題を解決するワーケーションです。例えば地域を訪れた社員に森の整備を手伝ってもらったり、町の特産品を社員食堂で使ってもらったり。つまり企業にとっても、地域にとってもメリットがあるというわけです。

さらに、そこから企業と地域が一緒に新たな事業を作っていくワーケーション3.0につながっていきます。これが先程の「Local SDGsワーケーション」にあたります。例えば弊社の事例を紹介すると、サントリーが日本酒発祥の地・兵庫県宍粟市で、両者の強みを掛け合わせた腸活アプリを開発したり、三井住友海上火災保険が脱炭素社会を推進する長野県小海町で、新しい保険のあり方の実証実験を行ったりなどです。企業と地域の課題を解決しながら、新しい事業が生まれてくるかもしれない付加価値を提供するワーケーション、それが「Local SDGsワーケーション」です。

 –実際、第1弾は2022~2023年に開催されています。

嶋田さん:

はい。長野県小海町ではゼロカーボン、山形県河北町では食と農、新潟県妙高市では子どもの教育をテーマに実施しました。各地域ではテーマに基づいた施設を視察して、それがSDGsの17の目標のどこにつながっているのかを話し合うなどしてもらい、ゆっくり仕事をしてもらったりもしますが、最後に企業が持つ資源と地域課題を掛け合わせて何か新しい事業ができないか考えるワークショップもやりました。

参加者は、企業の新規事業開発関係の方が多かったですね。各地域2泊3日という短い時間でしたが、みなさん本当にその地域を好きになってくださいました。ワーケーションが終わった後も、その地域に通っている方も出てきているようです。

伴走型コンサルティングで持続可能な地域づくりを成功に導く、さとゆめの事業化プロセスとは?

–ここまでお話をお伺いしてきて、地域づくりに関わることは何でもやっていらっしゃる印象です。伴走型のコンサルティングが成功し、さらに持続可能な地域づくりが実現しているポイントはどこにあるのでしょうか。

嶋田さん:

信頼を得ることではないでしょうか。それには時間がかかります。小菅村のホテルが開業したのは、我々が通い始めた6年後ですから。

その間、課題となるのはコストの問題です。プロジェクトが始まっても、お金は最初から入ってきません。我々は採算ラインに乗る前の、お金があまり生まれない頃から地域に伴走して、地域の方々の想いを企画書にしたり、補助金を申請したり、クラウドファンディングをやったり、企業協賛を募ったりするところから一緒にやっていくというスタイルです。そうやって構想初期から地域に寄り添うことで信頼を得て、地域と長期的に深い関係を構築できるわけです。

そしてあるタイミングで、補助金や自治体の委託費、企業協賛、クラウドファンディングなどが得られて、フィーをもらえるようになります。そういったフィーをもらいながら、今度は計画を精緻化したり、実証実験をしたり、開業準備をしたりということを地道にやっていくことで、盤石なビジネスモデルをつくっていきます。そこから徐々に事業を立ち上げていくと、初期から伴走して積み上げてきた下地があるので、自治体や事業者、住民のバックアップを得ながら地域ぐるみの付加価値の高い事業をつくることができます。

–地域の信頼を得るためには、キーパーソンのような方を見つけるんでしょうか?

嶋田さん:

そうですね。我々には3人、30人、300人というメソッドがあります。まず事業の構想段階では地域のキーパーソン3人を見つけて、その人たちの信頼を勝ち取ります。村長さんや自治会長さん、地元の婦人会でずっと活動されてきた方など、そういう方は地元からの信頼が厚いので、いろいろな人を紹介してくれて「さとゆめさんを手伝ってあげてくれ」と言ってくれたりするんです。そうやって30人ほどを紹介してもらったら、今度はその30人と一緒に様々な利害調整をして、事業を立ち上げていくフェーズに持っていきます。そのあとは、例えばホテルのお客さんでファンになってくださった方が300人ほどいると、勝手に発信してくれたり、友達を連れてきてくれたりして、事業が軌道に乗っていくわけです。我々はそういう信頼関係の積み上げ方をしている感じです。

–なるほど。やはりここでも「人」がキーワードになってくるわけですね。それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。

嶋田さん:

実現したいのは「地方創生の民主化」ですね。今まで地方創生は行政主導だったので、我々もはじめは行政をサポートするような仕事だったんです。でもここ何十年も少子高齢化や過疎化の流れは止まらないし、暮らしや産業が成り立たなくなっている地域も増えてきています。だからこのままのやり方ではダメで、もっと誰もがふるさとの力になれるような社会をつくらないといけないんです。

そのためにはこれまで行政主導でやってたものを、誰でもできるような状況にしていくことが必要です。それはつまり事業に必要な計画、資金、人材を民主化するということです。具体的には、リアリティのある事業計画をつくれる人を増やしたり、民間投資企業の投資をどんどん呼び込んできたり、そういう人材を育成するとかですね。それでさとゆめでは今、人材系の事業をどんどん始めています。

その一つが「100DIVE」というローカルビジネス創出プロジェクトです。これは、まず全国の地域から、「こんなことがやりたい」というテーマを挙げてもらいます。次にそのテーマに興味がある人を全国募集します。そしてその人たちと一緒に3カ月かけてテーマにつながる事業プランを考えていくわけです。最終的にはプレゼンテーションで1チームを選び、我々は実際にそのチームに伴走して事業化まで持っていきます。

例えば兵庫県宍粟市で開催した時の参加チームが「宍粟印」という会社を作って酒樽型のサウナを販売したり、長野県信濃町の参加チームが、森の香りを楽しみ、その香りを封じ込めた蒸留酒をつくる「香りハント」というプロジェクトを始めたり、そのようなかたちでどんどん事業が生まれています。これがまさに我々が今後もやっていきたいことの一つです。また「Local SDGs ワーケーション」についても、まだ第2弾、第3弾ができていないので、来年度あたりから動かし始めたいなと思っています。

 –ありがとうございました。地方創生というとその地域の課題の洗い出しに終始しがちですが、地域の夢と人を起点に進めていくことに大きな可能性を感じました。