
2024年の東京都の人口は、転入者が転出者を7万9,000人余り上回る転入超過でした。この転入超過の傾向は、過去をさかのぼってもほとんど変わりません。
こうした都市集中型を緩和する1つの手段が都市分散化です。
この記事では、都市分散化とは何か、注目される背景、都市集中型のリスク、メリット・デメリット、実現するための取り組み、SDGsとの関係を解説します。
目次
都市分散化とは

都市分散化とは、人口や経済、行政、文化が一部の都市に集中するのではなく、地方にバランス良く分散することを言います。
日本には東京をはじめ、大阪、名古屋、横浜、福岡といった大都市がある一方、人口が少なく、活気の失われた地方も存在します。
今のような都市集中型の社会にはいくつかのリスクがあるほか、持続可能な社会の実現には遠いというデータがあることも事実です。都市分散化は、日本の将来に影響する重要な課題として、その取り組みが進められています。
都市集中型のリスク
そもそも、今の日本で起きている都市の人口集中には、どのような問題があるのでしょうか。いくつかあるリスクのうち、2つのポイントを取り上げます。
災害などによる影響
都市集中型のリスクの1つは、災害が発生すると大きな影響を受けることです。日本は、地震や台風、富士山の噴火などの災害や、感染症の拡大といった危険があります。
もしこうした災害などが起きれば、都市に集中した人々が大きな被害を受けるほか、政府関係機関や企業・経済団体、電力や道路などのインフラが機能しないことも考えられます。
また、災害が起きた後の復興には、行政や経済活動、インフラが欠かせません。
そしてこれらを担うのは人です。都市集中型は、災害への対策の視点からも1つのリスクと考えられています。
人口減少
もう1つは、大都市に人が集まることで、日本全体の人口減少がより進む可能性があることです。東京都の出生率は0.99と全国で最も低く、7年連続で低下しています。
また、全国平均の1.20を下回る都道府県の中には、北海道、埼玉、千葉、神奈川、大阪などの大都市が含まれています。
こうした出生率の低い大都市への集中が、結果的に人口減を招くという考え方です。
つまり、大都市の人口を出生率の比較的高い地方に分散化することで、人口減を避けられるという見方もあります。
これらのリスクを避けるためには、都市分散化を進めることも1つの手段です。
都市分散化が注目される背景

都市分散化が注目される背景には、こうした都市集中型のリスクを受けやすい日本の現状があります。
また、AIによる「2050年時点の日本」の分析から、興味深いデータも得られています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
日本の現状
都市分散化が注目される大きな背景に、都市への人口集中がより進む日本の現状があります。
2024年10月1日時点での都道府県の人口は、東京都の1,417万8千人が最も多く、続いて神奈川県の922万5千人、大阪府の875万7千人です。
■2024年10月1日時点の都道府県の人口(100万人以上)
1,000万人以上 | 東京都 |
900万人台 | 神奈川県 |
800万人台 | 大阪府 |
700万人台 | 愛知県、埼玉県 |
600万人台 | 千葉県 |
500万人台 | 兵庫県、福岡県、北海道 |
300万人台 | 静岡県 |
200万人台 | 茨城県、広島県、京都府、宮城県、新潟県 |
100万人台 | 長野県、岐阜県、群馬県、栃木県、岡山県、福島県、三重県、熊本県、鹿児島県、沖縄県、滋賀県、奈良県、山口県、愛媛県、長崎県、青森県、岩手県、石川県、大分県、宮崎県、山形県 |
最も多い東京都の人口は全国の人口の11.5%を占め、これに続く9都道府県の人口は全国の人口の55.5%と半数を超えています。
さらに、転出者から転入者を引いた数を示す転入超過数を見てみると、2023、2024年は東京都の7万9,285人が最も多く、神奈川県、埼玉県と続いています。人口の多い都市は、転入者が転出者を上回る転入超過という状態であることが分かります。
東京都を中心とした大都市に人口が集まるこうした流れは、戦後から大きく変わりません。災害による影響などのリスクを最小限にするためにも、都市分散化は注目されています。
AIによる未来のシナリオ
参考にしたいもう1つのデータは、2021年に発表されたAIによる「2050年時点の日本」の政策研究*です。この研究では、2050年までの「ポストコロナ社会」のシナリオを導き出し、望ましい未来は何かを分析しています。その一部を紹介しましょう。
*国立大学法人京都大学こころの未来研究センター(広井良典教授)と株式会社日立コンサルティング(スマート社会基盤コンサルティング第2本部)による政策研究。株式会社日立製作所が開発した「AIを活用した未来予測と政策提言手法」が用いられた。
まず、AIが提示した約2万通りのシナリオを6つのグループに分けます。そして14の分野において、2020年よりも良くなるか、悪くなるかを◎、○、△、×で整理したのが次の図表です。
■各分野のシナリオ評価結果
この評価によると、2020年よりも全体的に良くなるとAIが評価したシナリオは「グループ3」「グループ6」の2つです。各グループの2050年時点でのシナリオの特徴は、次のように示されています。
■各シナリオグループの特徴
グループ3は、地方圏の出生率や就業者数が向上して幸福度も高い「地方分散徹底型」、グループ6は、東京圏と地方圏の分野のバランスが取れている「都市・地方共存型」です。
どちらのグループも、2024年の出生率向上が分岐点として示されています。そして、その政策として重要とされているのが、「人口集中を緩和し、改善する政策」、つまり出生率向上につながる可能性のある都市分散化であると分析しています。
2024年は過ぎていますが、出生率の向上と人口集中を緩和することが、今なお課題であると言えるでしょう。*3)
都市分散化のメリット
次に、都市分散化のメリットを確認しましょう。都市分散型のメリットは、都市集中型のリスクにより受ける影響を小さくできることです。特に災害などの対策の1つとして期待されています。
災害対策
都市分散型のリスクの項で触れた通り、災害などが起きた際、大都市に集中する人や政府関係機関、企業・経済団体、インフラなどの被害はより大きな被害を受けると予想されます。都市分散化により大都市の人や機能を移動することで、被害を軽減するメリットがあります。
地域の活性化
地方には、特有の資源や伝統的な文化などがあります。
都市分散化により地方の人口が増えれば地域が活性化し、これらを守ることにつながります。また、経済活動が活発化することで出生率の比較的高い地域の転出者の数を減らし、全体の人口減少を緩和できる可能性もあります。
都市分散化のデメリット
都市分散化のメリットがある一方で、デメリットはあるのでしょうか。考えられるポイントの1つを取り上げます。
経済不活性の可能性
大都市には人や産業が多く集まるため経済活動が活発に行われるほか、対面でのコミュニケーションもとりやすく、人とのつながりを保ちやすいことが利点です。
また、多様な人材がいることで、企業の生産性の向上も見込めます。しかし、都市分散化が進めば、これらのメリットを生かせないこともあるでしょう。
一方、東京圏*の1人当たりのGDPとその全国比を、ニューヨーク、ロンドン、パリといった大都市と比べてみると、生産性が高くなる傾向は見られないというデータもあります。人口が集中する東京圏とはいえ、経済的に優位であるとは限らないという見方もあります。
都市分散化を実現するための取り組み

日本は長い間、東京を中心とする都市集中型の社会を続けてきました。これまでも、都市分散化のメリットを実現するためのさまざまな施策を講じてきた経緯もあります。
ここでは、法律などの整備や移住の促進に関する取り組みを取り上げます。
法律などの整備
日本が高度経済成長(1950〜1960年代)を遂げたのは、人口が大都市に集中した背景があります。一方、地域間の格差が生じたため、「国土総合開発法」(1950)を基に、工業の分散化を図る全国総合開発計画(1962)が閣議決定されます。
その後、一時的に地方分散の兆しがみられたものの、再び東京一極集中が強まり、1987年には多極分散型国土の構築を目標とした第四次全国総合開発計画が進められました。
現在整備されている都市分散化に関わる主な法律や政令、府令は次の通りです。
・「まち・ひと・しごと創生法」(2014):東京圏の人口集中を是正し、それぞれの地域で住み良い環境を確保する
・「地域再生法」(2017)、関連する政令や府令もあり:地方公共団体の取り組みによる地域経済の活性化、地域における雇用機会の創出を総合的かつ効果的に推進する
・「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」(2018)、関連する政令や府令もあり:地域の大学の振興や、若者の雇用機会の創出のために措置を講じる
また、2020年には、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、東京圏への一極集中を是正する取り組みが進められています。
移住の促進
地方自治体では、大都市への人口流出を抑えるとともに、人を呼び込む取り組みが進められています。2つの市の移住施策の例を取り上げます。
新潟県佐渡市
新潟県佐渡市は、総人口約5万人、高齢者の人口比率は約40%の市です。毎年1,000人程度の人口が減少しているほか、少子高齢化が進んでいます。人口減少を食い止めるため、移住者を対象にした次のような取り組みを行っています。
移住支援金の支給 引越費用の補助 UIターン者奨学金返還支援事業 家賃補助 住宅のリフォーム補助 3〜5歳の幼稚園・保育園の利用料無償化、医療費助成、返還完全免除の奨学金制度など 医療・介護・福祉人材や農林水産業の就業支援 起業No.1の島を目指した創業支援 |
取り組みのポイントは、移住者が働けるように企業誘致施策も同時に進めていること、そして、移住者・移住希望者に対して悩みや困りごとの相談を受ける「さど暮らしサポーター制度」を設け、市民が移住支援に関わっていることです。
宮崎県綾町
宮崎県綾町は、総人口約7,000人、高齢者人口比率は約36%の町です。人口減少の問題に直面し、若い世代を中心とした転出者の抑制と移住・定住者の確保を目指しています。
また、平成24年には、国内5番目となるユネスコエコパークに登録され、自然と共生する「サステナブルなまち」や「有機農業のまち」として注目を集めています。取り組みの内容は次の通りです。
町ぐるみで自然生態系農業を推進 住宅取得支援 移住者との交流を深める自治公民館を拠点とした自治会活動による活動(「河川清掃」「花いっぱい運動」「町民体育大会」など) |
取り組みのポイントは、有機農業の町、サステナブルな町としてブランディングし、移住者を集めていることです。*5)
都市分散化とSDGs
最後に、都市分散化とSDGsとの関係を確認しましょう。災害などのリスクへの備えとしての都市分散化は、SDGsのいくつかの目標に該当します。
災害時に電力が利用できなくなる可能性に備え、エネルギーを供給できる場所を分散化させれば、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」にあるように、すべての人がエネルギーを利用することが可能です。
また、持続可能なインフラを構築する点では、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や、安全な住宅、災害リスク管理に関する目標11「住み続けられるまちづくりを」が当てはまります。
他にも、地域の活性化により経済が活性化すれば、目標8「働きがいも経済成長も」の実現につながるなど、都市分散化はSDGsと深い関わりがあります。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
都市分散化は、これまでさまざまな形で進められてきました。
しかし、都市集中は現在も解消されていない状況です。災害のリスクなどに対応するためにも、引き続き取り組んでいく必要があるでしょう。
法律などの整備をはじめ、国や自治体などによる移住などの取り組みも行われています。都市分散化は、日本で安心して暮らすために、私たち自身も考えていきたいテーマです。
参考
住民基本台帳人口移動報告 2024年結果 結果の概要 2025年1月|総務省統計局
令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
都道府県別にみた年次別合計特殊出生率|政府統計の総合窓口e-Stat
住民基本台帳人口移動報告 2024年結果 結果の概要 2025年1月|総務省統計局
AIと予測するポストコロナの未来 ~ポストコロナにおける新たな分散型社会とは~:株式会社 日立コンサルティング
多極集中型の日本が強い。 2万通りのAIシミュレーションで分かった、2050年幸せな未来 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第3節 分散型社会への移行
各国の主要都市への集中の現状 令和元年12月6日|国土政策局
新たな国土形成計画に向けた主要論点整理|国土交通省
関連法令・閣議決定等 – 地方創生|内閣官房・内閣府総合サイト
第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)について~感染症の影響を踏まえた今後の地方創生~令和2年12月|内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局内閣府地方創生推進事務局
令和4年度移住・定住施策優良事例|内閣府地方創生推進室
この記事を書いた人

池田 さくら ライター
ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。
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