生涯学習とは？具体例や現状、課題をわかりやすく！

平均寿命が伸び、100年生きる可能性が大きくなってきました。65歳で定年退職した方もあと35年生きるかもしれないということです。残念ながら体力的に衰えていく中、そして急激に変化している社会の中で、いかに最期まで充実した人生を送れるか、本当に大きな問題です。

生涯学習は文字通り「生涯にわたる学習」です。豊かな人生を送るための生涯学習です。具体例も挙げて解説していきますので、是非一緒に考えていきましょう。

生涯学習とは

生涯学習とは、生涯にわたり学習を続けていくことです。英語では＜Lifelong learning＞と呼ばれます。

近年は、人生100年時代であり最先端の技術が革新的に進歩しています。自分のためにも、社会のためにも生涯にわたり学び続けていくことが大切になってきています。

生涯学習の目的と理念

教育の１番の基となる教育基本法では、教育の目的を

としています。

「人格の形成」や「必要な資質を備えた国民」といった目的を全うするには、学校で学んだ、あるいは学校を卒業しただけでは十分ではないという考えに容易に及びます。

文部科学白書（平成30年度）では、人生100年時代の生涯学習の理念が、次のように述べられています。

” 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。”

引用：第3章　生涯学習社会の実現：文部科学省

「あらゆる学習」とは、学校教育や家庭教育、社会教育はもちろんのこと、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動などの他、企業内教育、趣味など様々な場や機会において行う学習を意味しています。

生涯学習は、学ぶ時期やスタイルなどにおいて、かなり幅の広い学習と言えます。

生涯学習の種類

「あらゆる場や機会」と幅広い生涯学習ですが、具体的なイメージを持っていただくために、学習形態や内容などのいくつかの観点から整理してみましょう。

分　類	種　　　　類
学習形態	・家庭における学習 ・学校における学習 ・社会における学習（公民館や図書館など） ・企業における学習（企業内研修や勉強会など）
学習内容	・スキル取得（ITスキルや語学学習など） ・資格取得（医療事務、ファイナンシャルプランナーなど） ・趣味・教養（地域の文化・歴史、料理、健康維持など）
方　　法	・公開講座や学習会への参加 ・スクーリング・通信教育 ・オンライン学習
場　　所	・公的施設（公民館、図書館、市民プラザなど） ・民間施設・自宅（オンライン学習など）

前半はオンライン、後半はスクーリングなど、いくつかの選択肢が重なる場合も多くあります。また同じ講座でも方法や場所などが複数あり、選ぶことができるものもあります。

リカレント教育との違い

リカレントとは、本来「再発」「回帰」「巡回」を意味する言葉で、リカレント教育とは「回帰教育」あるいは「巡回教育」と訳せます。具体的には、一度学校で学び仕事についた人が、再び学びの場に立ち、多くはそこで学んだことをさらに仕事に生かすための教育になります。

リカレント教育の学習内容は専門的な領域が多いのですが、生涯のあらゆる場や機会を想定している生涯学習と重なる部分があるため、生涯学習の形態の１つと言えるでしょう。

また、似た学習スタイルに「リスキリング（ re-skilling）」もあります。こちらは、新技術教育と訳されるもので、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する／させること」と経済産業では定義しています。

多くは、企業が従業員に新技術・知識を学ぶ機会を与える、という形で行われています。

生涯学習の具体例

生涯学習を「幅が広い」と解説しました。幅の広さをご理解いただけるよう、どのような学習が行われているのか、いくつか具体例をご紹介しましょう。

具体例➀：人気のパソコン・スマホ教室；いわき市

＜今日から始める「スマホ練習」講座＞

目的・内容	IT関連に経験の少ない市民（成人）の方が、新しいスキルを身につける。
方　　法	・主催：いわき市 ・全４回開催 ・講師：地域の大学や通信企業関連のスタッフ・無料・人数限定（多くは20名程度）
場　　所	いわき市生涯学習プラザ

パソコンやスマホ教室は中高年の方々に人気の講座です。毎年全国で開催されているといっても過言ではありません。

具体例②：介護職員初任者研修；ニチイ学館

こちらは民間企業の行う資格取得の学習です。

目的・内容	介護の知識・実技の基本を学び、介護職員の資格を得る。
方　　法	・主催：ニチイ学館他 ・費用、期間、学習方法
場　　所	該当企業が展開する施設（ニチイ学館の場合は、各県２～数十箇所）

このような資格取得学習は、「一般教育訓練」に分類されるものが多く、終了した場合受講料の20％が修了後にハローワークから給付されます。

職業訓練給付制度について詳しくはこちら。

具体例③：多様な文化・教養講座；川崎市

「教養・趣味」に分類される例もご紹介しましょう。

＜キラリ文化教室：切り絵講座＞

目的・内容	趣味を広げたい、地域の人とつながりを持ちたい人を応援するために、切り絵やフラワーアレンジメント、俳句などを学ぶ。
方　　法	だれでも参加可能。

各自治体は、半期あるいは年間の講座をリーフレットなどにして配布しています。またホームページなどで公開しています。地域の特性を生かした様々な学習内容がありますので、募集対象や期間、費用などをチェックしてみましょう。

文部科学省や厚生労働省も以下のような窓口を紹介しています。

生涯学習はなぜ必要なのか

いろいろな窓口があり、内容・方法も多様な生涯学習が展開されていることがご理解頂けたことと思います。では、なぜそのような生涯学習が必要とされるのでしょうか。必要とされるようになった背景と、学ぶメリットの両面から解説します。

【必要とされる背景】人生100年時代

日本の平均寿命は、2024年の時点で男性81.09歳、女性87.13歳と、世界トップ水準を保っています。

平均寿命ばかりではなく健康寿命も先進諸国のトップとなっており、「90歳を迎える者の割合」は、男性で25.8％女性は50.2％と報告されています。長い年月を心身共に豊かにすごせるかどうかはますます大切な問題となってきています。

【必要とされる背景】デジタル社会

近年のテクノロジーの発展そして経済のグローバル化はめざましいものがあり、ITや外国語のスキルが必須とされる社会の変化に、多くの人が追いついていない現実があります。

就労のためにも余生を豊かに過ごすためにも、新しいスキルを身につける必要が高まっています。

【学ぶメリット】豊かで充実した人生を送れる

IT技術を学ぶことは「必須である」と言えますが、身についたスキルを情報収集や作業の効率化に活用できれば、仕事にも余裕を持つことができます。

資格やスキルが身に着けば、求職者にとっては収入を得られる手だてとなり、まだ働きたい高齢者にとっては生きがいを見つける大きな助けになります。

また、学習の場に行くことで人との出会いが増えます。

核家族で子育てをする若い両親は、母親教室で同じ地域のママ友・サポートの期待できる先輩、専門スタッフ」と出合うことができます。一人暮らしの高齢者であれば、市民講座などで同好の士を得ることができるでしょう。心強いことです。そのような人との出会いで、視野も大いに広がると言えるのではないでしょうか。

【学ぶメリット】社会全体にもメリットが

少子高齢化が言われ続けています。労働人口の減少も顕著で多くの企業は「人手不足」という課題を抱えています。

生涯学習を学びの１つの機会として、スキルや資格を身につけた人々が稼働できれば、地域あるいは国全体として大きな労働力になります。

さらに、生き生きと働いたり趣味・文化を楽しむ健康な高齢者が増えることは、介護や医療にかかる負担の軽減につながります。

多くの人が心身ともに健康で暮らせる社会につながる学習が生涯学習と言えます。

日本における生涯学習の現状と課題

現場の推進力：教育委員会

国の指針に基づき生涯学習を企画・運営しているのは、県や市町村の教育委員会です。

上の図は笠間市の教育委員会の組織図ですが、多くの自治体で学校教育と並ぶ形で担当部門が設けられています。

生涯学習担当は、地域の人々のニーズや開催の条件などを総合的に考慮して、年間計画や３か年計画など中長期的な計画を立てています。

下の表は川崎市のものですが、夏休みを利用したキッズ向けや、年間を通したコンサートなど、実に幅広い生涯学習が展開されていることが分かります。

学習の活用状況

では、どのくらいの人が生涯学習を活用しているのでしょう。

2022年の内閣の世論調査では、「この１年間に月１日以上どんな学習をしましたか。」の質問に、「学習していない」と答えた人の割合は24.3％と出ています。学習の種類や年齢あるいは地域によって違いはあるものの、残りの75.7％の人が何らかの学習経験をしていることになります。

さらに「学習成果をいかせているか」の質問には、

の回答が上位４項目を占めています。上位３項目がいずれも50％を超えており、「いかしている/いかせる」全体では９割を超しています。

生涯学習の課題と解決への見通し

前述の調査結果で「学習していない」と答えた24.3％の理由を見てみましょう。「特に必要がない」が１位でした。平成30年度の同質問への答え第１位は、「仕事が忙しくて時間がない」でした。

この変容には以下の２つの理由が考えられます。そしてそこに課題も見えてきます。

＜学習していない理由＞

健康志向も高まり、時間の使い方に関する考えも変化してきました。

生涯学習も目標や内容に対しても、インターネットの知識や技術を始め、以前より高度なものを求める傾向も見られます。社会人を受け入れる大学や専門学校などの高等教育機関の活用も、対応施策として大切になってきています。

多様で高度になってきたニーズに対応する生涯学習が求められています。

生涯学習とSDGs

最後に生涯学習とSDGsとの関わりをお話しします。

最も関わりの深いのは、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」です。

SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」との関わり

この目標のゴールは「すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことです。

特にターゲット4.7には「持続可能なライフスタイル」の推進や「情報通信技術などの高等教育」を目指すことが明記されています。前章で取り上げたような日本が現在課題としている点と一致し、解決を目指すことはSDGsの目標達成に直結します。

またターゲット4.aには「だれもが利用できる効果的な学習環境を提供する」ことが挙げられています。そして「だれも」には「障害のある人」も含まれることが明記されています。

日本では障がい者の生涯学習支援を重点施策の１つに挙げています。個人・団体への支援呼びかけは、SDGsの理念とも共通します。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

生涯学習について、具体例を挙げ、必要とされる背景・理由を解説し、その現状も整理してきました。

新しい形態のリカレント教育、パンデミック以来一層普及したオンライン学習、各省庁や自治体のウェブサイトの充実など、日本の生涯学習は進化を続けています。しかしSDGs目標達成度は「達成した」と認められるまでに至っていません。さらにきめ細かな施策、運営の工夫が求められます。

高度な生涯学習を経験した方が、身につけたスキルをボランティア活動に生かしたり、次の世代の指導者・支援者になって聞けば、より裾野の広がった活動となるにちがいありません。

知らなかったことを知ったり、できなかったことができるようになったり、下手だったことが練習したら上手になったり、そしてそれを他に役立てたり、学習とは本来自分や周囲をよりよくするものです。

長い人生をより充実したものにするために、まずは身の回りにある生涯学習の扉をたたいてみませんか？

＜参考資料・文献＞
*1) 生涯学習とは
教育基本法：文部科学省
第3章　生涯学習社会の実現：文部科学省
生涯学習 – Wikipedia
リカレント教育とは？無料で学べる大学・大学院はある？補助金についても紹介！リスキングとの違いも解説 – Spaceship Earth（スペースシップ・アース）
リスキリングとは（経済産業省）
*2) 生涯学習の具体例
募集講座のご案内 | いわき市生涯学習プラザ
介護職員初任者研修とは｜介護職員初任者研修の資格講座 ニチイ まなびネット
職業教育とは？種類やメリット・デメリット、申し込み方法も – Spaceship Earth（スペースシップ・アース）｜SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア
キラリ文化教室|川崎市生涯学習財団
たのしくまなび隊 | 文部科学省
マナパス｜リカレント教育・リスキリングに役立つポータルサイト
ハロートレーニング｜厚生労働省
*3) 生涯学習はなぜ必要なのか
我が国の人口について｜厚生労働省
厚労省：平均寿命（2025年）
*4) 日本における生涯学習の現状と課題
行政組織・機構　-教育委員会-  | 笠間市公式ホームページ
講座一覧|川崎市生涯学習財団
資料1　生涯学習に関する世論調査　説明資料
「生涯学習に関する世論調査（令和4年7月調査）」概略版
だれでもいつでも学べる社会へ　ー障害のある・なしに関係なく共に学べる生涯学習についてー(わかりやすい版)_通し
*5) 生涯学習とSDGs 
だれでもいつでも学べる社会へ　ー障害のある・なしに関係なく共に学べる生涯学習についてー(わかりやすい版)_通し（文部科学省）
SDGｓ：蟹江憲史（中公新書）