#インタビュー

株式会社縁の木|コーヒー豆とアップサイクルKURAMAEモデルの「縁」で人と組織と地域を繋ぐ

KURAMAEモデル

株式会社縁の木 白羽玲子さん インタビュー

白羽玲子

1971年10月12日、神奈川県茅ケ崎生まれ。大学卒業後、大日本印刷株式会社に入社、父の死を契機として株式会社翔泳社へ転職。一貫してBtoBの受注営業を担当する会社員生活を送る。次男の自閉症スペクトラム障害診断と母の死を機に、知的障害者の親亡き後を見据え、地域と共生する社会を目指して、2014年、東京都台東区蔵前に焙煎店「縁の木」をオープンした。生産者が安心して計画生産できる環境と、障害者もそれぞれの得意を生かして職業を選べる社会の実現を目標に、日々珈琲豆を焙煎しながら、地域資源の循環を目指すプロジェクト「KURAMAEモデル」を2019年より主宰している。

introduction

20年間順調に会社員生活を送っていた白羽玲子さんは、ある日3歳の次男が知的障害を伴う自閉症と診断されました。その3ヶ月後には、「支えるから」と、ショックを受けながらも励ましてくれた母が急逝。その体験から、白羽さんは「親亡き後の知的障害者が働ける場所」を作ろうと決意し、珈琲焙煎処「縁の木」を立ち上げました。現在では、コーヒー豆販売に加え、KURAMAEモデルと称する地域共生・企業協働のアップサイクル事業など、幅広い活動に取組んでいます。

今回は、白羽さんが様々な「縁」を繋ぎながら育んできた「縁の木」のあゆみと現在について伺いました。

障がい者が地域に根ざして生きていける選択肢を増やす

-はじめに、御社の業務内容を教えてください。

白羽さん:

2014年に東京蔵前で創業した「縁の木」は、現在、大きく分けると2つの事業に携わっています。メインの事業は、コーヒー豆を焙煎して実店舗とオンラインショップで販売する「焙煎処(コーヒー豆焙煎店)」です。知的障害者が通う福祉事業所から菓子類などの製品を仕入れ、自社のコーヒー製品と詰め合わせるセット商品も販売しています。

事業の2つ目は、アップサイクルや地域共生を目指して事業化したプロジェクト「KURAMAEモデル」です。コーヒーは、実はたくさんの処分されてしまう資源が出てしまうんですが、これを何とか活かしたくて、アップサイクルを模索しました。

現在、「縁の木」がメーカーとなっているのはドリップパックやたい肥、他企業がメーカーとなっているのはトートバッグ、紙容器製品、クラフトビールなどで、様々な製品が世に出ています。KURAMAEモデルは、地域住民、学校、福祉作業所、企業などが縁で繋がりあう、持続可能な「地域循環モデル」に成長しています。

-どのようなきっかけで「縁の木」を起業したのですか?

白羽さん:

次男が3歳の時に知的障害を伴う自閉症と診断されたことが背景にありますが、それだけなら会社員を続けていたと思います。今の社会は、障がい者への制度や保証を使えば、多少の制約はあれど働きながら子育てできる仕組みが整っていますから。

次男の診断を受けた時、健康で快活だった私の母は、「支えるから」と私を励ましてくれました。ところが、その3ヶ月後に脳出血で急逝してしまいました。母が受診していた健康診断の結果が亡くなった後に返ってきたのですが、なんの問題もなかったんです。それを見た時、どんなに健康でも私や夫がある日突然死ぬことがないとはいえない…その時、遺された知的障がいのある子どもはどうやって暮らすんだろう?と考えました。

そのような経験が、親亡きあとの障がいのある子どもの生活について調べるきっかけとなりました。そこで判ったのは、日本の制度はなかなかよく整っていて、素晴らしいということ。だからこそ、障がい者が失敗しながらでも嫌でも、地域の人々と交流しなければならない場も少ないわけです。地域社会から離れても生きていける、これはある意味では居心地の良いことですが、いざなにかあった時に大丈夫なのかな?という疑問が1つ見えてきました。

同時に、障がい者の仕事の選択肢が非常に乏しいことも判ってきました。とくに知的障がいのある人々は、その当時は内職か掃除仕事かお菓子を焼くか、という感じでした。アートなどの際立った才能を仕事にできる障がい者もいますが、それは一握りの存在です。一般的には、ちょっと得意なことを仕事にできる現実はありません。その現状を知り、障がい者が地域に根ざして働く選択肢を増やせるのであればと、起業しようと思ったんです。

福祉事業所はたくさんあり、台東区も現状は数は足りていると認識しています。そこに属する人々が、ちょっとでも仕事を選べる、ちょっと自慢できる仕事を持てるという状況を作ることが、将来自分の子どもの自信にも繋がると思えました。

「信頼関係がすべて」という価値観で「縁」を繋ぐ

-「縁の木」という社名からも、いかに白羽さんが「縁」を大切に様々なことに取り組んでこられたかが推察されます。サイトでも、コーヒー豆の仕入れに関して、認証より「人」を信じる、という言葉が印象に残りました。白羽さんにとって「縁を繋ぎたい」と思われるゆえんとなる「大切なもの」とは何でしょうか?

白羽さん:

起業するまで、ずっと営業の仕事をしてきましたが、どれほどの信頼関係を築けるか、お客様をどれほど信頼してその方のために働くかがとても大切でした。その経験から、信頼関係がすべてと考える傾向はありますね。

「縁の木」が主体となって有名になるより、人と人を繋いでコラボレーションを産むとか、得意なことを持つ方々を繋いで新しい価値を産む、などのほうが創業の方向性としてしっくりきたんです。こちらから信じていく、動いていく、というほうが性に合いますね。

コーヒー豆の仕入れで、認証より「人」を信じるというのには2つの意味があります。

コーヒー豆には、レインフォーレスト・アライアンス認証、JAS有機認証などいくつかの認証があります。ただ、これらを取得し維持するためにはお金がかかるんです。農園に資金があり、農園主が豆の価値を上げるために認証を取ることは有効ですが、その下で働く人々にまでその分の売上が届くかといえば疑問です。

そういう意味で、小さな農家の寄せ集めで資金的に認証を取るゆとりがない生産者の豆でも、信頼できれば仕入れます。例えば、現地に赴くバイヤーさんが、農場形態や、お金が何かの改善に使われていることなどを直接把握して信頼している場合、その豆を試飲し、フェアトレードとして適正で美味しければ、仕入れてます。

もう1つの意味は、余分なマージンの排除です。コーヒー豆を原産国から輸入する時、まず輸出する人がいて、輸出されたものを国内で輸入する人がいます。その輸入したものを倉庫で管理して出荷する小さな商社があり、その間にまた商社が入る場合さえあります。簡単に3~4社が入り、彼らがそれぞれ仮に10%マージンを抜いていくと、生産者の売上の40%が消えてしまいます。

当社では、ほとんどの場合、ブラジルであればブラジルで輸出の商社1社、国内で輸入する商社1社を介して豆を仕入れます。そうやってマージンを減らすことで、生産者に届くお金が増えることを大事に考えています。

プロデュースの力で生み出す数々のコラボレーション

-信頼できる縁を繋いでのコーヒーですね。焙煎や、コラボされる福祉作業所のお菓子なども含め、販売の状況を詳しく教えてください。

白羽さん:

当社では、生産量のコントロールやブランディングなど、何らかのプレミアムにより値段が高く設定されている豆は買わず、信頼できるバイヤーさん、商社さんとの繋がりのなかで、丹精込めて栽培、精製された豆を仕入れています。

そしてコーヒーを新鮮に、そして普段使いで美味しく飲んでいただきたいので、焙煎量が一度に400gという小さい焙煎機を使っています。また、一杯の価格がコンビニのコーヒーより高くなってほしくないので、100gが800円を越える豆は扱いません。お店に来ていただければ、お好みを伺いながら、オリジナルのブレンドやシングルオリジンを焙煎させていただきます。

販売では、「ありがとう珈琲オーダーメイドギフト」も好評です。営業の方がお得意様への手土産として使えるような、ハガキのギフトカタログです。ハガキであれば、持参するほうにも受け取るほうにもかさばりません。

内容は、福祉事業所で作った焼き菓子に当店のコーヒーがセットされたギフトですが、ハガキを返送いただく際に、アンケート欄でコーヒーの好み、ミルクやお砂糖の利用などのお好みを細かく伺います。そのご希望を読み解き、納得のお味をお届けします。

他にも、企業様、団体様のご希望や想いを伺って、内容やパッケージに至るまで「縁の木」がデザインする詰め合わせも作っています。季節のご挨拶や、イベントでのちょっとしたノベルティなどに使えるオリジナルなギフトとして、好評です。

お菓子の製作を依頼している福祉事業所に対しては、賞味期限や値段のつけ方などのアドバイスも行っています。というのも、食べられる期間が充分にあるにも関わらず、なんとなく怖いからと賞味期限を例えば極端に短い期間に設定している場合もあるんです。品質を精査する機関で正確にチェックすることを勧めたり、お手伝いしたりしています。

販売価格も、直売だけの作業所ですと、卸値と売値が同じという設定が多いのですが、それでは委託ビジネスが成立しませんから、原価計算のサポートなどに入ることもあります。

地域みんなで持続可能な循環を生み出すKURAMAEモデル

-すべて縁と絆のお仕事ですね。続いては、「KURAMAEモデル」についてお聞かせください。

白羽さん:

これは、地域で眠る資源をアップサイクル原料として、商品開発・回収・販売のノウハウを集積して作り上げたプロジェクトです。

私は結婚してから蔵前で暮らし始めましたが、当初に比べてマンションなどもでき、面白い店、すてきなコンセプトの店も増えてきました。そのようなお店と共に地域みんなで持続可能な循環を生み出し、地域コミュニティのひとつの形になることを目指しています。

2019年にスタートしたプロジェクトですが、これまでに様々なアップサイクル商品を産んできました。「縁の木」自体がメーカーとなって作っているのは、たい肥と「一期一縁」というドリップバッグです。

たい肥作りを例としてご紹介しましょう。これは、地域のコーヒー関連の店舗の廃材を利用して、最終的にたい肥化するプロジェクトです。台東区の福祉事業所に通う障がい者の方々に、地域内のカフェや焙煎店から出る欠点豆、豆の皮、カカオの皮などの回収をお願いしています。

次に、紙器製造メーカー様が、福祉作業所が回収した資源を原材料としてを買取り、「生分解性の紙用器」(紙コップ、皿など)を作ります。そして蔵前の店舗や企業などがそれを購入し、使用後の紙容器を粉砕し、地域の店舗が投入する生ごみ、給食調理時の野菜の端材などと一緒にコンポストマシンでたい肥化されます。

このたい肥はプロジェクトのサポーターに還元する他、農家さん、学校活動、地域の緑化など、様々な場面で活用されています。また、たい肥をワークショップの材料として学校や地域で野菜作りに用いることもあり、従来ゴミや廃棄物として処分されていた資源が蔵前地域の全体を繋ぐ役割ともなっています。

また、「縁の木」がコーディネーターとなり、地域の協力のもとで他メーカーさんが製造してくださる商品としては、アサヒグループホールディングス子会社のアサヒユウアスさんによるクラフトビール「蔵前BLACK」(蔵前地域で出るテスト用コーヒー豆などを使用)と「蔵前WHITE」(蔵前のサンドイッチ屋さんの食パンの耳使用)があります。どちらも、福祉事業所の障がい者の方々が資源の回収を担っています。

クラフトビールは地元の商店「カクウチ」さんでも販売していますし、浅草の「ビアホールレストラン・TOKYO隅田川ブルーイング」さんや、アサヒビールさん本社の「展望ラウンジ・アサヒスカイルーム」で楽しんでいただくことができます。地元の従来処分されていたコーヒー豆やパンの耳が「蔵前」の名がつくクラフトビールにアップサイクルされ、町会や近隣の住民の方も喜んでくださいました。

KURAMAEモデルは、どの地域であれ、普通の町が応用して取り組んでいただけるものです。地域の循環経済、パートナーシップ、フードロス削減やアップサイクル促進のプラットフォームとしてお使いいただけたら嬉しいと考え、ビジネスモデル特許を出願しました。

障がい者も含め、誰もが地域で繋がりあって生きることが大切

-起業なさってからのご活動を通じ、「親亡きあとに障がい者が地域で働く」道筋は見えてこられましたか?課題があるとしたら、どのようなことでしょう?

白羽さん:

これをやったら正解だということを見いだせたことはなく、毎回課題が出てきますし、学ぶことばかりです。その中で気になる点は、医療が進歩し、障がいが細分化されて病気としての特性も分類された結果として、普通学級の子どもたちと障がいのある子どもたちが触れ合う機会が減っていることは感じています。

知らない人や知らないことを理解してください、想像してください、というのも無理ですから、やはり障がいのある人々と交流してもらう、触れ合い言葉を交わしてもらうことが、彼らが地域と繋がりあって生きていくために大切だと感じています。KURAMAEモデルで、障がい者の方々に資源回収で地域を回っていただくのも、少しでも工賃をアップしたい想いと共に「触れ合い」のためです。

その中で2022年には、蔵前でのスタンプラリー「下町そぞろめぐり」を立ち上げました。

蔵前には、様々な店だけでなく、お寺、教会、企業などにもサステナブルな取り組みをしているところがあります。そんなスポット「スタンプラリー」を理由に子どもを中心に住民が気軽に足を運び、それぞれからちょっとしたクーポンをもらって楽しんでもらうという試みです。

KURAMAEモデルでは、店舗や学校の資源が循環し、福祉事業所が確かに活躍するけれど、地域の個人との関わりは、「購入してもらう」「応援してもらう」という形でしか実現していないことが気がかりでした。そこで住民のみなさんが、それぞれに蔵前の店舗、企業、施設にある技術、商品、想いや優しさに触れる、直接参加できる機会を創りたかったんです。

特にコロナ禍で、子どもたちは大事な年代に、群れちゃいけない、しゃべっちゃいけない、ごはんも黙って同じ方向を向いて食べろと言われて約4年間を過ごしました。彼らはものすごく諦めがよく、聞き分けも良いのですが、自分の意志でいいことも悪いこともやってやろうという雰囲気が消えているように感じます。

将来、彼らのことを「コロナ世代」だからだめなんだ、と言わずみんなで助け合って生きていくためには、今からでも遅くはないので、相互理解できるような声かけ、発信、直接しゃべって解決しあうことの大切さを教えていきたいと思っています。そのためにも、スタンプラリーが必要だと感じたんです。コロナがなかったら、障がい者のこと以外で、こういう広い視野は持たなかったかもしれません。障がい者も含め、誰もが地域で繋がりあって生きていけることが大切だと思っています。

-今後の展望をお聞かせください。

白羽さん:

私自身は、絶対こうなりたいとか、会社を何年後にはこんなふうに育てていたいとか、そういう目標は案外ないんです。「こうやりたい」と強く決め過ぎず、いただくご縁とかお話を大事にして、その中から「縁の木」の思いに外れないことを一歩一歩やっていく、そのような方針であり続けると思います。

-コロナ禍さえも、さらに視野を広める「縁」ですね。今日はありがとうございました。

関連リンク

「縁の木」公式HP:https://en-no-ki.com/ennokitoh/