#インタビュー

トヨタ自動車株式会社|「モッタイナイ」を「もっといい」へ モノづくりの工程で発生する「製品になれなかった素材たち」を生まれ変わらせ循環させる社会をめざして

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 高木さん 中村さん インタビュー

introduction

日本の、そして世界の中でも最大級の規模を誇るトヨタ自動車株式会社。プリウスは世界初の量産ハイブリットカーとして世界を牽引し、次世代自動車の燃料電池自動車も注目を集めています。

また、自動車だけでなくIT・金融・住宅など多方面に事業を拡大するかたわら、多種多様な社会の課題や問題にも取り組んでいます。

今回は、「トヨタアップサイクルプロジェクト」について、新事業企画部の中村さんと高木さんに、アップサイクルの現状や課題、展望などについてお話をお伺いしました。

廃棄物を新しい製品に変える「トヨタアップサイクルプロジェクト」

–早速、「トヨタアップサイクルプロジェクト」についてお聞かせください。どのようなプロジェクトなのでしょうか。

中村さん:

アップサイクルとは、捨てられてしまうはずの廃棄物を別の製品として生まれ変わらせ、新たな価値を与えてアップグレードさせることです。

弊社では、クルマの製造工程で発生する廃棄物から新たな製品を生み出し、皆様にお届けする「トヨタアップサイクルプロジェクト」に取り組んでいます。

現在、アップサイクルされて製品になっているアイテムとして、レクサスのシートに使われているレザーの廃材から作った、IDカードホルダー、カードケースやペンケース、しおりなどがあります。

会社のロゴや名前の印字ができますので、社内での利用・販売はもちろん、取引先の法人での記念品や贈呈品など、ノベルティグッズとしてのご利用や、ECサイトでの販売もしています。

他に製品化されているのは、エアバックやシートベルト、シートレザーの端材を使ったトートバック・ウォールポケット・ティシュケースやエンジンピストン端材で作った置時計などです。

また、樹脂の廃材で作ったワインスタンドや花器なども試作検討中です。

知恵を出し合い共創するのがアップサイクルの醍醐味

–廃材から、いろいろな製品ができるのですね。

では、アップサイクル製品を作るときに心がけていることは何かありますか。

中村さん:

心がけていることは「使う人にきちんと寄り添ったモノづくりをする」ということです。

エシカルの押し付けでは、飽きればすぐ捨てられてしまうと思います。

それでは本末転倒ですから、素材の制約がある中でも、「使いやすい」「使っていて満足感がある」と感じて、本当に愛着を持って長く使ってもらえる製品を提供したいと考えています。

そのために、製品を市場に出す前に、消費者に製品についてのヒアリングを重ね、試作を繰り返し、改善しながら皆さんの声を反映して世の中に出すことにこだわっています。

また、使う人に寄り添った製品という点では、製品のマーケティングも重要ですし、難しさを感じている点でもあります。

高木さん:

アップサイクル製品はなんといっても、まずは製品を手に取ってもらうために、「かっこいい・可愛い・使ってみたい!」と思ってもらえるような素敵なものを作ることが重要だと思っています。

「私たちが、頑張ってアップサイクルしました」と押し付けるものではないと考えます。

そして「これってこんな素敵なストーリーを持った製品なんだね」と後から気づいてもらい、より愛着を持って使ってもらうことが大事なんじゃないかと。

もう一つ、この取り組みをしていて感じることですが、アップサイクルは自分達だけで取り組むものではないということです。

というのも、私達はクルマ屋なので、製品のアイデアも車関係しか出てこないんですよ(笑)。

今試作している、樹脂の廃材をアップサイクルしたワインスタンドや花器などは、大学生達がアイディアを出してくれたものです。

写真の製品に使われている樹脂素材は、燃料電池車の水素タンクを作る過程で出る廃棄物です。

毎朝生産の準備として、設備の配管に残っている前日の材料を排出しているのですが、こんな脳みそのような廃棄物が出るんです。

この樹脂を柔らかいうちに圧縮し、冷えてから裁断すると、大理石のような模様の樹脂ブロックになります。同じ模様は二つとありませんので、この面白い素材を製品にできないかと考えていたんです。

そんな時に、大学生との共創活動で「もったいないツアー」と題し、いろいろな廃材を見てもらう機会がありました。

その際、「自分がもったいないと思ったものを、もっといいものに変えてください」というお題を出していろいろな製品を考えてもらいました。

そして、この樹脂の廃棄物を「ライフサイクルにより添った作品」にしたいと提案してくれたんです。

この経験で、見る人が変わると素材の可能性が変わることを実感しました。

私達が、いつもただの廃棄物として見ているものも、大学生が見ると「素敵!可愛い」と見える。感性が全然違うんですね。

《金属部品のアップサイクル モビール》

また、リサイクルやリユースは、専門的な知識がないとできない取り組みですが、アップサイクルは、誰にでもできます。

素材の科学的な知識がいらず、この金属部品可愛いとか、模様が面白いとか、そんなところから新しい製品に生まれ変わらせるアイディアが生まれるんです。そのアイディアも自分達とは全く違うので、そこに、アップサイクルのすごい可能性を感じています。

だからこそ、みんなでアイディアを出し合った方が良いものができると思っています。

モノづくりで生まれてしまうゴミを、モノづくりの力で生まれ変わらせたい

–では、御社がアップサイクルに取り組もうと考えた背景をお聞かせください。

中村さん:

弊社のアップサイクルプロジェクトのキーワードは、『「モッタイナイ」が「もっといい」に変わり続ける未来を創る』です。

「ものづくりで生まれてしまうゴミを、モノづくりの力で生まれ変わらせたい」というのが、このプロジェクトの原点となっています。

クルマを製造する工程では、様々な素材の廃棄物が発生します。弊社では、これらの廃棄物の処理に関しては、「RECYCLE:リサイクル・REDUCE:リデュース・REUSU:リユース」を基本として日々循環することに取り組んできました。

しかし、どうしてもリサイクルなどができない廃棄物も出てしまい、焼却や埋立廃棄などで対応せざるを得ません。そして、焼却処理されることによりCO2の発生にもつながることが大きな課題です。

その中で、「この廃棄してきた、もったいない素材をどうにかして役立てられないか」「発生するCO2を減らせないか」と課題認識を持ったメンバー6人が集まり、プロジェクトが始まりました。

現在、今まで焼却や埋立廃棄してきた廃棄物をアップサイクルしていますが、製品に再生される率はまだ多くはありません。

例えば、クルマのシートレザーの廃材の場合、2023年度末で廃材の3%程度をアップサイクル品に生まれ変わらせることができました。

今後、いろいろな素材でアップサイクルに取り組んでいき、ゴミが生まれ変わる可能性を示したいと考えています。

–廃棄物をアップサイクルして製品を作るうえで、大変なこと、課題はありますか。

中村さん:

課題はたくさんあるのですが、まずはどんな素材がリユースやリサイクルで循環されていないのかを把握するのが難しいということです。

アップサイクルされる素材は、弊社の工場だけでなく、仕入れ先や取引先などいろいろな場所で出ますので、その情報を見える化することと、素材自体の収集がとても大変です。今は、そこが私たちの活動の多くを占めています。

また、素材が把握できても、本来は捨てられるはずだった素材ですから、大きさや厚みや形などがバラバラですし、発生量も月々で違っています。

例えばレザーでいうと、傷やシワがありますし、バラバラな形の素材から、欲しい形の取れる場所を見つけ出して裁断をするので手間がかかります。この、「素材を扱ううえでの非効率」との戦いも大きな課題の一つです。

そして、これらの課題が、アップサイクル品は値段が高いという他方面での問題も生み出しているんです。

制約ばかりの困難な道のり

–確かに、リサイクル品やアップサイクル品は値段が高いというイメージを持つ方も多いと思いますが、理由があるのですね。

高木さん:

はい。アップサイクル品が高価になってしまうのは、普通にものを作るのに比べて何倍も手間がかかるということが一番大きな理由だと思います。捨てるもので作るのだから、安くできて当たり前と思われることも多いんですが、実は違うんです。

モノづくりをするうえで大事なのは、しっかりした品質のものを作り、提供するということで、通常は作りたい製品に見合う新しい素材を調達します。

対してアップサイクル品は、そこにすでにある廃材の山から、製品を作れそうな素材を自分達で探してくるという手間がかかります。

捨てられる素材の中から拾いだし、仕分けして、それを加工しやすいように整えたり、切ったりという工程が加わります。そうなると、どうしても通常の製品よりもコストがかかってしまうんです。

下の画像を見ていただくと分かりやすいと思いますが、このような廃材の中から自分たちが作りたい製品の形状をとるために、何とか工夫をして使う必要があります。しかも廃材は形が決まっているわけではないので、その都度都度考えて使わなければならないんです。

しかし、素材そのものはクルマになるはずだったものですから高機能です。そして私達は「こんな工夫をすれば、良いものができそうだ」と一つ一つ思いを込めてモノづくりをしています。

実際の製品は、その道のプロのメーカーにお願いして作ってもらいますが、私達も、手間を惜しまず、しっかり取り組んでいますので、良い品質のものが提供できているのではないかと考えています。

–製品を作るメーカーは、廃材から製品を作ることに抵抗はないのでしょうか。

高木さん:

もちろん、廃材を使って製品を作ることに難色を示す工場もあります。それは、今まで自分達がやってきたモノづくりとあまりに違っているからなんです。

ですから、そういうメーカーに無理にお願いするということはありません。

最初に、自分達のこのプロジェクトに対する思いを話し、それに共感してくれる方々でないと一緒に仕事をするのは難しいと感じています。そのため、私達の思い、こだわりに共感してくれるパートナー的な方々にお願いしているのが現状です。

このプロジェクトは、弊社だけで推進するには無理があります。いろいろな方々に協力していただき進めていきたいと考えています。

行動変容をうながすアップサイクルで新たな価値を見出す

–協力して取り組んでいる方々は、アップサイクルをどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか。

中村さん:

現在は大学生もそうですが、異業種の方々と積極的に取り組み、活動の幅を広げるようにしています。

一緒に取り組んだ方々は、廃棄物への見方が変わったと皆さんおっしゃいます。今までは、ただのゴミにしか見えていなかったけれど、見方を変えると実はすごくいい機能を持っていることに気づいたと。

その機能をうまく生かしてあげると、こんな素晴らしいものができるのかと感じてもらっているようです。

また、今までアップサイクルとは無縁であったものの、私達と共創することで、アップサイクル製品を制作・販売し、ビジネスに反映させるようなクリエーターにも多く出会うことができました。

アップサイクルのモノづくりは、行動変容につながるということを、とても実感しています。

–他社とのコラボレーションもされていますね。どのような製品を作られているのでしょうか。

中村さん:

初のコラボ製品は、「クラウンロゴ付きオリジナルグッズ」です。

これは、分離・分解しやすく循環できるように設計された素材の開発やブランド化を推進する「hk1819」というブランドとコラボして作った製品です。

「hk1819」は、カーボンを環境調和型のソフトカーボンに加工して商品化する技術とネットワークを持った企業です。今回、そこで出るカーボンの廃棄物と弊社のクラウンのシートレザーの端切れを組み合わせてキーホルダーや、カードケースを作りました。現在、全国3店舗のクラウンオリジナル店で取り扱っています。

また、2024年4月には、新しいコラボも始まります。

自働車を取り巻く様々な文化からインスピレーションを受けたアイテムを展開するプロダクトレーベル「CarService:カーサービス」とのコラボです。共同企画で製品を作り販売を開始します。

今後も、他業種やブランドとのコラボを着実に増やしていきたいと考えています。

ストーリーのある製品を選ぶのが当たり前の世界へ

–アップサイクルについて、いろいろなお話を伺ってきましたが、今後、アップサイクルを社会に根づかせて行くために、私達にはどんなことができるでしょうか。

中村さん:

アップサイクル製品は、どうしてもコストがかかり、値段が高くなってしまうとお話ししましたが、今後、当面の間は安価にお届けすることは難しいと思います。ですから、特に若い方々は無理をしてまで買う必要はないと思います。

ただ、こんな取り組みをしてできた製品があるということを知ってもらえたらいいと思っています。そして、社会人になって少し財布にゆとりがある時に、本当に自分の気に入ったアップサイクル品を手に取ってもらえたら嬉しいです。

弊社内でも、取引先への記念品などとして利用してもらうように各部署へ呼びかけをして、「カーボンニュートラルを語れるグッズ」として少しづつ需要が増えてきています。

価格が高くても納得したうえで手に取り、使っていただくためには、この取り組みのコンセプトをすべて見せ、意義をきちんと伝えて、アップサイクル品の魅力を分かってもらうしかないんだと思います。

傷やシワなど、一見デメリットに見えるものも、一種の個性、魅力ととらえられるように、自分は循環型の社会を目指して地球環境に良いものを使っているんだと、マインドシフトできるようになったら良いですよね。

こんな文化を醸成していけたら、世の中にあるアップサイクル品が受け入れてもらいやすくなるのではないでしょうか。

そして、弊社のアップサイクルのキーワード『「モッタイナイ」が「もっといい」に変わり続ける未来を創る』を実現することができるのだと考えています。

いろいろな困難や課題にぶつかりながら、アップサイクルに取り組み続けている私達のような会社があることを、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。

–では、最後に今後どのようにプロジェクトを推進していくのか、展望をお聞かせください。

中村さん:

繰り返しになりますが、『「モッタイナイ」が「もっといい」に変わり続ける未来を創る』には、弊社だけで取組んでも絶対にダメなんです。

たくさんのパートナー達を巻き込んで取り組み、みんなで一緒に進んでいくことでたくさんの人に届くプロジェクトです。

そんな思いを込めて、今後もたくさんの仲間づくりをしていきたいですね。

そして廃棄物を100%循環する社会を目指して、できることを着々と積み上げて行くことが私達のできることだと思っています。

ただ、それがボランティアであったら続きません。

きちんと続けていくために、ビジネスとして取り組んでいくことが大切だと考えています。弊社でもはじめての取り組みですので、持続可能な事業に育てていくために頑張っていきます。

高木さん:

一生懸命にこの活動をしているのは、未来を担ってくれる子ども達や若い方達に、よりきれいな地球を渡したいからです。

未来に向けて、皆で一緒に活動していきたいと思います。

–これからのアップサイクルプロジェクトが楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連サイト

トヨタ自動車公式WEBサイト:https://global.toyota/jp/

トヨタアップサイクルWEBサイト:https://global.toyota/newbiz/toyotaupcycle/

トヨタイズム:https://toyotatimes.jp/spotlights/1051.html

アップサイクル品ECサイト Earth Hacks:https://store.shopping.yahoo.co.jp/earthhacks-decarbo/toyotaupcy.html