ユダヤ教は、世界最古の一神教であり、約4000年の歴史を持つと言われる宗教です。キリスト教やイスラム教の基盤となった宗教としても知られています。
近年では、グローバル化や多様性への関心の高まりから、ユダヤ教に対する理解の必要性も高まっています。しかし、日本ではユダヤ教徒の人口が少なく、誤解や偏見もあるのが現状です。
まだ日本ではあまりよく知られていない、ユダヤ教とはどのような宗教なのでしょうか?歴史や教え、ユダヤ教徒の習慣や生活についてもわかりやすく解説します。
ユダヤ教とは
ユダヤ教は、ユダヤ民族の民族宗教であり、一神教です。ユダヤ教では、ユダヤ人をアブラハムの子孫として、唯一神(ヤハウェ)を信仰し、ヘブライ語聖書(トーラー)を聖典としています。
これは、キリスト教の旧約聖書に当たるものです。聖典と聖書の違いは、
- 聖典=(神の)教えが書かれた文書(あらゆる宗教で使われる)
- 聖書=旧約聖書・新約聖書(ユダヤ教とキリスト教で用いられる聖典の名称)
と考えるとわかりやすいでしょう。(ただし、ユダヤ教とキリスト教では聖書の配列が異なります。)
ユダヤ教は、キリスト教やイスラム教の基盤となった宗教です。この3つの宗教は、共通の祖先アブラハムを持ち、聖書の一部を共有しています。
しかし、神との契約の内容や救済の考え方などにおいて、異なる点も存在します。
信仰よりも行為を重視
ユダヤ教では、単に信仰するだけでなく、具体的な行為や実践が非常に重視されます。そのためユダヤ教徒は、祈りの仕方やシャバット(後述)の厳守など、さまざまな宗教的な行動規範を守って生活しています。
タルムード
ユダヤ教では、聖典であるタナフ(ヘブライ語聖書)だけでなく、ラビたちの議論と解釈をまとめたタルムードも重要な教典とされています。タルムードには、道徳的な教えから、ユダヤ教における細かい実践方法まで、幅広い内容が収められています。
開かれた宗教
ユダヤ教は、必ずしも出自や血縁が重要ではありません。神の下僕となり、神との契約を守れば、ユダヤ人でなくてもユダヤ教徒になり、神の祝福を受けられると考えられています。一方で、イスラエルの子孫であっても、罪を犯せば祝福から外される可能性もあります。
「神の下僕」という表現は、私たち日本人にとっては強い表現に感じるかもしれません。しかしユダヤ教では、神に仕えることが重要視されており、信者はしばしば「神の下僕」と呼ばれます。ここではヘブライ語の表現により忠実に、この表現を採用しています。
内面性を重視しつつ、具体的な実践も大切
ユダヤ教では、神の遍在性※を重視し、内面的な信仰を育むことが重視されます。同時に、儀式や行動規範の実践も欠かせません。このバランスが、ユダヤ教の大きな特徴といえるでしょう。
このように、ユダヤ教は単なる信仰以上に、具体的な生活実践や知的伝統を重視する宗教なのです。ユダヤ人の歴史や文化を理解するには、このような点を押さえておくことが大切です。*1)
ユダヤ教の歴史
古代イスラエルで生まれたユダヤ教は、キリスト教やイスラム教の基盤となった宗教としても知られています。長いユダヤ教の歴史について、最新の研究や世界の思想の変化を踏まえながら、確認していきましょう。
ユダヤ教の歴史年表
駐日イスラエル大使館の情報によると、ユダヤ教の歴史は以下のようになります。
紀元前17世紀 | アブラハム、イサク、ヤコブ(ユダヤ民族の族長)がイスラエルの地に定住し、唯一神ヤハウェの信仰を始める。飢饉により、イスラエルの民はエジプトへの移住を余儀なくされる。 |
紀元前13世紀頃 | 出エジプト:イスラエルの民はモーセに率いられてエジプトを脱出、シナイ砂漠を40年間流浪し、その間にシナイ山で十戒などのトーラー(モーセ五書)を授かる。 |
紀元前12世紀頃 | イスラエル民族がイスラエルの地に定住。 |
紀元前1020年頃 | ユダヤの王政が始まる(初代王:サウル)。 |
紀元前1000年頃 | エルサレムがダビデ王国の首都となる。 |
紀元前960年 | ユダヤの民族的精神的中心をなす第一神殿をソロモン王がエルサレムに建設。 |
紀元前930年 | 王国がユダとイスラエルに分裂。 |
紀元前720年頃 | イスラエル王国がアッシリアに敗北し、10部族が追放される(「失われた10部族」) |
紀元前586年 | ユダ王国がバビロニアに征服される。エルサレムと第一神殿が破壊され、大半のユダヤ人が捕囚される(バビロン捕囚)。 |
紀元前538年 | ペルシア帝国によってユダヤ人は解放され、エルサレムに帰還。神殿を再建。 |
紀元前332年 | アレクサンダー大王がイスラエルの地を征服、ギリシアによる支配が始まる。 |
紀元63年頃 | ローマ帝国によってエルサレム神殿が破壊され、ユダヤ人は再び離散。 |
中世 | ヨーロッパ各地でユダヤ人に対する迫害が続く。 |
19世紀 | シオニズム運動が起こり、ユダヤ人の国家建設を目指すようになる。 |
1948年 | 英国委任統治の終了(5月14日)、イスラエル建国。 |
ユダヤ教とユダヤ教徒の歴史は、長い年月にわたって複雑な道のりを歩んできました。近年の研究では、これまでのユダヤ教の見方に修正が加えられつつあります。
例を挙げると、
- 単一的な歴史ではなく、多様なユダヤ教が存在した可能性
- ユダヤ人の歴史は、常に迫害と苦難に満ちたものだったのか?
- イスラエル建国は、ユダヤ教徒全員にとって望ましいことか?
などについて、さまざまな議論が現在でも続いており、より多様性のあるユダヤ教の歴史像が模索されています。
バビロン捕囚とは
バビロン捕囚(バビロンほしゅう)とは、紀元前586年、新バビロニア王国がユダ王国を滅ぼし、その住民をバビロンへ強制移住させた出来事を指します。
バビロンへ連行されたユダヤ人たちは、厳しい環境の中で生活を余儀なくされました。しかし、彼らはそこで独自の文化や宗教を守り続けました。
このバビロン捕囚は、ユダヤ人の歴史において大きな転換点となったのです。バビロン捕囚時代の経験は、ユダヤ教の形成に決定的な役割を果たしたと考えられています。
自らの信仰を守るため、捕囚されたユダヤ人たちが一神教、選民思想、律法、契約といった概念を再構築したことは、後のユダヤ教の基礎となったのです。
紀元前5世紀から紀元後70年頃にかけての発展
紀元前5世紀から紀元後70年にかけては、ユダヤ人のディアスポラ(離散)におけるヘレニズム的ユダヤ教や、第二神殿時代の多様な神学派の登場など、ユダヤ教はさらなる発展を遂げました。この時期にヘブライ語聖書のテキストが整備され、正典化が進んでいったことも重要です。
そして3~6世紀にかけて、ラビ・ユダヤ教が成立し、ヘブライ語聖書の本文とタルムードが形成されていきました。
ディアスポラ(離散)
ディアスポラとは、「離散」という意味のギリシャ語で、ユダヤ人の世界各地への散布を指します。紀元前6世紀、バビロニア帝国に滅ぼされたユダヤ王国の人々が、各地に強制移住させられたのが始まりです。
その後も、ローマ帝国による迫害などによって、ユダヤ人はさらに世界各地へと散らばっていきました。
ヘレニズムとユダヤ教
ヘレニズム時代とは、アレクサンドロス大王の死後、彼の後継者たちが築いた国家群が栄えた時代(紀元前4世紀~紀元前1世紀)を指します。この時代、ギリシャ文化は地中海世界全体に広まりました。
ユダヤ人も例外ではなく、ヘレニズム文化の影響を受けました。ギリシャ語訳聖書である七十人訳聖書※が作られたのもこの時代です。しかし、ギリシャ文化の浸透は、ユダヤ教の伝統的な信仰との間で葛藤を生むことにもなりました。
ラビ・ユダヤ教
(紀元後)70年、ユダヤ人はローマ帝国によって第二神殿を破壊され、エルサレムを追放されました。この出来事を境に、ユダヤ教は新たな時代を迎えます。
ラビと呼ばれるユダヤ教指導者たちが登場し、律法の解釈や伝承を重視するラビ・ユダヤ教が形成されました。ラビ・ユダヤ教は、ユダヤ人がどこに住んでいても、共通の信仰とアイデンティティを保つことができる基盤となりました。
ラビたちは、ヘブライ語聖書(タナハ)の解釈と実践を中心に据え、ユダヤ教の教えを継承・発展させていきました。ラビ・ユダヤ教では、タナハに加えてタルムードと呼ばれる大著作が重要視されます。
タルムードには、ユダヤ教の律法、倫理、哲学、歴史などについて、ラビたちの議論が記録されています。
このように、ユダヤ教の歴史にはさまざまな出来事や思想の融合が見られます。時代によって状況は変化しましたが、現代的な目線で見ると、信仰心の継承と発展に努めてきたユダヤ教徒の姿勢は、平和と共生への希望を感じさせるものがあります。
次の章では、ユダヤ教の教えについて詳しく見ていきましょう。*2)
【関連記事】パレスチナ問題とは?概要や原因、世界・日本の動向、私たちにできること
ユダヤ教の教えについて
ユダヤ教は、世界で最も古い一神教の一つとして知られています。聖書やタルムードなどの教えに基づいたユダヤ教は、独特な歴史や文化、伝統を持つ宗教として捉えることができます。
実は、その奥深い教えの中には、現代社会を生きる私たちにとっても、豊かに生きるためのヒントが数多く隠されています。
キリスト教との違い
ユダヤ教とキリスト教は、共に聖書を大切にしている宗教です。しかし、聖典の取り扱いや教義には重要な違いがあります。
ユダヤ教の聖典は旧約聖書のみですが、キリスト教には新約聖書も加わります。旧約聖書はユダヤ人に受け継がれてきた古代ヘブライ語の聖書であり、ユダヤ教の根幹を成しています。一方、キリスト教では新約聖書に記されたイエス・キリストの教えが重視されます。
また、ユダヤ教では旧約聖書以外にも、ラビたちの議論と解釈の集大成であるタルムードなどの文献が重要視されます。これらラビ文献は、聖書の理解を深める役割を果たしています。
キリスト教では基本的にこのようなラビ文献は用いられません。
救世主(メシア)の考え方
さらに大きな違いが、メシアについての考え方です。ユダヤ教ではメシアの到来を待ち望んでいますが、キリスト教ではイエスがメシアであると信じられています。
つまり、ユダヤ教がメシアの到来を未来のできごととするのに対し、キリスト教ではメシアであるイエスがすでに来臨したと考えられているのです。
普遍的な倫理観:対話と共存の精神
ユダヤ教の教えは、トーラーと呼ばれる聖書を中心に構成されています。トーラーには、神と人間、人間同士の関係に関するさまざまな倫理規範が記されています。
中でも重要なのが、十戒と呼ばれる10の掟です。
十戒
ユダヤ教の十戒は、ユダヤ教の基本的な戒律や教訓を示したものです。
- 他の神々を持ってはならない – ただ一人の神、ヤハウェを崇拝すること
- 偶像を造ってはならない – 神を表わす彫像や絵像を作ってはいけない
- 神の名をみだりに唱えてはならない – 神の名を軽々しく使ってはいけない
- 安息日(シャバット)を守れ – 週に一度の安息日を神に捧げること
- 両親を敬え – 父母を尊び、従うこと
- 殺してはならない – 他人の命を奪ってはいけない
- 姦淫をしてはならない – 不貞な行為をしてはいけない
- 盗んではならない – 他人の財産を盗むことは禁じられている
- 偽証してはならない – 偽りの証言をしてはいけない
- 隣人の物を欲しがってはならない – 他人の物を欲しがる気持ちを持たない
この10の戒めからなります。
さらに、ユダヤ教は異なる宗教や文化を持つ人々との対話と共存を重視します。タルムードには、「神はすべての人の父である」という言葉があり、異なる価値観を持つ人々とも互いを尊重し、理解し合おうとする姿勢が強調されています。
次の章では、ユダヤ教徒の習慣や生活について掘り下げて見ていきましょう。*3)
ユダヤ教徒の習慣と生活について
ユダヤ教徒の人々は、固有の伝統と習慣に従いながら、神への崇敬の念を持って生活を営んでいます。彼らの日々は、聖書の教えに基づいた儀式や行事に彩られており、ユダヤ教という信仰の根源が、生活のあらゆる場面に深く根付いているのが特徴です。
食事:カシュルート
【コーシャの規定】
ユダヤ教では、食事に関するさまざまな戒律が定められています。清浄とされる動物の肉しか口にせず、乳製品との組み合わせは禁忌とされるのがカシュルートです。これらの規定を遵守することで、ユダヤ教徒は日々の食事を通して、神への信仰を表しているのです。
カシュルートに基づいて、「コーシャ規定(認定)」という、食品や製造工程が適切であることを証明する認証制度があります。ユダヤ教徒にとって、コーシャの食品を食べることは宗教上の義務であり、コーシャ認定を受けていない食品は口にしてはいけないとされています。
ヘブライ語でカルシュート (kashrut) は、「適正な」という意味の言葉であり、ユダヤ教の食事規定全体を指す言葉です。一方、コーシャ (kosher) は、「適正な」という意味の形容詞であり、カルシュートに従って作られた食品や食材を指します。
【コーシャ認定の基準】
食材 | 認定の基準 | 根拠 |
動物 | 許容される動物は、反芻動物で蹄が分かれているものに限られます。豚やウサギなどの動物は禁止されています。また、動物の屠殺方法は厳格に定められており、動物に苦痛を与えない方法で行わなければなりません。 | 反芻動物は、植物繊維を効率的に消化・吸収できるよう、多胃構造と共生細菌群を持ちます。そのため、肉質は脂肪分が少なく、消化も容易で、栄養価も高くなります。一方、豚やウサギなどの非反芻動物は、動物性タンパク質の消化吸収に負担がかかり、コレステロール値の上昇や消化不良などの健康リスクが指摘されています。 |
魚介類 | 鱗と鰭がある魚介類のみが許容されます。貝類や甲殻類は禁止されています。 | 鱗と鰭がある魚介類は、一般的に毒性が低く、食用に適しています。一方、貝類や甲殻類は、ヒ素や水銀などの重金属蓄積リスクや、食中毒のリスクが高いことが指摘されています。 |
植物 | 一般的に食用される植物はすべて許容されます。ただし、昆虫や爬虫類などの動物由来の害虫や寄生虫が付着していないことを確認する必要があります。 | 一般的に食用される植物は、栄養素や食物繊維が豊富で、健康に良いとされています。一方、昆虫や爬虫類などの動物由来の害虫や寄生虫は、食中毒や感染症のリスクを高める可能性があります |
乳製品 | 肉と乳製品を一緒に食べることは禁止されています。そのため、コーシャ認定を受けた乳製品には、肉製品由来の成分が一切含まれていないことが確認されます。 | 肉と乳製品を一緒に摂取すると、消化不良や胃腸障害を起こす可能性があります。これは、肉と乳製品の消化酵素が異なるためです。コーシャの食事規定では、肉と乳製品を別々に摂取することで、消化負担を軽減し、健康的な食事を促進します。 |
加工食品 | 加工食品の場合、すべての原材料と製造工程がコーシャであることが確認されます。添加物や調味料なども、コーシャであることが証明されたもののみ使用することができます。 | 加工食品の場合、原材料や製造過程に不衛生な点や、動物由来の成分が含まれている可能性があります。コーシャ認定では、すべての原材料と製造工程を厳格に監査し、安全性を確保します。 |
シェヒーター
肉を食する際は、動物の苦しみを最小限に抑える特別な方法で処理されます。これは、神の創造物である動物に対する敬意と慈悲の心を示す行為とされています。
安息日:シャッバット
安息日(シャバット)は、仕事を控え、家族で食事を共にしながら静かな時間を過ごします。電気を使わず、ローソクの灯りに照らされて、祈りと語らいを楽しむのが伝統的な過ごし方です。
シャバットは、創造の6日間(天地創造)の後に神が休息されたことから始まりました。毎週金曜日の日没から土曜日の日没まで、一切の労働が禁止されています。
家事、運転、買い物、電気の使用なども禁止され、祈りや家族との時間を楽しむことに重点が置かれます。ただし、例外として、病人の世話、死者の葬送など人命に関わる行為は許可されています。
シャバットは、神の被造物である人間に対する愛と配慮を示すものと考えられています。ユダヤ教徒は、毎週のシャバットを通して、天地創造の奇跡を振り返り、神との絆を深めています。
その他の習慣や生活
ユダヤ教にはその他にもさまざまな習慣や規律が存在します。
メズーザー
メズーザーとは、家の入り口に設置する小さな箱です。中には、トーラーの一部である「シュマ・イスラエル」という祈り文が書かれた羊皮紙が入っています。ユダヤ教徒は、家に入るたびにメズーザーにキスをし、神への信仰を新たにするのです。
テフィリン
テフィリンとは、朝と夕方の2回、額と左腕に装着する革製の紐です。紐には、神への信仰を告白する祈り文が書かれた羊皮紙が入っています。
テフィリンを装着することは、神への忠誠心を表す重要な行為とされています。
キッパー、ツィツィットなどの服装
キッパーとは、贖罪の日※に着用する白い布製の帽子です。キッパーを着用することは、神の裁きを恐れ、罪を悔い改める気持ちを表すものです。
ツィツィットとは、衣服の四隅に房飾りとして取り付けられた糸です。ツィツィットは、モーセの律法を守ることをユダヤ教徒に思い出させる役割を果たしています。
食前の祈り:ベラハ
ベラハとは、ヘブライ語で「祝福」という意味を持ち、食事の前後に唱える祈りのことです。ベラハでは、以下のような祈りがささげられます。
- 神への感謝:食事を通して与えられた食物への感謝の気持ちを伝えます。
- 食物の祝福:食事を通して得られる栄養とエネルギーへの祝福の言葉を唱えます。
- 特定の食事に対する特別な祝福:シャバットや祝日など、特別な食事には、その食事に特化した祝福の言葉が唱えられます。
教育への情熱:未来を担う人材育成
ユダヤ教では、教育を極めて重要なものとみなしています。聖書やタルムードを学ぶことは、単なる知識の習得ではなく、神と繋がるための道と考えられています。
そのため、ユダヤ教徒は古くから教育に力を入れており、世界各地にユダヤ教系の学校が設立されています。これらの学校では、聖書やタルムードの学びはもちろんのこと、現代社会に必要な科学や技術、言語なども学ぶことができます。
【バビロニア・タルムード:シャバット119bの一節】
אין העולם מתקיים אלא בשל הבל פיהן של תינוקות של בית רבן
(שבת קי”ט: ב’)
「世界はまさに、校舎にいる子供の息吹にかかっている。」
引用:駐日イスラエル大使館『イスラエルにおいての教育の歴史』
強い家族愛とコミュニティ意識
ユダヤ教では、家族やコミュニティを非常に大切にします。安息日には家族で集まり、食事をしたり、話をしたりして過ごします。
また、困っている人がいれば助け合い、互いを支え合うという強いコミュニティ意識を持っています。この強い家族愛とコミュニティ意識は、ユダヤ教徒が困難な状況を乗り越えてきた大きな力となっています。
映画
ユダヤ教徒を題材とした映画は数多く制作されています。代表的なものを紹介します。
シンドラーのリスト
シンドラーのリストは、第二次世界大戦中にナチスドイツによって迫害されたユダヤ人を救った実業家オスカー・シンドラーの物語を描いた映画です。
当時のユダヤ人の苦しみや絶望をリアルに描写しており、強いインパクトを与える映画です。ホロコーストという悲劇の中で、命を救うために尽力したオスカー・シンドラーの勇気と行動は、見る者に深い感動を与えます。
ライフ・イズ・ビューティフル
ライフ・イズ・ビューティフルは、ナチス収容所の中で息子に希望を与え続けたユダヤ人の父親の物語を描いた映画です。主人公の父親を演じるロベルト・ベニーニの演技は世界中で高く評価され、彼のユーモアと愛に満ちた演技は、見る者の心を揺さぶります。
どんな状況でも希望を失わず、前向きに生きることの大切さを教えてくれる感動的な作品です。
パッション
パッションは、イエス・キリストの最後の72時間を描いた映画です。メル・ギブソン監督による独特な映像美は、見る者に強い印象を与えます。
しかし、ユダヤ教徒からは、イエス・キリストをユダヤ教徒に対する迫害者として描いているとして批判されています。一方、キリスト教徒からは、イエス・キリストの苦しみをリアルに描いた作品として高く評価されています。*4)
シオニズムとの関係
ここでは、ユダヤ教徒とジオニズムの関係について見ていきましょう。
シオニズムとは、ユダヤ人が歴史的な故郷であるパレスチナに国家を建設しようとする運動です。19世紀後半にヨーロッパで興り、20世紀にイスラエル国家の建国に結びつきました。しかし、パレスチナ問題と密接に絡み合い、複雑な状況を生み出しています。
シオニズムの語源は、旧約聖書に登場する地名シオン(Zion)です。シオンは、エルサレムにある丘の名前で、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のいずれにとっても聖地とされています。
旧約聖書では、シオンは神が特別な場所として選び、そこにダビデ王の王家を築いたと記されています。そのため、シオンはユダヤ民族にとって約束の地、希望の象徴として特別な意味を持つようになりました。
シオニズム思想とイスラエル国家、パレスチナ問題の関係性
シオニズム思想は、ユダヤ人の迫害や差別に対する抵抗、そして独自の文化やアイデンティティを守るための手段として生まれました。ユダヤ人にとってパレスチナは、聖書に記された約束の地であり、精神的な拠り所でもあります。
しかし、パレスチナにはすでにアラブ人が居住しており、シオニズム運動はパレスチナ人の土地権利と民族自決権と対立することになりました。これが、パレスチナ問題と呼ばれる複雑な紛争につながっています。
ユダヤ教との関連性と、歴史的な背景
シオニズムは、必ずしもユダヤ教と同一視されるわけではありません。世俗的な政治運動としての側面もありますが、ユダヤ教の教えや歴史に深く根ざしています。
古代イスラエル王国が滅亡し、ユダヤ人はディアスポラと呼ばれる長い放浪生活を余儀なくされました。しかし、彼らは常に故郷への帰還を夢見てきました。
さらに19世紀後半、ヨーロッパで反ユダヤ主義が台頭し、ユダヤ人たちは迫害や差別を経験しました。こうした状況の中で、シオニズム思想は勢いを増し、ユダヤ人の民族主義運動へと発展しました。
シオニズム運動における宗教的な側面
シオニズム運動には、宗教的な側面と世俗的な側面があります。
宗教的シオニズム
宗教的シオニズムは、ユダヤ教の教えに基づいてパレスチナにユダヤ国家を建設することを目指します。彼らは、聖書に記された約束の地への帰還は神の意志であると信じ、宗教的な熱意を持って活動しています。
世俗シオニズム
一方、世俗シオニズムは、宗教的な信念に関わらず、ユダヤ人が安全に暮らせる国家を建設することを目指します。彼らは、ユダヤ人の民族自決権と文化の保存を重視し、政治的な手段を通して目標達成を目指しています。
現代におけるシオニズムの多様性
現代のシオニズムは、多様な立場が存在します。宗教的シオニズムと世俗シオニズムに加え、ポスト・シオニズムと呼ばれる立場も生まれています。
ポスト・シオニズムは、シオニズム運動の成果であるイスラエル国家を認めつつ、パレスチナ人の権利も尊重する二国家共存解決を目指します。
シオニズムとユダヤ教は、必ずしも同一ではない点は注意しましょう。ユダヤ教徒の中には、シオニズム運動に賛同しない人もいます。
シオニズムは、ユダヤ教、歴史、政治などさまざまな要素が複雑に絡み合った問題です。理解するには、多角的な視点が必要です。*5)
ユダヤ教に関してよくある疑問
ユダヤ教は、そのあまり知られていない側面から、さまざまな疑問を持つ人も多いのではないでしょうか?この章では、ユダヤ教に関するよくある疑問に、わかりやすく回答していきます。
ユダヤ教のタブーは?
ユダヤ教には、豚肉や貝類などの特定の食材を食べることを禁止するカシュルートをはじめ、さまざまなタブーが存在します。これらのタブーは、単なる食事の制限ではなく、神への敬意や動物愛護、衛生観などの考えに基づいています。
しかし、近年ではこれらのタブーに対する考え方も変化しており、柔軟に対応するユダヤ教徒も増えています。また、カシュルートには、いくつかの例外があります。
例えば、生命に関わる状況であれば、通常禁止されている食材を食べることも認められているなどです。
ユダヤ教の総本山はどこ?
ユダヤ教には、キリスト教のような「総本山」と呼ばれる特別な場所は存在しません。ユダヤ教徒は、世界各地のシナゴーグと呼ばれる礼拝堂で祈りや儀式を行います。
また、ユダヤ教徒にとって最も重要な聖地は、イスラエルにあるエルサレムです。エルサレムには、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三大宗教にとって重要な聖地が存在します。
エルサレムの聖地
エルサレムには、ユダヤ教徒にとって聖なる岩である「神殿の岩」、キリスト教徒にとってイエス・キリストが処刑された場所である「ゴルゴタの丘」、イスラム教徒にとって預言者ムハンマドが昇天した場所である「アル=アクサー・モスク」などがあります。
ユダヤ教には終末観はある?
ユダヤ教には、メシアと呼ばれる救世主が来臨し、世界に平和をもたらすという終末観が存在します。しかし、その具体的な内容は、ユダヤ教徒によってさまざまな解釈があります。
近年では、終末観よりも、現世での倫理的な生活や社会貢献を重視するユダヤ教徒も増えています。また、ユダヤ教徒の中には、メシアが政治的な指導者としてイスラエルを統治すると考える人もいれば、霊的な指導者として人々を導くと考える人もいます。
ユダヤ教徒にはお金持ちが多いの?
ユダヤ教徒が裕福であるというステレオタイプは、歴史的な偏見や誤解に基づいています。確かに、一部のユダヤ教徒は成功を収めていますが、全ての教徒が裕福であるわけではありません。
実際、ユダヤ教では富よりも、謙虚さや慈善活動が重視されます。とはいえ、ビジネスや金融の世界で大きな影響力を持っているユダヤ教徒の存在は有名です。
例えば、
- マイケル・ブルームバーグ(ブルームバーグ・エル・ピーの創業者)
- ラリー・ペイジ(Googleの創業者の一人)
- ロスチャイルド家(200年以上の歴史を持つユダヤ系財閥で、金融、投資、慈善活動などで世界的な影響力を持つ)
など、世界的に影響力の大きい人々が存在するゆえに、このようなステレオタイプが現在でもあるのでしょう。
ノーベル賞受賞者が多いって本当?
人口比に比べて、ユダヤ教徒はノーベル賞受賞者が多いことで知られています。これは、ユダヤ教が教育を重視し、論理的思考や創造性を育む環境を重視していることが理由の1つと考えられています。
第二次世界大戦、なぜユダヤ人がホロコーストに?
初期キリスト教会は、ユダヤ教から分離独立して成立しました。そのため、ユダヤ人はキリスト教の競合宗教の代表として敵対視されていました。
このような背景もあり、中世以来、キリスト教社会の中でユダヤ人は「キリストを十字架にかけて殺した罪人」とみなされ、経済的・社会的な制限を受けてきました。ヨーロッパに深く根付いていた反ユダヤ主義を、ヒトラーは政治的に利用して、ユダヤ人を国家の敵とみなすナチスイデオロギーを広めていきました。
その結果、第二次世界大戦中にユダヤ人大量虐殺であるホロコーストが起きたのです。
ユダヤ教とSDGs
長い歴史の中で培われてきた、ユダヤ教の価値観や思想は、多様性の尊重や社会的公正の実現などに通じるものがあります。ユダヤ教の日常生活に関する掟の中には、環境保護や貧困救済、弱者支援などに関するものも含まれています。
例えば、土地を休ませる「シミッタ」の概念は、持続可能な農業につながります。また、困窮者への慈善活動「ツェダカ」は、貧困問題解決に寄与するでしょう。このように、ユダヤ教の教えは、SDGsが目指す理念と重なる部分が多いのです。
さらに、ユダヤ教には、異なる信仰や文化を持つ人々との共生を重視する考え方があります。「ゲル(寄居者)」と呼ばれる異国の地に住む人々への配慮は、多民族共生の実現に役立ちます。また、「ダイバーシティ」の概念も、ユダヤ教の伝統的な価値観の中に見出すことができます。
ユダヤ教の教えとSDGsの目標がどのように関連しているのか、具体的な例を交えて考察していきます。
多様性:異なる価値観を尊重する寛容な精神
ユダヤ教は、唯一神ヤハウェを信仰する一神教でありながら、同時に多様性を尊重する寛容な精神を持っています。トーラー(旧約聖書)には、異なる民族や文化を持つ人々と共存していくための倫理的な教えが数多く記されています。
例えば、「レビ記」には、「異邦人はあなたたちの間に住む者として、あなたたちと同じ権利を持っていなければならない。彼をあなたたちの生まれつきの市民と同じように愛しなさい。あなたがかつてエジプトの国に寄留者であったことを思い出しなさい。」と記されています。
この教えは、異なる文化や価値観を持つ人々を排斥するのではなく、互いを尊重し、共に生きていくことの大切さを説いています。これは、SDGs目標10「人と国の不平等をなくそう」と深く関連しています。
共生:異なる文化が織りなす豊かな社会
ユダヤ教の歴史は、異なる文化や民族との交流の中で形成されてきました。古代イスラエル王国やローマ帝国時代、中世ヨーロッパ、そして現代社会に至るまで、ユダヤ教徒はさまざまな文化と触れ合い、学び、独自の文化を築き上げてきました。
この経験は、ユダヤ教徒に共生に対する深い理解と寛容さを与えています。異なる文化や価値観を持つ人々が互いを尊重し、共に生きていくことは、ユダヤ教徒にとって当たり前のことなのです。
これは、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」と関連しています。異なる文化や価値観を持つ人々が互いを認め、協力することで、平和で公正な社会を実現することができるのです。
公正な社会:弱者への配慮
ユダヤ教の教えには、弱者への配慮と公正な社会を求める内容が数多く含まれています。トーラーには、
- 貧しい者を搾取してはならない
- 孤児や寡婦を虐げしてはならない
といった教えが記されています。
また、ユダヤ教では、定期的に施しをする習慣があります。これは、困っている人を助けるだけでなく、社会全体の格差を縮小し、公正な社会を実現することを目的としています。
これらの教えは、SDGsの目標1「貧困をなくそう」と目標10「人と国の不平等をなくそう」と関連しています。貧困を撲滅し、すべての人が平等な機会を得られる社会を実現することは、SDGsの重要な目標であり、ユダヤ教の教えとも深く共鳴するものです。*6)
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
ユダヤ教は、一神教の最も古い宗教の1つで、ユダヤ人の信仰と生活の基盤となっています。創造主ヤハウェ神を信仰し、律法(トーラー)に従って生活することが重要とされています。
ユダヤ教徒は、しばしば金銭的に成功しているイメージや、閉鎖的で排他的であるといったステレオタイプに囲まれてきました。しかし、実際には、ユダヤ教徒は強い家族愛とコミュニティ意識を持ち、互いに助け合う文化が根付いています。また、教育や慈善活動にも熱心で、社会貢献にも尽力してきました。
ユダヤ教徒の暮らしについては、家族や共同体との絆の強さが特徴的です。宗教的な戒律に従いつつ、互いに支え合う生活を送ってきました。
この精神は、都市化やグローバル化が進む現代社会において、人と人とのつながりの希薄化や孤独の増加といった問題に対して、重要な示唆を与えてくれます。
ユダヤ教の教えは、環境保護や公正な社会といった、現代的な課題に対しても、非常に先見の明があったと言えます。例えば、土地の管理や資源の持続可能な利用、貧困者への配慮など、現代社会が直面する問題に対する解決策を、ユダヤ教は古くから提示してきたのです。
このような時代だからこそ、ユダヤ教徒のような、強い家族愛とコミュニティ意識を持つことの重要性が高まっていくと言えるでしょう。家族やコミュニティとのつながりを大切にし、互いを支え合いながら生きていくことは、これからの社会にとって不可欠な要素となるでしょう。
また、ユダヤ教徒の強い家族愛とコミュニティ意識は、長い歴史の中で培われてきたものです。それは、迫害や苦難を乗り越えてきた経験、独特の宗教文化、そして強い倫理観に基づいています。
人々が幸せで平和な世界を実現するために
世界には多様な民族、文化、宗教が存在します。人々が幸せで平和な世界を実現するためには、互いの違いを尊重し、共生していくことが必要です。
そのために、
- 多様性への理解を深める(異なる宗教や文化について学び、理解を深める)
- 偏見や差別をなくす(ステレオタイプに基づく偏見や差別をなくし、公平な社会を実現する)
- 対話と協力を促進する(異なる宗教や文化の人々との対話と協力を促進し、相互理解を深める)
- 共生の精神を育む(互いを尊重し、共存していくための精神を育む)
などを心掛けましょう。
ユダヤ教徒の長い歴史と豊かな文化は、私たちに多様性を尊重し、共生していくことの大切さを教えてくれます。異なる宗教や文化の人々と互いに理解し合い、共に歩んでいくことが、より良い未来を築く鍵となるでしょう。
<参考・引用文献>
*1)ユダヤ教とは
秋山 哲『ユダヤ教と共生』(2015年3月)
日本国際問題研究所『拡大するシオニズムと宗教的側面』(2018年10月)
九州大学『ユダヤ教とユダヤ人の歴史』(2021年5月)
Chabad.org
Chabad Tokyo Japan『ハバッドハウス・オブ・ジャパンへようこそ!』
外務省『イスラエル国』
*2)ユダヤ教の歴史
ホロコースト教育資料センター『なぜ、ホロコーストは起きたのか』
平和政策研究所『ユダヤ教・キリスト教の伝統から見た現代西欧社会の課題』(2020年1月)
東京大学『図説 ユダヤ教の歴史』(2015年3月)
嶋田 英晴『文化移転の政治経済的背景とユダヤ教徒』(2014年)
一橋大学『「ユダヤ教の本質」をめぐる論争と世紀転換期のドイツ・ユダヤ教』(2014年6月)
駐日イスラエル大使館『イスラエルの歴史:年表』
パレスチナ問題とは?概要や原因、世界・日本の動向、私たちにできること
駐日イスラエル大使館『多様な民族と文化』
*3)ユダヤ教の教えについて
成城大学『ユダヤは「律法」で滅びキリスト者は「律法」破棄で勝利したー閉塞の支配知識階級と無学者の突破ー』
東京国際大学『宗教間対話と平和的共存に対するユダヤ教の貢献』(2015年5月)
京都大学『Notes on Judaism』(2019年9月)
駐日イスラエル大使館『イスラエルにおいての教育の歴史』
*4)ユダヤ教徒の習慣と生活について
コーシャジャパン『コーシャとは?』
駐日イスラエル大使館『イスラエルにおいての教育の歴史』
九州大学『ユダヤ系家族の通過儀礼に見られる民族集団間関係』
日本看護科学会『ユダヤ教 – 異文化看護データベース』
東京大学『一神教世界の中のユダヤ教』(2020年1月)
外務省『イスラエル 風俗、習慣、健康等』
日経ビジネス『ユダヤ教安息日「シャバット」の驚くべき厳格さ 経済的デメリットは全く考慮されず』(2017年9月)
NATIONAL GEOGROPHIC『第83回 労働を忘れ心を整えるユダヤ教安息日の食卓』
駐日イスラエル大使館『ユダヤ人社会』
イスラエル大使館公式『FOOD』
*5)シオニズムとの関係
田口 幸子『イスラエルにおけるシオニズムの変質過程と今日的意義』
広島大学『シオニズムとパレスチナ問題』
今野 泰三『宗教シオニズムの越境 ─ヨルダン川西岸地区の「混住入植地」を事例としてー』(2015年)
パレスチナ/イスラエル研究会『宗教シオニズム』
*6)ユダヤ教とSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』