
水循環とは、地球上の水が海・雲・雨・川・地下水を巡る自然のシステムです。この仕組みが健全に機能することで、限られた淡水が持続的に供給され、生態系や農業・産業・日常生活が支えられています。
気候変動や人口増加により水循環の重要性が高まる中、その課題と私たちにできる具体的な行動を解説します。他にも、水循環基本法やSDGsとの関連性、最新技術を交え、多角的な視点から水資源の未来を考察します。
目次
水循環とは
【水循環の全体図】
水循環とは、
- 地球上の水が太陽のエネルギーによって蒸発
- 大気中で雲となる
- 雨や雪として地表に降り注ぐ
- 川や地下水を通じて再び海に戻る
という自然のサイクルです。この過程で、海水は蒸発時に塩分が取り除かれ、淡水となって地表に供給されます。
地球上の水の総量は約14億立方キロメートルと推定されますが、その97%以上は海水で、淡水はわずか2.5%程度しかありません。そのうち、私たちが直接利用できる河川や湖沼の水は、全体の0.008%程度と極めて限られています。
この限られた淡水資源を持続的に利用できるのは、水が絶えず循環しているからです。循環する水の一部が、私たちの生活や産業、農業などに利用されています。
水循環が止まれば、淡水資源はすぐに枯渇し、生命や社会活動は維持できなくなります。
水循環は身近な存在
【水循環解析モデルの概念図】

水循環は、決して遠いところで起こる自然現象ではありません。たとえば、雨が降ることで地下水が補われ、川や湖に水が供給されます。
これが水道水や農業用水となり、私たちの暮らしを支えています。また、使い終わった水は下水処理を経て川や海に戻り、再び循環の一部となります。
都市や農村、工場などでの水利用もこの循環の中に組み込まれています。自然の水循環と人工的な水循環が複雑に絡み合い、地域や社会の状況によってその形はさまざまです。
健全な水循環がなぜ不可欠なのか
水は生命の源であり、地球上のあらゆる生態系や人間社会の基盤です。水循環が健全に機能していれば、豊かな自然環境や安定した社会が維持されます。
しかし、都市化や産業活動、気候変動などによって水循環が乱れると、
- 洪水
- 渇水
- 水質悪化
などの問題が発生しやすくなります。健全な水循環を守ることは、人間の生活や産業活動、自然環境のバランスを保つうえで不可欠です。
このように、水循環は地球規模の壮大な現象でありながら、私たちの日常生活や社会活動とも密接に関わっています。次の章では、こうした水循環の仕組みについて、より具体的に解説していきます。*1)
水循環の仕組み

地球上の水は、海から空へ、空から大地へ、そして再び海へと、壮大な旅を繰り返しています。この絶え間ない水の動きは、どのようなメカニズムで成り立っているのでしょうか。
太陽のエネルギーを原動力とし、自然界の法則に従って水が姿を変えながら循環するプロセスは、驚くほど精巧です。
自然界における水の循環プロセスと、私たちの生活を支える水の利用と還元、そしてその理解を深める最新技術について、その具体的な仕組みを紐解いていきましょう。
大気と陸・海をめぐる水の旅:自然界の循環プロセス
【水循環のモデル図】
自然界の水循環は、主に
- 蒸発・蒸散
- 輸送
- 凝結
- 降水
- 流下・浸透
という5つのステップを経て、水が地球上で形を変えながらダイナミックに移動する現象です。
蒸発・蒸散
まず、太陽の熱エネルギーによって、海や湖沼、河川などの水面から水が水蒸気(気体)となって大気中に放出されます。これが「蒸発」です。
同様に、植物も根から吸い上げた水を葉の気孔から水蒸気として大気中に放出しており、これを「蒸散」と呼びます。これらを合わせて「蒸発散」ということもあります。
輸送・凝結
次に、大気中に含まれた水蒸気は、風によって運ばれ、上空で冷やされると微細な水滴や氷の結晶へと変化します。これらが集まってできるのが雲です。
降水・流下・浸透
雲の中の水滴や氷晶が大きく成長し、重力によって地上に落下してくる現象が「降水」です。降水には、
- 雨
- 雪
- みぞれ
- 雹(ひょう)
など様々な形態があります。地上に降った水は、地表を流れて川となり海へ注ぐ「地表流」となるか、地面に浸み込んで土壌中の水分となったり、さらに深く浸透して地下水となります。
特に、森林の土壌はスポンジのように雨水を貯留し、ゆっくりと地下へ浸透させることで、河川流量の安定化や清浄な水の供給に貢献しています。
私たちの生活を支える水の循環:人間社会との関わり
自然の壮大な水循環システムは、私たちの生活や産業活動とも深く結びついています。私たちはこの循環の一部を利用し、その恩恵を受けながら、使用した水を再び自然へ還しています。
取水・利水
- 日常生活で使う飲み水や生活用水
- 農業を支える農業用水
- 工場などで使われる工業用水
などは、
- ダムに貯められた水
- 河川を流れる水
- 地下水
など、自然界の水源から「取水」されます。取水された水は、浄水場で安全な水質に処理された後、それぞれの目的に応じて「利水」されます。
例えば、家庭では炊事、洗濯、入浴などに、農業では作物の育成に、工業では製品の製造や冷却などに水が必要です。
排水・処理
使用後の水は生活排水や工場排水として「排水」されますが、そのまま自然に戻されるわけではありません。多くの場合、下水処理場へと集められ、微生物の働きなどを利用して汚濁物質が取り除かれ、環境や生物に悪影響が無いよう「処理」されます。
このように浄化された水は、再び河川や海へと還元され、自然の水循環プロセスへと戻っていくのです。この人間活動に伴う水の循環は、特に上下水道システムの整備によって、衛生的かつ効率的に行われています。
【下水処理場】
観測技術の進歩と水循環理解の深化
地球規模で複雑に変動する水循環の全貌を正確に把握し、将来の変動を予測することは、気候変動対策や水資源管理において極めて重要です。近年、科学技術の進歩により、水循環の理解は飛躍的に深まっています。
その代表例が、人工衛星を用いたリモートセンシング技術です。宇宙から地球を観測することで、
- 広範囲の降水量
- 土壌の水分量
- 積雪の深さや面積
- 地下水位の変動
といった、これまで地上観測だけでは捉えきれなかった情報を継続的に取得できるようになりました。
【水循環観測䛻㛵䜟䜛諸物理㔞䛾概要】
例えば、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、衛星観測データと数値シミュレーションを融合させた全球アンサンブル水循環シミュレーション「TE-Global NEXRA」などを開発し、陸域における水循環のより正確な再現と予測を目指しています。また、高性能なスーパーコンピュータを用いた数値シミュレーション技術も進化しており、観測データと物理法則に基づいて水循環のメカニズムを詳細に解析し、将来の気候変動が水循環に与える影響を高精度で予測するための研究が進められています。
【JAXAのToday’s Earth (TE)による2025年5月12日の土壌水分量】
これらの最先端技術は、地球温暖化に伴う水資源量の変化や豪雨・渇水リスクの評価精度を高め、より効果的で持続可能な水資源管理策の立案に貢献することが期待されています。
水循環の仕組みは、自然の摂理と人間活動が織りなす複雑なシステムです。その理解を深めることは、水という限りある資源を未来世代に引き継ぐための第一歩となるでしょう。*2)
水循環はなぜ重要なのか

この地球において、水は生命の源であり、文明を育んできた根源的な要素です。蛇口をひねれば水が出るという日常は、実はこの壮大で複雑な水循環システムによって支えられています。
では、なぜこの水循環はこれほどまでに重要視されるのでしょうか。
生命維持と社会経済活動の根幹
水循環は、全ての生命の維持と、私たちの社会経済活動の根幹を成しています。人間が生きていくために不可欠な飲料水はもちろんのこと、私たちが日々口にする食料を生産する農業やその他のほとんどの産業においても、水は絶対に必要な資源です。
例えば、バーチャルウォーター※の考え方によると、一杯のコーヒーを作るためには約140リットル、1kgの牛肉を生産するには約20,000リットルもの水が必要になるとも言われています。また、様々な製品を生み出す工業生産や、私たちの生活を支えるエネルギー生産(水力発電や火力発電の冷却など)においても、水は欠かせない役割を担っています。
さらに視点を広げれば、河川、湖沼、湿地、森林といった生態系も、健全な水循環によって維持され、多様な生物を育んでいます。このように、水循環は生命の営みと社会の繁栄を支える、まさに基盤インフラなのです。
【私たちと水との関わり】
地球環境の安定と国際的な協調
水循環は、個々の生命や地域社会を超えて、地球全体の環境システムを安定させる上でも極めて重要な役割を果たしています。水は、蒸発や降水といったプロセスを通じて熱エネルギーを地球規模で輸送し、気候の急激な変動を緩和する働きをします。
また、水は様々な物質を溶かし込み、それらを循環させることで、地球上の物質循環にも深く関与しています。しかし近年、気候変動の影響や人間活動の増大により、この水循環のバランスが崩れ、水不足、水質汚染、水害の頻発といった問題が世界各地で深刻化しています。
こうした水問題は一国だけでは解決できない地球規模の課題であり、国際的な連携と協調が不可欠です。そのための重要なプラットフォームの例として、以下のような国際的な取り組みがあります。
世界水フォーラム(World Water Forum)
世界水フォーラム(World Water Forum)は、世界水会議(World Water Council)が中心となり3年ごとに開催される、水に関する世界最大級の国際会議です。地球規模で深刻化する水問題に対し、各国の政府関係者、国際機関、学術界、企業、市民社会など多様な関係者が集い、具体的な解決策や政策提言を議論します。
水に関する知見や経験の共有、国際的なコミットメント形成を通じて、持続可能な水管理と水問題解決に向けた行動を世界的に促進する役割を担っています。
アジア・太平洋水フォーラム(APWF: Asia-Pacific Water Forum)
アジア・太平洋水フォーラム(APWF: Asia-Pacific Water Forum)は、2006年の第4回世界水フォーラムでの設立宣言を経て活動する、アジア太平洋地域に特化した水問題解決のためのネットワーク組織です。この地域は、急激な人口増加や経済成長に伴う水需要の逼迫、頻発する大規模な水災害、水質の悪化といった喫緊の課題を抱えています。
APWFは、定期的にアジア・太平洋水サミットを開催し、域内の首脳級を含む多様なステークホルダー間の政策対話や共同行動を推進し、地域の実情に即した持続可能な水管理の実現を目指しています。
水循環の重要性への認識を高め、具体的な行動を促す上で、こうした国際的な対話の場が果たす役割は大きいと言えるでしょう。*3)
水循環に関する課題

地球上の生命と私たちの社会を支える水循環ですが、近年、その健全性が様々な要因によって脅かされています。気候変動の進行や人間活動の拡大は、水の量や質、そして循環のバランスに深刻な影響を及ぼし、世界各地で水に関する問題が顕在化しています。
気候変動がもたらす脅威:水資源の偏在と極端現象の激化
地球規模で進行する気候変動は、水循環のパターンを大きく変化させ、私たちの生活や生態系に多大な影響を及ぼし始めています。地球温暖化に伴う気温の上昇は、大気中の水蒸気量を増加させ、降雨の強度や頻度、季節性を変化させているのです。
世界の様々な地域で、短時間に大量の雨が降る集中豪雨や、いわゆる「ゲリラ豪雨」が頻発し、洪水や土砂災害のリスクが増大しています。その一方で、別の地域では降水量が減少し、干ばつや渇水が深刻化するなど、利用可能な水資源の地域的・時間的な偏りが拡大しています。
例えば、日本では無降水日数の増加傾向も指摘されています。また、山岳地帯における氷河の縮小や積雪量の減少は、河川流量の不安定化を招き、下流域の農業用水や生活用水の確保に影響を与える懸念が高まっています。
これらの気象の極端化は、
- 食料生産の不安定化
- 水力発電量の変動
- 生態系の攪乱※
- 人々への精神的ストレス
- インフラへのダメージ
- 森林火災の増加
など、広範囲にわたる問題を引き起こす可能性があります。
【水循環に関する課題】
人間活動による負荷:水質汚濁と過剰な水利用
気候変動の影響に加え、私たちの日常生活や産業活動もまた、水循環に大きな負荷を与え、様々な課題を引き起こしています。
- 都市化の進展に伴う生活排水の増加
- 工場からの未処理または不十分な処理の産業排水
- 農地からの化学肥料や農薬の流出
- 地下水の過剰な汲み上げ
- 森林伐採や大規模な土地開発
- 地表の広範な舗装化(都市部など)
- 工場や発電所からの温排水
- 不適切な廃棄物管理による土壌・地下水汚染
などは、河川や湖沼、さらには地下水の水質を著しく悪化させる主要な原因となっています。このような要因から、安全に利用できる水の量が減少し、水道水の浄化コストの増大や、水生生物への悪影響、富栄養化による生態系の破壊などが引き起こされます。
また、世界的な人口増加や経済発展に伴い、農業用水や工業用水を中心に水需要は増え続けています。特に水資源が乏しい地域では、再生可能な量を上回る地下水の過剰な汲み上げが行われ、地盤沈下や塩水侵入、将来的な水源の枯渇といった深刻な事態を招いています。
これらの課題は相互に関連し合い、複雑化しています。健全な水循環を維持・回復するためには、気候変動への適応策と緩和策を推進するとともに、水利用の効率化や汚染負荷の削減に向けた社会システム全体の変革が求められています。*4)
水循環基本法とは

日本では、気候変動や都市化、人口集中などにより水循環のバランスが崩れ、渇水や洪水、水質悪化といった課題が顕著になってきました。こうした背景から、国全体で健全な水循環を維持・回復し、将来世代にその恵みを引き継ぐための「水循環基本法」が2014年に制定されました。
この法律は、今後の水政策の根幹をなすもので、国や自治体、事業者、市民が一体となって水循環を守る責任と役割を明確にしています。この法律について確認しておきましょう。
水循環基本法の概要と目的
【地域の活性化・持続可能な地域】

水循環基本法は、健全な水循環の維持・回復を国家的な目標とし、水に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための基本法です。この法律の目的は、水循環を守ることで経済社会の健全な発展や国民生活の安定向上に寄与することにあります。
この法律の成立には、1990年代からの関係省庁や議員、研究者による議論と提言が大きな役割を果たしました。具体的には以下のような内容が含まれています。
水循環の定義と基本理念の明確化
水が蒸発・降水・流下・浸透などを通じて地表水や地下水として循環する過程を「水循環」と定義し、その健全性を維持することを基本理念としています。
国・自治体・事業者・国民の責務
すべての関係者が水循環の維持・回復に責任を持つことを明記し、協働による取り組みを促進しています。
水循環政策本部の設置
内閣に「水循環政策本部」を設け、総理大臣を本部長とし、関係行政機関の連携・調整を強化しています。
科学技術や国際協力の推進
水循環の調査・研究、技術開発、国際的な連携なども重視されています。
水循環基本計画とは
水循環基本計画は、水循環基本法に基づき、政府が水循環施策を総合的かつ計画的に推進するために策定する具体的な行動計画です。この計画は、持続可能な水資源の確保や水環境の保全を目指し、流域ごとや地域ごとの課題に応じた施策を総合的に示しています。
主な内容を確認しましょう。
【流域マネジメント】
流域連携の重視
河川や地下水などを含む広い範囲での「流域単位」※の管理を推進し、自治体や関係機関、住民が協力して水資源を守る仕組みが整えられています。
【「流域総合水管理」の考え方】
貯留・涵養機能の維持向上
森林や湿地、農地、都市の貯水・涵養機能を高める施策が盛り込まれ、
- 地下水の安定供給
- 洪水・渇水対策
- 生態系保全
にもつながっています。
水インフラの維持管理・更新
水道や下水道などのインフラを戦略的に整備・管理し、災害への備えや水質保全を強化しています。
最新の科学的知見を反映
気候変動や社会変化に対応するため、最新の研究成果やパブリックコメントを活かした柔軟な計画見直しが行われています。
水循環基本法と水循環基本計画は、日本の水資源を次世代につなぐための重要な柱です。次の章では、私たち一人ひとりができる具体的なアクションについて考えていきます。*5)
水循環に関して私たちにできること

地球の貴重な資源である水を未来へとつなぎ、健全な水循環を維持していくためには、行政や企業だけでなく、私たち一人ひとりの理解と行動が不可欠です。日々の暮らしの中で少し意識を変えるだけで、水循環の保全に貢献できることは数多くあります。
日常生活での小さな心がけ:節水と汚さない工夫
まずは、最も身近な「水の使い方」を見直すことから始めてみましょう。
節水
最も基本的な取り組みは節水です。例えば、
- 歯磨きの際には水を出しっぱなしにしない
- シャワーはこまめに止めて流す時間を意識的に短くする
- 食器を洗う際には油汚れをあらかじめ拭き取ってから溜め洗いをする
といった小さな工夫が積み重なると大きな節水効果につながります。また、節水型のトイレやシャワーヘッド、洗濯機などを選ぶことも有効な手段です。
水を汚さない
同時に、水を汚さない工夫も重要です。料理で使った油をそのまま排水口に流すと水質汚濁の大きな原因となるため、古紙に吸わせたり凝固剤で固めたりして可燃ごみとして処理しましょう。
食器用洗剤や洗濯用洗剤、シャンプーやリンスなども、つい使いすぎてしまいがちですが、適量を守ることが大切です。食べ残しや細かな野菜くずなども、できるだけ排水口に流さず、生ごみとして処理することで、下水処理場への負荷を軽減し、河川や海の水質保全に繋がります。
地域社会への参加と意識向上:水循環を支える活動
個人の行動に加え、地域社会の一員として水循環に関心を持ち、支える活動に参加することも、水循環の保全に貢献する大切なアクションです。
雨水の有効活用
例えば、雨水を有効活用することも私たちにできる取り組みの一つです。雨水タンクを設置し、貯めた雨水を庭木の水やりや打ち水、洗車などに利用すれば、水道水の使用量を減らすことができます。
また、自宅の庭や駐車スペースをコンクリートで覆うのではなく、芝生や砂利敷きのような透水性のある素材にすることで、雨水が地下へ浸透しやすくなり、地下水の涵養(かんよう)や都市型洪水の緩和にも貢献します。
ボランティア活動への参加・水循環への学び
さらに、地域の河川や湖沼、海岸などの清掃活動に参加したり、自治体やNPOなどが主催する水に関する講演会やワークショップ、自然観察会などに参加したりすることも有益です。
これらの活動を通じて、水循環の仕組みや地域の水環境が抱える課題について学び、水に対する意識を高めることができます。学んだ知識や日頃実践していることを家族や友人と共有し、水の大切さの輪を広げていくことも、大きな力となります。
私たち一人ひとりの小さな行動や意識の変化が、健全な水循環を未来へとつなぐ大きな力となります。できることから少しずつ、水との関わり方を見直してみませんか。*6)
水循環とSDGs

統合的な水資源管理や流域単位での協働、技術革新による効率的な水利用は、SDGsの目標達成に不可欠な要素です。水循環を中心に据えた取り組みが、他分野の目標とも相乗効果を生み出します。
水循環が特に大きく貢献するSDGsの目標と、具体的な活動例を紹介します。
SDGs目標6:安全な水とトイレを世界中に
水循環の保全は、目標6の「安全な水とトイレを世界中に」の達成に直結します。統合的な水資源管理や雨水・地下水の保全、下水処理の高度化などが、飲料水の安定供給や衛生環境の改善を支えています。
例えば、
- AIやIoTを活用した水インフラの高度化
- 企業や自治体による雨水利用・再生水の導入
- 流域単位での協働による水質保全活動
などが、世界中で広がっています。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
地球温暖化の進行は、
- 降雨パターンの変化(豪雨や干ばつの増加)
- 氷河の融解
- 海水温の上昇
などを通じて、水循環のバランスを大きく狂わせています。この変動に適応し、被害を軽減するためには、水循環を意識した対策が不可欠です。
例えば、
- 森林の保全・再生による水源涵養機能
- 二酸化炭素吸収機能の強化
- 雨水貯留浸透施設の整備による洪水リスクの低減と地下水涵養
- 節水型社会への転換による水資源の有効活用
などは、気候変動の「適応策」として極めて重要です。
SDGs目標14:海の豊かさを守ろう
私たちの、
- 生活排水
- 工場排水に含まれる有害物質
- 農地から流出する過剰な肥料や農薬
- 適切に処理されなかったプラスチックごみ
などは、河川を通じて海へと流れ込み、海洋汚染の深刻な原因となります。陸域における水循環の健全化、例えば、
- 下水処理施設の高度化による排水水質の向上
- 森林や湿地が持つ自然の水質浄化機能の保全・回復
- 農地における環境保全型農業の推進
- プラスチック製品の使用削減と適切な廃棄物管理
といった取り組みは、海洋への汚染物質の流出を抑制し、海の生態系を守ります。
SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう
水質の汚濁は土壌を汚染し植物の生育を阻害し、過度な取水による河川流量の減少や地下水位の低下は、周辺の植生や湿地生態系に深刻なダメージを与えます。また、気候変動による干ばつの長期化は砂漠化を進行させ、一方で集中豪雨は土壌侵食を加速させるなど、水循環の異変は土地の劣化と生物多様性の損失に直結しています。
つまり、
- 水源林の適切な管理や植林活動の推進
- 湿地の保全と再生
- 持続可能な農林業による土壌保全
- 汚染物質の排出抑制
といった、水循環の健全化を目指す活動は、陸の生態系サービスを維持・向上させ、目標15の達成に不可欠な貢献をします。
水循環を軸とした取り組みは、SDGsの多様な目標の実現に波及効果をもたらします。分野横断的な連携と統合的アプローチが、持続可能な社会の鍵となるのです。*7)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

水不足、水質汚染、そして気候変動に起因する水災害の激甚化は、世界の多くの地域で人々の生活と生態系を脅かす複合的な危機となっています。将来、これらの影響はさらに拡大し、地域間の格差を助長し、紛争の火種となる恐れがあるという意見も聞かれます。
このような事態を回避するためには、
- 国境を越えた流域単位での賢明なガバナンスの強化
- 水効率を高める技術への投資とその公平な普及
- 自然資本としての水の価値を社会経済システムの中核に据える根本的な変革
が必要です。
水循環に関する知識を深めることは、地球市民として自らの行動に責任を持ち、より良い未来を選択するための羅針盤となります。日々の節水や排水への配慮に加え、自らの消費生活が世界の水資源に与える影響(ウォーターフットプリントなど)を自覚し、持続可能な選択を心がけることが大切です。
未来の世代も清らかな水の恵みを享受できる社会を築くために、私たち一人ひとりの意識と行動が重要なのです。希望の波紋を広げ、共に知恵を出し合い、持続可能な水の未来を創造するための一歩を、今日から踏み出しましょう。
<参考・引用文献>
*1)水循環とは
Wikipedia『気候変動による水循環の増強』
国土技術政策総合研究所『国土技術政策総合研究所』
首相官邸『令和5年度 第213回国会(常会)提出 水循環施策』(2023年)
ゼオライト株式会社『水循環の仕組みとは?わたしたちの生活との関係性から見る課題も解説』(2023年4月)
鬼頭 昭雄『気候変動の現状と将来~地球温暖化による水循環の変化~』(2022年)
国際農林業協働協会『世界の主な河川流域における物理的な水不足の分布』
国土交通省『水循環の形成』
内閣官房『令和6年版 水循環白書について』(2024年6月)
環境省『ウォータープロジェクト』(2023年3月)
環境省『「地下水保全」ガイドライン(第二版)』(2021年3月)
国立環境研究所『水循環と流域圏研究 世界の視点と動向』
田瀬 則雄『水循環再考』(2018年)
*2)水循環の仕組み
WIKIMEDIA COMMONS『Watercyclejapanese』
内閣官房『第1節 生活と水循環』
環境省『第7章 環境モニタリング 7.6 上水のモニタリング 上水道の仕組み』(2024年)
JAXA『衛星による水循環観測グランドプラン』(2019年5月)
JAXA『TODAY’S EARTH 土壌水分量』(2025年5月)
全国上下水道コンサルタント協会『水の循環』
森林総合研究所『森林と水循環』(2015年9月)
農林水産省『農業用水の特徴』
国際協力機構『クラスター事業戦略 地域の水問題を解決する実践的統合水資源管理~全ての人々が安心して水資源を持続的に利用できる社会へ~』(2023年11月)
JAXA『衛星観測と数値シミュレーションの融合で陸面水循環の姿を”確率的”に再現~全球アンサンブル水循環シミュレーション「TE-Global NEXRA」を公開しました~』(2023年8月)
政府広報オンライン『飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」』(2024年7月)
東京大学『1. 水循環の変動性を理解する』
名古屋市上下水道局『水の旅 ~水循環のしくみ~』(2014年1月)
熊本県浄化槽協会『くまもと水循環のしくみ(熊本の水循環)』
気象庁『FAQ 12.2 | 地球の水循環はどう変化するのか?』
地球環境研究センター『水循環解明のためのリモートセンシングの有効活用に向けて』(2012年4月)
*3)水循環はなぜ重要なのか
内閣官房『水循環とは!?』
首相官邸『水循環を巡る現状と課題について』
国際協力機構『テーマ 5 都市水マネジメント 複合化する問題に対して統合的に対応する』
東京大学『生態水文学は水危機から世界を救うために何ができるか? :単作農林業から生じる水循環均質化の危険性』(2020年9月)
地球環境研究センター『世界の水利用の水源を求める−世界の水資源のコンピュータシミュレーション その3−』(2021年9月)
国土交通省『3.健全な水循環系の構築にあたっての基本的考え方』
内閣官房『第1節 水循環の現状と課題』
日本地球惑星科学連合『地球規模の水循環と世界の水資源』(2007年8月)
砂田 憲吾『世界の水循環・水資源管理の評価と予測がもたらすもの』(2019年3月)
TOSHIBA『東芝が考える水環境とそれを支える水環境ソリューション』(2016年)
環境省『重点検討項目①: 健全な水循環構築のための取組』
日本水フォーラム『世界水フォーラムへの参画』
日本水フォーラム『アジア・太平洋水フォーラム』
*4)水循環に関する課題
内閣官房『水循環とは!?』
JAXA『地球の水循環の変動をとらえる』
環境省『水循環対策の現状と課題について』
環境省『第4章 水環境、土壌環境、地盤環境、海洋環境、大気環境の保全に関する取組
第1節 健全な水循環の維持・回復』(2021年6月)
農林水産省『世界の水資源と農業用水を巡る課題の解決に向けて』
造水促進センター『河川水循環系における水活用技術』(2012年3月)
東京大学『【共同発表】気候変動下で増加する洪水に、ダムでの洪水調節が及ぼす影響を世界で初めて推定(発表主体:国立環境研究所)』(2021年1月)
平和政策研究所『深層海洋大循環と気候変動 ―未だ解明されない深海の謎―』(2019年8月)
首相官邸『水循環を巡る現状と課題について』
首相官邸『最近の水循環施策の取組状況について』(2018年10月)
国土交通省『気候変動による渇水への影響評価及びオープンデータ化』
世界経済フォーラム『喫緊の課題、水危機をパートナーシップの力で解決へ』(2023年11月)
*5)水循環基本法とは
環境省『環境省からの情報提供』(2021年8月)
内閣官房『流域マネジメントとは』
内閣官房『新たな水循環基本計画の概要』(2024年8月)
G-GOV『水循環基本法』(2021年9月)
国土交通省『水循環基本法について』
国土交通省『水循環基本法 水循環基本計画』
内閣官房『水 循 環 基 本 法』
内閣官房『水循環施策の推進 流域水循環計画 水循環アドバイザー制度』
伊藤 智章『転換点の水循環行政 基本法をめぐる動き』(2016年7月)
首相官邸『「令和3年度水循環施策」(令和4年版水循環白書)を取りまとめました
~地下水マネジメントのさらなる推進を特集~』(2022年)
宮崎 淳『水環境基本法改正の立法過程と意義』(2022年)
渡辺 暁彦『水循環基本法の成立と課題~転換期にある水法と水行政の行方~』(2015年)
国土交通省『水循環基本計画』
環境省『ウォータープロジェクトとは』
日本水フォーラム『新たな水循環基本計画と、日本水フォーラムの政策提言活動』(2024年10月)
首相官邸『水循環基本計画に基づく「流域水循環計画」に該当する計画』
首相官邸『令和 6 年版 水循環白書 参考資料 第2章 水循環施策と関連法令等』(2024年)
首相官邸『現行の水循環基本計画における水循環施策の効果に関する評価(案)』(2024年8月)
田中 正『地下水学から見た水循環に関する施策の推進を図るための現状と課題』(2018年)
*6)水循環に関して私たちにできること
日本水循環文化研究協会『水循環健全化に向けた身近な行動』(2023年3月)
国土交通省『雨水利用について』
内閣官房『水循環に関する計画事例集』(2016年4月)
環境省『第4章 水環境、土壌環境、地盤環境、海洋環境、大気環境の保全に関する取組 第1節 健全な水循環の維持又は回復』(2018年6月)
環境省『「地下水保全」ガイドライン(第二版)』
環境省『ウォータープロジェクト』
環境省『わたしたちにできること』
国土交通省『水資源の開発・利用・保全』
*7)水循環とSDGs
内閣官房『第1節 水環境の現状と課題』
内閣官房『令和2年度水循環施策について』(2021年7月)
HITACHI『安全な水の提供で安全・安心な暮らしを支える』
国際農研『1229. 地球規模の水循環の恒久的な変化』(2025年4月)
地球環境戦略研究機関『第4弾:SDGsと水問題』
科学技術振興機構『健全な水循環社会の実現を目指す』(2019年10月)
Spaceship Earth『SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」の現状と日本の取り組み事例・私たちにできること』(2025年3月)
中村 哲己『健全な水循環の維持または回復に向けて』(2019年9月)
ソフトバンクニュース『AI、IoTを活用した再生技術で、持続可能な“水”インフラを社会に広げていく|SoftBank SDGs Actions #4』(2021年9月)
この記事を書いた人

松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。