#インタビュー

一般財団法人日本児童養護施設財団|在籍生にも卒園生にも環境格差を乗り越えて暮らせる明るい未来を

一般財団法人日本児童養護施設財団

一般財団法人日本児童養護施設財団 近藤 嘉志さん インタビュー

近藤 嘉志

私は人間関係で悩み、人との関わりを拒む時期がありました。そんな私に根気よく声をかけてくれたのが当時ボランティア活動をしていた先輩でした。誰にでも手を差し伸べる先輩だったので、私は次第に人と関われるように、ボランティアにも参加するようになりました。21歳の時に”タイにある児童養護施設”へボランティアに行ってみないか?」と声をかけて貰い、そこで様々な理由で家庭が崩壊し、住む場所も生きる術も持ってない子どもたちと出会いました。
ボランティアとして行ったにも関わらず私は何もできませんでした。けれど、現地職員の方から心のケアの重要性や自立支援の難しさについて話を聞き、子どもたちを支える力になりたいと考えた私は日本に戻り児童養護施設の職員を目指す事を決めその後、今に至ります。

introduction

児童養護施設の子どもたちは、基本的に18歳で退所となります。卒園生は、生活も学業も守られる施設から離れ、社会に出ていかねばなりません。住居の確保、進学費の工面、就業などに直面するなかで、様々な困難にぶつかることが多々あります。その中で、在籍児童、卒園生の状況や施設の問題点を知り尽くした元現場の職員たちが立ち上げたのが、一般財団法人日本児童養護施設財団です。

今回は、近藤嘉志事務局長に、現場の状況やさまざまな支援、展望などについて伺いました。

生育環境に左右されずに子どもが暮らせる社会を目指す

-まずは、ご活動の概略をご紹介ください。

近藤さん:

私たちは、全国の児童養護施設で暮らす子どもたちや、卒園した若者たちへの支援活動を行う非営利の財団法人です。2008年に、現在弊財団の理事長を務める江原が中心となり、児童養護施設の課題を解決するために有志でボランティア団体を立ち上げました。そののちNPOの認証を受け、2019年に一般財団法人となって現在に至ります。

活動の概略としては、施設在籍児童のためのクリスマスプレゼント支援を目的とする「あしながサンタ」事業、子どもたちが「夢」や「希望」を絵画で自由に表現できる場としての「日本子ども未来展」の企画・運営、児童養護施設を卒園する子どもたちに特化した求人サイト「もっち~ナビ」を運営しています。また、施設および卒園生支援のための寄付を募る「全国児童養護施設総合寄付サイト」の運営に加え、ブログやラジオなどによる現状の発信や啓発活動も続けています。

-どのようなビジョン、ミッションを掲げているのでしょうか。

近藤さん:

ビジョンは「子どもたちが現在・将来どちらも安心して暮らせる環境をつくる」です。虐待、ネグレクト、貧困など、生まれた環境、成育環境に左右されることなく、子どもたちが自分たちの可能性に挑戦しながら幸せに生きていける社会を目指しています。

ミッションは「現場の改善(相談できる大人を増やす/行事の支援/卒園後の支援/職員相談窓口など)現場の課題を共有し、解決していくための事業展開」です。シンプルに言えば、児童養護施設で暮らす子どもたちと職員の方々への支援ですが、外部団体だからこそできる活動として、社会に対し広く理解を求める啓発活動もミッションとして捉えています。

-子どもにとって、親の養育が受けられないことは過酷ですね。近藤さんがそのような子どもたちを養護するお仕事に就かれたきっかけをお聞かせください。

近藤さん:

もともとは、学生時代に人間関係を築くのが不得手だったことが背景です。そんな私に声をかけてくれたのが、ボランティア活動をしていた先輩でした。彼のおかげで、次第に人と関われるようにもなり、その後、自分もボランティア活動に参加するようになったんです。

そして21才の時に、タイにある児童養護施設へのボランティアに誘われました。特に子どもにかかわるボランティアを望んでいたわけではないんですが、流れで知識もなく行くことになったんです。「生き直しの学校」という名の施設でしたが、そこで子どもたちと触れ合い、職員さんからは、子どもたちについて、聞くのも辛くなるようないろいろな話を聞きました。タイでは、人身売買、麻薬の蔓延、貧困などの様々な理由から、子どもたちの人権が無視されているケースが多々あります。海外でそういうことがあると漠然とは知っていましたが、子どもたちが生きていく困難さを目の当たりにする機会はなかったので、衝撃を受けました。

外に出れば、高層ビルのすぐ近くにスラム街があります。日本にも貧富の差はありますが、明確にぱっと見てわかるような状況というものも初めて体験しました。当時は、学生だったからというのも語弊がありますが、根拠のない自信と意欲もあり、何かをやってやろうという気概を持っていました。しかし、実際にタイに行ってみると何もできず、知識不足もありましたが、言葉が通じない以前の問題でした。軽い気持ちでは何ともならないことを思い知りました。ただ子どもたちと一緒にボール遊びをしたり、絵を描いたり、食事したり、正直、ボランティアというよりお客さんという立場にしかなれなかったんです。

タイでの日々が衝撃的すぎて、日本に戻ってから、児童養護施設についていろいろと調べました。もちろん日本にも存在することは知っていましたが、単語だけの知識であり、自分の生活の身近にあるものではありませんでした。結果として児童養護施設で働きたいと思い、宿直のアルバイトなどの経験ののち、北海道の施設に正社員として勤務することになりました。

施設を退所した子どもたちの「その先」への支援を考える

-児童養護施設の職員さんが集まって貴財団を立ち上げたということですが、なぜ個々の施設を越えた全体としての組織、財団が必要なのでしょうか。

近藤さん:

私自身、施設で働いてきたなかで、子どもたちと直接関わる意味や現場での重要性は分かっています。そこが大前提なのですが、その先の支援を考えることも同時に行っていかねばなりません。

例えば、現行ルールですと、子どもたちは高校卒業と同時に施設を出ねばなりません。措置延長といって、もう少し長く在籍することも認められていますが、適用ケースは多くありません。私の場合、在職期間中の延長適用は一人だけでした。2024年4月から、法改正で18歳退所のルールは撤廃されます。施設延長が認めれば、今より施設から大学に通える、などのケースも出てくるでしょう。ただ、現在の施設の経営や人材の状況が変わるわけではありませんから、延長が承認されるのはやはり少数になると推察されます。

18歳で施設を出たあとは、職員のような頼れる大人がそばにいるわけではありません。経済的にも、卒園までに充分に貯金ができている子のほうが少なく、5人に1人は赤字生活というデータもあります。住居の確保や保証人の問題、新生活にかかる費用、進学の場合は学費の工面、就職の場合は就活におけるハンデなど、ほとんどの場合多くの困難に直面することになります。

私が職員をしていた施設で、卒園生が東京で就職したケースがありました。その子が困ってSOSをしてきた時に、電話で話すことはできても東京には行けませんでした。児童福祉法で施設にいる間は生活も学業も守られますが、その後のアフターケアや支援がまったく不足しています。退所した子どもたちからは、多くの相談が寄せられます。「仕事を辞めた」「家賃が払えない」「消費者金融からお金を借りてしまった」など、その多くがお金にまつわる相談です。悪い大人が近づき、身体を売ったり、犯罪を犯してしまったり、ホームレスになったり、心の病を発症して命を落としてしまうことすらあります。

そうでありながら、在籍児童と並行して個々の施設が卒園生まで支援することは、経済的にも人的にも困難を伴います。そこに、外部の団体が行う支援の重要性があります。

-施設を退所した若者たちへの支援を具体的にご紹介ください。

近藤さん:

寄せられる相談の筆頭は、やはりお金の不足です。その解決はお金でしか解決できませんので、主たる活動は寄付を募ることになります。とくに退所時には、部屋を借りる賃料、保証人問題、進学であれば入学金や学費、就職であればスーツ代など、必要な支払いが多くなる時期です。弊財団では「全国児童養護施設総合寄付サイト」を設けて運営し、卒園する子どもたちへの寄付を集めています。ご寄付いただいた総額は、一部の施設に偏らないように財団が振り分けを行い、卒園のタイミングで子どもたちに渡せるように各施設に届けています。

令和4年度は、440か所の施設に寄付を届けました。全国の施設数は、令和2年3月末で612か所、毎年施設を退所する子どもたちの数は、平均で2,142人です(こども家庭庁集計)。金額も含めまだ途上の事業ですが、退所の若者たちの窮状を多くの方々に知っていただき、充実した内容にすべく様々な努力を重ねています。

全国の施設長に施設や子どもたちの現状を語ってもらい、ブログやYouTubeで公開しているのも、周知活動のひとつです。個別に企業を訪問して実情を伝えたり、ご寄付いただいた企業様には継続のお願いをしたり、地道な取り組みも続けています。

クリスマスの楽しみを贈る「あしながサンタ」と夢を表現する場の「日本子ども未来展」

-養護施設で暮らす子どもたちへの具体的な支援もご紹介いただけますか?

近藤さん:

クリスマスに子どもたちのプレゼント代を支援する寄付事業「あしながサンタ」を運営しています。きっかけは、ある施設から、クリスマスプレゼント代の支援依頼があったことです。施設は、運営費の使い道をそれぞれの状況に応じて決めていますが、なかには子どもたちの衣類や習い事に出費がかさみ、クリスマスプレゼント代に回せない施設もあったんです。そういうことならば、と財団で寄付を募ろうとなりました。

スタートに先立ち全国の施設にアンケートを実施したところ、施設のプレゼントの予算平均は3,000円でした。一般家庭を対象としたバンダイの調査データによりますと、あくまで実施時の平均ですが、予算が8,000円前後となっていました。その中で、施設の子どもたちを対象にどれくらいの金額があれば欲しいものが選べるかを調べたところ、5,000円ほどとなりました。そこで、施設自体の平均予算3,000円に加える2,000円分の支援を目標に「あしながサンタ」事業を立ち上げたんです。

クリスマスは、やはり子どもにとって特別なもので、どこもかしこもクリスマス一色になります。学校でも話題にのぼりますし、施設の子どもたちも新聞の広告チラシなどを広げて欲しいものを探したりしています。実は、クリスマスの時期、施設それぞれにケーキやおもちゃを送っていただくことがあります。本当にありがたいのですが、ケーキは重なると食べきれず廃棄するしかなかったり、おもちゃもマッチするものがなければ扱いに困ることが多いんです。お気持ちをいただけるのであれば、無駄にすることなく子どもたちが望むものを買える「お金のご寄付」が一番です。子どもの楽しみのための支援ができればと「あしながサンタ」事業は毎年継続しています。

それ以外の支援としては、全国の施設の子どもたちの絵画を募集しオンラインサイトで展示を行う「日本子ども未来展」という取り組みもあります。子どもたちの夢や希望を、心の中だけではなく「表に出す機会」を作ろうとスタートしたプロジェクトです。絵を描くことは、子どもたちのストレスの発散や癒しになりますし、職員がその絵を観察して子どもの内面を知る一つの基準とすることもあります。施設専属の臨床心理士の方々は子どもの絵を通じて心理分析をしています。

4回目の準備中に、たまたま関係者の中に女子プロサッカー選手の川澄奈穂美選手の知人がいました。川澄選手も絵が得意ということでご縁をいただき、未来展のために記念の絵とメッセージを寄せてもらったんです。その後、ほかにもできることがあればと申し出てくださり、現在弊財団のアンバサダーとして活動していただいてます。

子どもたちがやりたい仕事を選べるように選択肢を増やしたい

-卒園する子どもたちは、基本的に進学組と就職組に分かれると思いますが、進路に応じた支援はあるのでしょうか?

近藤さん:

はい。卒園生の進路は、施設が都市部にあるか地方かで差はありますが、平均的なデータでは今のところ進学3割、就職7割くらいですね。どちらにしてもまず必要となるのが新しい住居の確保です。この部分は、施設の職員さんたちが、児童養護施設卒園生に理解ある大家さんや斡旋に協力的な不動産屋さんを見つけるなどの努力をしています。

弊財団の支援としては、施設卒園生を対象とした求人情報サイト「もっち~ナビ」が挙げられます。ちなみに、「もっち~」は弊財団のマスコットキャラクターです。漫画家になる夢をかなえた卒園生の鈴峰あおいさんが描いてくれまして、様々な啓発運動のシンボルとなっています。

この「もっち~ナビ」には、住居の確保が壁となりがちな子どもたちのために、寮や社宅のある会社を紹介したり、児童養護施設出身者に理解のある経営者の企業を探して掲載したりして、子どもたちの職業選択の幅を広げる努力をしています。

また、就職したはいいが、途中で辞めてしまうことも少なくないんです。卒園生を特別扱いしてほしいということではありません。ただ、児童養護施設出身という背景を持つことを理解してくれている会社の場合、何らかの問題があった時、その行動の背景を考慮して対応してくださることもあるんです。そうであれば子どもたちにとっても働きやすいし、企業さんにとっても、すぐ辞められてしまうようなミスマッチが少なくなります。お互い分かった上でのマッチングができればと願っていますが、まだまだ掲載数は足りません。理解ある企業さんの掲載数を増やし、子どもたちの職業選択の幅を広げる努力を続けていきます。

-「もっち~」は様々な啓発活動のシンボルとのことですが、ほかにどのような取組みをされているのですか?

近藤さん:

FM世田谷で「もっち~ラジオ」という番組をもち、MCとしてお笑い芸人のはなわさん、女優の岩崎ひろみさんが児童養護施設についての様々な発信をしてくださっています。

今年(2024年)2月には、渋谷で「もっち~フェス」というチャリティイベントを開きました。施設の母体ともいえる全国児童養護施設協議会の桑原会長に現場から見えている現状を伝えていただいたり、卒園生で声優として活躍している神庭ひろみさんがリーディングセッションをしたりと、施設の子どもや卒園生たちが頑張っている様子も伝え、当日は募金活動も行いました。

作者によれば、「もっち~」は「やきもっち星」から来たそうです。親がそばにいない子どもたちは、幼児であれ高校生であれ、職員との触れ合いを求めています。もっと自分を見てほしい、かまってほしい、と思っているんです。私が職員だった施設では、2~3人で数十名の子どもたちを見ていました。タイミングを捉え、できるだけ個別の時間をとれるように努めましたが、やはり限界があり、子どもたちに寂しさや色々な感情を持たせてしまうことも多々あったと思います。「もっち~」は、「やきもちやいてもいいんだよ」と、子どもたちの気持ちに寄り添って、明るく肯定し、受け入れてくれているように思います。「もっち~」にも頑張ってもらい、児童養護施設の子どもたち、卒園生たちの存在を少しでも多くの方に知っていただき、ご理解や寄付などのご支援につながれば嬉しいです。

-今後の展望をお聞かせください。

近藤さん:

児童養護施設の問題は、原因は一つだけではなく日本の経済や貧困の問題など様々な課題が重なっていると思います。私たちだけで解決できることではない大きな課題です。それでも、できることを一歩ずつでもやっていかねばなりません。現状の取り組みに加え、多くの方に存在や問題を知っていただき、切れ目のないご支援に繋げていく努力を続けてまいります。

新たな取り組みとしては、現在、弊財団が中心となって、モデルケースとなるような新しい施設を作る計画が進んでいます。これは、職員さんが働き続けやすいようなシステム作りや、子どもたちによりよい支援ができる環境作りを目指しています。どの施設も一生懸命改善しようとしていますが、法の問題や予算の不足でやりたくてもできないことがたくさんあると思います。まずはよいモデルケースを作り、それを横に広げて互いに良いところを取り入れ合い、より良いかたちで施設の運営や子どもたちへの支援ができることを願っています。

-親の庇護がない子どもたちへの支援は、社会が最も優先させるべきことのひとつだと実感しました。今日はありがとうございました。

関連リンク

一般財団法人 日本児童養護施設財団公式HP:https://japan-child-foundation.org/