世界は今、気温の上昇や暴風雨の頻発、干ばつの増加などの問題に直面しています。この問題の要因は気候変動です。有効な対策を行わなければ、将来に対して明るい希望を持つことも難しいでしょう。こうした気候変動による不安が心理的にストレスを与えている状態が気候不安症です。
この記事では、気候不安症とは何か、世界中で増加する理由、日本にも広がっている状況、気候不安症になる理由、対処法を解説します。
目次
気候不安症とは
気候不安症とは、近年地球や人々に影響を及ぼしている気候変動に対して、不安や恐れ、悲しみ、怒り、無力、罪悪などの心理的なストレスを抱える状態を言います。エコ不安症(英語ではeco anxiety)とも呼ばれ、若者を中心に世界に広がっています。
気候変動による影響には、温室効果ガスによる気温の上昇、これに伴う暴風雨の頻発、水資源の不足による干ばつ、農・畜・水産物の生産が低下することによる食料不足などがあります。こうした影響が気候不安症を引き起こし、人々に将来を悲観する心情をもたらしています。
世界の50%以上が不安に感じている
実際に、世界や日本の人々は気候変動についてどのような感情を持っているのか、2つの調査から、実態を見ていきましょう。
1つは、アメリカを含む10カ国*に住む16〜25歳を対象に行われた世界調査(2021年)です。
*オーストラリア、ブラジル、フィンランド、フランス、インド、ナイジェリア、フィリピン、ポルトガル、イギリス、アメリカ
この調査によると、「気候変動によって、あなたは以下の感情を感じますか」という質問に対して、世界の半数以上の人が、気候変動による不安や恐れ、悲しみ、無力感、諦め、罪悪感、怒りを感じていることが分かりました。
次に、日本在住の16~65歳の5,000人を対象にした日本の調査(2023年)をもとに、内容を確認します。
調査結果を見ると、こうした感情を持っている人は一定数いることが分かります。不安や落ち込みについては世界の平均よりもやや高く、その他の感情は低いという結果でした。気候に対する不安は、世界を中心に日本でも広がっているのが現状です。
こうした事実を背景に、気候不安症は世界で増える傾向にあります。日本においても、気候不安症を含む不安症の患者数は3万人を超えています。(2020年時点)
この数値は2014年のおよそ1.4倍であり、不安症の1つである気候不安症についても無関心ではいられない状況です。
気候不安症が世界中で増加する理由
では、気候不安症が世界中で増えているのはなぜでしょうか。先の2つの調査を基に、2つの理由を考えてみます。
気候変動による影響の実感
1つは、気候変動による影響を実感しているという事実です。「気候変動が人々や地球を脅かすことを心配している」という気持ちでいるかを尋ねる質問がありました。これに対して日本を除いた国全体の回答では、「極度に心配している」「とても心配している」と答えたのは合わせて6割程度と、「ほどほどに心配している」「少し心配している」「心配していない」と回答した総数を上回る結果でした。つまり、多くの人が大きな不安を抱えている実態が分かります。
また、ブラジル、インド、フィリピンといった南半球の一部の国とポルトガルで、心配の程度が大きいという結果でした。
ブラジルは高温、インドは多雨、フィリピンは台風などを経験していることから、気候変動の影響を強く受けている国と言えます。また、ポルトガルは、気候変動とも関わりがあるといわれている山火事が、2017年から増加している状況です。
このことから、影響をより多く実感している国を中心に、気候不安が起きていると考えられます。
対策が不十分という危機感
気候変動による影響が実感として強くある中、対策が十分でないという危機感も気候不安症が増加する理由に挙げられます。
世界調査では、気候変動を防ぐために政府が十分な努力をしているかという質問もありました。日本を除いた国全体で「いいえ」(64.4%)が「はい」(30.8%)を大きく上回る結果となりました。日本を含む、各国の回答は次の通りです。
さらに、気候変動に関する自分の懸念を政府が受け止めてくれていると感じるかという質問には、日本を除いた国全体で「いいえ」(63.8%)が「はい」(30.0%)を上回りました。
自分の懸念に対して、政府が受け止めてくれていない、対策を十分に行っていないといった心配をしていることが伺えます。こうした不安が、気候不安症につながっている可能性もあるでしょう。
日本でも気候不安症が広がっている
ここまで、気候変動に対する日本を含む世界10カ国の感情を見てきました。世界10カ国と比較したときの日本は、政府の対策は十分でないと感じているものの、心配の程度は少ないとも読み取れます。
しかし、国内のみに視点を移すと、悲観的な感情による影響を受けている実態も見えてきます。ここでは、2つのポイントから、日本でも気候不安症が広がっている状況を見ていきましょう。
4割以上が「日常生活にネガティブな影響を与えている」
日本の調査によると、全体の4割以上が「気候変動が日常生活にネガティブな影響を与えている」と回答しています。
日常生活とは、食事、集中力、仕事、学業、睡眠、自然の中で過ごすこと、遊ぶこと、楽しむこと、恋愛のことです。このうち1つでもネガティブな影響を与えていると答えた4割の人は、性別や年齢にかかわらず存在します。
先の調査結果によると、気候変動が人々や地球を脅かすことを「極度に心配している」「とても心配している」と答えたのは、日本で合わせて16.4%と、他10カ国に比べてかなり低い数値でした。しかしこの回答では、多くの人が日常生活にネガティブな影響を与えていると感じている現実が分かります。
ネガティブな影響は、心理的作用をもたらし、気候不安症を引き起こす可能性もあります。はっきりした心配という感情はなくても、心のどこかで不安につながる原因を抱えていると言えるかもしれません。このことが、気候不安症が広がっている背景にあると考えられます。
5割以上が「気候変動対策の活動を通じて不安が強まった」
引き続き日本の調査によると、全体の5割以上が「気候変動対策の活動を通じて不安が強まった」と回答しています。調査結果を詳しく見ていきましょう。
気候変動対策のための活動とは、地球環境に配慮した商品の購入・使用、ボランティア活動、募金や物品の寄付、気候変動をテーマにしたイベントの開催や参加などです。
活動を通じて感じたこととして最も多かったのは、「課題の大きさを一層感じた」でした。次に、気候変動への意識の高まりや理解の深まりがあります。一方で、気候変動に対する恐れや不安が強まったと回答する人も一定数いることが分かります。反対に、恐れや不安が弱まった人の割合は低いという結果でした。
環境問題への関心の高まりに合わせて、気候変動対策の活動も活発に行われています。こうした活動を通じて事実に直面し、負の感情を持つ人もいます。今後も問題が深刻化する中で、ある程度の恐れや不安は広がっていくかもしれません。
気候不安症になってしまう理由
世界や日本の現状から、気候不安症の背景にある実感や感情について触れてきました。それでは実際に、気候不安症になる要因は何なのでしょうか。2つのポイントに注目します。
相談しても聞いてもらえない
不安があれば、周囲の人に相談するのも1つの解決策です。しかし、気候変動について人に話そうとしても、聞いてもらえないことがあります。世界調査では、3〜6割の人が相手に話そうとしたとき、無視または拒絶されたと答えています。
一方、日本は他の人と気候変動について話さない人が4割と、11カ国中最も高い結果となりました。気候変動を話題にすることは少ないようです。
自分が抱える不安について周囲の人と共有できないと、より深刻な心理的ストレスを招くことにつながります。日本を除いた世界では、気候不安症を引き起こす原因に、こうした背景もあると考えられます。
具体的な解決策が見えにくい
気候変動が世界的な課題になった今、さまざまな対策が政府や自治体、民間でも行われています。しかし、具体的な解決の見通しが立っていないのが現状です。
世界と日本の調査では、5〜9割の人が気候変動によって将来が恐ろしいと考えていることが分かります。
この理由は、目の前にある課題に対して決定的な解決策を打ち出せていないことが挙げられます。現状を打破した先の明るい未来を想像できないため、人々は先の見えない不安に悩まされています。
この理由については、すぐに解決の糸口が見つかるものではありません。できることを一つ一つ行っていくだけです。それでは、もし気候不安症になったらどうすれば良いのでしょうか。次に対処法を確認していきましょう。
気候不安症になった際の対処法は?
気候不安症かもしれないと思ったとき、自分でできる対処法を紹介します。気候変動に対して少しでも不安に思っていることがあれば、予防に役立てる意味で参考にしてください。
不安症チェックリストの活用
気候不安症であることに気づく1つの指標として、不安症チェックリストを活用する方法があります。不安症には、社交不安症、パニック症、全般不安症などがあります。これらの疑いを判断するツールとして、日本不安症学会は不安症チェックリストを公開しています。気候不安症についても同じ不安症として活用し、自身の心の健康を知るきっかけにしてください。
具体的には、「この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?」という質問に答えていきます。
左の質問に対して当てはまる回答を右から選び、点数を足していきます。点数の合計により、不安症の程度が分かる仕組みです。
【1~7の点数の合計】 ▽0~4点 軽微 ▽5~9点 軽度 ▽10~14点 中等度 ▽15~21点 重度 |
10点以上は「不安症」の疑いがあります。不安症は、不眠やうつ病などに悪化する可能性もあります。必要を感じたら専門家に相談しましょう。
気候不安症とSDGs
最後に、気候不安症とSDGsとの関係を確認します。気候不安症は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標13「気候変動に具体的な対策を」とつながりがあります。
目標3「すべての人に健康と福祉を」
目標3「すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢の人々の心を含む健康的な生活と福祉を推進することを掲げています。
気候不安症は、日本でも広がりつつある不安症の1つです。健康的な生活を送るためには、心の健康も欠かせません。気候不安症を解消することは、SDGsの目標の達成につながります。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動に対して緊急の対策を実施することが定められています。
具体的な解決策の見えにくいことが、気候不安症の要因になりうることを述べました。気候変動に対して早期の対策が実施されることは、気候不安症の解消に向けた有効な取り組みと言えるでしょう。
まとめ
気候不安症は世界で増えています。その原因には、気候変動による影響の実感があること、対策が十分でないことが挙げられます。日本においても気候不安症を含む不安症は3万人を超えており、見過ごせない状況にあります。
不安症は、不眠やうつ病に移行する可能性もあります。まずは、自分の心の状態を知ることが大切です。不安症チェックリストを活用して、自分の心の健康を知るきっかけにしてください。