
あなたの仕事や暮らしは、ジェネレーティブAIの登場でどう変わるのでしょうか。創造性を備えたこの新たなAIは、従来のAIとは異なる進化を遂げ、人間と共存する未来を切り拓きつつあります。
ディープラーニングやニューラルネットワークの進展を背景に、社会にすでに変革をもたらしているジェネレーティブAI。その可能性と課題を多角的に捉えることは、これからの時代を生きるうえで重要な視点となるでしょう。
目次
ジェネレーティブAIとは?

ジェネレーティブAIは、その名の通り「生成(Generate)」すること、つまり学習したデータを元に、これまでにない新しいオリジナルなコンテンツやデータを創り出すことを最大の特長としています。
- テキスト
- 画像
- 音楽
- プログラムコード
- デザイン
- 3Dモデル
- 動画
など、多様な形式のデータを生み出すことが可能です。あたかも人間が創造的な活動を行うかのように、ゼロから新しいものを作り出す能力を持つことから、「創造するAI」とも呼ばれています。
AI(人工知能)の基本
ジェネレーティブAIを詳しく知る前に、まずはAI(人工知能)そのものについて基本的な考え方を確認しておきましょう。AIとは、人間の脳が行っているような「知的な作業」の一部、あるいは全体をコンピューターによって実現しようとする技術やシステムのことを指します。
具体的には、
- 大量のデータからパターンを見つけ出す「学習」
- 学習結果に基づいて物事を「判断」したり「予測」したりする能力
などがこれにあたります。例えば、迷惑メールを自動で判別したり、過去のデータから将来の株価を予測したりするAIは、この「判断」や「予測」を得意としています。
これまでの多くのAIは、データの「分析」や「識別」、「予測」を中心としていました。これに対しジェネレーティブAIは、先述したように創造する能力を持ちます。では、具体的にどのようなものを創り出すのでしょうか。
ジェネレーティブAIの主な種類
ジェネレーティブAIは、どのような種類のデータを生成するかによっていくつかの主なタイプに分けられます。
テキスト生成AI
テキスト生成AIは人間が書いたかのような自然な文章を生成します。
- メールの作成
- ブログ記事の下書き
- 物語の執筆
- 要約
など、幅広いテキスト関連のタスクに利用できます。OpenAIのChatGPTなどがこの代表例です。
画像生成AI
画像生成AIはテキストによる指示(プロンプトと呼ばれます)や既存の画像を元に、全く新しい画像を生成します。写実的なものから抽象的なアートまで、多様なスタイルの画像を創り出せます。MidjourneyやDALL-Eなどが有名です。
音楽生成AI
音楽生成AIは、テキストや楽譜、既存の楽曲のスタイルを参考に、新しい楽曲を生成します。特定の雰囲気やジャンルを指定して、音楽を作り出すことができます。
動画生成AI
動画生成AIは、テキストや画像から短い動画やアニメーションを生成します。物語性のある映像や、特定のコンセプトに基づいた動画を作り出す技術が進んでいます。
その他
上記の他にも、
- プログラムコードを生成するAI
- 3Dモデルを生成するAI
- デザイン案を生成するAI
など、様々な種類のデータを生成するジェネレーティブAIが登場しています。
ジェネレーティブAIは、このように学習済みの知識を活用して「新しい何か」を生み出すAIであり、テキストから画像へ、画像から動画へと、異なるモダリティ(異なる種類のデータ)を横断して生成する「マルチモーダル」な能力も進化しています。この生成能力こそが、ジェネレーティブAIがこれまでのAIと一線を画し、社会に大きなインパクトを与えている核心と言えるでしょう。*1)
これまでのAIとジェネレーティブAIの違い

AI技術はここ数年で飛躍的な進化を遂げ、特にジェネレーティブAI(生成AI)の登場により、AIの活用範囲や社会的インパクトが大きく変化しています。
従来のAIと生成AIは「できること」や「使われ方」が根本的に異なります。ここでは、その違いを理論と実例の両面から整理していきましょう。
目的と出力の違い
従来型AIは主に「分析」と「判断」を目的としています。与えられたデータを分析し、パターンを認識したり、特定の問いに答えたりすることが主な役割でした。
例えば、メールがスパムかどうかを判断したり、医療画像から病変を検出したりするのは従来型AIの得意分野です。
一方、ジェネレーティブAIは「創造」と「生成」を主目的としています。学習したデータのパターンを基に、新しいコンテンツを作り出すことができます。
例えば、指示に応じた文章の執筆、写真のような画像の生成、人間のような自然な会話の展開などが可能です。
つまり、従来型AIは「与えられた問題に対する答え」を出力するのに対し、ジェネレーティブAIは「まったく新しいコンテンツ」を生み出せる点が決定的な違いです。これにより、AIの応用範囲は情報処理から創造的作業へと大きく拡大しています。
学習方法と技術基盤の違い
従来型AIは主に「教師あり学習」※と呼ばれる方式で開発されてきました。正解ラベル付きのデータを大量に与え、入力と出力の関係性を学習させるアプローチです。
例えば、「これは猫の画像です」「これは犬の画像です」といった正解情報と共に学習を進めます。
これに対しジェネレーティブAIは、「自己教師あり学習」※や「敵対的生成ネットワーク(GAN)」※など、より高度な学習方法を活用しています。特に大規模言語モデル(LLM)は、膨大なテキストデータから言語の構造や知識を自ら学び取り、文脈を理解した上で適切な応答を生成できます。
また、技術的基盤も異なります。従来型AIはルールベースの手法や単純なニューラルネットワーク※が中心でしたが、ジェネレーティブAIは「トランスフォーマー」※と呼ばれる注意機構を備えた複雑なニューラルネットワークや、何十億もの学習パラメータを持つ超大規模モデルを採用しています。
応用分野と限界の違い
従来型AIは主に定型業務の自動化や特定タスクの効率化に活用されてきました。
- データ分析
- 予測モデリング
- 画像認識
などの分野で高い精度を発揮し、業務プロセスの改善に貢献しています。
一方、ジェネレーティブAIはクリエイティブ領域を含む幅広い分野に応用可能です。
- コンテンツ制作
- 製品設計
- 教育支援
- カスタマーサポート
など、これまでAIが不得意とされていた創造性や柔軟な対応を要する領域にも進出しています。
これまでのAIとジェネレーティブAIの比較表
これまでのAIとジェネレーティブAIの違いを、表にまとめました。
従来型AI | ジェネレーティブAI | |
主な目的 | 分類・予測・認識 | 新しいコンテンツの生成・創造 |
出力形式 | 決められた選択肢や数値 | テキスト、画像、音声、動画など多様 |
学習方法 | 主に教師あり学習 | 自己教師あり学習、敵対的生成ネットワークなど |
主な技術 | ルールベース、単純なニューラルネットワーク | トランスフォーマー、大規模言語モデル |
データ量 | 比較的少量で可能 | 膨大なデータが必要 |
応用分野 | データ分析、予測、分類 | コンテンツ制作、対話、創造的作業 |
限界 | 学習範囲外の対応が困難 | 事実の正確性、著作権、倫理的問題 |
代表例 | 画像認識AI、スパムフィルター | ChatGPT、DALL-E、Midjourney |
従来型AIとジェネレーティブAIは、対立するものではなく補完関係にあります。分析と判断に優れた従来型AIと、創造と生成に長けたジェネレーティブAIを適材適所で組み合わせることで、ビジネスや社会の課題解決がさらに進むでしょう。
両者の特性を理解し、最適な活用方法を見極めることが、AI時代を生きる私たちに求められています。次の章では、ジェネレーティブAIの仕組みを見ていきましょう。*2)
ジェネレーティブAIの仕組み

ジェネレーティブAI(生成AI)は、どのような仕組みで「新しいもの」を生成しているのでしょうか。ジェネレーティブAIの内部構造を理解するために、核となる技術的要素を見ていきましょう。
ディープラーニングと大規模モデル
【生成AIの概要】
ジェネレーティブAIの能力の根幹をなすのは、「ディープラーニング」と呼ばれる技術です。ディープラーニングは、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を多層に重ねたもので、この多層構造が、データの中に存在する非常に複雑なパターンや階層的な特徴を自動的に学習することを可能にします。
例えば、画像を認識する際に、最初の層が線の集まりを学習し、次の層がそれらの線から顔や物体の輪郭を学習し、さらに上の層でより複雑な形状や意味を理解するといった具合です。
【ディープラーニング(深層学習)の仕組み】
近年、このニューラルネットワークの規模が飛躍的に大きくなり、「大規模モデル」と呼ばれるものが登場しました。ここで言う「モデル」とは、AIが大量のデータからパターンや関係性を学習し、入力に対して予測や分類、生成などの処理を行うための数理的な仕組みやプログラムのことです。
大規模モデルは、文字通り膨大な数の「パラメータ」(ニューラルネットワーク内の情報伝達の強さを調整する数値)を持っています。これは、インターネット上に存在するテキスト、画像、音声といった前例のない量の多様なデータを用いて学習されています。
パラメータが多いほど、また学習データが多様であるほど、モデルはより幅広い知識を獲得し、
- 複雑な指示を理解する能力
- 多様なコンテンツを生成する能力
が高まります。この大規模な学習には、強力な計算能力を持つGPU(画像処理装置)※や、それを集約したデータセンターが不可欠であり、技術の進化とともに計算資源※への投資も拡大しています。
学習プロセス
ジェネレーティブAIが「創造」の方法を学ぶプロセスは、主に二つの段階に分けられます。
①事前学習(Pre-training)
この段階では、インターネット上の膨大なテキストや画像など、ラベル付けされていない大量の多様なデータを用いてモデルを学習させます。特定のタスクのためではなく、
- 言語の構造
- 単語間の関係性
- 画像における物体やスタイルの特徴
といった、データの中に存在する普遍的なパターンや知識を汎用的に獲得することが目的です。
これは、例えるなら、人間が学校で一般的な知識や常識を学ぶ段階に似ています。事前学習には、特定の単語の次に来る単語を予測させたり、画像の一部を隠して予測させたりする、自己教師あり学習と呼ばれる手法がよく用いられます。
②ファインチューニング(Fine-tuning)
事前学習によって汎用的な能力を獲得したモデルを、特定のタスク(例えば、特定のスタイルの文章を書く、特定のテーマの画像を生成するなど)に特化させるために、少量のタスク固有の手本データを用いてさらに学習させる段階です。これにより、モデルは事前学習で得た幅広い知識を活かしつつ、特定の目的に対してより適切で高品質な出力を生成できるようになります。
人間が専門分野を深く学ぶ段階や、特定のスキルを訓練する段階に相当すると考えられます。
ジェネレーティブAIは、このように大規模な事前学習で世界の多様な知識を吸収し、その後、特定のタスク向けにファインチューニングされることで、与えられた指示(プロンプト)に基づいて、「学習データにはない、しかし学習データの特徴を備えた新しいコンテンツ」を生成する能力を獲得するのです。
主なモデルアーキテクチャ
【生成AIと基盤モデル】
ジェネレーティブAIが実際にどのようにデータを生成しているかに関わる技術的な構造(モデルアーキテクチャ)にはいくつかの種類がありますが、中でも特に影響力の大きいものとして以下のものが挙げられます。
①Transformer(トランスフォーマー)
Transformer(トランスフォーマー)は、 2017年にGoogleの研究者らによって発表されたモデルで、特に自然言語処理分野に革命をもたらしました。文章中の単語間の関連性(「Attention」と呼ばれる仕組み)を効率的に捉えることに優れており、長い文章でも全体の文脈を理解した自然な文章生成を可能にしました。
OpenAIのGPTシリーズをはじめ、現在の多くのテキスト生成AIの基盤となっています。
②GAN(敵対的生成ネットワーク)
GAN(敵対的生成ネットワーク)は、2014年にイアン・グッドフェロー氏らによって提唱された生成モデルのフレームワークです。「Generator(生成器)」と「Discriminator(識別器)」という二つのニューラルネットワークが互いに競争しながら学習を進めます。Generatorは本物らしいデータを生成しようとし、Discriminatorは生成されたデータが本物か偽物かを見分けようとします。
この競争を通じて、Generatorは次第にDiscriminatorを欺くほど精巧なデータを生成できるようになります。主にリアルな画像生成で高い性能を発揮し、その後の生成モデル研究に大きな影響を与えました。
③Diffusion Model(拡散モデル)
Diffusion Model(拡散モデル)は、近年、特に高品質な画像生成AIで主流になりつつある技術です。これは、元の画像に段階的にノイズを加えて完全にランダムな状態にし、次にそのノイズを取り除き、元の画像を復元するプロセスを学習するというアプローチをとります。
この復元プロセスを通じて、ノイズからターゲットとなる画像を生成する能力を獲得します。GANsに比べて学習の安定性が高く、生成される画像の質が高いという特長があります。
これらのモデルアーキテクチャが、
- 大規模なデータ
- 計算能力
- 洗練された学習プロセス
と組み合わされることで、ジェネレーティブAIはテキスト、画像、音声といった多様な形式で、驚くほど高品質で新しいコンテンツを生み出すことを可能にしています。仕組みは複雑ですが、根本にあるのは大量のデータから学び、その学びを元に新しいパターンを創り出すというプロセスです。*3)
ジェネレーティブAIが注目されている背景

世界中でジェネレーティブAIが急速に普及し、社会やビジネスの在り方を大きく変えつつあります。その注目の背景には、技術進化の加速、経済・産業構造の変化、そして人々の働き方や価値観の変容など、複数の要因が重なっています。
なぜ今これほどまでにジェネレーティブAIが注目されているのか、主要なポイントを整理して解説します。
技術進化と実用性の飛躍的向上
近年、
- ChatGPT
- Google Gemini
- Claude
- DALL·E
といった高度な生成AIが登場し、従来のAIでは難しかった自然な文章生成や画像・音声・動画の自動生成が可能になりました。これを支えているのが大規模言語モデル(LLM)やディープラーニングの進化です。
特に、マルチモーダルAI※の発展により、複数のデータ形式を統合的に扱えるようになり、AIの実用性が飛躍的に高まっています。
社会・産業におけるインパクトと導入拡大
ジェネレーティブAIは、業務の効率化や生産性の向上、コスト削減といった経済的メリットから、多くの企業や組織で導入が急拡大しています。文章作成や要約、データ分析、プログラム生成など多様な業務が自動化され、ROI(投資対効果)の向上も期待されています。
こうした動きは、世界的な人手不足や働き方改革の流れとも連動しており、今後さらに加速する見通しです。
データ・計算資源の拡大とインフラ投資
スマートフォンやIoTの普及により、世界中で膨大なデータが日々生成されています。これらのデータを活用するためには強力な計算資源が不可欠であり、AIインフラへの投資が拡大しています。
大規模モデルの開発や運用には巨額の投資が必要ですが、その事業的魅力から多くの企業が競争的に参入しています。
技術革新と社会的要請が交差する中で、ジェネレーティブAIは今や世界のデジタル変革の中心的存在となっています。今後もその進化と普及は続き、社会や経済の新たな潮流を生み出していくでしょう。*4)
ジェネレーティブAIによって社会はどう変化するか

私たちの日常は、スマートフォンで質問に答えてくれるAIや、一言の指示で画像を生成するツールなど、ジェネレーティブAI技術によって静かに、しかし確実に変化しています。この変化は単なる便利さの向上にとどまらず、仕事の仕方、創造活動、さらには社会制度そのものにまで及ぶ可能性を秘めています。
では、この技術革新は私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。
仕事のあり方の変革
これまで人間の知的作業とされてきた業務の多くがAIによって自動化・効率化されつつあります。
- 営業資料の下書き作成
- 顧客データの分析
- 簡単なウェブサイト制作
- プログラミングのコード生成・修正
- 画像やデザインの初期案作成
- 多言語翻訳
- 定型的な問い合わせ対応
- データ入力・処理
などは、AIの支援を受けることで、これまでより短時間で完了できるようになりました。こうした変化により、人間の役割はAIが苦手とする創造的思考、複雑な判断、対人コミュニケーションなどにシフトしていくと指摘されています。
経済産業省も、今後は「AIとの協働スキル」が多くの職種で求められるようになると予測しています。
創造活動の民主化
誰もが簡単にクリエイティブな制作活動に参加できるようになり、表現の可能性が広がっています。イラスト作成、音楽制作、映像編集などの専門技術がなくても、テキストによる指示だけで一定水準の作品を生み出せるようになりました。
これにより、個人の趣味や小規模ビジネスでも質の高いコンテンツ制作が可能になっています。例えば、自分のブログやSNSの挿絵をAIで生成したり、オリジナル音楽をAIの支援で作曲したりすることが手軽にできます。
一方で、文化庁が「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)で指摘するように、
- AIが生成した作品の著作権
- AIの学習データとして使われる既存作品の権利保護
など、新たな課題も生じています。これらの課題に対応するため、クリエイターとAIの適切な協働関係を模索する動きが広がっています。
情報アクセスの変革
情報の探し方や学び方が変わり、個人に最適化された知識獲得が可能になっています。ChatGPTなどの大規模言語モデルはWeb検索機能を実装し、ユーザーの属性やチャット履歴に基づいて最適化された情報提供が可能になりました。
従来の検索エンジンのように、大量の検索結果から必要な情報を探し出す手間が省け、質問に対する直接的な回答や、個人の理解度に合わせた解説を、以前より高い精度で得られるようになっています。こうした変化が教育現場にも波及し、AIを活用した個別最適化学習や、教師と生徒の関係性の変化をもたらす可能性も指摘されています。
私たちの情報との関わり方は、「検索する」から「対話する」へとパラダイムシフトを起こしつつあるのです。
このようにジェネレーティブAIは、私たちの仕事、創造活動、情報アクセスなど多方面に変革をもたらしています。日本政府もAIと協働する社会を目指す中、技術の恩恵を最大化しながら課題に適切に対応していくことが、今後の社会の発展に必要となるでしょう。*4)
ジェネレーティブAIの今後

生成AIは、社会や産業の枠組みを根底から変えつつあり、その進化は今後ますます加速すると見込まれています。市場規模の急拡大や国際競争力の強化、そして日本独自の開発支援プロジェクト「GENIAC」の動向など、未来を展望する上で注目すべきトピックが数多く存在します。
ジェネレーティブAI市場の成長と需要拡大
【世界のAI市場規模の推移及び予測】
世界の生成AI市場は、2032年には1兆3,040億ドル規模へと急成長が予測されています。これは2023年の約20倍という驚異的な拡大ペースです。
特に製造、金融、公共分野での活用が著しく、データ解析や自動化、創作活動の効率化など幅広い分野で需要が高まっています。大手テクノロジー企業だけでなく、スタートアップや中小企業も積極的に参入し、投資や研究開発が加速しています。
こうした市場拡大は、パソコンやサーバーなどハードウェア需要の増加も牽引しています。
【生成 AI 市場の需要額見通し (JEITA『生成 AI 市場の世界需要額見通し』)】
上のグラフは経済産業省が2024年に発表したもので、ここでは日本の生成AI市場は2030年までに年平均47.2%で成長し、需要額は約1兆7,774億円(約1.8兆円)に拡大すると予測されています。
経済産業省「GENIAC」プロジェクトの役割と成果
日本では、経済産業省とNEDOが主導する「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」プロジェクトが2024年から始動し、国内AI開発力の強化に取り組んでいます。GENIACは、
- スーパーコンピューターなどの計算資源の提供
- データ活用と先進事例の支援
- 知識共有コミュニティの形成
という三本柱で、スタートアップや研究機関の開発を後押ししています。第1サイクルでは10件、第2サイクルでは20件の基盤モデル開発が進み、世界水準のAIモデルが誕生しつつあります。
今後は社会実装を見据えた応用支援や、グローバル展開も視野に入れた取り組みが拡大していく予定です。
【GENIACのプロジェクト(1サイクル目:2024年2月から8月まで)】
さらに先の将来展望と社会的課題
生成AIは今後、より高度なマルチモーダルAIや自律型AIエージェントの登場、専門分野ごとの特化型AIの普及など、社会のあらゆる場面に浸透していくと考えられています。医療・教育・環境・製造業などでの応用が進み、個人の生活やビジネスの在り方も大きく変わるでしょう。
一方で、
- 偽情報の拡散
- 著作権
- 倫理
- ガバナンス
などの課題も顕在化しており、国際的なルール形成や環境整備が急がれている状況です。日本でも、AI関連技術の人材育成やデータ流通基盤の整備、グローバルな連携が今後の発展に向けた重要な鍵となります。
特に、より高度化し、人間の生活に深く関わるようになるにつれて、AIに対する社会的な信頼をどのように構築していくかがより一層重要になります。
- AIの判断や生成物の透明性をどう確保するか
- AIがもたらすリスク(プライバシー侵害、セキュリティ脅威など)への対処
- AIに対する責任の所在を明確にする方法
といった倫理的な課題やガバナンスに関する議論を、今後さらに進めていく必要があります。これらに適切に対応しながら、AIと人間が相互に尊重し、信頼し合える関係性を築いていくことが、ジェネレーティブAIがもたらす未来を真に豊かなものにする鍵となるでしょう。
AIと人間の関係性の深化
AIの音声認識、画像認識、そして感情分析といった能力が向上することで、AIとの対話や交流はより自然でスムーズになります。これは、AI技術の進化と社会への浸透を促進し、AIと人間の関係性もより複雑で深いものになっていくと考えられます。
AIが人間の言葉や意図をより正確に理解し、状況に応じた適切な応答を生成できるようになれば、単なるツールとしてだけでなく、より身近な「パートナー」や「協働者」として認識されるようになるでしょう。AIがデータ分析や反復作業を担当し、人間が創造的な発想や最終的な意思決定を行うといった役割分担は今後さらに進み、人間とAIが互いの強みを活かし合うことで、これまで単独では達成できなかったような成果を生み出すことが期待されます。
国際的な生成AI開発競争が激化する中、日本は基盤モデル・生成AIの後追い開発や応用開発に注力する一方、中長期的な次世代AIモデル創出の基礎研究は検討が限定的であると指摘されています。
今後、労働力減少社会への対応や人間中心のAI社会実現に向け、
- AIの民主化(業務効率化と並行して誰でも簡単にAIを利用できるようにする)
- 人間の知能拡張(AIを道具やパートナーとして活用し、人間の知的能力、特に創造性や判断力などを高める)
- データがない領域での活用(従来のAIが苦手なデータが少ない状況で、人間の知識や「探索」「計画」といった能力をAIが持ち込み、未知の課題解決を目指す)
などを目指す研究が進むことが予測されています。*6)
ジェネレーティブAIとSDGs
【SDGsのポスター】
ジェネレーティブAIが持つ、既存の枠を超えたアイデアや解決策を生み出す能力は、SDGsの多岐にわたる課題解決に貢献する鍵となります。複雑なデータを分析し、革新的なアプローチを提案する力は、これまで解決が難しかった問題への新たな突破口を開くかもしれません。
特に影響が大きいと考えられるSDGs目標への貢献をいくつか挙げましょう。
SDGs目標2:飢餓をゼロに
飢餓問題の解決には、効率的で持続可能な食料生産システムの構築が不可欠です。ジェネレーティブAIは、気候データ、土壌情報、作物の生育状況などを分析し、最適な栽培方法や資源配分計画を生成することができます。
データやAIを活用した持続可能な農業生産システムは、収穫量を最大化しつつ、水や肥料の使用量を削減することで、食料安全保障の向上に貢献します。
SDGs目標8:働きがいも経済成長も
ジェネレーティブAIは、働き方そのものを変革し、新たな経済成長を促進する可能性があります。AIによる業務の効率化は、生産性向上を通じて企業の成長を後押しします。
ジェネレーティブAIは仕事の進め方を根底から変え、人間がより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようにします。これにより、新たな産業や雇用が生まれ、「働きがい」のある仕事の創出にも繋がるでしょう。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
ジェネレーティブAIは、
- 複雑な気候モデルの分析や
- 再生可能エネルギー源の最適な配置計画
- エネルギー消費の効率化
- 候変動の影響を緩和・適応するための革新的な技術や政策アイデアの生成
などに役立ちます。とくに膨大な環境データの解析や将来予測に強みを発揮し、科学的根拠に基づく対策立案を後押しします。
ジェネレーティブAIは、これらの目標以外にも、
- SDGs目標4:質の高い教育をみんなに
- SDGs目標9:産業と技術革新の基盤を作ろう
- SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう
- SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを
など、多くのSDGs目標達成に貢献する可能性を秘めています。もちろん、AIの利用に伴う倫理的課題やデジタルデバイドといった側面にも適切に対処しながら進める必要がありますが、ジェネレーティブAIは、SDGsが目指す「誰一人取り残さない、より良い未来」を実現するための強力な推進力となり得る技術と言えるでしょう。*6)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

ジェネレーティブAIは、社会や経済、個人の暮らしに革新をもたらす技術として急速に発展しています。注目すべきは、創造性や業務効率の拡張だけでなく、教育・医療・環境など多様な分野で持続可能な社会づくりに貢献できる可能性です。
近年では、AIスキル教育の需要が世界的に高まり、社会全体でAI人材育成が加速しています。また、マルチモーダルAIやエッジAI※の進化が進み、Webや都市設計、サステナビリティ分野での応用も広がっています。
今後、AIは格差是正や包摂的な社会実現の鍵となる一方、リスクや課題も慎重に見極める必要があります。
- AIが生み出す未来に、私たちはどんな役割を果たせるのか
- どのような知識やスキルを身につけ、どんな社会を目指すべきか
などについて、一人ひとりが考え、行動を起こす事が重要です。より良い未来のために、共に学び続け、より良い未来の実現への一歩を踏み出しましょう。
<参考・引用文献>
*1)ジェネレーティブAIとは?
産業技術総合研究所『ジェネレーティブAI』(2022年10月)
経済産業省『GENIAC』
経済産業省『Azure OpenAI』
文部科学省『第2章 我が国におけるAI関連研究開発の取組』(2023年)
情報処理推進機構『テキスト生成 AI の導入・運用ガイドライン』(2024年7月)
Wikipedia『人工知能』
Wikipedia『生成的人工知能』
Wikipedia『敵対的生成ネットワーク』
SoftBank『生成AI(ジェネレーティブAI)とは?ビジネスを革新する新たな可能性』
SB Technology『『ジェネレーティブAI』とは?基本的な特徴や導入のメリット、注意点を紹介』(2024年1月)
HITACHI『生成系AI(ジェネレーティブAI)とは? ChatGPTやAI画像などまとめて解説』(2023年8月)
IBM『生成AIとは』
日経XTECH『ChatGPTが優秀な同僚やアドバイザーに、覚えておきたい便利に使うテクニック』(2023年7月)
日経XTECH『生成AIで変わる情報の探し方、人と同じ言葉で対話を続けて回答精度を高められる』(2023年11月)
NRI『ジェネレーティブAIのインパクト〜ChatGPTの可能性と課題〜』(2023年)
Google『Ask a Techspert: What is generative AI?』(2023年4月)
Google『クラウドのキャリアアップに役立つ無償のジェネレーティブ AI トレーニング コースが新たに 4 つ追加』(2023年6月)
NEC『AI(人工知能)とは?意味やビジネスの例も交えわかりやすく解説』(2024年7月)
経済産業省『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』(2025年2月)
*2)これまでのAIとジェネレーティブAIの違い
Google『Generative AI 生成 AI または従来の AI を使用することが適している場合』
Google『生成 AI の概要』
NEC『生成AIとは?従来のAIとの違いや企業活用のメリットを解説』(2024年7月)
G-gen『従来の AI と生成 AI の違いとは?あらゆる観点からわかりやすく比較解説!』(2025年5月)
Forbes『The Difference Between Generative AI And Traditional AI: An Easy Explanation For Anyone』(2023年7月)
HITACHI『押さえておきたい機械学習とディープラーニングの違い』(2019年11月)
HITACHI『画像生成aiとは? 仕組みや人気ツールなどを解説』(2023年9月)
NRI『生成AI Generative AI』
Spaceship Earth『ChatAIとは?仕組みやメリット・デメリット、種類、今後の課題も』(2023年7月)
*3)ジェネレーティブAIの仕組み
総務省『第2部 情報通信分野の現状と課題 第7節 ICT技術政策の動向 4 AI技術』(2023年)
総務省『第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0 第3節 ICTの新たな潮流(1)AIに関する基本的な仕組み』
METI Journal『日本のAI開発・利活用を支える重要インフラ。「データセンター」がカギを握る』(2025年5月)
HITACHI『大規模言語モデル(LLM)とは? 仕組みや種類・用途など』(2023年11月)
NVIDIA『Transformer モデルとは?』(2022年4月)
NRI『生成AIの展望〜生成AIの可能性と変わる未来〜』(2024年2月)
NTT DATA『生成AI(Generative AI)』
人科学技術振興機構『人工知能研究の新潮流2~基盤モデル・生成 AI のインパクト~』(2023年)
Softbank『【分かりやすく解説】生成AIと機械学習の基礎知識』(2023年7月)
ソフトバンクニュース『生成AI、どのくらい理解していますか? 今のうちに知っておきたい生成AIの基本』(2024年1月)
Google『生成 AI の詳細』
科学技術振興機構『次世代 AI モデルの研究開発』(2023年9月)
総務省『特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生 第1節 AI進展の経緯と生成AIのインパクト 2 生成AIのインパクト』(2024年)
Spaceship Earth『ディープラーニングとは?機械学習との違いやメリット・デメリットと実用例・やり方』
*4)ジェネレーティブAIが注目されている背景
経済産業省『生成AIの開発力強化に向けたプロジェクト「GENIAC」を開始します」(2024年2月)
経済産業省『生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方』(2023年8月)
経済産業省『デジタル/生成AI時代に求められる人材育成のあり方』(2023年7月)
NEDO『生成AIの開発力強化に向けたプロジェクト「GENIAC」において、新たに計算資源の提供支援を行うAI基盤モデル開発テーマ20件と、データの利活用に向けた実証を行うテーマ3件を採択しました』(2024年10月)
日経XTECH『国が国産AIを支援 課題はデータ不足』(2025年4月)
JPMorgan『Is generative AI a game changer?』(2024年2月)
科学技術と経済の会『生成系 AI の倫理的・法的・社会的課題を踏まえた 今後の利用可能性に関する調査研究 報告書 要約』(2024年5月)
NRI JOURNAL『生成AI時代の新たな社会を展望――NRI未来創発フォーラム TECH & SOCIETYを開催 前編』(2024年1月)
大和総研『IT 関連政策から読み解く日本の DX 海外に後れを取る国内 AI 開発の行方』(2024年6月)
*5)ジェネレーティブAIによって社会はどう変化するか
経済産業省『コンテンツ制作のための生成AI利用活用ガイドブック』
経済産業省『AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)』(2024年4月)経済産業省『AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)別添(付属資料)』(2024年4月)
経済産業省『デジタル社会の実現に向けて』(2024年1月)
文化庁『AI と著作権に関する考え方について』(2024年3月)
総務省『AI ホワイトペーパー 2024 ステージⅡにおける新戦略― 世界一 AI フレンドリーな国へ ―』(2024年4月)
日経XTECH『ChatGPTでWeb検索が可能に、ユーザーの属性やチャット履歴に応じて回答を調整』(2025年5月)
AI総研『生成AIがビジネスにもたらす6つの変化|事例18選も紹介』(2024年5月)
MRI『第3回:「世界のAIガバナンス ~AI規制とガイドラインの動向~」』(2024年2月)
NRI『生成AIで変わるビジネス』(2023年8月)
NRI『ChatGPTがもたらすパラダイムシフト 仕事、企業、社会はどう変わるか』(2023年6月)
NRI『生成AIで変わる未来の風景 突然現れた「生成AI」について知っておくべきこと』(2023年12月)
Spaceship Earth『AIが発展した社会はどうなる?今後の見通しや生き抜くための対策も』
*6)ジェネレーティブAIの今後
経済産業省『生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方 2024~変革のための生成 AI への向き合い方~』(2024年6月)
経済産業省『生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方 2024~変革のための生成 AI への向き合い方~』(2024年6月)
METI Journal『日本発のAI開発を強力に後押し!スタートアップの旗手が語るGENIACの「効能」』(2025年4月)
METI Journal『激しさ増すデジタル人材争奪戦 AIトップランナーが語る「勝つ」人材育成とは』(2025年4月)
METI Journa『AIに愛?』(2025年5月)
NEC『生成AIの研究開発と今後の方向性』(2024年5年)
I総合研究所『生成AIの今後はどうなる?現状の普及率や課題を踏まえて将来展望を解説』(2024年12月)
経済産業研究所『生成AIの研究開発と今後の方向性』(2024年9月)
日本経済新聞『総務省とKDDI、日本語特化の生成AI開発へ 使い勝手向上』(2024年6月)
総務省『特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生 第1節 AIの進化に伴う課題と現状の取組 1 生成AIが抱える課題』(2024年)
厚生労働省『生成AIの技術動向と影響』
参議院『生成AIと著作権の現在地― これまでの経緯・現状と論点の整理 ―』(2024年9月)
NRI『生成AIのリスクを整理する|3つの観点でリスクと対策を解説』(2025年4月)
pple『Apple Intelligence』
日経XTECH『生成AIで非構造化データの保護焦点、ガートナーの2025年セキュリティートレンド』(2025年3月)
日経XTECH『AI活用を飛躍的に広げる因果推論と世界モデル、Transformerしのぐモデルにも注目』(2025年1月)
*7)ジェネレーティブAIとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』(2020年7月)
東洋大学『【SDGs NewsLetter】データやAIを活用した持続可能な農業生産システムで深刻化する食料問題の解決を図る』(2025年5月)
MRI『AIが切り拓く気候変動対策の未来像』(2025年1月)
NIKKEI BizGate『生成AIで「仕事」が根底から変わる SDGs達成のカギ』(2024年5月)
NIKKEI BizGate『AI、誰もが使いこなせるように SDGs達成にも一役』(2025年2月)
この記事を書いた人

松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。