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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?日本の現状や取り組みの具体例・課題を解説

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私たちは、体調が悪いときにいつでも病院に行って診察を受けたり、薬を購入したりできます。しかし、世界には病院に行きたくても行けない人々が多くいます。

この記事では、医療サービスを全ての人々が受けられる社会の実現を目指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」について紹介します。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下:UHC)とは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を意味します。

2010年から認知度が高まる

世界保健機関が2010年に「世界保健報告書」において、UHCに関する具体的な内容を刊行したことで注目を集めるようになりました。また、2017年には毎年12月12日を「UHCデー」を定め、UHCの認知と重要性を広めていくことが国連総会にて宣言されました。

UHCとSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関係

UHCは、近年よく耳にするようになったSDGsの中にも記載されています。

SDGsとは、2015年9月に150カ国を超える国のリーダーが参加した国連サミットにおいて、2030年までに達成を目指す国際的な目標として採択されたものです。貧困や飢餓、経済成長、気候変動まで、さまざまな課題の解決を目指した17の目標が掲げられています。

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の中に記載がある

sdgs3

その中で、目標3「すべての人に健康と福祉を」には、健康的な生活の確保と医療福祉の推進が記されています。

そして目標3のターゲット8には、

すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。

と定められており、世界中の人が分け隔てなく医療サービスを受けられる環境の達成を目指しているのです。

【関連記事】SDGs3「すべての人に健康と福祉を」の現状と取り組み事例、個人でできること

では続いては、UHCについてより具体的な内容を確認していきましょう。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの3つのアクセスの改善について

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UHCを達成するためには、下の3つのアクセスを改善していくことが求められます。

  1. 物理的アクセス
  2. 社会・慣習的アクセス
  3. 経済的アクセス

この章では、それぞれの意味と重要性を見ていきます。

物理的アクセス

「物理的アクセス」とは、医療機関や医師などの医療に関わる人材などを指します。例えば

物理的アクセスが悪いとなれば、医療サービスを必要としている人が、

  • 近くに医療機関がないから病院に通えない
  • 住んでいる地域に医者や看護師がいない
  • 医薬品や医療器材がなく治療ができない

などの理由により、病院や医者に物理的にアクセスできないことを意味します。

施設・医療スタッフ・医薬品や器材がすべて揃うことで質の高い医療サービスが実現します。途上国だけでなく先進国でも地域によって医療格差が問題視されており、特に地方では医師や病院が足りなくなりがちであるため、改善が求められています。

社会・慣習的アクセス

「社会・慣習的アクセス」とは、医療の重要性や必要性を知り、適切なタイミングや頻度で医療サービスを受けられることを意味します。例えば社会・慣習的アクセスが悪いとなれば、

  • 医療サービスの重要性を知らない
  • 宗教が理由で輸血を拒否する
  • 家族の許可が得られない
  • 言葉が通じない

といった理由で、医療サービスを受けられない人々となります。

治療の重要性を知らないことで、病気が悪化するまで気付かないケースもあるため、これを避けるために教育を推進することも、社会・慣習的アクセスの改善のひとつの方法です。

経済的アクセス

「経済的アクセス」は、誰もが支払い可能な額で医療サービスを受けられることを意味します。経済アクセスについては、以下のような課題が挙げられます。

  • 医療費の自己負担が高い
  • 受診のためにかかる交通費が高い
  • 入院や看病によって仕事に行けなくなり収入が減ってしまう

特に、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアの開発途上国では、貧しい暮らしを強いられているため、医療費の自己負担が重くのしかかり、医療サービスを受けられない人々がいます。

また、経済的アクセスは先進国でも問題視されています。例えばアメリカでは、国民全員が対象となる保険サービスは存在しません。公的医療保険は、

  • 65歳以上の高齢者と障がい者などを対象とする「メディケア」
  • 低所得者を対象とする「メディケイド」

のみです。このどちらにも当てはまらない人は、民間医療保険に入らなくてはなりません。

ここで挙げた3つのアクセスは、単独で問題の解決を目指せばいいというものではありません。例えば医療費が手頃な価格であったとしても、近くに病院がなければ物理的アクセスの問題が生じます。さらには医療を受けることへの理解がなければ、どれだけ価格が安くても治療を受けてもらうことができないでしょう。1つの側面からではなく、総合的な観点からバランスよく取り組みを進めていかなければなりません。

この内容を踏まえて次の章では、具体的な世界と日本の事例を見ながらUHCがなぜ大切なのかを理解しましょう。

なぜユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成が大切なのか

世界には貧困やインフラの未整備が要因で、保健医療サービスを受けられない人々がいます。まずは、世界の現状と課題から見ていきましょう。

世界の現状と課題

出生1,000認あたりの死亡人数
引用:ユニセフ

開発途上国や低中所得国では、適切な医療サービスが受けられずに、救えるはずの命が失われています。上の図から見て分かるように、出生1,000人当たりの死亡が高い国々は、アフリカ地域に集中しています。これらの命の多くは、風邪による肺炎や、下痢による脱水症状といった、日本では当たり前に治療できる病気が原因で失われています。

その原因としては、3つのアクセスすべての数値が低いことにあります。

物理的アクセスの面では、例えば医師不足。世界保健機関(WHO)は、日本には国民414人に対し1人の医師が存在する一方で、アフリカ大陸南東部に位置するマラウイでは63,694人に対し1人しか医師がいないと公表しています。加えて、世界保健機関は、開発途上国で流通する薬剤の約1割が偽造品や不良品であり、人々を危険にさらしていると指摘しています。

社会・慣習的アクセスでは、その土地独自の文化によって医療を受けられないこともあります。例えば先進的な医療は信用せず、魔術師が治療すべきだという考え方も未だ根強く残っています。

経済的アクセスは、先述したように貧しい暮らしを強いられている人々が多いために、医療に支払うお金がありません。

失わずに済む命がたくさんあるという現状を知っておきましょう。

日本の現状と課題

日本は国民皆保険制度※が整っており、UHCを実現した数少ない国として注目を集めています。私たち日本国民が当たり前に利用している国民皆保険は、負担可能な金額で医療サービスを受けられる、まさにUHCが理想とする成功例のひとつです。また、日本は全ての県に医大があり、質の高い医療を全ての地域に提供することを目指しています

その一方で、厚生労働省はこのまま少子高齢化が進むと2060年には高齢化比率が40%近くになり、将来医療スタッフが足りなくなるのではないかと指摘しています。また、在住外国人の医療対応など課題は未だに残されています。

国民皆保険制度

高額な医療費の負担を軽減してくれる医療保険制度に、すべての国民が加入することになっている仕組みのこと。1961年に導入された。

では、国や企業はUHCの達成に向けてどのような取り組みを行っているのでしょうか。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けた日本の取り組み事例

UHC達成に向けて国や企業によって行われている取り組みを紹介します。

日本政府の取り組み

日本は2016年に開催されたG7の首脳会談で、UHCの達成に向けて支援活動を積極的に行うことを宣言しました。すでに国民皆保険を実現した国として、世界のUHC実現に向けた取り組みを行っています。

具体的には、2017年にASEAN※各国の保険大臣らを東京に招いてUHCに関する知見の共有を行ったり、WHOと共同で「UHCフォーラム2017」を開催したりしました。

ASEAN

東南アジア地域の国々が加盟する地域協力機構のこと。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマーの10カ国が加盟。

日本企業の取り組み

続いては、UHCの達成に取り組む企業を3つ紹介します。

地方でも医療相談が簡単に「株式会社リーバー」

「株式会社リーバー」は、医師に医療相談ができるアプリ「LEBER」を提供しています。地方に住む人々が気軽に病院に通えないという課題を解決するために開発されたLEBERは、日本最大級の医師ネットワークを持ち、24時間対応しています。

医療相談だけでなく検温情報をアプリに登録し、体調管理を行うことも可能です。実際に茨城県つくば市では、小中学校に通う26,000人の子供と家族を対象に、LEBERで体調管理を行う実験を行いました。自治体と企業が連携し地域の人々の健康を管理した事例です。

低所得国へ栄養アプリを普及「味の素株式会社」

「味の素株式会社」は、世界中の人々のウェルネスを実現することを目標に、さまざまな取り組みを行っています。

2009年から取り組んでいる「ガーナ栄養改善プロジェクト」では、JICAと共同で乳幼児の栄養不足による死亡を低減するための栄養サプリメントの開発、普及を行っています。

低中所得国へ特効薬を低価格で提供「ノバルティス」

スイスのバーゼルに本社を持つ「ノバルティス(NOVARTIS)」は、低中所得国で増大している非感染症疾患(NCD)の特許医薬品を1ヶ月平均1ドルという低価格で公共機関に提供しています。

低中所得国ではNCDの医薬品が価格面で入手が難しく、治療を受けられない人が多くいました。しかしノバルティスの取り組みにより、多くの人々が薬を手に入れられるようになりました。ノバルティスは需要に応じ、低中所得国30カ国に取り組みを拡大するよう努めています。

これはUHCの課題である物理的アクセスと経済的アクセスの改善につながります。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けて私たちができること

最後に、ユニバーサルヘルス・カバレッジの達成に向けて、私たち個人ができることを紹介します。

世界の医療課題に興味を持つ

まずは世界の医療課題に興味を持ち、現状を学ぶことから始めましょう。知識を身につけることで今何が問題となっているのか、それを解決するには何が必要なのかが分かり、周りの人に伝えたりSNSで拡散したりすることができます。また、世界の医療課題に取り組む団体を知ることで、募金という形で支援をすることも可能です。

支援できる団体については、代表的な世界保健機関やJICAの他にも、以下のような団体に寄付をすることで世界の医療問題解決に貢献することができます。

定期的に献血に行く

手術や輸血に必要となる血液は、世界や日本の人々の健康を守っていくために不可欠です。

血液は人工的に作ったり、長期間保存したりできるものではありません。そのため、より多くの人が定期的に献血に足を運ぶことで、事故や手術などで大量出血したりする患者が適切な医療を受けることが可能になります。

まとめ

世界には病気や怪我をしたときに、適切な治療が受けられない人々がたくさんいます。UHCとは、これらの物理的や社会的、経済的な障害を取り除き、誰もが支払いが可能な費用で保健医療サービスを受けられるようにすることです。

今までUHC達成国として世界をリードしてきた日本も、高齢化が進むことで医者の数が足りなくなる可能性があり、決して他人事ではありません。世界の国々や企業が取り組みを進めていますが、私たち一人ひとりの意識や行動もUHCの達成に貢献します。

ぜひ記事を参考に、できることから始めていきたいですね。

<参考文献>
国際連合広報センター
ユニセフ
UNDP
厚生労働省 医療と介護を取り巻く現状と課題等
厚生労働省 2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。
厚生労働省 日・ASEAN UHC イニシアチブ【仮訳】
LIBER
味の素株式会社
ノバルティス