#インタビュー

NPOアジア人文文化交流促進協会|外国人住民を地域の「おとなりさん(日本人ボランティア)」がサポートし、相互理解を深めるプログラムで、多様性が活かされる社会を目指す

NPOアジア人文文化交流促進協会

NPOアジア人文文化交流促進協会 楊 淼(Yang Miao)さん インタビュー

楊 淼(Yang Miao)

NPOアジア人文文化交流促進協会(JII)ファウンダー、理事兼事務局長

中国北京出身、2001年留学生として来日。心理学専攻。日中間政治、経済、文化に関わる国際会議にて事務局兼通訳として10数年。大手企業向け人材育成、人事・組織コンサルティング会社、海外現地法人実務責任者を経て、2017年に日本に暮らす外国人向けに総合的な支援活動をスタート。「文化共生」をビジョンとして、外国人が抱える情報不足と孤立の課題に取り組み、日本初の「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」を立ち上げ、地域住民が外国人住民と直接つながり、 様々な日常生活のサポートしながら、交流や相互理解を深める活動を東京23区や周辺近隣県にわたり広げている。2022年から、ウクライナ、アフガニスタンの避難民への支援活動も行っている。

Introduction

日本に住む外国人の多くは、言語、社会文化、生活習慣、制度の違いによってなど、さまざまな困りごとを抱えています。しかし、身近に相談できる日本人と出会える場は多くありません。同NPOが日本で初めて展開するOFPプログラムでは、「おとなりさん」とよばれる日本人ボランティアと近隣に住む外国人がペアを組んで、半年間一対一でサポートや交流をします。サポートする側、される側という一方通行の関係を越えて、活動終了後、長く続く友情が芽生えることも多々あります。同NPOが目指すのは、人種、文化や国籍にとらわれず、それぞれがよき隣人として共生する多様性豊かな社会です。

今回は、同NPOの設立者・楊さんに「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」の誕生の背景や仕組み、展望をなどを語っていただきました。

外国人住民と「おとなりさん」が〈ギャップを解消し、なじみあい、協創する〉

-まずは、団体の概要をご紹介ください。

楊さん:

アジア人文文化交流促進協会(Japan Intercultural Intelligence)は、多様性を活かした「文化共生」の理想を実現するための団体です。具体的には2020年に日本で初めて立ち上げた「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」を中心に、日本に暮らす外国人住民向けに様々な支援活動を展開しています。OFPは、地域の日本人住民がボランティア(おとなりさん)となり、近隣に暮らす外国人住民とペアを組み、6か月間直接サポートしたり交流する、というものです。首都圏を中心に、外国人ママ、社会人、留学生、ウクライナ、アフガニスタンなどの難民、避難民を含め、40ヶ国を超える様々な外国人住民が参加し、500人を超えるおとなりさんボランティアが活動しています。OFPは単なる外国人住民の困り事の解決を越えて、双方の文化の理解、友情の育みなど、外国人を日本社会になじみやすくし、広い意味で「良き隣人」として共に生きる社会の実現を目指しています。

それ以外に「くらしの相談」や「外国人人材の就職支援」事業も行っております。OFP会員はもちろんのこと、登録をしていない外国人住民の方々にも無料で提供しています。寄せられた複雑な相談は連携する専門家につないで適切に解決をはかることも多々あります。

留学生などの就職相談も受けています。日本の慣習としての履歴書の書き方や面接の受け方など、きめ細かなアドバイスや指導をいたします。また、難民、避難民の就職支援も親身になって行っています。

-ミッションや活動指針はどのようなものでしょうか?

楊さん:

私たちのミッションは、外国人住民が日本社会になじみやすくすることです。それを通じて「外国人を含めた多様性が活かされる社会の実現」を目指しています。特に、医療、福祉、教育などの分野に注力しています。

活動指針は三つあります。「ギャップの解消」は、異なるバックグラウンドから生れる様々なギャップを平和的に解消するというものです。「なじみあう」では、外国人住民の方々と「おとなりさん」が身近な存在として理解しあうことで誤解や偏見を減らし、個人や社会に多様性を育むリアルな経験の場を提供します。「協創」では、様々なステークホルダーに働きかけ、多様性を活かす新しい価値を創出します。

直接知ることができれば、人間同士の関係性が大きく変わる

-アジア人文文化交流促進協会はどのような背景から設立されたのですか?

楊さん:

この団体は、2010年に設立しました。私は中国籍で、2001年に来日して以来の「外国人住民」当事者です。当時は会社員でしたが、並行して10年以上、日・中の政府間の歴史ある経済・文化交流会議に、通訳や運営メンバーとして携わっていました。

2009年ごろに、中国では尖閣諸島に関連する反日デモが起こり、一部暴動も起きました。日本で報じられたニュースを見て、私は大きなショックを感じたんです。自分自身は日本に住み周囲から様々なサポートを受けているし、通訳として日中両国の会議メンバーが長期にわたり信頼関係を築き、本音で語りあう場面を度々経験しましたから。

人間は、直接交流していれば、例え考えが違っていても、そこには話しあいや学びあいが生まれます。また、何かを一緒に楽しむ関係性も築けます。メディアなどの二次情報だけでものごとを判断してしまう人々が、過激化しやすいなと感じました。

同時に、その頃から日本は「観光立国」を打ち出し、中国も含めてインバウンドの観光客が大幅に増えてきました。しかし、自分の経験から言うと、彼らが実際に日本人に接する機会はほぼありませんでした。硝子のカプセルに入って日本を観て帰っていく、そんな風に感じました。「直接人と人が触れあう機会がなければ互いに分かり合うことが難しい」という実感と、中国で起きた反日デモに感じたショックがきっかけとなり、2010年にこのNPOを設立しました。

当時の活動は、来日した観光客が日本人と一緒に日常生活の一部分を体験する、楽しむ場を作り出す形でした。今では一般的になったこのような企画も当時はほとんどなく、珍しかったと思います。

その後、仕事で上海駐在となって2年ほど日本を離れ、NPOの活動はペースダウンしました。プライベートでは結婚して子どもも生まれ、2013年に日本に戻った時は「育児と仕事の両立」に直面しました。しかし、いざ日本で子育てをするとなった時、日本語には不自由しない身であっても、出産や育児など分からないことがたくさんありました。例えば、保育園に子どもを入れる際には、入園方法、入園準備、その生活全般など細かいことが全く想像もつきませんでした。日本語ができない外国人だったら相当大変だろうな、と実感したんです。そこで、外国人住民が直面する課題にどんどん関心が高まり、2017年に定款変更を行い、活動の対象を「観光客」から「日本に住む外国人」に変え、外国人住民が日本人とリアルな関わりを持ち、それを通じて生活の場を広げ、生活の充実度、幸福度を高めていくことを目的として再スタートしました。

支援する・される側ではない「双方向の関係性」を築く

-中心的な活動である「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム(OFP)」について、詳しくご紹介いただけますか。

楊さん:

まず、このプログラムがどのような経緯で作られたのかをお話しします。

活動の始めは、外国人が抱える困りごとを解決するために、東京都の助成事業として一年間、専門家を呼んで勉強会、相談会を開く事業をしました。そこで気づいたことがありました。私自身や周囲の外国人から相談を受けた経験を振り返ってみても、実は外国人の困りごとの90%以上は、専門家でなく、生活経験があれば、普通の日本人でも答えられる生活まわりのことだったんです。そのうえ、時間と場所を決めて開く相談会では、必要な時に「すぐに相談する」ことができません。そして、以前から感じていることですが、外国人住民が気軽に日本人と繋がることは大変難しい状況です。「いつでも、どこでも、気軽に知りたいことを聞ける」ようにするために、どうしたらいいのかを考え続けた結果、生活経験のある普通の日本人とつながり、信頼関係を築きながら交流を深めて行けるということで、生まれたのがOFPでした。半年ぐらいパイロット運営を行い、2020年から一般公開しました。

冒頭でもお伝えしましたが、OFPでは、外国人住民が「おとなりさん(日本人ボランティア)」と6か月ペアを組む仕組みです。外国人住民は、いつでもペアの「おとなりさん」に相談できますし、一対一の交流を通じ、日本での生活に慣れ、地域や文化、習慣になじんでいくことができます。

一過性の国際交流や相談ではなく、相手がどんな人か、どんなニーズがあるかを分かったうえで、互いを助けあい、理解し合って「信頼関係を作っていける」ことが特徴です。支援する・される側ではなく、双方向の関係性を築きながら長いお付き合いをしてもらうことに重きを置いています。

OFPでは、外国人住民のサポートを行う主体は基本的に一人ひとりの「おとなりさん」で、それぞれの日常生活の中で自然な形で助け合っています。同時に、難しい問題や専門的な知識が必要な場合は、コーディネーターが「おとなりさん」の代わりに課題をひきとり、内容によってはJIIの専門家チームにつなげます。

-6か月が経過したペアは、その後どうなるのですか?

実際のペアが活動している時の写真

楊さん:

6か月後のプログラム終了の際には、双方に交流を続けるか否かの意思確認をします。双方ともにまた会いたい、ということになれば、そこから先はOFPのフォローがなくなり、「普通の友人関係」となります。多くのペアが、半年が過ぎたあとも、友人関係を長く続けています。

一回プログラムが終了しても、また他の方とペアを組むこともできます。OFPがスタートして以来、今では4ペア目と交流していて、以前のペアとの交流も続け、たくさんの外国人の友人を作っている「おとなりさん」もいます。

-OFPには、外国人、日本人双方の誰でも参加できるのでしょうか?

楊さん:

誰でも参加していただけます。ただし、参加者全員の安全安心を守るために、活動規約やルールを守っていただく必要があります。登録するには、申込フォームへの記入だけでなく、本人確認やオンライン説明会への参加、一対一のヒアリングが必須です。

活動ルールの例として、外国人参加者は、「おとなりさん」に家事の手伝い、子どもやペットの世話、経済的支援など、労働や経済的負担を強いるようなことは頼めません。また、交際や出会いを目的とする参加は禁止しています。

ヒアリングでは、参加目的、これまでの経験や職歴、家族構成、趣味、活動時間、どんな人とのペアを望むか、などを詳しく伺います。登録者について詳しく理解すると同時に、OFPの主旨と違う目的の方々が入ってこれないような工夫もしています。誰にでも開かれているものですが、しっかりした登録、運営を行うことで、トラブルを防ぎ、安心して参加できるという点が、参加者の方々に高く評価されているポイントでもあります。

活動中の6か月間は毎月、ペアそれぞれにアンケートを取り、状況の共有や関係性への感想などを伺います。順調そうでなければコーディネーターが介入し、誤解があるなら解き、継続が難しそうなら早い時期に察知してペアを変える提案をしたり、手厚いフォローをしています。

「外国人住民と暮らす」とは?を問われる「大きな転換期」

-外国人登録者と「おとなりさん」登録者の数はどれくらいでしょうか。

また、ペアの実際の交流例や感想などをご紹介いただけますか。

楊さん:

2024年3月31日時点で、おとなりさんボランティア数はのべ740人、外国人は約500人です。活動範囲は、東京とその近隣の県に限られています。

ペアの交流例では、最近ある「おとなりさん」から印象的なお話を伺いました。この方はロシアによるウクライナ侵攻が始まる前に、ロシア出身の方とペアを組み、互いの子ども同士も仲良くなったそうです。プログラムが終わったあとも交流が続く中、ウクライナ侵攻が始まりました。その後、その方はJIIが行っているウクライナ避難民への支援活動に参加し、子育て中のウクライナ避難民家族と長く関わるようになりました。その方のお子さんにとっては、ロシア人もウクライナ人も、どちらも仲良く遊べる友だちです。ウクライナから避難してきた友だちも大変だけれど、ロシアに帰れなくなっている友だちも大変だ、と分かるようになり、戦争のニュースが流れてくると、ただどこかの戦争ではなく、その友だちたちの顔が浮かぶようになり、戦争に対するお子さんの見方、考え方が変った、とのことでした。

現在、避難民支援も行っていますが、さきほどご紹介した通り、ウクライナから避難したい方から連絡を受けた、という緊急事態の対応からのスタートでした。結果的にウクライナからの来日、そして来日後の定住、今もなお支援を続けています。ニーズが先にあって活動範囲が広がったケースです。特徴的なのは、OFPでは、難民、避難民家族に対して、おとなりさんボランティアたちがチームを組んで、「関わりたい方が、必要な時に、できるサポートをする」というスタイルで活動しています。一般の方が難民、避難民と直接関わることに大きな意味を持っていると考えています。

また、アフリカの方とペアを組んだおとなりさんのお話ですが、一般的にアフリカというと、ニュースなどでよく報道される貧困や飢餓のイメージが強いのですが、ペアの方は英語も日本語もできるプログラマーでした。その方とお子さんも含めて、アフリカに対するイメージが大きく変わったそうです。

このように、ステレオタイプのイメージとまったく違う中国人もいれば、アメリカ人も、みんながストレートで外向的な人ばかりではない、既成概念が変わった、というお話を多く聞きます。

日本にとっては、これまでの長い歴史の中で、自分たちが外に出ていくことはあっても、多くの外国人が国内に入ってきて、違う文化、違う考え方を持ちこみ「一緒に社会を作っていく」経験は少なかったと思います。経済の分野ではグローバルになった、と皆が実感していますが、今、「外国人住民と一緒に暮らす」とはどういうことなのか、を問われる「日本の大きな転換期」だと思います。

「共生」を単なるスローガンとして掲げていても何も始まりません。外国人住民と「おとなりさん」が、リアルな交流経験を積み重ねることによって、ひとり一人の意識が変わり、社会が変わると思っています。

外国人住民が自然に「おとなりさん」になることが理想

-日本は、かつてに比べて急速に外国人住民が増えてきました。その状況を知る最前線のお立場から見て、将来的に、日本がアメリカのような「人種のるつぼ」となり、人種が多様化する可能性があると感じますか?

楊さん:

それは大事な質問ですが、難しい話でもあります。外国人は、単に外から入ってくるだけではありません。日本で生まれ育った外国ルーツの子どもたちも増えているんです。自分のルーツの国に行ったこともない、その言葉も話せない、という子どももたくさんいます。

社会がこれまで持っている、日本人、外国人、そういう境界線が大きく変わりつつあるんです。外見が欧米人風でも英語が話せない、日本で生まれ育ったけど、肌の色が濃い。その子たちは、外国人か、日本人か?という現状が生まれています。これまで外国にルーツがある子どもたちの多くが何かしら苦しい経験をしてきました。なぜかといえば、それは本人の問題ではなく、社会が「日本人か否か」という目でしか見れなかったからです。

外国人が短期間に大量に押し寄せてくることは考えられません。日本は世界でも稀に見る厳しい入国入管制限の政策をとっていて、簡単に来れる国ではありません。でも、日本に暮らす人々のルーツは確実に多様化しています。

この人々に対して、社会が持っている目がどう変わるか、変われるか、それに対する受容や柔軟性が、社会の真の多様性であり、生命力でもあると思います。

-外国人住民への日本人の意識が問われる、ということですね。その変化に期する思い含め、将来への展望をお聞かせください。

楊さん:

活動の展望で言えば、OFPの活動規模を日本全国に広げたいと思いますが、もっとも大切なのは、外国人住民に対する皆さんの考え方や感じ方に変化をもたらすことです。外国人が日本のどこに住んでいても、ちゃんと社会の中になじめて、そこの「住民の一員」になっていけるということです。「外国人」「日本人」に分けるのではなくて、「普通の隣人」となり、身近にいる日本人と自然の関わりができるようになる、そんな状態が理想です。逆説的に言えば、「おとなりさん」というボランティア活動がなくても、外国人住民が自然に「おとなりさん」と見られればいいと思います。OFPは、それを皆で一緒に実践するためのツールです。

-出身は関係なく、誰もが誰かの「おとなりさん」になれればよいですね。今日は、ありがとうございました。

関連リンク

NPOアジア人文文化交流促進協会公式HP: https://j-ii.org/

facebook: https://www.facebook.com/JII.Tokyo/

2019年 若者力大賞(第11回) https://www.youthleader.or.jp/youth-awards/11th

2023年 かめのり大賞(第17回) https://www.kamenori.jp/17thkamenoriawardsceremony/