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福祉タクシーとは?介護タクシーとの違いやメリット・デメリットも

タクシーといえば、セダンタイプを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、近年はワンボックスタイプのタクシーが増えています。もしかしたら、車いすの人が乗り降りしている姿を見かけたかもしれません。セダン型とは異なり、車いすの人でも利用しやすいタイプを「福祉タクシー」といいます。
福祉タクシーは、似た名称の「介護タクシー」とどのような違いがあるのでしょうか。今回は両者の違いや福祉タクシーの利用条件、メリット・デメリット、福祉タクシーの運転手になる方法などについて解説します。

福祉タクシーとは

福祉タクシーとは、身体に障害のある方々が外出や移動をする際に利用できる特別な設備を備えたタクシーです。

国土交通省は、「道路運送法第3条に掲げる一般乗合旅客自動車運送事業を営む者であって、一般タクシー事業者が福祉自動車を使用して行う運送や、障害者等の運送に業務の範囲を限定した許可を受けたタクシー事業者が行う運送のこと」と定義しています*1)。

※一般乗合旅客自動車運送事業

路線バスや乗合タクシーなどのことで、旅客の依頼に応じて運賃を受け取り、自動車で旅客を運送する事業*2)。

このサービスは、通常のタクシーと同様に、正式な事業免許を持つ企業や個人によってのみ運営されることが許可されています。

国土交通省は、社会全体のバリアフリー化を推進する取り組みの一部として、令和7年度までに約9万台の福祉タクシーを導入する目標を掲げています。国土交通省の計画は着実に進んでおり、令和4年度末の時点で、全国の福祉タクシーの総数は45,311台に達しています。

福祉タクシーを普及させる試みにより、多くの人々が安心して外出し、社会参加できる環境が整備されつつあります。福祉タクシーの増加は、移動の自由を拡大し、高齢者や障害のある方々の生活の質を向上させる重要な役割を果たすでしょう。

介護タクシーとの違い

福祉タクシーと介護タクシーはよく似た存在ですが、両者には複数の点で違いがあります。

【福祉タクシーと介護タクシーの違い】

福祉タクシー介護タクシー
対象者移動が難しい高齢者要支援1~2の人要介護1~5の人要介護1~5の人
利用料金全額自己負担介護保険が適用される(ケアプランへの記載が必要)
介助サービス基本的になしあり乗り降りの介助病院の手続き
利用制限なしあり日常生活上または社会生活上必要な行為に伴う外出
家族の同乗可能不可

福祉タクシーは介護タクシーよりも利用条件が緩やかで、多くの方が利用しやすいという特徴があります。誰でも利用することができ、家族と一緒に乗ることも可能です。一般的なタクシーと似たような感覚で利用できる一方、料金は利用者の方が全額負担する必要があります。 

介護タクシーは、介護が必要な方を対象としたサービスのため、要介護1から5の認定を受けている方のみ利用できます。そのため、要支援の認定を受けている方や、まだ要介護認定を受けていない高齢の方は、介護タクシーを利用することができません。 

外出の許可が出ている場合でも、それは「日常生活を送るためや社会生活を送るために必要な外出」に限られています。

例えば、病院の診察やリハビリ、ご自身が外出して行う必要がある買い物、補聴器や眼鏡の調整、選挙の投票、銀行の預金引き出しなどが該当します。ただし、これらの外出であっても家族の同乗は認められていませんので、不便に感じる方もいらっしゃるでしょう。 

介護タクシーを利用する際の料金には介護保険が適用されます。ただし、この保険を適用するためには、ケアマネージャーがケアプランに介護タクシーの利用を記載することが不可欠です。

介護タクシーを利用すると、タクシーの運転手が乗客の乗り降りを手伝ってくれたり、病院での手続きをサポートしてくれたりします。このため、家族の負担が大幅に軽くなるという大きな利点があります。

介護が必要な方の外出や通院の際に、介護タクシーを利用することで、家族はより安心して介護に取り組むことができるでしょう。

福祉タクシーの利用条件

では、福祉タクシーは、どのような人の利用を想定しているのでしょうか。ここでは、福祉タクシーの利用条件について考えます。

福祉タクシーに利用制限はない

介護タクシーは利用者が明確に決められていますが、福祉タクシーにはそのような制限がありません。これは、福祉タクシーが介護保険の適用外であるため、介護保険の規則に縛られないからです。そのため、ケアプランを作る必要もなく、家族の同乗も可能となっています。

福祉タクシーのサービス内容は、運営する事業所によって異なります。地域や事業者によっては、利用者に対して料金の割引を提供しているところもあります。福祉タクシーを利用する際は、その都度、各事業者に利用条件や料金などの詳細を確認したほうがよいでしょう。

福祉タクシーの特徴

福祉タクシーは、誰でも制限なく利用できる便利なサービスですが、一般的な乗合タクシーとは一体何が違うのでしょうか。この疑問を解消するために、ここでは福祉タクシーならではの特徴について詳しく説明していきます。 

車両について

福祉タクシーで使用される車両には、特にバリアフリーの配慮が施されています。通常のタクシーはセダン型が多く見られますが、福祉タクシーでは、主にワゴンタイプの大きめの車体を採用しており、乗客の多様なニーズに対応できます。

車いす利用者やストレッチャーを使用する方がそのまま乗り降りできるよう、車両には工夫が凝らされています。例えば、後部座席のドアを開けて車いすごと車内へ持ち上げるリフトが搭載されていたり、トランク部分のバックドアを開けてスロープを展開し、緩やかな傾斜を使ってスムーズに乗り降りできるタイプもあります。

これらの装備が備え付けられているため、乗客は車いすから一度も降りることなく、安全かつ便利に車内に移動できます。移動に制約のある方々の外出をサポートするために、細部にわたって配慮された特別な仕様となっているといえます。

助成制度

多くの自治体では、移動に困難を抱える方のために、福祉タクシーの利用料金を補助する制度を設けています。新潟県上越市の場合、年額24,000円まで補助する規定があります。しかし、交付対象は以下のいずれかに該当する人に限られています。

  • 身体障害者手帳1~3級の所持者
  • 精神障害者保健福祉手帳1、2 級の所持者
  • 療育手帳Aの所持者

*4)

東京都世田谷区の場合は、毎月500円券5枚、100円券14枚が交付されます。対象者は身体障害者手帳や愛の手帳1度・2度の人です。しかし、施設入所者や長期入院者、自動車燃料費助成を受けている人は対象外です*5)。

このように、助成制度は自治体によってかなり違いがあります。福祉タクシー券の発行を行っていない自治体もありますし、他の移動支援サービスとの選択制になっている場合や、障害の程度によって助成内容が変わる場合もあります。

具体的な利用方法や条件については、お住まいの地域の担当窓口に直接問い合わせるのが確実です。

福祉タクシーのメリット

福祉タクシーは、移動手段としての利便性と安心感を兼ね備えたサービスとして、多くの人々にとって欠かせない存在となっています。ここでは、福祉タクシーのメリットとして幅広い用途で利用できる点を解説します。

幅広い用途で利用できる

福祉タクシーは、病院への通院や入退院時の送迎、施設への通所など、医療・介護の現場における移動手段として利用できるだけでなく、日常生活の様々なシーンでも活躍します。

例えば、スーパーやデパートでの買い物など、普段のお出かけにも利用できます。あるいは、外食を楽しみたい時も、お気に入りのレストランまで安心して移動できるでしょう。さらに、親しい人々との交流も促進します。親族や知人と一緒に行楽地へ出かけたり、近隣の観光スポットを巡ったりすることも可能になります。

福祉タクシーは医療目的以外にも、買い物、食事、レジャーなど、多岐にわたる用途で利用でき、利用者の生活の質を向上させる重要な役割を果たしています。

福祉タクシーのデメリット

福祉タクシーは、医療や介護の場面だけでなく、様々な用途で利用できるため、介護タクシーよりも便利に使える移動手段です。ただし、料金の面では介護タクシーより高くなってしまうというデメリットがあります。 

介護保険が適用されず、全額自己負担となる

福祉タクシーの利用料金は、介護保険の対象外であるため、利用者が全額を自己負担する必要があります。料金は、各事業所によって異なっており、提供されるサービスの内容、移動距離、所要時間などの要因によって決定されます。

住んでいる自治体によっては、福祉タクシー券などの制度を通じて料金の一部を補助してくれる場合があります。そのため、福祉タクシーの利用を検討している方は、事前に運行している事業者や居住地の自治体に問い合わせて、料金や補助制度について詳しく確認した方がよいでしょう。

福祉タクシーの運転手になるためには

福祉タクシーの運転手は、運転が好きで介護に携わりたい人にとって魅力的な職の一つです。しかし、どのようにすれば福祉タクシーの運転手になれるのでしょうか。ここでは、福祉タクシーの運転手になる方法や、必要な資格、保有しているのが望ましい資格について解説します。

普通自動車二種免許の取得が必要

普通自動車二種免許とは、旅客運送(人を乗せて運び、運賃を受け取る)を行うために必要な免許のことです。一般的な自動車免許である一種免許に比べると、取得条件が厳しくなっています。主な取得条件は以下の通りです。

  • 満21歳以上(特別な講習を受講すれば満19歳から可能*7))
  • 他の二種免許を持っているか、一種免許取得から3年が経過している
  • 片眼で0.5以上、両眼で0.8以上の視力がある
  • 深視力検査で誤差が平均2cm以下

上記の条件を満たし、二種免許を取得していれば、タクシー事業者入社後に福祉タクシーの運転手になることができます。

福祉タクシーを運行しているタクシー事業者に入社する

二種免許を取る前に、福祉タクシーを運営している会社に入社することも可能です。ただし、入社先を選ぶ際は、二種免許の取得をサポートしてくれる制度が整っている会社を探すことが重要です。求人を探す際には、「ドライバー未経験可」や「二種免許なしでもOK」といった記載を参考にしましょう。

介護職員初任者研修の資格があるとなお良い

介護職員初任者研修の資格は必須ではありませんが、取得しているとさらに良いでしょう。なぜなら、介護タクシーの運転手は利用者のサポートも行うため、介護の知識が必要となるからです。

※介護職員初任者研修

2013年まで存在した「ヘルパー2級」の後継資格。介護職に必要な知識や技術を習得できる研修のことで、介護職の入門と位置付けられている公的資格。

介護タクシーの運転手であれば資格取得は必須ですが、福祉タクシーの運転手であっても、介護の知識は持っていて損はありません。ただし、どこまでサポートするかは事業所によって異なるため、会社の指示に従って行動しましょう。

福祉タクシーに関してよくある疑問

ここからは、福祉タクシーに関するよくある疑問に答えます。

家族は同乗できる?

家族の方も一緒に乗車することができます。介護タクシーではご家族の同乗はできませんが、福祉タクシーはより幅広い用途で利用できるように、家族の同乗も可能です。そのため、福祉タクシーの方が幅広い用途で利用しやすいといえます。

一般客は利用できる?

福祉タクシーは一般の方でも利用できますが、事前の予約が必要となります。また、福祉タクシー券などの割引サービスをご利用の場合は、自治体によって定められた条件(身体障害者手帳の保有など)を満たしている必要があります。条件や対応は自治体や事業者によって異なりますので、利用前に必ず確認してください。 

福祉タクシーとSDGs

移動が困難な障害者や高齢者の方々にとって、福祉タクシーは自分らしく生き、行きたい場所に自由に移動することを可能にする、欠かせないサービスです。福祉タクシーは、SDGsの目標11である「住み続けられるまちづくりを」とも深く関わっています。ここでは、その関わりについて詳しく説明していきます。 

SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」との関わり

福祉タクシーは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」と深く関わっています。SDGs目標11では、2030年までに、高齢者や障害者など、あらゆる人々が安全かつ安価で簡単に利用できる持続可能な交通システムへのアクセスを確保することを目指しています。

その実現のために、国やタクシー事業者は、誰もが利用しやすい「ユニバーサルデザインタクシー」の導入を進めています。ユニバーサルデザインタクシーは、広々とした室内空間や車いす乗降用の装置など、高齢者や車いす利用者、ベビーカー利用者など、様々な人々のニーズに対応できる設備を備えています。

福祉タクシーは、ユニバーサルデザインタクシーを積極的に導入することで、誰もが安心して移動できる社会の実現に貢献しています。高齢者や障害者も自由に外出できる環境が整えば、誰もが住み心地の良い、真に「住み続けられるまち」の実現へと繋がるでしょう。

【関連記事】ユニバーサルデザインとは?身の回りにあるマーク例・種類と7原則をわかりやすく解説!

まとめ

福祉タクシーは、移動に困難を抱える人々の生活の質を向上させる重要なサービスです。介護タクシーとは異なり、利用条件が緩やかで幅広い用途に対応できる一方、全額自己負担となる点がデメリットです。

しかし、多くの自治体で助成制度が設けられており、利用者の負担軽減が図られています。福祉タクシーの普及は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」の実現にも貢献しており、今後もさらなる発展が期待されます。

参考文献
*1)国土交通省「自動車:福祉タクシー
*2)国土交通省 中部運輸局「一般乗合旅客自動車運送事業
*3)国土交通省「福祉タクシー車両の導入状況について
*4)上越市「タクシー利用券
*5)世田谷区「福祉タクシー券の交付
*6)警察庁「第二種免許等の受験資格の見直しについて(令和4年5月13日)
*7)