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石綿(アスベスト)はどのくらい吸うと人体への影響がある?症状について簡単に解説

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目に見えない物質が人の健康に悪影響を及ぼすことがあります。石綿もその一つです。アスベストといったほうがなじみがあるかもしれません。

肺がんや中皮腫(がんの一種)の原因物質とされ、現在は使用されてませんが、1970年代までは一般的に広く用いられてきました。そのため、古い建物には石綿が使用されており、解体時などに注意しなければならない物質となっています。その中で2023年10月から、建物に石綿が使われていないか、解体・修繕の前に事前調査することが義務付けられました。

今回は石綿がどのような物質で何が危険なのか、石綿がどのような場所で使われているのか、現在、石綿を扱う法律や資格がどうなっているのかなどについて解説し、SDGsとの関連について考えていきます。

石綿(アスベスト)とは?読み方は?

石綿とは、自然界に存在する鉱物の総称で、「せきめん」「いしわた」と読みます。カタカナで表記される際は「アスベスト」です。

石綿はきわめて細い繊維状の鉱物で、熱や摩擦、酸、アルカリに強く丈夫で変化しにくい特性を持っています。加えて安価で工業用原料として優れていたことから、以下のような製品の原材料として用いられてきました。

  • 鉄骨やはり、柱に吹き付ける吹き付けロックウール
  • 屋根や外壁などに用いる石綿ストレート
  • 家屋の天井に用いられるけい酸カルシウム板
  • 自動車のブレーキやクラッチなどの摩耗する部位
  • 配管や機械の断熱材

*14)

そして現在、アスベストとされている鉱物は以下の6種類です。

  • クリソタイル(白石綿)
  • クロシドライト(青石綿)
  • アモサイト(茶石綿)
  • アンソフィラソイト石綿
  • トレモライト石綿
  • アクチノライト石綿

*1)

これらのうち、日本で多用されたのは白石綿、青石綿、茶石綿の3種類です。石綿は次のような特性を持っていることから、「奇跡の鉱物」とも呼ばれています。

  1. 糸として紡ぐことができるので布に織れる
  2. 引っ張りに強く、切れにくい
  3. すり減らない
  4. 燃えずに高温に耐える
  5. 熱や音を吸収する
  6. 薬品に強い
  7. 電気を通しにくい
  8. 最近や湿気に強い
  9. 他の物質と混ぜやすい
  10. 安い

*2)

これだけ優れた特徴を持つ物質はほかにないため、石綿は色々な場面で使われるようになりました。

アスベストの危険性

しかし、次第に危険性も指摘されるようになりました。

石綿は非常に細かい物質で、呼吸時などに肺に吸い込んでしまいます。*1)

石綿は繊維状の物質であることや溶けにくい物質であるため、大量に吸い込むと肺の中に長期間とどまります。すると、異物を排除するため免疫細胞のマクロファージが出動します。しかし、石綿の毒性や繊維質で細長い石綿の形状が原因でマクロファージが破壊され、体の抵抗力が弱ってしまうのです。その結果、

  • 胸膜中皮腫
  • 石綿肺がん
  • 石綿肺

などの病気が引き起こされます。*1)

胸膜中皮腫は胸膜(肺を取り囲む膜)や腹膜(胃腸などの臓器を覆う膜)にできる悪性腫瘍です。石綿を最初に吸い込んでから30〜50年後に発症するとされます。石綿肺がんは文字通り、石綿を吸い込んだことが原因で発生する肺がんです。*1)

肺がんはタバコとの関連が指摘されていますが、喫煙者で石綿にさらされた人の危険性は、タバコを吸わない人の50倍に達するという報告もあります。*1)

石綿肺は粉塵を大量に吸い込んだせいで引き起こされるじん肺の一種です。

じん肺

小さな土ぼこりや金属の粒などを長年吸い込むことで肺の組織が線維化し、硬くなって弾力性を失ってしまう病気のこと。息切れ、咳、たんの増加から始まり、最終的に呼吸困難を引き起こします。気管支炎や肺がん、気胸などの合併症も引き起こす。*3)

一度じん肺になってしまうと元に戻すことはできず、石綿などを吸い込まない環境になったとしても病気が進行してしまいます。*3)

どのくらい吸うと悪影響?

現時点ではどのくらいのアスベストを吸うと上記で説明したような病気を引き起こすかは定かにはなっていません。

短期間に低濃度ばく露した場合の発がんの危険性も不明点が多いようです。

参考:アスベスト(石綿)に関するQ&A |厚生労働省

石綿(アスベスト)の歴史

石綿について大まかな内容が分かったところで、これまでの歴史について振り返っていきましょう。

石綿の歴史年表

古代エジプトミイラを包む布として利用
古代ローマ・ギリシャランプの芯として活用
平安時代『竹取物語』の「火鼠の皮衣」のモデルの可能性あり*4)
18世紀後半平賀源内が石綿で創った布(火浣布)を織る*4)
19世紀後半蒸気機関の断熱材材や保温剤として使用*4)
1887年石綿の輸入開始*5)
1922年イギリスでアスベスト工場の健康被害者を「石綿肺」と命名*4)
1943年アメリカのWilheim Hueperが石綿の発がん性を指摘*4)
1950年代日本で建材などの繊維素材として石綿を多用*5)
1972年ILO(国際労働機関)やWHO(世界保健機関)が石綿の発がん性を指摘*4)
1986年ILO総会で石綿条約が採択される*6)
1980年代~2000年代初頭欧米諸国を中心にアスベストの製造・輸入・使用が原則禁止される*4)
2006年日本が石綿条約に批准
*4)*5)を参照に作成

石綿による健康被害は、中皮腫や胸膜がんの報告が相次いだ20世紀の前半にすでに知られていました。1950年以後は、工場労働者だけではなく労働者の家族も石綿による健康被害を受けていることがわかりました。*4)

1973年にWHOは、アスベストを「アスベストは、天然の繊維状珪酸塩鉱物の総称で、クリソタイル、アクチノライト、アモサイト、アンソフィライト、クロシドライト、トレモライトに分類される。」と定義します。

そして、ILOの主導で1986年に石綿に関する国際条約(石綿の仕様における安全に関する条約)が採択され、1989年に発効しました。日本は国内法の不備などを理由に批准してきませんでしたが、2006年8月11日に批准しました。

日本における石綿作業の規制や法改正

次に、日本に目を向けていきましょう。

昭和20年〜30年代(1945年〜1965年)、日本では欧米のような排気装置の研究は進んでいませんでした。1955年9月から1957年3月にかけて、大規模なけい肺健康診断が実施されました。*7)

けい肺

シリカ(石英)の粉塵吸入が原因で発生し、肺の上の方に異常が見られる症状

このとき実施された大規模な検査の結果、相当数の異常が見つかり、労働省が都道府県の労働基準局に対し、職業病予防のための労働環境改善を促す通達を発するに至ります。*7)

1965年以降、石綿による健康被害の救済が始まりました。そして、1968年には初めて石綿を原因とする肺がんが労災認定されました。*7)

1970年代に入ると日本でも石綿作業の規制や関連する法改正が進みます。1971年に施行された特定化学物質等障害予防規則(特化則)では、局所配置装置の設置や石綿製造・作業現場での呼吸用保護具の備え付けなどが義務化されます。*7)

1975年に施行された改正特化則では、石綿の吹き付け作業の原則禁止や建設・解体現場での対策措置が義務付けられます。そして、1995年の労働安全衛生法の改正により青石綿・茶石綿を含む製品の製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁じられました。さらに2004年の安全衛生施行令の改正で白石綿についても原則禁止となります。*7)

深刻な石綿被害

日本で起きた石綿による健康被害の中でも深刻だったのが大手機械メーカークボタで発生した事例です。2005年6月、クボタは尼崎市にあった旧神崎工場の従業員74名がアスベスト関連の病気で亡くなったことや、工場周辺に住み、中皮腫の治療を受けている住民3人に200万円の見舞金を支払っていることなどを発表しました。*9)

この事件は「クボタショック」とよばれ、アスベスト問題に大きく注目が集まりました。その後、石綿業界で最大規模のニチアスも工場周辺400m圏内の被害住民に最高3,000万円の救済金を支払うと表明しました。*9)

これらの事件をきっかけに石綿による労災申請が急増し、前年の9倍近くの申請が出されました。また、石綿工場が集中していた大阪府南部の泉南地域では、周辺住民が石綿の危険性を知っていたのに規制措置を怠ったとして国に賠償を求める事態に発展しています。*9)

そして2014年10月、最高裁判所は1958年5月26日から1971年4月28日までの間、国が規制をしなかったのは違法であると判断し、損害賠償金の支払いと被害者との和解が進められています。*10)

石綿はどのような製品・場所に使われていた?

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ここまで、石綿が持っている性質やこれまでの石綿に関する歴史、日本での法改正などについてまとめてきました。ここからは、発がん性を持つ石綿がどこでどのように使われていたかを整理します。

住宅の建築材料など

先述したように、かつて石綿は住宅の屋根材天井のボード内壁・外壁材床のタイルなどに使われていました。石綿が使用され始めた1955年から規制が始まる1975年以前の建物、特に鉄筋の建物については使用されている可能性が高いといえ、老朽化によって飛散する恐れがあります。*7)*15)

ここで注意したいのが、石綿含有量が重量の0.1%以下の製品に至るまで禁止されたのは2006年のことです。つまり、1975年以降に建てられた建物でもある程度、石綿が使用されていた可能性が否定できません。著しい劣化で表面が脱落しているようなことがなければ、石綿繊維が空中に飛散する可能性は低く心配ないとされていますが、2006年以前に建てられた建物や古い建物の解体に携わった人については、専門機関に調査を依頼したほうが無難と言えるでしょう。15)

屋外の場合は、石綿製品の工場やビル・住宅などの解体工事現場で石綿が飛散する恐れがあります。ただ、現在は規制がかなり厳しくなっているため、日常生活で石綿を吸い込む可能性は大きく減少しているといえます。*1)

職業性石綿ばく露

仕事中に石綿と接触して吸い込んでしまうことを「職業性石綿ばく露」といいます。直接、石綿を吸い込むのは作業者が石綿鉱山で働いていたり、石綿紡績石綿建材の製造、石綿断熱材摩擦材の製造、石綿の吹き付け作業などに参加していたりする場合です。*1)

直接接触していなくても、石綿が使用された建物や現場でエアコンの設置、電気の配線、水道管の配管工事などを行った場合、石綿を吸い込む可能性があります。また、作業者についた石綿を洗濯するときなどに家族が吸い込む「家庭内ばく露」もおこります。*1)

石綿に関する制度

石綿は人体にとって非常に有害であるため、取り扱いについて厳重に決められています。ここでは、石綿に関する法律や資格についてまとめます。

法律

石綿に関する主な法令は以下の通りです。

大気汚染防止法粉じんや石綿を含む特定粉じんの定義特定粉じんを大気汚染物質として指定特定粉じんの作業基準、作業の届出の義務化
労働安全衛生法作業主任者の設置事業者に健康障害を防止する措置を講じる義務
石綿障害予防規則事業者に健康障害を防止する措置を講じる義務建築物の解体や破砕時に石綿を封じ込め、または囲い込む措置
建築基準法建築物に使用されている石綿などの物質の飛散に対する衛生上の措置

*11)

このほかにも、大気汚染防止法施行令や同法施行規則、労働安全衛生法施行令、同法規則、建築基準法施行令など、数多くの法令で石綿が規制されています。さらに、石綿の処理に関しては管轄する官庁への届出が義務付けられるなど管理を厳重にしています。*11)

資格

2023年10月1日以降、解体などの作業を行う際には資格者による事前調査が義務化されました。事前調査ができるのは以下の3つの資格の所有者です。

  • 特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)
  • 一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)
  • 一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)

*12)

石綿の事前調査は解体工事のほかに、建物の模様替えや修繕といった改修工事、建築設備の取付・取り外しなども含まれます。資格取得のためには講習の受講が必要となるため、建築物に関する業務を扱っている事業者は早めに資格取得者を育成しておく必要があります。*12)

石綿とSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関わり

最後に、石綿とSDGsの関係を確認しましょう。

石綿に関する健康被害は過去のものではなく、現在進行形で継続しています。石綿に由来する健康被害を減らすことはSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」と関わりが深いテーマです。

SDGs目標3では合計13のターゲットが設定されています。その内容は赤ちゃんや子どもの命、エイズ、結核、マラリアなどの感染症、肺炎、麻薬、アルコール、交通事故などで失われる命を守ることなどです。*13)

その中で3.9には「2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる」とあります。今回取り上げた石綿は人々の健康に害を及ぼす有害物質であり、今後も厳格な管理が必要な物質です。

まとめ

今回は石綿(アスベスト)についてとりあげました。石綿は優れた性能から「奇跡の鉱物」とよばれ、建築や工業製品製造の現場で多用されてきました。しかし、20世紀にはいると本格的に石綿の有害性があきらかになります。

そして、1970年代から世界的に石綿の使用が規制され始めます。1986年にILOの総会で石綿を規制する石綿条約が採択されますが、日本は国内法の不備を理由に批准しませんでした。日本でアスベストの有害性にスポットが当たったのはクボタショックのときです。

石綿による健康被害は労働者だけではなく、労働者が石綿を持ち込んだ家庭や石綿製品製造工場の周辺住民に及びました。建築物の解体に伴い、かつて多用した石綿が多くの人の健康を害さないよう、過去の教訓を踏まえた対策を徹底するべきではないでしょうか。

<参考文献>
*1)厚生労働省「石綿とは
*2)国立科学博物館「企画展「石綿<アスベスト>展」
*3)厚生労働省「じん肺について
*4)廃棄物資源循環学会誌 Vol31 巻頭言「古くて新しい問題「アスベスト」
*5)大田区「大田区ホームページ:アスベストとは
*6)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「19年ぶりに採択へ「石綿(アスベスト)の使用における安全に関する条約」(第162号)(ILO
*7)法律事務所 アスコープ「アスベスト(石綿)被害の歴史
*8)日本呼吸器学会「I-02 職業性肺疾患 – I
*9)知恵蔵「アスベストのクボタ・ショック(あすべすとのくぼたしょっく)とは?
*10)笠原市役所「石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々に対する和解手続きによる賠償金のお支払いについて」
*11)環境省「石綿に関する法令等
12)環境省「石綿(アスベスト)関連規制が改正されました
*13)Spaceship Earth「SDGs3「すべての人に健康と福祉を」私たちにできること・現状と日本の取り組み事例」*14)名古屋市「アスベストはどんなところに使われていたの?(暮らしの情報)
*15)クラッソーネ「アスベストの有無を築年数・築何年かで判断できますか? プロが答える豆知識 |