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ベーシックインカムはいつ日本で導入される?可能性はどのくらい?【2023年最新】

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新型コロナウイルスの大流行により、日本を含む世界各国でベーシックインカムが脚光を浴びています。

ベーシックインカムの考え方はかなり昔からあったものの、財源を確保するのが難しいことや社会保障制度との兼ね合いをどうするかといった問題があるため、積極的に議論がされてきませんでした。

では、なぜ今ベーシックインカムを頻繁に耳にするようになったのでしょうか。

今回はベーシックインカムの歴史やメリット・デメリット、世界で行われたベーシックインカムの実験、日本のベーシックインカムの可能性、SDGsとの関連についてまとめます。

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムとは、年齢・性別・所得などに関わらず、すべての国民に一定の金額を支給する制度です。「ベーシック(基本)」と「インカム(収入)」の合成語で、一般的には最低所得補償と訳されます。(略してBIと表記されることもあります。)」

新型コロナウイルスのパンデミックにより社会が混乱したとき、このベーシックインカムという考え方が注目されました。

ベーシックインカムの具体的な定義として、デジタル大辞泉では

「所得補償制度の一。すべての国民に、政府が生活に足る一定額を無条件で支給するもの」

としています。*1)

また、令和2年度少子高齢社会等調査検討事業報告書の中では、

すべての国民に所得制限などの条件を設けず、毎月、一定額を政府が支給する社会保障政策である。

令和2年度少子高齢社会等調査検討事業報告書

としています。

社会保障との違い

ベーシックインカムの内容を見ると、社会保障と何が違うのか疑問を抱く方もいると思います。ベーシックインカムと社会保障の違いは、一定の条件を課すか課さないかです。社会保障とは一定の条件を満たす人に、一定の保証を提供する制度のことです。年金であれば年金保険料を納めた人が、生活保護であれば収入が一定を下回れば、失業保険は失業したらというように、〇〇したら、△△の保障が出ます。

一方、ベーシックインカムにそのような条件はありません。国民とするか、外国人を含む居住者にするか、あるいは支給開始年齢を何歳とするかといった点は条件となるかもしれませんが、それ以外については無条件です。使途についても政府に拘束されることがないため、完全に自由に使えます。

ベーシックインカムの歴史

ベーシックインカムの考え方は16世紀のヨーロッパで生まれたとされています。*2)

ここでは「ベーシックインカムの誕生」と「現代ベーシックインカムの考え方をまとめた経済学者ミード」について解説します。

ベーシックインカムの誕生

16世紀、イギリスのトマス・モアは著書『ユートピア』において、獲得した食料を共同体に属する人たちが平等に分かち合う姿を描いています。この考え方をベーシックインカムの起源とするのが一般的です。

18世紀末、イギリスのトマス・ペイントマス・スペンスは、ベーシックインカムの思想を支持すると表明。フランスのニコラ・ド・コンドルセも貧困や不平等への対策としてベーシックインカムを支持します。こうして、ベーシックインカムの基本的考え方が整理されていきました。

ミードによるベーシックインカム論

20世紀後半、イギリスの経済学者ミード一定年齢に達した人すべてにベーシックインカムを支給するべきだと主張しました。この考え方が現代のベーシックインカムの基本となっています。*3)ベーシックインカムを支給する代わり、従来の社会保障を廃止するよう主張しました。

ベーシックインカムのメリット

全ての人に所得を補償するベーシックインカムですが、この仕組みを実行するとどのようなメリットがあるのでしょうか。以下で2つのメリットを解説します。

貧困対策になる

ベーシックインカムは貧困対策につながります。

【貧困率の年次推移】

出典:厚生労働省*4)

日本の相対的貧困率は15%前後です。相対的貧困率とは、所得中央値(一般的には50%)を割り込んでいる人たちの割合のことです。無条件で支給されるベーシックインカムは高所得者層と相対的貧困に分類されている人の所得の格差を縮める方法の1つとして有効です。

また、生活は苦しいものの生活保護を受ける水準ではないとされている人にとって、ベーシックインカムはかなり有利に働きます。ベーシックインカムには所得の制限がなく、いわゆる”ワーキングプア”とよばれる働いていても生活が苦しい人の収入の底上げにつながるからです。

※ワーキングプア

フルタイムで働いているが、生活保護水準以下の収入しか得られない人々のこと*5)

労働環境を改善できる

ベーシックインカムは労働環境改善にもつながります。近年話題になる事柄の一つに”ブラック企業”があります。ブラック企業とは、労働者に極端な労働時間やノルマを課す企業のことです。賃金未払いやパワハラの横行など企業のコンプライアンス意識の低さが問題となっています。*6)

※コンプライアンス

法令遵守。特に、企業がルールに従って公正・公平に業務を遂行すること。*7)

ベーシックインカムが得られるようになれば、生活維持のためブラック企業でいやいやながら働く必要がなくなるかもしれません。これに伴い退職者が続出すれば、それを防ぐため、企業のコンプライアンス意識が向上し、労働環境が改善されると期待されます。

また、無理な残業をしなくてもよくなるため、ワークライフバランスが取りやすくなったり、給与が低くても自分のやりたい仕事に就くといった選択肢も取りやすくなります。

ベーシックインカムのデメリット・課題

ベーシックインカムには可処分所得(自由に使えるお金)の上昇や労働環境改善などの効果が見込まれます。しかし、解決すべき課題もあります。今回は労働意欲と財源の問題について解説します。

労働意欲の減退につながる

ベーシックインカムについて指摘されることの1つに、労働意欲が減退するのではないかというものがあります。最低限の保障がされると無理に働かなくても生きていくことができます。そうなると働く意欲がなくなってしまうというわけです。

経済学の用語に「フリーライダー」というものがあります。これは、必要なコストを負担せず、利益だけ得る人のことです。ベーシックインカムを実施すると、働かずに収入が得られるため、フリーライダーが増加するのではないかと懸念されています。

何を財源とするかが定かではない

ベーシックインカムを実施するには巨額の財源が必要です。

【令和5年度の日本の国家予算】

【令和5年度の日本の国家予算】
出典:財務省*7)

令和4年度を例にとると、一般会計の歳出総額約110兆円のうち、社会保障に充てられているのは全体の32.9%、金額にして36.3兆円です。ベーシックインカムを実施する際、社会保障費を全て充てたとしても不足すると考えられます。なぜなら、いままで支給されていない人も支給対象として加わるからです。

もし、日本人の人口を1億2千万人、国民1人あたりに10万円のベーシックインカムを支給するとなると1カ月で12兆円、1年で144兆円の予算が必要です。これに、支給に関する事務経費等をいれると総額はさらに膨れ上がります。

この予算を確保するために、社会保障を廃止する可能性も否めません。加えて、医療・福祉の国民負担が増加することもあり得るでしょう。かといって、現在の社会保障水準を維持しつつベーシックインカムを導入すると、財政の維持が困難となります。

現在、日本の国家予算の5分の1が国債の返済や利払いに充てられています。そのため、国債増発でベーシックインカムの財源に充てるのは困難です。そうなれば、ベーシックインカムの財源となる新税を導入せざるを得なくなるでしょう。

まとめると、最悪の場合、現行よりも社会保障水準が低下し、税負担が増大する結果を招きかねません。ベーシックインカム導入にあたっては、そのようなことを引き起こさないための制度設計が必須です。

世界のベーシックインカム導入国と現状

ベーシックインカムについて理解できたところで、世界の導入国と現状を見ていきましょう。

フィンランド

フィンランドでは、2015年の総選挙に勝利した中央党が選挙公約として掲げてきたベーシックインカムの実験を行いました。対象となったのは抽選で選ばれた2,000人です。彼らに失業手当と同額の560ユーロをベーシックインカムとして支給しました。*8)

この実験によって、ベーシックインカムを支給された人は失業給付だけだった人に比べ、6日長く働いたことがわかりました。*8)この結果については、ベーシックインカムが労働意欲を失わせていないと評価できる一方、6日であれば大差はないと考えることもできるため、決定的な結果とはいいがたいものです。現在、この政策は終了しています。

【関連記事】【2023年最新】SDGsランキング1位フィンランドの取り組み

スペイン

スペインでは2020年6月からベーシックインカムを開始しました。きっかけは新型コロナウイルスの爆発的流行です。*9)支給されるのは月額450〜1,050ユーロです。*10)スペインのベーシックインカムは無条件に行われるものではなく、収入や保有資産といった一定の条件が付けられています

日本のベーシックインカムの現状と導入される可能性

ヨーロッパを中心にベーシックインカムの導入実験や試験的導入の動きが見られます。日本では実現するのでしょうか。 ここでは、導入される可能性や時期、コロナをきっかけに巻き起こった導入の議論などについて整理します。

いつ導入される?実現しない?

結論を先に言えば、日本におけるベーシックインカムの導入は難しいといえます。その理由は財源問題の解決の見通しが立たないためです。

先述したとおり、日本の国家予算は5分の1が国債の利払いや返済に充てられています。その一方で、1年間の国家収入である歳入の3分の1強が国債による借入で賄われています。

【令和5年度補正後予算の内訳】

財政はどのくらい借金に依存しているのか 財務省
出典:財務省*12)

新たに国債を発行してベーシックインカムの財源に充てると、国債の返済や利払いの額が今以上に大きくなり、国家財政が破綻してしまう可能性があります。

ベーシックインカムを導入するのであればこれまでの社会保障を見直し、ベーシックインカムに一本化する必要があります。もらえる人が増える一方、これまでのサービスよりも全体的に低下する可能性もあります。

仮に、これらの問題をクリアして財源や社会保障の一本化を実現できる見通しが立っても、社会に関する大きな変革を実行する前には選挙で民意を問う必要があります。そのため、少なくとも大規模な国政選挙後でなければ実施困難だといえます。

現状ではベーシックインカム実現の可能性は低く、実現するとしても10〜20年後となるといった見方もあります。

コロナ禍で導入議論が活発化

コロナ禍は日本社会に大きな影響を与えました。その一つがオートメーション化の進展AI技術の発達です。感染防止のため工場の自動化が進められるのは、コロナ禍をきっかけとしたオートメーション化のわかりやすい例といえます。*13)

加えて、かねてより指摘されていたAI技術の発達が人々の仕事を奪うという問題もクローズアップされています。オートメーション化やAI技術の発展により仕事を奪われる人々の生活を保障するため、ベーシックインカムを導入するべきだという主張が見られます。*13)

日本では2021年の総選挙において、日本維新の会がベーシックインカムの実施を公約として掲げました。社会保障を統合してベーシックインカムとし、毎月6〜10万円を支給するというものです。

今後、経済状況が悪化するとベーシックインカムが選挙の争点として浮上するかもしれません。

ベーシックインカムとSDGs目標1「貧困をなくそう」との関係

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ベーシックインカムの考え方はSDGsと大きくかかわってきます。なかでも、目標1の「貧困をなくそう」と深く結びついていますので、その点について解説します。

貧困対策というと、日本には縁がないと考えられるかもしれません。しかし、現実には日本にも経済的に苦しんでいる人が大勢います。先程述べた「相対的貧困」の数字をふりかえると、国民の15%前後が平均の半分に満たない所得で生活している相対的貧困に分類されています。*4)

生活保護を受けるほど低収入ではないものの、働いても生活が楽にならないワーキングプアと呼ばれる人々からすれば、少しでも生活を安定させるための収入が必要です。そのためには、ベーシックインカムのように無条件で支給されるお金はとてもありがたいものだといえます。

現行の社会保障制度ではなかなか救い上げることができない相対的貧困層の生活を保障するには、ベーシックインカムがとても有効だといえるのです。

まとめ

今回はベーシックインカムについてまとめました。ベーシックインカムには最低限の所得を補償する機能があり、貧困対策や労働環境改善に有効であることがわかりました。しかし、実現には巨額の費用が必要であることやベーシックインカムの実施により労働意欲が減退する可能性があるとの指摘もあります。

フィンランドやスペイン、カナダ、ドイツなどでベーシックインカムが試験的に導入されていますが、本格的・継続的な導入には至っていません。日本で導入されるにしても財源問題の解決や国民の賛同などが必要であるため、すぐに導入される可能性は低いといえます。

とはいえ、貧困問題や労働問題は現代日本において無視できない問題であるため、その処方箋としてベーシックインカムを検討しても良いかもしれません。

参考
*1)デジタル大辞泉「ベーシックインカム(べーしっくいんかむ)とは?
*2)NHK「1からわかる!ベーシックインカム(1)そもそも、どんな制度なの?
*3)関西大学社会学部紀要「ベーシック・インカムと社会保障への影響 −新し い所得税制と社会保障との統合の可能性ー
*4)厚生労働省「「2019年国民生活基礎調査の概況」
*5)デジタル大辞泉「ワーキングプアーとは? 意味や使い方
*6)確かめよう労働条件「「ブラック企業」ってどんな会社なの?|Q&A
*7)財務省「日本の財政の状況
*8)国立社会保障・人口問題研究所「フィンランドにおける「ベーシックインカム」実験:概要と展望
*9)Forbes Japan「スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言
*10)第一生命研究所「コロナ危機とベーシック・インカム ~スペインが類似制度を近く開始~
*11)Ledge.ai「スペイン、上限約12万8000円のベーシックインカム 申請殺到で行き詰まりに
*12)財務省「財政はどのくらい借金に依存しているのか
*13)日本証券経済研究所「コロナ危機とベーシック・インカム