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永久凍土とは?溶けるとウイルスが放出されるって本当?日本で起こる問題とメリット

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日本から日本海を飛び越えて、およそ2,000キロの場所にシベリアがあります。この地はユーラシア大陸でもっとも寒く、大地の奥底まで凍り付いています。こうした凍てついた土を永久凍土といいます。

近年、地球温暖化の影響で永久凍土が融解しています。凍った土が融けるならメリットが多いように感じますが、実はデメリットがはるかに大きいのです。具体的にはメタンなどの温室効果ガスの放出や未知のウイルスの出現につながるかもしれません。

本記事では永久凍土の現状や融解によって引き起こされる事象、永久凍土融解が日本に及ぼす影響、永久凍土に関するよくある質問などについて解説します。

永久凍土とは

永久凍土とは、ロシアやカナダ北部にある夏でも解けない凍った土のことです。土の中に含まれる水分が凍結し、土地全体が岩石のように固まっています。

学問的には、

「永久凍土(permafrost)とは、複数年凍結した状態が持続した土壌または地盤」

出典:北極域研究共同推進拠点*1)

と定義されていますが、具体的には2年以上連続して凍結し続けている土地が永久凍土とされています。通年で凍結したままの永久凍土層の厚さは、数メートルから数百メートルに及び、気温が0℃を上回ると地表部分の凍土は融解しますが、地下深くの部分は融けずに凍ったままの状態を維持します。*2)

気温が上昇する夏になると表面部分は融解しますが(この部分を活動層と呼ぶ)、この部分は水を多く含むため非常に軟弱な地盤です。そのため、地盤沈下を引き起こしやすいという問題点を有しています。*3)

他にも永久凍土地域の特徴として、地表付近には「ツンドラ土」という土壌が分布していることが挙げられます。夏の間は雪や氷が解けて湿地帯となり、コケ類などが生育します。*4)有機物の分解が進まないため、泥炭の著しい蓄積が見られます。*5)

永久凍土はどこにある?

永久凍土はユーラシア大陸北部から北アメリカ大陸の北部、グリーンランド、南極大陸、ヒマラヤなどに広く分布してます。国でいえばロシアやカナダ、アメリカのアラスカ州などに分布しています。

気候区分でいえば、寒帯と冷帯の地域に多く見られます。どちらの地域も冬の厳しい寒さが特徴的な地域です。面積は諸説ありますが、地球上の全陸地の14〜25%が永久凍土であるとされています。*6)*7)

永久凍土の種類

永久凍土は大きく分けて3つのタイプに区分できます。

連続的永久凍土水平的にも垂直的にもあらゆる場所に永久凍土が分布
不連続的永久凍土一部の条件が悪いところをのぞき永久凍土が分布
点在的永久凍土限られた場所に永久凍土が分布
*1)*7)

凍土の分布は一時的な温度変化で決まるわけではありません。氷期・間氷期のような数万年から数十万年規模の気候変化・環境変化により、どの種類の永久凍土になるか決まります。*1)

※氷期・間氷期

地球上の気候が寒冷になり、広い範囲で氷河(氷床)が発達した時代を氷河時代という。氷河時代は寒さの厳しい氷期と少しだけ温暖な間氷期に分けられる。*8)

連続的永久凍土は、東シベリアからモンゴル北部を中心に分布しています。この地域はユーラシア大陸でもっとも寒さが厳しい地域です。サハ共和国のオイミャコンは1933年にマイナス67.7℃を記録したことからも分かるように、この地域で連続的永久凍土が形成されたのも、至極当然のことといえるでしょう。*9)

永久凍土の融解の現状

近年、連続的永久凍土が広がる東シベリア地域では、永久凍土の融解が進んでおり、地下の氷が融けた結果、地盤沈下による凹凸地形が発達しています。この地形をサーモカルストといいます。*1)

サーモカルストの凹地には地下氷の融けた水が集まって、湖沼化します。その温度はプラス4℃になり、周辺の凍土や氷を溶かします。*7)

さらに地盤が沈下すると、サーモカルストの面積が拡大して周辺のタイガを飲み込み、最終的には水が蒸発して凹地上の広い草原地形を形成します。

※タイガ

北半球の冷帯に広がる針葉樹林帯のことで、エゾマツやトドマツなどが大部分を占める

一度草原化すると、元のタイガに戻ることはありません。永久凍土の融解はこれまで大河を中心に成立してきた生態系を大きく壊してしまうのです。

なぜ永久凍土が融解しているのか

海洋研究開発機構が2008年に発表した研究によれば、2005年から2007年にかけての地表気温の劇的上昇の影響で、夏に融解する永久凍土の表面(活動層)の厚みが観測史上最大の暑さとなったとしています。*10)

永久凍土の融解は、気温上昇と降水量の増加によって加速していると考えられています。IPCCの第6次報告書は北極域の温暖化が地球全体の2〜3倍の速度で進行していると指摘しています。*11)

具体的には、東シベリアのヤクーツク近郊にあるポコロフスクでは、地下3.2mの平均地温がマイナス2.2℃からマイナス1.2℃まで上昇していました。*12)

同地域では地温だけではなく土壌水分量も増加していました。その原因は夏の降水量増加と冬の積雪量増加です。そして、降水量増加の原因となっているのが地球温暖化で、これにより北極海の夏の海氷面積が大きく減少しています。

【北極海の海氷域面積の年最大値・年最小値の経年変化(1979~2022)】

出典:気象庁*12)

開票面積の減少についてもう少し詳しく見ていきましょう。

IPCCの第6次評価報告書によると、1979〜1988年と2010〜2019年を比べると北極海の海氷面積は大きく減少しています。*12)

海氷減少が著しいのは北極海のユーラシア大陸側です。その影響で、本来なら寒冷な空気が原因で発生する極高圧帯の力が弱まり、北極海上で低気圧が発生しやすくなります。すると、低気圧によって雨雲が発生し、夏のシベリアに大雨をもたらすようになりました。*13)

実際、東シベリアのレナ川流域では降水量が増加しており、永久凍土が広く分布するレナ川周辺地域の湿潤化が進んでいます。気温上昇と湿潤化が同時並行で進んでいるため、加速度的に永久凍土が融解しているのです。*14)

他にも、森林火災も永久凍土の融解を加速させています。森林が永久凍土を覆っているうちは、森林が地面に届く太陽光を遮っていますが、火災で森林が失われると太陽光に照らされた地面の温度が上昇し、永久凍土が溶けやすくなるのです。*15)

【関連記事】IPCCとはどんな組織?活動内容や各報告書の詳細、SDGsとの関係も

永久凍土の融解によって起こる問題

永久凍土が融解することでどのような問題が発生するのでしょうか。2つの問題点について解説します。

メタンや二酸化炭素の増加

永久凍土の融解はメタンや二酸化炭素を増加させます。永久凍土の中には太古の植物や動物の遺骸が凍結した状態で保存されています。2005年の「愛・地球博」で展示されたユカギルマンモスはロシア連邦サハ共和国の永久凍土から発掘されたものでした。

永久凍土の中にあるとき、動植物の遺骸はほとんど分解されません。しかし、凍土が解けて動植物遺骸が分解されるとメタンや二酸化炭素が発生します。メタンガスの温室効果は二酸化炭素の28倍に及ぶため、メタンの大量放出は地球温暖化を加速させると考えられます。*16)

メタンガスによって地球温暖化が加速すれば、海氷減少や気温上昇、降水量の増加が発生し永久凍土が解けます。すると、メタンガスが大気中に放出され、地球温暖化が加速してしまうのです。

永久凍土に潜む菌やウイルスのリスク

永久凍土の中には数多くのウイルスが潜んでいます。2016年にシベリアの永久凍土の中から現れたトナカイの死骸に潜んでいた炭疽菌が、2,000頭以上のトナカイに感染し、一人の少年が亡くなりました。*17)

また、3万年前のシベリアの永久凍土からモリウイルスという未知の巨大ウイルスが発見されたこともあります。3万年前のウイルスが保存され、3万年後の現在も活動可能であったことは非常に大きな衝撃を与えました。

同様の事例はチベットの氷河でも見られました。2015年にチベットの氷河で採取された氷の中から見つかった33種類のウイルスを現代によみがえらせることに成功しています。このうち、28種類は未知のウイルスでした。*18)

新型コロナウイルスのパンデミックでわかるように、これまでにない新しい感染症は社会に大きな混乱をもたらします。今後、永久凍土由来の新たな細菌やウイルスが登場し、社会を混乱に陥れても、何の不思議もないのです。

永久凍土の融解は日本にも影響がある?

永久凍土があるのは日本から遠く離れたロシアやカナダ、アラスカなどです。そのため、日本人にあまり関係ないように思うかもしれません。しかし、永久凍土が融解すると地球温暖化の速度が上がり、日本にも様々な影響をもたらします。今回は、影響の一つとして日本の厳冬化をとりあげます。

日本が厳冬になる

永久凍土が融解すると、先ほど解説したように温暖化が進むと考えられます。それによって日本を含む世界各地の気温が上昇します。日本だけに限ると、冬の寒さが厳しくなると予想されています。なぜ、温暖化と厳冬という一見矛盾したことが起こるのでしょうか。

まず、永久凍土が融解することで北極海に流れ込む河川水の量が増加します。河川水に含まれる熱により、北極海の氷が10%以上減少することがわかっています。*19)このように、永久凍土の融解は北極海の氷を大きく減らす原因の一つとなっています。

もう少し具体的に見ていきましょう。北極海の一部にバレンツ海という部分があります。

【バレンツ海の場所】

研究の結果、バレンツ海の海氷が少ないときは低気圧の通り道が変化します。その影響で、北極海周辺に暖かい南風が入り込みやすくなります。

【北半球の温度分布とシベリア高気圧の関係】

その一方、大陸ではシベリア高気圧が例年よりも強まり、強い寒気が日本に入りやすくなるのです。実際、バレンツ海の海氷が少なかった2006年と2012年の日本は厳冬でした。*20)

まとめると、シベリアの永久凍土が融解すると、河川水が北極海に流れ込み北極海の温暖化を促進します。その結果、北極海の海氷減少に拍車がかかります。そうなると、冬にシベリアで高気圧が発達しやすくなり、日本に寒気が流れ込みやすくなるのです。

永久凍土の融解に関する対策

永久凍土の融解を防ぐ対策はあるのでしょうか。結論を言えば、温暖化対策を徹底するしかありません。二酸化炭素排出を抑制する仕組みとして、カーボンニュートラルについて解説します。

カーボンニュートラルを推進する

カーボンニュートラルは二酸化炭素の排出量と植林・森林管理などによる吸収量を等しくする考え方のことです。

【カーボンニュートラルの考え方】

出典:環境省*21)

特に排出割合の多い電力において、再生可能エネルギーの割合を増やして火力発電を減らすことを目指しています。火力発電の割合が減れば二酸化炭素排出量を大幅に減らせるからです。

【2050年までのカーボンニュートラルを表明した国】

カーボンニュートラルは日本だけの動きではありません。2050年までのカーボンニュートラルを表明した国は2021年1月段階で124か国と1地域、2060年までには中国を含む世界の3分の2の国がカーボンニュートラルを達成するとしています。こうした動きを加速させることで、永久凍土の融解や北極海の海氷の消滅を防がなければなりません。

【関連記事】脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み、SDGsとの関係を解説

永久凍土に関してよくある疑問

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ここからは永久凍土に関するよくある質問に答えます。

ウイルスによる感染症のリスクもある?

モリウイルスや炭疽菌でわかるように、氷漬けだったウイルスや細菌でも、氷が融解すると感染力を取り戻すことがわかっています。永久凍土の融解は感染症リスクを増大させてしまうでしょう。

シベリアのツンドラと永久凍土の違いは?

永久凍土の表面が解けると冷帯であればポドゾルに、寒帯のツンドラ気候であればツンドラ土となります。どちらの場合も地下は2年以上連続して凍り続けている永久凍土です。

永久凍土の融解とコロナは関係ある?

永久凍土の融解と新型コロナウイルスの明確な因果関係は不明です。新型コロナウイルスの発生源として複数の説が出ていますが、2023年7月段階で永久凍土の融解と結びつけている有力な説は提唱されていません。

永久凍土が融解することでメリットもある?

永久凍土が融解することで直接的なメリットはあまりありません。しかし、関連して起こる北極海の海氷減少は、北極海航路が利用しやすくなることや北極海の水産資源・鉱産資源を開発しやすくなるといったメリットをもたらします。

永久凍土の融解とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり

永久凍土の融解はメタンガスの発生や北極海の海氷減少という大きな環境変化を伴う出来事です。これらは地球温暖化に大きな影響を与えています。SDGsと永久凍土の融解の関わりについてみましょう。

SDGs目標13は、地球温暖化を食い止めるために具体的に行動することを求めています。

永久凍土の融解と地球温暖化は密接に関わっています。少なくとも、永久凍土の融解を食い止めるには、地球温暖化をストップさせなければなりません。

2015年、世界規模で気候変動問題に対応するための仕組みであるパリ協定が採択されました。1997年の京都議定書に次ぐ国際的な取り決めです。採択翌年の2016年には条約の発効条件を満たし、正式に効力を発揮することになりました。*24)

パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ2℃より低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をすることが定められました。ウクライナでの戦争などで温暖化問題の存在感が薄まっていますが、今一度、永久凍土の融解を防ぐためにも温暖化対策の徹底を計らなければなりません。

まとめ

今回は永久凍土の融解について取り上げました。永久凍土が融解するとメタンガスなどが発生し、地球温暖化を加速することが知られています。そうなると、気温上昇やシベリアでの降水量増加がもたらされ、北極海の海氷が融けやすくなり、永久凍土の融解を加速させます。

このように永久凍土の融解と地球温暖化はコインの裏表のような関係にあり、地球温暖化を阻止しない限り、永久凍土の融解も防げません。新型コロナウイルスのような未知のウイルスを出現させないためにも、永久凍土の融解を押しとどめるための温暖化対策に、各国が積極的に取り組む必要があるのです。

参考
*1)北極域研究共同推進拠点「永久凍土とは
*2)ブリタニカ国際大百科事典「永久凍土(えいきゅうとうど)とは?
*3)百科事典マイペディア「永久凍土(えいきゅうとうど)とは?
*4)環境用語集「ツンドラ – 環境用語集
*5)ブリタニカ国際大百科事典「ツンドラ土(つんどらど)とは?
*6)国立環境研究所「【最近の研究成果】地球温暖化で永久凍土の融解はどこまで進むか?
*7)日本気象学会「3.永久凍土と気候*
*8)日本海学推進機構「今は氷河期? | 日本海の気象
*9)デジタル大辞泉「寒極(かんきょく)とは?
*10)海洋研究開発機構「シベリアの凍土融解が急激に進行~地中の温度が観測史上最高を記録し地表面で劇的な変化が発生
*11)北極環境情報統合WEB「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 | 北極環境統合情報WEB
*12)気象庁「海氷域面積の長期変化傾向(北極域)
*13)総合地球環境研究所「温暖化するシベリアの自然と人─水環境をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応
*14)国立国会図書館「東シベ リアに おける近年 の永久凍土融解 に関遮 した降水量変動
*15)国立環境研究所「永久凍土は地球温暖化で解けているのか? アラスカ調査レポート
*16)環境省「メタンの全大気平均濃度の2021年の年増加量が2011年以降で最大になりました~温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の観測データより~ | 報道発表資料 | 環境省
*17)日経ビジネス「永久凍土に眠るウイルスと感染症のリスク
*18)BUSINESS INSIDER 「チベットの氷河で発見されたウイルス、28種類は未知のもの…動物への病原性はなし
*19)海洋研究開発機構「北極海の海氷減少と気温上昇に及ぼす暖かい河川水の影響を世界で初めて解明~河川の高温化が温暖化を増幅させていることも明らかに
*20)海峡研究開発機構「バレンツ海の 海氷減少 ( かいひょうげんしょう ) は、 北極 ( ほっきょく ) の 温暖化 ( おんだんか ) を強め
*21)環境省「カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル
*22)資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?
*23)スペースシップアース「SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例 – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』
*24)資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集