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アニマルウェルフェアとは?5つの自由・日本の現状と遅れている理由

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「アニマルウェルフェア」は、動物自身の幸福度を視した考え方です。日本では聞き馴染みがないかもしれませんが、欧米では動物利用の際の主流な考え方となっています。

この記事では、アニマルウェルフェアとは何か、歴史や動物愛護など類語との違い、世界や日本での取り組みについて紹介します。アニマルウェルフェアについての理解を深めてみましょう。

アニマルウェルフェアとは

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アニマルウェルフェアとは日本語で動物福祉と訳され、世界の動物衛生向上を目指す政府間機関国際獣疫事務局OIEによると、「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」としています。もっと簡単な言い方をすると、アニマルウェルフェアは、人間の保護・管理下にある動物に対して本来の習性に合った生活環境を与え、健康で心身に苦痛のないように飼育することです。

対象となるのは人間の保護・管理下にあるすべての動物で、

  • 家庭動物(飼い主がいない犬猫などペット動物も含む)
  • 産業動物
  • 実験動物
  • 展示動物

を示し、野生動物は含みません。

似た概念の言葉に「アニマルライツ」や「動物愛護」があります。いずれも動物を大切に扱うことを目指すものですが、それぞれ何が違うのでしょうか。

アニマルライツとの違い

アニマルライツは、日本語では動物の権利と訳され、動物が動物らしく生きる権利のことです。人間との関係の有無に関わらず、すべての動物を対象としています。

アニマルライツでは人間が欲求のために動物を利用することは動物の権利を犯しているとし、食用や実験用、衣類用、娯楽用などのすべての動物利用をなるべく減らすべきと考えます。人間に利用されることは動物にとって苦痛であるとしており、ヴィーガンやミートフリーを推奨しています。一方のアニマルウェルフェアでは、こうした家畜の利用を認めており、動物が快適に生活することに重点を置いています。

動物愛護との違い

動物愛護は、「動物を愛して護る」の言葉通り、人間を主体として動物を愛する感情や思いやり、共感を育むことを目的としています。なんとかしてあげたいとの気持ちから犬猫の保護を行うなどの活動がこれにあたります。一方、アニマルウェルフェアでは、動物を主体に考え、動物のニーズを満たしQOLを向上させることを目指しており、視点の違いがあります。

動物愛護はアニマルウェルフェアやアニマルライツと比べて日本では古くからある概念なので、法的にも「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)として定められてます。

動物愛護管理法において愛護動物は、

  • 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
  • その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

を指し、これらの動物が動物愛護の対象となります。

アニマルウェルフェアの歴史

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では、アニマルウェルフェアの考え方がどのようにして誕生したのか、歴史を見てみましょう。

1960年代イギリスで誕生

アニマルウェルフェアについての議論は1960年代、イギリスで始まったとされています。家畜福祉に関する活動家のルース・ハリソンが著書「アニマル・マシーン」の中で工業的な畜産は虐待ではないかと批判し、一般市民の注目を集めました。

そして世論が高まるにつれ、イギリス政府は「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を定めました。これが後に後述するアニマルウェルフェアの「5つの自由」になっていきます。

現在、国際獣疫事務局(OIE)がアニマルウェルフェアについて世界的に取りまとめており、日本を含む世界182の国と地域が参加しています。(OIEの基準に沿って各国は取り組みを進めていますが、各国の取り組みには差があるのが現状です。)

アニマルウェルフェアの5つの自由

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アニマルウェルフェアの歴史の部分でも触れましたが、アニマルウェルフェアでは「5つの自由」を基準としています。1つずつ見ていきましょう。

飢えと渇きからの自由

ひとつ目は、基本的な食を満たすことです。その動物にとって適切かつ栄養的に十分な食べ物を与え、いつでも綺麗な水が飲めるようにすることが重要です。

不快からの自由

環境的な不快感からも自由であるべきとされています。その動物にとって適切且つ清潔な環境で飼育し、雨風や炎天を避けられる快適な休憩場所を用意すること、ケガの恐れがある鋭利なものがないことなどが定められています。

痛み・傷害・病気からの自由

ケガや病気などの苦しみを取り除いてあげることも重要です。病気にならないように普段から健康管理・予防をし、痛みや外傷・疾病の兆候があれば治療することが求められています。

恐怖や抑圧からの自由

精神面においても、恐怖や精神的苦痛、不安、多大なストレスがかからないように飼育することも示されています。威圧や恐怖感によって統率を取ろうとすることはアニマルウェルフェアにとって良くありません。

正常な行動を表現する自由

動物の正常な行動を表現するための充分な空間や適切な環境を用意すること、そして動物の習性に応じて群れで飼育したり単独で飼育したり、動物に合わせた方法をとったりすることも大切とされています。

なぜ今アニマルウェルフェアが求められているのか

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ではなぜ今、このアニマルウェルフェアが求められているのでしょうか。

エシカル消費の広がり

近年、SDGsの推進によりエシカル消費の考え方も広く知られるようになり、普段利用する商品の背景にも注目する場面が増えました。例えば畜産では、生産性を重視する集約的な生産方法が主流で、家畜は行動を制限する施設で効率的に飼育されています。このおかげで私たちは畜産物を安く大量に利用できるようになりましたが、家畜たちは自然な行動を奪われていると言えます。このような家畜の暮らしを改善してほしい、健康な家畜による畜産品が欲しいとの消費者の需要は高まっており、今後ますますアニマルウェルフェアは求められていくでしょう。

ESG投資の高まり

同じようにSDGsの広がりにより、投資家の中でESG投資が注目されています。ESG投資とは、環境(Environment)や社会(Social)の問題解決に取り組み、企業統治(Governance)も適切に行われている会社に投資しようという考え方です。ESG投資においてアニマルウェルフェアは評価指標のひとつとなっており、企業がアニマルウェルフェアをどう捉えてどう対応しているかが株式市場で重要な基準となりつつあります。

アニマルウェルフェアの世界の現状

SDGsの拡大に伴って注目されているアニマルウェルフェアですが、世界ではどのような対応がとられているのでしょうか。

先進国の取組み

世界的に見ると、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、カナダなどがアニマルウェルフェア先進国であると言われています。

例えば、卵を取るために鶏を育てている採卵養鶏場の様子は、日本とはかなりの違いがあります。鶏の育て方には以下のように

  • バタリーケージ(狭いケージ)
  • エンリッチドケージ(広いケージ)
  • 平飼い(飼育舎内を自由に動き回れる)
  • 放牧(屋内外を自由に動き回れる)

という4種類があり、日本では9割が下の写真のようなバタリーケージ(1羽あたりB5程の大きさ)で飼育されています。

一方EUでは、2012年に採卵養鶏場でのバタリーケージが禁止され、ケージ飼いの場合は巣・砂場・止まり木があるエンリッチドケージでなければなりません。しかしケージ飼育自体の廃止を望む声が高く、2021年には55%がケージフリーで飼育されています。米国の6州でも同じようにバタリーケージを廃止する動きがあり、2020年にアメリカ全土で26.2%がケージフリー飼育となりました。

鶏のケージと同じように、豚の「妊娠ストール」についても、先進的な取り組みが見られます。「妊娠ストール」とは、母豚が子豚を踏み殺さないために導入された檻で、以下の写真のように豚の大きさにほぼピッタリなので方向転換ができません。

日本では母豚のストール飼いは9割程とみられています。一方、EUでは2013年から種付け後4週間と分娩1週間を除き妊娠ストールの使用が禁止されています。他にも、ニュージーランドやオーストラリアでも使用禁止になりました。

犬猫の殺処分に関しても、日本では各地の保健所で飼い主が見つからない犬猫が毎年10万匹以上も殺処分されていますが、ドイツでは全く殺処分は行なわれていません。

アニマルウェルフェアの日本の現状

世界各国と同じようにアニマルウェルフェアの5つの自由を基準としつつも、鶏のケージや豚のストールの例にもあるように、日本ではあまりアニマルウェルフェアが進んでいないと言えます。国際的な動物保護活動を行なっている世界動物保護協会(WAP)が50か国を対象に行なった調査によると、動物保護指数(API)で日本は最低ランクのG評価でした。なぜ日本はアニマルウェルフェアに関する取り組みで遅れを取ってしまったのでしょうか。

日本はなぜ遅れているのか|遅れていると言われる理由

①法的な整備がされていない

EUやその他アニマルウェルフェア先進国では、例えば鶏のケージについては1羽当たりの飼育面積や設備などの具体的な規定があり、違反した場合の罰則含め法的な拘束力があります。

日本では家畜に関して畜産技術協会の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」がありますが、具体的な規程がなく、法令でないため拘束力はありません。

②畜産業については歴史が浅い

今の畜産業は戦前から戦後にかけて欧米から技術を学んで普及し始めました。

そのためアニマルウェルフェアについても欧米ほど認知が広まっておらず、市民運動もあまり行なわれていません。

③日本は畜産品の輸出が少なく他国の消費者に合わせる必要がない

もし、日本から多くの畜産品を欧米へ輸出する場合、消費者に合わせてアニマルウェルフェアにも配慮していく必要があります。
しかし、現時点で輸出はほとんどなく、アニマルウェルフェアについては、関心が少ない日本の消費者に販売できるレベルでいいというのが現状です。

④消費者が関心を抱きにくい

工場化が進み、生産過程が見えにくくなっているため、消費者は関心を抱きにくい状況があります。

今後、さらにエシカル消費やフェアトレードなどの背景を大切にする考え方が広がれば、アニマルウェルフェアを重視する動きも盛んになっていくでしょう。

アニマルウェルフェアの課題

世界と日本での取り組みの違いを見てきました。日本でアニマルウェルフェアを進めていくためには、今後、何が必要となっていくでしょうか。

コスト高対策としての補助金や法整備

「日本が遅れていると言われる理由」で触れましたが、法的な整備が進んでいないことが課題として考えられます。改善していくためには、国としてアニマルウェルフェアに取り組んでいく必要があるでしょう。

また、コスト面も課題です。生産者はコストを気にしてアニマルウェルフェアに取り組むことに慎重になりがちで、一方の消費者は買うなら安い方がいいという考え方が主流です。つまり、生産者に対して支援がなければアニマルウェルフェアに取り組むことは難しいでしょう。例えば卵に関して、スウェーデンやベルギーではアニマルウェルフェアに取り組む生産者に対して補助金があり、飼育方法による卵の価格の違いはほとんどありません。同じ値段で買えるのであれば、動物に無理のない方法で生産された卵の方が魅力的ではないでしょうか。

認証制度の活用

認証制度が十分に認知・活用されていないことも課題として考えられます。アニマルウェルフェアを取り入れた認証制度には、

  • 特色JAS認証「地鶏肉」「持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉」(エコデザイン認証センター)
  • 平飼い鶏卵認証(エコデザイン認証センター)
  • アニマルウェルフェア畜産認証(一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会)
  • やまなしアニマルウェルフェア認証(山梨県)

などがありますが、あまり見かけないものも多いのが現状です。

認証制度が認知されるようになってくれば、認証マークのついた食品を選ぶ消費者も多くなりますし、生産者も認証を得ようと努力し、結果としてアニマルウェルフェアが広がっていくのではないでしょうか。

アニマルウェルフェアに取り組む企業事例

ここからは、実際にアニマルウェルフェアに取り組む企業を紹介します。

パルシステム

宅配サービスを行なっている生協のパルシステムでは「コア・フード」という有機JAS認証を元にした独自の基準を持つ商品ラインがあります。

このうち「コア・フード平飼い卵」として販売されている卵は、

  • 飼料に抗生物質・抗菌剤は不使用
  • ヨーロッパの基準を参考に鶏の密度は坪当たり15羽以下
  • おからや米ぬかなどの食品副産物を利用した発酵飼料を使用
  • 鶏ふん堆肥を地域に還元

などに取り組んでいます。

汐文社

NPO法人アニマルライツセンターでは、アニマルウェルフェアアワード(AWA)を毎年選定しています。2023年のAWAで「鶏賞」を獲得したのが、汐文社という出版社です。2022年に児童書「いつか空の下で さくら小ヒカリ新聞」(堀直子作、あわい絵)を出版、この書籍で採卵鶏の隠された飼育実態を児童書で初めて表現したことが評価されました。

ストーリーは、主人公が養鶏場でケガをした鶏と出会うところから始まります。処分される寸前だった鶏を助けたことで養鶏場の実態を知り、鶏の幸せや私たちの責任について考え、新聞として発表する…という話で「子どもから大人まで全員におすすめ」「良い意味で期待外れ」等のレビューが数多く寄せられています。書店や図書館で探してみてはいかがでしょうか。

他にもAWAでは、社員の意識向上に取り組んだ三和食鶏に鶏賞、日本でいち早く養殖魚のアニマルウェルフェアに取り組んだニッスイに魚賞、妊娠ストールフリーに取り組んだコープ自然派に豚賞が贈られました。

アニマルウェルフェアとSDGsの関係

課題がありつつも、様々な取り組みがあることが分かりました。では最後に、アニマルウェルフェアとSDGsとの関係について確認していきましょう。

SDGsの中に、直接的にアニマルウェルフェアに関して言及している項目はありません。しかし、いくつかの項目と間接的に関わりがあります。

まず、生産過程に倫理的責任を持つという点で、目標12「つくる責任つかう責任」と関係があります。飼育や屠殺の方法など生産のすべてのプロセスに責任を持つ必要があり、消費者にきちんと説明できるかどうかが重要になってきます。

また、動物に関しては多様性を守ろうとする目標14「海の豊かさを守ろう」や目標15「陸の豊かさも守ろうがあります。環境保護による生物多様性に注目が集まりがちですが、人間の管理下にある動物も一律に管理するのではなく、アニマルウェルフェアに配慮し、多様な飼育方法を行なうことで守られていく多様性もあります。

集約的な畜産では大量生産・大量消費・大量廃棄が前提となっていることから目標2「飢餓をゼロにと関係があります。アニマルウェルフェアに配慮せずに動物を物のように扱うことは労働者に心理的ダメージがあることから目標8「働きがいも経済成長もとも関わりがあり、他にも多くの目標と関係しあっています。

まとめ

アニマルウェルフェアについてまとめました。アニマルライツ、動物愛護といった類語とは動物に対する立場や対象とする動物に違いがあり、アニマルウェルフェアでは世界的に「5つの自由」が基準とされています。

アニマルウェルフェアはイギリスで生まれ、欧米で拡大していきました。日本は欧米より遅れを取っていますが、アニマルウェルフェアに取り組む企業も増えており、認知度が上がれば日本でも拡大していく可能性は十分にあります。消費者として私たちも関心を持っていきましょう。

参考資料
アニマルウェルフェアについて:農林水産省
アニマルウェルフェアとは? 意味や日本の現状、課題を専門家が解説:朝日新聞
動物福祉について|公益社団法人日本動物福祉協会
Hope For Animals|鶏、豚、牛などのアニマルウェルフェア、ヴィーガンの情報サイト
アニマルウェルフェア畜産協会
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