ENELL株式会社 赤石太郎さん インタビュー
赤石太郎
20歳の学生の時にIT分野にて企業後、26歳の時に事業譲渡を行い、不動産建築分野にて2回目の起業を行う。その後、飲食、不動産、WEB3.0 事業を経営し、2019年から現在の水インフラ事業に専念する。
目次
Introduction
ENELL株式会社は、世界中の水問題を解決するために「空気から水を作る」技術を世界で初めて開発した企業です。その技術を応用した独立型水源インフラ「無限水」は現在、SDGsやBCP対策、脱炭素への関心が高い企業や、災害時に要となる自治体で導入が進んでいます。
今回は、代表取締役の赤石さんに、空気から水を作る仕組みや、技術開発にあたっての苦労、今後力を入れたいことなどを伺いました。
水問題の根本的な原因は「雨に頼ること」「運ぶ必要」
–会社概要について教えてください。
赤石さん:
我々は「世界中の水道インフラ」にイノベーションを起こそうとしてる会社です。具体的には、「空気から水を作る技術」と「塩素を使わずに川の水や雨水を飲料水に転換する殺菌技術」と「塩素を使わずに水を長期保存する技術」3つの特殊技術を開発し、1つの製品にすべてをインストールさせることに成功しました。これを世界中に点在させることによって、世界中の水問題を解決しようとしています。
テレビやニュースなどで、新興国の痩せた子どもたちが「泥で濁った水を飲んでいる光景」ってよく見ますよね。僕はあの光景を生で見たとき、胸が痛くて涙が出ました。世界中では1日6,000人の子どもたちが不衛生な水を飲んで命を落としています。僕には昔から「そういう子供たちを何とか救いたい」という意識があり、このような水問題がどうして起こっているのか、その原因を考えたんです。
-水問題の原因とは何でしょうか?
赤石さん:
一般的に言われているのは人口増加ですよね。この60年間で世界の人口は2.5倍に増え、今後も増え続けます。そのせいで「水不足」なのだと。でも実は、水が不足することはありません。なぜなら、地球上に存在する水の総量は不変だからです。実際は、人間が使える水の量が、地球全体に存在する水の総量のたった0.01%と限られた量しかないことが問題なんです。つまり、水が不足しているのではなく、人口増加によって<1人当たりの使える水の量>が減っていることにあります。
しかし、水問題が世界で発生する本質的な原因はもっと違うところに2つあります。
1つ目は、世界中の水源は全て雨がベースであるということ。2つ目は、それらの水は、必ず何かしらの方法で運んでくる必要があるということ。結局、我々は雨が降らないと使える水は手に入りません。そしてそれらの水は、必ず何かしらの方法で手元に運ばれてくる必要があります。先日の能登半島地震でも、「配管」と「道路」という運ぶ手段がなくなったことで、問題が長期化していましたよね。
この「雨に頼ること」と「水を運ぶこと」の2つをなくせば、世界の水問題が解決すると考え、「空気から水を作る」いう発想に至りました。これは、数千年もの間、誰もが疑わなかった「水の常識」を根本概念から変える出来事なんです。
空気から水を作る無限水とは?
–「空気から水を作る」製品について詳しく教えてください。
赤石さん:
我々が開発した「空気から水を作る」製品は1日最大33Lの水を空気から作り出す小型モデルの「無限水」から1日最大5トンの水を作り出す「WATERMAKER」まで3つのラインナップをマーケットに出しています。2007年から研究を開始して、2011年に最初の特許を申請しました。最適な温度差と圧力を使って、空気中に存在する水蒸気を液体に変える技術で水を作ります。基本的に必要なものは電気だけで、一番小型のモデルでも、日本では平均1時間に1リットル近くの水を作り出します。
特徴的なのは、塩素や薬を一切使わずに飲料水基準を満たしているところです。スペースシャトルなどにも搭載されている、世界で一番目の細かい逆浸透膜フィルターの導入や、特許出願中の独自の浄化技術によってそれを実現しました。
この無限水は、フィルター交換や、調子が悪いときの修理代を含めて月額15,000円のサブスクレンタルモデルで提供しています。
–現在無限水は、どのようなところで導入されていますか?
赤石さん:
企業から自治体、商業施設や個人に至るまであらゆるところで導入されています。災害時の飲料水確保はもちろんのこと、SDGsやCO2削減に関心が高い企業や、マンションにお住まいの個人の方にもよく導入いただいています。無限水は、一般的なウォーターサーバーやペットボトル飲料水と違って、車での運搬等がないためCO2を一切出しません。仮に国内のウォーターサーバーと水のペットボトルの10%を無限水に置き換えたとすると、なんと自動車12万台が年間に排出する排気ガス(CO2)を削減するのと同じ効果があるんです。
また、自治体での導入も増えています。佐賀県で水害が発生した際は、無限水で飲料水を提供しました。そのときには、より多くの飲み水を確保するため、川の水や風呂水を飲料水に転換する無限水の機能を使って、泥水を飲料水に転換して避難者に提供しました。
実際の画像がこちらです。約15秒ぐらいで右の真っ茶色の水が右の透明な水になって出てきます。これによって、1日約600リットル、の飲料水を獲得できます。
能登の被災地でも無限水が使われており、1日300人が無限水の水を使って生活をしています。
–災害時には電力も不足しますよね。無限水はどれくらいの電気が必要なのでしょうか?
赤石さん:
無限水には、電気を使う機能が4つあります。
災害時に電力が少ない場合には、災害時用の浄化機能だけに特化して稼働させることができます。それであれば、30W程度の低電力で長時間稼働します。
また、低電力でさえも手に入らない時のことを想定して、ソーラーパネルでの発電と蓄電が可能な蓄電池2台と「無限水」のセットでの提供も開始しました。1本目の蓄電池で無限水を50〜60時間ぐらい動かし、空になったら2本目の蓄電池を使ってもらいます。その間に、空になった1本目を付属のソーラーパネルでフル充電させます。そうすれば、電気と水がなくなっても、両方確保できますから。
「水の安全性担保」に10年以上を費やした
–「空気から水を作る」という前例のない製品開発にあたって、大変だったのはどんなことでしょうか?
赤石さん:
まず、そもそも前例がないことでしたので、発生する課題もわからず、大変なことの連続でした。その中でも一番苦労したのは、安定的に「空気から水を作ること」と「水の安全性を担保すること」でしたね。
水に含まれる不純物には有機物と無機物があります。無機物は物質なのでフィルターなどで取り除けばいいですよね。問題は、有機物中のバクテリアや細菌、ウイルスです。日本では水道水を飲めますが、それは塩素によってバクテリアなどを殺しているからです。一方で、無限水は塩素を使わずにバクテリアなどがいない状態にしなければなりません。それだけでなく、作り出した水はタンクで保管しますから、一定期間経っても安全な状態を保つ必要があります。バクテリアは空気に触れた瞬間から増えますので、それを抑える技術の開発には、非常に長い時間と費用を費やしました。この技術は、現在国際特許を出願しています。
–水の安全性の担保にそれほどの時間をかけられたのですね。無限水の安全性がわかるエピソードはありますか?
赤石さん:
東京で一番汚い川の1つである渋谷川の水を使って実験をしました。首都圏直下型が発生して、多くの人に飲める水を供給する必要があるときのことを想定し、毎日約20リットルの渋谷川の水を無限水に給水して、吐水口から出すことを1ヶ月間継続。その期間の途中でフィルター交換も行っていません。そして、転換し続けて1ヶ月後、出てくる水の安全性を確かめるために、東京都が認定している検査センターにて水質検査を行いました。ちなみに元々の渋谷川の水は、一般細菌の数値がなんと3,500もあり、さらに大腸菌も検出されています。そのような水を無限水に給水して使い続けても、、1ヶ月後に無限水から出てきた水は、水道水基準に適合し、一般細菌も大腸菌も0でした。ドブ川の水を塩素も使わずに飲料水に変えられる技術は、世界中探しても我々しか持っていないと思いますね。
水で亡くなる人がいない世界を作りたい
–今後の展望についてお伺いできますでしょうか?
赤石さん:
2027年をめどに、電源に繋がないモデルの無限水をリリースしようと考えています。無限水で作った水を使って発電し、その電力で無限水を動かすという、完全なスタンドアローンモデルです。水を使った発電の技術は、既に我々のパートナーが特許を持っていますから、それを実装する予定で進めています。
また、現在自治体と進めているプロジェクトには、収益事業として運営しているキャンプ場を「水と電気を自給自足できるキャンプ場」に変えて通常時は収益モデルで運営しつつ、災害時には市民の避難場所に早変わりさせ、防災観光都市というブランディングによってインバウンドを呼び込む構想です。
–海外への展開はどのような状況でしょうか?
赤石さん:
「安全な水にアクセスできない」「水道インフラが未熟で老朽化」「地下水が枯渇して農業ができない」など、海外には、水に関する課題が山積しています。例えばフィリピンやインドネシアにはあわせて数万の島が存在しますが、島には川がないため水源はありません。水を手に入れる方法は、船で運ぶか井戸を掘るか、海水を淡水に変えるかの三択です。どれもコストと手間がかかりますよね。でも、我々の技術を導入すれば、そういった島の人々の水問題を解決できます。また、水道インフラが未熟で、なおかつ、老朽化しているインフラを一から更新するよりも、我々の技術の導入によって大幅にコスト削減を行いながら衛生的な水道インフラを築くことができます。この未来の水源インフラ事業に関心を持つ国々の企業との商談を始めています。
戦略としては、現地企業とタイアップして各国ごとにメーカーを作るというものです。国ごとに環境も経済状況も違いますので、それぞれの国の環境やマーケットにフィットするものを、ゼロからその国で作ろうとしているんです。いわゆる地産地消のモデルになります。我々は現地の企業に、ライセンスと製造ノウハウ提供を行おうと考えています。
空気から水を作る無限水は、ある意味では個人・法人・施設のジャンルにかかわらず、あらゆる人の手元に置ける「雨に変わる水源と浄水設備を一体化させた未来の水道インフラ」だと言えます。これを世界中に点在させることによって、あらゆる水の課題解決を実現でき、不衛生な水を飲んで亡くなる子どもを救うことができるはずです。我々はそのために、世界中に無限水の事業を展開していきたいと思います。
–貴重なお話をありがとうございました!