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グリーンビルディングとは?事例やメリットと日本で普及しない理由も解説

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カーボンニュートラルやSDGs、サステナブルなどの認知が高まった今、さまざまな分野で取り組みが活発化しています。その動きは、建築業界や不動産業界でも見られ、世界的に「グリーンビルディング」と言われる建物が増えています。本記事では、日本でも2018年頃から増加傾向にあるグリーンビルディングについて、わかりやすく紹介します。

まずは、グリーンビルディングとは何か知りましょう。

グリーンビルディングとは

グリーンビルディングとは、簡単に言うと地球環境に配慮した建物のことです。別名「サステナブルビルディング」とも呼ばれています。

次世代の持続可能な環境と生活の質向上を実現するために、

  • 立地選定
  • 設計
  • 建設
  • 運用
  • 保守
  • 改修
  • 解体

など、一連の流れを通して資源効率が高く、環境および社会的にも配慮された建物や建物を構築し、運用することを意味します。

具体的には、

  • 省エネルギーや二酸化炭素排出量の削減
  • 資源の効率的な活用と循環
  • 生態系の保全
  • ウェルビーイング
  • レジリエンス
  • 社会的公平や包摂

などに配慮して設計されています。

グリーンビルディング認証について

グリーンビルディングには、さまざまな認証制度が存在します。

例えば日本では、「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」や「CASBEEウェルネスオフィス」、「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」が一般的です。海外に目を向けると、イギリスの「BREEAM」やシンガポールの「GreenMark」、アメリカで誕生した「LEED認証」や「WELL認証」が有名です。

認証制度は、目標や評価軸がそれぞれ異なるため、下記のように環境総合評価指標・エネルギー評価指標・人中心の建物指標の3つに分けられています。

環境総合評価指標LEED認証
CASBEE
エネルギー評価指標BELS
人中心の建物指標WELL認証
CASBEEウェルネスオフィス

環境総合評価指標は、地球環境や地球温暖化などへの配慮に注目した指標です。エネルギー評価指標は、省エネルギーに特化しており、「建物で使用されるエネルギーを、どれだけ減らしているか」を測ります。人中心の建物指標は、建物の中で働く人の健康に注目した指標です。

最近は、一般社団法人GREEN BUILDING JAPANの活動によって、日本でも「LEED認証」や「WELL認証」を取得する建物が増えています

グリーンビルディングの事例

グリーンビルディングについて理解したところで、ここからは、実際にどのような建物があるのか見ていきましょう。

【シンガポール】Park Royal Collection Pickering

シンガポールの中央ビジネス地区に位置する「Park Royal on Pickering」は、グリーンビルディング認証制度「Green Mark」のプラチナランクを取得しているホテルです。「庭園の中にあるホテル」をコンセプトにしており、ホテルの壁面は植栽され、通路やバルコニーなどにも、ふんだんに緑が使用されています。5階にはスカイガーデン、そして15階には屋上庭園もあります。

客室は明るく、木の温かみを感じられるデザインとなっており、通路にも壁面緑化が施されています。環境配慮の面でも、雨水の再利用太陽光発電の設置LEDと自動証明で節電などを行っています。また、全館禁煙のため健康にも配慮したホテルと言えるでしょう。

【アメリカ】THE SOLAIRE

マンハッタンの南端にあるバッテリーパークシティの中心部に位置する「THE SOLAIRE(ザ ソレア)」は、ニューヨークで初めてLEED認証のゴールドランクを取得した大型住居ビルです。

下記のように、さまざまな方法で環境負荷に取り組んでいます。

空気・持続可能な方法で調達された建築材を使用しているため、室内空気汚染を引き起こす可能性のある有機化合物が少ない
・季節を問わず、加湿と除湿をしっかり行う
・屋上に設置された植物園やオーガニックハーブ園は、雨水貯蓄システムによって維持され、道路や歩道への雨水流出を最小限に抑えている
・排水再利用システムによって、排水を浄化し、水洗トイレやエアコン用に再利用している
・同じ規模の建物より、飲料水の消費量を50%削減することに成功
エネルギー・3,400平方フィートを超える太陽光発電パネルを設置。
・各住居にはマスタースイッチが設置されており、スイッチ1つで家中の電気が消える
・二重窓にはLow-Eコーティングを施し、自然光を33%多く感じられ、熱損失も削減
地球・屋根は植栽されており、建物を断熱しながら二酸化炭素を吸収し酸素化を行っている
・建物の50%以上がリサイクル材料で建設されている
・堅木張りの床やキャビネット、木工品の材料は、持続可能な林業によって調達されたものを使用

バッテリーパーク地域には多くのグリーンビルが存在しますが、通常のビルより家賃が高いにもかかわらず、入居希望者が絶えないと言います。それだけ、市民の環境配慮に対する意識が高いということでしょう。

【日本】GOOD NATURE HOTEL KYOTO

2019年12月に開業した「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」は、京都府の四条河原町にある複合施設「GOOD NATURE STATION」の4~9階に位置する、心身の心地よさを追求した新発想のライフスタイル体験型ホテルです。

グリーンビルディングの認証制度である、「WELL認証」のゴールドランクを、「LEED認証」のシルバーランクを取得しています。ホテルが「WELL認証」を取得したのは、「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」が世界初であり、特に、下記の5項目が高く評価されました。

清潔で安心な空間・空気清浄に関する適切な換気方式の導入
・病原体の感染を防ぐ手洗い環境
・除菌清掃の整備
・空間を清潔に保つ日常清掃の手順
美しさと心豊かなデザイン・客室を含むホテルの空間に、地球環境に根差したデザインを施し、日本や京都らしさを表現
・地域の景観条例にも準拠
緑や自然を感じられる空間の多さ・中庭に、常緑のつる性木本植物であるテイカカズラを使用した「大緑化壁」や、WELL認証取得に必要な条件である「水景」に代わる「枯山水」を設置し、自然に囲まれた空間を実現
独自に開発した快眠証明システム・入眠と起床をスムーズに促し睡眠の質向上のために、起床前と起床前後の証明制御システムを全室に導入
独自性の高い
ゲスト向けウェルネスプログラムの提供
・ヨガや瞑想など、ホテルゲスト向けの館内外体験ツアーの提供
・健康への意識づけを高めるオリジナルアメニティの設置

また、「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」は、2023年4月に非化石証書(※)を用いた、実質再生可能エネルギー100%の電力で運営すると発表しました。

太陽光や風力など、非化石電源で発電された電力の環境価値を証書化したもの。

【日本】日本ロレアル株式会社本社オフィス

日本ロレアル株式会社の新宿本社オフィス「ビューティーバレー」は、2022年10月にリニューアルし、下記の点が評価されてLEED認証のゴールドランクを取得しました。

人の安全性・健康・ウェルビーイングへの配慮・背の高い什器を配置しないことによって、眺望を確保
・時間帯に寄手照度が変わる自動調光システムを導入
・施行中も、室内空気環境対策計画を行い、作業員の体調に配慮した環境で工事を実施
・ビルの空調を、ASHRAE 62.1-2010 基準の 1.3 倍以上の換気量にし、室内空気環境を維持
地球環境への配慮・専有部内(※1)の天井や床、壁の59.67%を、再利用し建設資材や廃棄物の削減に貢献
・高い中水利用率(※2)や節水型キッチン水栓を採用し、水使用量をLEED基準より 50.47%削減
・建設工事廃棄物の再利用率を76.46%達成
・省エネルギー・節水のために、Energy Star 認証同等性能の食洗器と製氷機を採用
入居ビルオーナー(東京ガス不動産株式会社)
との連携
・ビルオーナーと協力し、ビルに後付け複層ガラスを導入
・東京ガスファシリティサービス株式会社の協力により、テナント内カフェで発生する生ごみをバイオガス化リサイクル
・毎朝、窓のロールスクリーンを全開放し、室内の明るさを維持

(※1)専有部内:主に、マンションの所有者個人が所有する部分

(※2)中水利用:排水を処理し、雑用水に利用すること

そのほかにも、ビューティーバレーでは、約4,400個の自社製品が建材としてアップサイクルされ、以前のオフィスで使用していた家具3,800個をリユースしています。

なぜ今グリーンビルディングが注目されているのか

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このように、世界各地で様々なグリーンビルディングが見られるようになりましたが、なぜ注目されているのでしょうか。

パリ協定やSDGsの存在

理由のひとつに、パリ協定やSDGsの存在が挙げられます。

パリ協定は、2015年12月にフランスで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(以下COP21)」において決定された、気候変動問題に関する国際的な枠組みです。歴史上初めて、気候変動枠組条約に加盟する196カ国が、削減目標と行動を掲げ参加することをルール化しています。パリ協定では、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2℃以内に抑える(努力目標は1.5℃以内)」ことが掲げられました。

またCOP21では、国連環境計画 (UNEP) が主催する「Global ABC(※)」も開催され、グリーンビルディングや建材のサーキュラーエコノミー化などについて話し、具体的なアクションも発表しています。そして、2015年9月にはSDGsが採択されており、気候変動やその影響についてあらゆる方面からの解決を目指し議論されました。そういった経緯もあり、グリーンビルディングが注目されているのです。

GlobalABC

「Global Alliance for Buildings and Construction」の略であり、「GABC」とも呼ばれている。建築や建設業界に係わる全ステークホルダーの連携強化や、持続可能なエネルギー効率の高い建物の普及を促進、低炭素な社会の構築などを目指している。

グリーンビルディングのメリット

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グリーンビルディングには、地球環境に優しい点やコスト削減以外にも、下記のようなメリットがあります。

メリット①企業価値の向上

近年、SDGsやカーボンニュートラルに関する取り組みへの注目が高まるにつれ、環境配慮や脱炭素経営の推進をアピールする企業が増えています。グリーンビルディング認証を取得することによって、より具体的且つ客観的な評価を得た取り組みを行っていることを世間にアピールできます。

また、環境や社会に配慮し、ガバナンスに優れた企業へ投資する「ESG投資」が拡大しているため、投資家や消費者から選ばれる企業になることが期待されます。

メリット②優秀な人材が集まりやすくなる

先述したようにグリーンビルディング認証制度は、環境総合評価指標・エネルギー評価指標・人中心の建物指標の3つに分けられています。そのうちの1つ「人中心の建物指標」は、建物内で働く人に対する指標です。

働きやすい環境は、従業員の意欲向上や個々の能力を発揮しやすくなります。つまり、従業員のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)向上に繋がるため、優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。

グリーンビルディングのデメリット・課題

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メリットの多いグリーンビルディングですが、デメリットや課題があることも事実です。

デメリット・課題①認証制度に有効期限がある

グリーンビルディング認証制度には有効期限があり、期限を過ぎた際は再取得しなければならず、業務の負担となる可能性もあります。

例えば、WELL認証は有効期限が3年と決まっています。そのほかにも、CASBEE建築評価認証の、「CASBEE-新築」の有効期限は竣工(または竣工予定日)から3年「CASBEE-既存」は評価認証日から5年間です。CASBEEウェルネスオフィス認証も5年間となっています。

デメリット・課題②最新技術や設計の導入によってアクシデントが発生する可能性も

省エネや節水など、環境性能の高い建物であるグリーンビルディングの建設には、最新の技術や設計、システムなどの力が不可欠です。しかし、新しいが故に、想定外の不具合が起き悩まされる可能性もあります。

そのほかにも、建設したが想定していた光熱費の削減や省エネ効果を得られなかった、という場合もないとは言い切れません。発生しそうな問題を事前に話し合い、対策を考えて起きましょう。成功するためには、リスク管理をしっかりと行うことも大切です。

グリーンビルディングが日本で普及しない理由

持続可能な社会の実現には、グリーンビルディングへの取り組みが不可欠のように思えますが、検索サイトでは「グリーンビルディングが日本で普及しない理由」と検索されることも多いようです。では、グリーンビルディングは日本でどのくらい普及しているのでしょうか。

日本で意識され始めたのは最近

先述したように、2015年に採択されたパリ協定やSDGsをきっかけとして、世界的に脱炭素の動きが加速しました。それに伴い、環境配慮型の建物「グリーンビルディング」の建設も増えていきました。実際に日本でも、グリーンビルディング認証の1つである、LEED認証の取得率が2018年頃から増加傾向にあります。

2020年には菅義偉元内閣総理大臣が、「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」ことを発表しました。これにより、不動産業界では2021年に「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」を公表しています。

建築分野でも、脱炭素の達成に向けて「省エネルギー化」が注目されており、「まずエネルギー使用量を減らして、残った分を二酸化炭素の発生しない再生電力で賄い、トータルでゼロにしましょう。」という流れになっています。

これらの流れもあり、2015年時点で脱炭素やグリーンビルディングの話は出ていたものの、計画や法整備などができたのが近年であったため、日本は世界より少し遅れてのスタートとなったと考えられるでしょう。

LEED認証やWELL認証が日本で普及しにくい理由

世界的に有名なグリーンビルディング認証である「LEED認証」や「WELL認証」は、日本でも少しずつ取得する建物が増えています。しかし、下記のような理由もあり、普及しにくいと言われています。

  • 日本では「CASBEE」が普及しているため
  • LEED認証を取得する建物は増加傾向にあるが、日本ではまだまだ知らない人が多い
  • アメリカで生まれた認証制度のため、日本に馴染みにくい評価軸も含まれている

しかし先述した通り、現代は世界全体が脱炭素に向けて動き出しているため、グリーンビルディングのような環境認証は、以前より受け入れやすい状態であることも事実です。今後、グリーンビルディングが世の中のスタンダードになる日が訪れるかもしれません。

グリーンビルディングとSDGs

最後に、グリーンビルディングとSDGsの関係性を確認しましょう。

SDGsとは、2015年9月に行われた国連総会にて、193の加盟国が賛同し、決定した国際目標です。日本では、「持続可能な開発目標」とも呼ばれています。現在、世界で起きている、環境・社会・経済の課題を解決するために、17の目標と169のターゲットが設定されました。

そして、環境に配慮して設計されたグリーンビルディングが増えることによって、

などの達成に近づくと言われています。

今回は、その中でも特に関わりの深い目標13に注目してみましょう。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

目標13は、

  • 災害に関するレジリエンスと適応の強化
  • 対策を国の政策や戦略、計画に盛り込む
  • 気候変動の緩和策や適応策、影響の軽減、早期警戒に関する教育や啓発
  • 人的能力や組織の対応能力の改善

など、気候変動とその影響に立ち向かうための対策が盛り込まれています。

そして、気候変動の原因の1つと言われているのが地球温暖化であり、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加によって起きます。

グリーンビルディングは、省エネルギーや二酸化炭素排出量削減などといった、気候変動対策にも重点を置いた建物です。そのため、グリーンビルディングが増えることによって、SDGs目標13の達成に近づきます。

まとめ

近年注目されている、グリーンビルディング。世界では、環境や働く人に配慮した建物の証として、「WELL認証」や「LEED認証」などを取得する建物が増えています。そして、日本でも、「CASBEE」や「CASBEEウェルネスオフィス」「BELS」などがあり、取得を検討する人が増加傾向にあります。

私たちが生活するうえで、建物はなくてはならない存在です。そのため、グリーンビルディングのような建物が増えることによって、環境への負荷が減り、人々もいきいきと働けるようになるでしょう。その結果、SDGsの多様な目標の達成に貢献できます。オフィスや施設などを建てる際は、グリーンビルディングも選択肢の1つとして考えてみてはいかがでしょうか。

〈参考文献〉
SDGs(持続可能な開発目標)|蟹江憲史 著|中央公論新社
地球温暖化とは?温暖化の原因と仕組みを解説|WWF
CASBEEウェルネスオフィス評価認証|一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター
CASBEEE建築評価認証一覧|一般財団法人ベターリビング
WELLとは|GREEN BUILDING JAPAN
グリーンビルディングの需給動向から考える脱炭素時代のオフィス市場 Ⅱ|野村不動産ソリューションズ
パリ協定|全国地球温暖化防止活動推進センター
日本ロレアル本社オフィス 「LEED GOLD®認証」を取得|PRTIMES
GOOD NATURE STATIONはホテルを含む全館で実質再エネ100%の電力で運営を開始します|PRTIMES
GOOD NATURE HOTEL KYOTOが世界初のWELL認証取得ホテルに|株式会社大林組
LEED グリーンビルディング認証|NY Green Fashion
グリーンビルディングとはなんだろう|GREEN BUILDING JAPAN
GBJインタビュー「日本での設備設計とグリーンビルディング」②グリーンビルディング認証とは|GREEN BUILDING JAPAN
グリーンビルディングとは|GREEN BUILDING JAPAN
グリーンビルディングの需給動向から考える脱炭素時代のオフィス市場 Ⅰ|野村不動産ソリューションズ