#SDGsを知る

ディープラーニングとは?仕組みやメリット・デメリットと実用例の紹介

イメージ画像

「ディープラーニング」とは何か知らなくても、「AI=人工知能」ということを知っている人は多いと思います。

AIは、もはや私たちの生活に必須の存在となっています。
このAIの識別能力を支える技術の1つが「ディープラーニング」です。

ディープラーニングとAI・機械学習の関係、仕組みやメリット・デメリット、実用例などから、私たちの生活を便利にしてくれるAIとディープラーニングについて学んでいきましょう!

目次

ディープラーニングとは

ディープラーニングとは、「深層学習」とも呼ばれ、AI(人工知能)がデータ処理の基準やルールを自ら学習する「機械学習」の1つです。ディープラーニングを活用すると、AIは複雑な判断や繊細なデータ処理ができるようになります。

そもそもAI(人工知能)とは

まずは「AI(人工知能)」について確認しておきましょう。AIはArtificial Intelligenceのイニシャルをとった略語です。

この言葉が初めて使われたのは1956年のことで、アメリカの計算機科学研究者のジョン・マッカーシーによる研究でした。ジョン・マッカーシーは人工知能のために数理論理学を使って「知識」を表現することに尽力しました。

AIの概念は広く、厳密な定義はありませんが、

  • 人間の思考プロセスと同じような動作をするプログラム
  • 人間の知的判断のような情報処理・技術

といった理解で良いでしょう。下のグラフの「AI関連の特許出願数・付与数の推移」からもわかるように、このような技術は目覚ましい成長の最中にあります。

【AI関連の特許出願数・特許付与数の推移】

「弱いAI」と「強いAI」がある

AIは大きく分けて

  • 弱いAI(特化型人工知能)
  • 強いAI(汎用型人工知能)

の2つがあります。AIの弱い・強いとはどのような意味なのでしょうか?

弱いAI(特化型人工知能)

「弱いAI」とは、「特化型人工知能」「人の心を持たないAI」とも呼ばれ、特定の条件や範囲にのみ活用できるものです。特定の設定された仕事を自動的にこなせますが、プログラムにないことはできません。

  • 音声認識
  • 自動運転
  • ゲームのCPU対戦(コンピューター対戦)

など現在私たちが利用しているものが弱いAI(特化型人工知能)に当たります。

強いAI(汎用型人工知能)

「強いAI」とは、「汎用型人工知能」「人の心を持つAI」とも呼ばれ、人間のように考え、知的な判断・選択・行動ができるAIです。アニメや映画で登場する、人間のようにこうどうできるロボットのようなイメージです。

このような強いAIは現在盛んに研究されていますが、まだ実現していません。しかし、将来的には広い範囲で活躍することが予想されています。

AIの基本的な仕組み

AIは人間の脳の仕組みをルール化し、プログラムにしたものです。脳が行っている、

  • 外部から得られた情報を処理する
  • 過去のデータ(記憶や経験)に照らし合わせる

などをコンピューターのプログラムに再現したものと言えます。AIは得た情報をアルゴリズム※に則って、最適な推測・判断・行動などを導き出します。

アルゴリズム

問題を解決するための手順や計算方法のこと。答え(解)が定まっている計算可能な問題に対して、その答えを求めるための手続き、またはその手続きを形式的に表現したもの。答えがある場合にはその答えが、ない場合には答えがないことがはっきりとわかるもの。

最近では「AI」だけでなく「ML(機械学習)」「ディープラーニング(Deep Learning:深層学習)」と言う言葉もよく使われるようになりました。この3つの関係は、

  • AI(人工知能)と言う広い分野の中の技術の一種として「ML(機械学習)」
  • ML(機械学習)の中の技術の一種として「ディープラーニング(深層学習)」

となっています。

【人工知能・機械学習・深層学習の関係】

上のイラストはとてもわかりやすく解説しています。つまり

  1. AI(人工知能)→新しいものを発見する
  2. ML(機械学習)→答えにすぐにたどり着ける
  3. ディープラーニング(深層学習)→ルールを学ぶ

といった具合です。次の章で、これら3つについて、それぞれもう少し理解を深めていきましょう!*1)

ディープラーニングと人工知能・機械学習

それでは、先ほど出てきた重要な3つの言葉

  1. AI(人工知能)
  2. ML(機械学習)
  3. ディープラーニング(深層学習)

を、もっと正確に把握しておきましょう。

AI(人工知能)

AIには厳密な定義がなく、とても幅広い意味で人間の思考プロセスと同じような動作をするプログラムや、私たち人間が「知的」と感じる情報処理・技術を指します。以前は人間にしかできないと思われていた知的な推測・判断・選択などができる「まるで知能を持っているかのようなプログラム」です。

初期のAIは、あらかじめプログラムされたルールを基に判断する「エキスパートシステム(ルールベースのAI)」が主流でした。しかし、この方法はルールが増えて複雑になると処理が難しくなってしまいます。また、ルールを作れない問題(定量化・数値化・形式化が難しい問題など)には対応できませんでした。

例えば人の顔を見分けたり、流行などの影響を受けて常に変化する日常会話を理解したりするのは苦手です。このような判断は、人間があらかじめ設定しておいたルールだけでは限界があるからです。

つまり、

  • ルールを設定するために手動でデータベースを入力するために手間と時間がかかる
  • 人間の使う曖昧な表現などをルール化するのが難しく複雑な問題を上手く処理できない

という欠点があったのです。1980年代のAIブームはこの2つの欠点のために発展に限界を迎え、収束したと言われています。

ML(機械学習)

「機械学習」の特徴は、一定のアルゴリズムに基づいて、得た情報・データからコンピューターが自動でパターンやルールを発見し学習し、その新たなデータに関する推測・判断・選択などができるようになることです。つまり機械で人間の「学習」に当たる仕組みを実現したものと言えます。

機械学習には「学習」「推論」の2つのプロセスがあり、それぞれのプロセスで異なるデータを扱います。つまりデータによって

  • 学習のプロセスで使うデータ
  • 推論のプロセスで使うデータ

があり、収集されたデータはそれぞれコンピューターが処理できるように加工されます。例えば犬を認識させるために犬の画像を学習させる時、同じ画像に猫が映り込んでいると、正しく学習したり推論したりできないことがあるのです。

このため、画像の中の不必要なものを消す(=クレンジング)などの加工作業が必要です。また、左右反転させた画像を使ってデータ量を増やすなどの手法も使われています。

機械学習における「学習」のプロセス

機械学習における「学習」のプロセスは、入力されたデータを分析し、コンピューターが識別などをするためのパターンを確立します。この確立したパターンを「学習済みモデル」と呼びます。

機械学習における「推論」のプロセス

機械学習における「推論」のプロセスは、「学習」のプロセスでできあがった「学習済みモデル(確立されたパターン)」にデータを入力して、データの識別を行います。

【機械学習におけるデータ活用のプロセス】

また、機械学習の方法は

  • 教師あり学習
  • 教師なし学習
  • 強化学習

の3つに分けられます。

教師あり学習

「教師あり学習」では、学習用のデータにラベル付け(=アノテーション)が必要です。例えば先ほどのように犬を識別できるようにするための学習では、犬の画像に「犬」と言うラベル付けをしてから学習させます。

教師あり学習は、文字や画像を認識して分類したり、連続するラベル付けされたデータから別の数値を予測したりすることに利用されます。データへのラベル付けは人間が手動で行わなければならず時間と手間がかかります。

教師なし学習

「教師なし学習」では、ラベル付けされていない学習用データを使います。「教師あり学習」では犬の画像に「これは犬」という情報をつけて学習させますが、「教師なし学習」ではそのような情報を与えずに犬のデータを与えて学習させます。

教師なし学習で得られる「学習済みモデル」は、それが「犬」と呼ばれるものだと言うことは判別できませんが、犬と他の生き物を判別できるようになります。つまり、与えられた「犬」の画像から犬に共通する特徴やパターンを導き出し、様々な動物の中から犬を選び出したり犬を集めたグループを作成したりできるようになるということです。

このような特徴から、「教師なし学習」は、顧客を特徴ごとにグループ化(=クラスタリング)する用途などに利用されます。

強化学習

「強化学習」では、コンピューターが一定の環境の中で試行錯誤をして、それを「学習用データ」として蓄積します。コンピューターの行動ごとに、その結果に応じた報酬を与えるというプロセスを繰り返し、コンピューターはこの報酬を最大化するためには、何が長期的に良い行動なのかを学習します。

例えば人間同士の将棋を全く学習しない場合でも、「強化学習」により強い将棋の指し方を実現できます。

【機械学習の種類】

ディープラーニング(深層学習)

「ディープラーニング(深層学習)」とは、機械学習の一種で、多数の層からなるニューラルネットワーク(人間の脳の仕組みをコンピューター上で再現した仕組み)を使います。例えばコンピューターが犬と猫の区別を学習するとき、犬と猫のを区別するための基準をコンピューターが人間の指示なしで作り上げて犬と猫を区別します。

「機械学習」では、データを分類するための基準値を「特徴量」と呼び、単純な機械学習では特徴量を人間が設定します。しかし、ディープラーニングではこの特徴量をコンピューターが自ら学習して作り上げ、人間が設定する必要がありません。

また、ディープラーニングは、教師あり学習・教師なし学習・強化学習など機械学習のどの学習方法とも組み合わせて使うことができます。それぞれの機械学習の方法には長所・短所があるので、いくつかを組み合わせることによってコンピューターの動作の効率化や情報処理精度の向上が期待できます。

【AI・ML・DLの関係】

「AI(人工知能)」のなかに「ML(機械学習)」という技術があり、その中にさらに「ディープラーニング(深層学習)」があるということと、機械学習のさまざまな学習方法は組み合わせて使うことが可能ということを覚えておきましょう。

単純な機械学習の場合、人間がデータの特徴を判断しますが、ディープラーニングの場合はコンピューターがデータの特徴も自ら判断する点も重要なポイントです。これらを確認して、次の章では本題の「ディープラーニング」の仕組みに迫ります。*2)

ディープラーニングの仕組み

前章までで、

  • ディープラーニング=人間の脳の仕組みを真似たプロセス(ニューラルネットワーク)を使った機械学習

ということを学びました。この章ではディープラーニングの特徴となる「ニューラルネットワーク」をはじめとしたディープラーニングの仕組みについて理解を深めましょう。

ディープラーニングのニューラルネットワークとは

人間の脳では「ニューロン」と呼ばれる神経細胞が情報処理と情報伝達をしています。この神経細胞は巨大なネットワークを形成して、神経細胞の間では情報が複雑にやり取りされ、推測・判断・選択をしたり、問題に対する最適と思われる答えを導き出したりしています。

この仕組みを真似たディープラーニングのニューラルネットワークは、

  1. 入力層:外部からデータを受け取る
  2. 中間層(隠れ層):入力層からのデータを元に反応する
  3. 出力層:中間層(隠れ層)の答えに重み付け※をして多数決で答えを出す

の3層で構成されています。入力層と出力層の間にある中間層(隠れ層)で入力されたデータに対してさまざまな計算が行われ、この中間層を何層にも重ねることで、より複雑な問題にも対処できるようになります。

重み付け

データの重要度に応じて「重み」と呼ばれる値をつけること。

【ディープラーニング(深層学習)の仕組み】

上の図のように、ニューラルネットワークでは、入力層で受け取ったデータを、中間層でさまざまな情報とやり取りしながら自らデータを評価して、特徴やルールを発見します。人間の脳においてのニューロンに当たる部分は「パーセプトロン※」というアルゴリズムでモデル化され、ネットワークを構築して人間の脳のように動作します。

パーセプトロン

人工ニューロンとも呼ばれ、入力されたデータに対して0か1を出力する。1を出力する度合いを調整するために「バイアス」という値がある。重みとバイアスを調整して出力を変えることができる。

ディープラーニングを活用してできること

このように、ディープラーニングは人間の脳のように複雑な情報処理や柔軟な判断ができるコンピューターの学習システムですが、どのようなことができるのでしょうか?ディープラーニングを活用してできることは、入力データの種類別に大きく4つに分類されます。

①画像認識

画像や動画から、ある特徴を検出したり認識したりします。画像の中の背景と文字・顔などを分離して抽出し、それが何なのかを判断します。

手書き文字の認識・顔認証・検索エンジン・医療検査・自動運転などに応用されています。

②音声認識

文字通り人間の声などを認識します。人間の話した内容を認識して文字(テキスト)に変換したり、誰の声かを認識したりします。

スマート家電やバーチャルアシスタント(Siriやアレクサなど)に応用されています。

③自然言語処理

自然言語とは人間が生活の中で日常的に使っている言語のことです。書き言葉と話し言葉が違ったり、文法的に間違っている言葉の用法でも習慣として違和感なく使われていたりする例も多くあります。

ディープラーニングによって、このような日常的に私たちが使う言葉の認識・処理ができます。自動翻訳・カスタマーサービス(コールセンター)での問い合わせ対応・文書の要約などに応用されています。

④異常検知

センサーからのデータを過去のデータと照らし合わせて、異常の兆候を検知します。工場などでの故障の検知や異常動作の検知などに応用されています。

最近では生活にすっかり溶け込んでいるとも言えるこれらの技術ですが、ディープラーニングの技術があってこそ実現したのです。次の章では、今、ディープラーニングが注目されている理由について探ります。*3)

なぜディープラーニングが注目されているのか

ディープラーニングはすでに1980年代、理論として登場していました。しかし特に注目を集めるようになったのは近年のことです。

そこには大きな2つの理由があります。

理由①大規模なデータを入手できるようになった

ディープラーニングでコンピューターの認識精度を上げるためには、非常に多くの学習データが必要です。以前は、ディープラーニングによって十分な精度を出すために十分な量のデータは、一部の業界でしか入手するのが困難でした。

しかし近年になって、デジタル化やインターネットの普及などが進み、あらゆる分野で大量のデータを確保することが可能になりました。また、データも詳細なものが取れるようになり、ディープラーニングによって十分な精度を実現することが可能になりました。

理由②コンピューターの処理能力の向上

ディープラーニングでは大量のデータを入力し、ニューラルネットワークで膨大な計算が必要です。コンピューターの処理能力が向上したことにより、大量のデータを素早く処理できるようになりました。

まだ20年〜30年かかると言われていますが将来、「量子コンピューター※」が実用化されれば、さらに大量のデータを短時間で処理できるようになるでしょう。

量子コンピューター

これまでのコンピューターの仕組みとは全く違い、原子や電子など「量子」が持つ性質を利用して情報処理を行うコンピューター。用途は限定的と考えられていて、量子化学計算・機械学習・量子シミュレーションなどで高速にデータ処理が可能になると期待されている。

ディープラーニング実用化の環境が整った

近年、この2つの大きな理由により、ディープラーニングは実用化が可能になりました。それまでは「理論的には可能」と考えられていたものの、大量のデータを集めることがむずかかったり、コンピューターのデータ処理速度が十分でなかったりして、ディープラーニングで十分な精度が発揮できなかったのです。

近年になってディープラーニングが注目されるようになったのは、ディープラーニングの実力が発揮できる環境が整い、さまざまな用途への応用が始まったからと言っていいでしょう。具体的には、

  • センサーの小型化・性能の向上
  • インターネットの整備
  • コンピューターの計算処理能力・速度の向上
  • GPU※などの半導体技術の向上

などのIT技術の進歩により、ディープラーニングの実用化が実現しました。

GPU

Graphics Processing Unitの略称で、コンピューターの画像処理装置のこと。並列処理能力(一度に複数の作業をこなすこと)に優れている。

Siriやアレクサなどのバーチャルアシスタントの性能も年々向上していることからもわかるように、ディープラーニングの技術やそれを応用した技術は今後も更なる成長が続くと予想され、私たちの日常生活をより便利に、より快適にしてくれるでしょう。

次の章では、ここまで学んできたディープラーニングのメリットをまとめます。*4)

ディープラーニングのメリット

ディープラーニングが実用化され、さまざまな用途に使われていますが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか?ディープラーニングの特徴を思い出しながら確認しましょう。

メリット①柔軟な情報処理

ディープラーニングでは、コンピューターが継続的に学習することによりデータ処理能力が改善されていき、データのパターンが変化しても適時対応ができます。単純な機械学習では処理が困難な複雑なデータ(言葉で特徴を表しにくいなど、データへのラベルづけが難しい場合など)でも、大量のデータがあればディープラーニングなら処理が可能です。

メリット②認識精度・パフォーマンスの向上

ディープラーニングはAIのパフォーマンスを飛躍的に向上させます。AIはディープラーニングによって自己学習を続け、より高度なデータ処理が可能となるうえに、新しいデータに合わせて継続的に改善していきます。

メリット③時間短縮

ディープラーニングは大量の学習用データを入力してトレーニングするのに時間がかかりますが、単純な機械学習がデータの準備段階で膨大な時間を要することを考えると、トータルでは時間が節約できます。

メリット④業務効率化

ディープラーニングによって高いパフォーマンスを実現したAIは、用途によっては人間を上回る認識精度を発揮します。これを利用して今まで人間にしかできなかった業務をAIに任せるなどの業務効率化が可能です。

ディープラーニングのそれぞれのメリットは今後のデータ収集技術やコンピューターの性能の向上とともに、さらに成長していきます。ここでは代表的なものを挙げましたが、例えばゲームの対戦相手としてプレイヤーのレベルに合わせて柔軟に対応して楽しませてくれるなど、他にもいろいろと考えられます。

次の章では、ディープラーニングのデメリットや課題を確認しましょう。

ディープラーニングのデメリット・課題

とても優秀そうに見えるディープラーニングですが、デメリットや課題もあります。ゆくゆく解決される可能性もありますが、現時点では注意が必要です。

デメリット・課題①【データ格差】大量のデータが必要

ディープラーニングでは、十分な精度を確保するためには大量のデータが必要です。また、大量のデータが必要なことから、大量のデータを集めやすい環境が有利となり、「データ格差」が生まれます。

デメリット・課題②高い処理能力のコンピューターが必要

ディープラーニングには大量の学習用データの処理(=トレーニング)が必要なので、大量のデータを高速で処理できる高性能のコンピューターが必要です。

デメリット・課題③【ブラックボックス化】結果に対する根拠がわかりにくい

単純な機械学習の場合は、その予測や判断などの結果に対する根拠の説明は人間が説明可能です。しかしディープラーニングではどのようなルールや経緯により結果が出ているかわかりにくいので、「ブラックボックス的アプローチ」と呼ばれます。

正しく機能しているかの確認も、現在では新しいデータを対象にテストして結果を出してみる方法しかありません。

デメリット・課題④コストが高い

精度の維持・向上のために継続的に学習する必要があり、人間による検証や人為的ミスが発生して修復が必要になるたびにコストがかかります。わずかな精度を上げるためのメンテナンスに高額なコストがかかる場合もあります。

デメリット・課題⑤破局的忘却

ディープラーニングには「破局的忘却」と呼ばれる欠点があります。これは、一度特定のものを学習したニューラルネットワークに、新たに別のものを覚えさせようとすると、過去に学習したものを忘れてしまうという特性です。

破局的忘却には回避する方法もいくつかありますので、AIに新しいことを追加で学習させたい場合は、破局的忘却を起こさない方法で行う必要があります。

人間の脳の仕組みを再現したディープラーニングも完璧でないことがわかります。このようなことから、人間の脳の情報処理能力の高さも再確認できます。

次の章ではディープラーニングの実用化によって、これまでの課題が解消される分野やディープラーニングの実用例を見ていきましょう。*5)

ディープラーニングによって課題解消が期待される分野と実用例

まずはAIがどのような分野に利用されているかを、特許庁の崇敬によるAI関連の発明件数で見てみましょう。下のグラフはAI関連の発明で特許が出願された件数の推移です。

【AI関連発明の主分類構成の推移(2020年の件数等を表記)】

「その他(グラフでは灰色部分)」以外の内容を見ると、グラフの上から

  • 交通制御
  • 自然言語処理
  • ヘルスケア
  • 映像処理
  • 音声処理
  • 制御系・調整系一般
  • 材料分析
  • 医学診断
  • 情報検索・推薦
  • その他情報一般
  • ビジネス
  • 画像処理
  • AIコア※

と多岐にわたっていることがわかります。

AIコア

「AIコア」とは、AIの処理能力を高速化するための専用回路などAIの仕組み、アルゴリズムに関する技術で、機械学習・ニューラルネットワーク・ディープラーニングなど。「AIコア発明」はAIの仕組みそのものに特徴のある発明で、既存のAIの仕組みを何に使ったかに特徴のある発明は「AI関連発明」と呼ばれ、区別される。

ディープラーニングによって解消できる課題

ディープラーニングによって課題の解決が期待できる分野は主に5つあります。ディープラーニングを活用して業務の自動化・効率化を行なっている企業はすでに多く、今後もさらに普及していくことが予想されます。

売り上げ向上

ディープラーニングで店舗への来客の予想、農産物の市場価格の予想、商品の需要の予想などを行い、売り上げ向上や過剰に在庫を持つことを回避するなどの効果が期待できます。株価の予想などにもディープラーニングが利用されています。

コスト削減

チャットボット※によるカスタマーサービスの負担軽減や、コールセンターの自動化、手書き書類のデータ化・入力の自動化などで、これまで人間が対応したり手動で入力していた作業を大幅に削減できます。

信頼性向上

ディープラーニングの技術を応用すると、作業の種類によっては人間を超える精度で品質チェックや監視・管理などが可能です。また、人間のように疲労や体調によってパフォーマンスが変化することがありません。

監視・管理

建物や道路などのコンクリートのひび割れを自動検出することで作業の軽減・作業時間短縮・コスト削減を実現できます。また、倉庫内のレイアウトの最適化や倉庫内の業務の効率化が期待できるほか、農業分野では必要な場所にだけピンポイントで農薬を散布するドローンなども登場しています。

人手不足解消

配送ルートの効率化やレジの自動化、野菜の収穫の自動化で人手不足の解消が期待できます。製造の現場での不良品の自動検出、ゴミ処理施設での廃棄物選別の自動化、建設現場での自動掘削油圧ショベルなど、AIでもできることは自動化することにより、人手不足の解消が期待できます。

ディープラーニングの実用例

ディープラーニングを活用して、実際にどのようなことができるようになったのでしょうか?実際にディープラーニングが応用されている例を紹介します。

自動運転(運転支援)

【「Advanced Drive」を搭載した燃料電池自動車ミライ】

2021年にリリースされたトヨタの新型レクサス・新型ミライ(燃料電池自動車)には、ディープラーニングを活用した高度運転支援技術「Toyota Teammate/Lexus Teammate」の「Advanced Drive」が搭載されたモデルも発売されています。トヨタのAdvanced Driveの機能は、

  • 走行状況に応じた細やかな支援
  • 合流してくる車への配慮
  • 自動車線変更・追い越し
  • ドライバーモニターカメラ(居眠り・脇見察知)
  • 緊急ブレーキ(衝突回避支援)
  • ドライバー異常時対応システム・自動救命要請
  • ソフトウェアアップデート対応

など、多様な機能を備え、運転中に起こりうる状況を予測して運転を支援します。まだ出発から到着まで完全に自動的に運転できるというわけではありませんが、ドライバーがこのシステムをよく理解し慣れることによって、運転のストレスや不安が大幅に軽減され、一層安全に自動車を運転することができます。

トヨタの「Advanced Drive」車線変更と分岐の支援解説動画→https://youtu.be/7EU8whG0dfk

赤潮予測

赤潮の発生は漁業に深刻な影響を及ぼします。その被害額は1回の赤潮で数十億円に上ることもあると言われています。

農林水産省では、ディープラーニングを利用して赤潮を予測するシステムを開発しました。衛星で観測した海のクロロフィル※の濃度や気象データから、赤潮の発生を予測し、その精度は84%〜95%と大きく外れることのない予想を実現しています。

クロロフィル

太陽のエネルギーを植物が利用するエネルギーに変える物質。ここではクロロフィルの濃度で珪藻・有害プランクトンの量を測っている。

具体的には、

  • 赤潮発生を3日前までに予測可能になり、養殖業の早期水揚げや生簀の移動などの対応が可能
  • 有害プランクトンの代謝物などから赤潮の収束を予測
  • 電位センサーにより海底環境を把握し、養殖場海底の環境保全に貢献

などの技術により、赤潮による被害が甚大になる前に早期の対応が可能になりました。

【有害プランクトンに対応した迅速診断技術】

ディープラーニングを活用することで、これまで予測や自動化が難しかったことが、可能になった例は他にもたくさんあります。あなたの周りでも「これはディープラーニングが応用されているのでは?」という例を探してみてください!

次の章で、ディープラーニングを取り入れる方法などを簡単に知っておきましょう。もしかしたら、あなたの職場でもディープラーニングの応用が可能かもしれません。*6)

ディープラーニングを取り入れるには資格が必要?やり方は?

ディープラーニングの導入にはそれなりにコストがかかります。しかし、ディープラーニングの得意分野を活かし、効率的に使用すればさまざまな問題の解決が可能です。ディープラーニングの得意分野は、

  • 画像認識
  • 動画認識
  • 音声認識
  • 言語処理
  • シミュレーション・予測

などです。ディープラーニングを導入する前にまず、ディープラーニングについての知識を身につけましょう。その上で、

  • ディープラーニング導入の目的を明確にする
  • ディープラーニングに必要なデータを用意する

ことが必要です。ディープラーニングを導入するにあたって、必ずしも資格が必要というわけではありませんが、日本ディープラーニング協会(JDLA)ではディープラーニングの基礎知識と事業活用能力を検定する資格試験を実施しています。

ディープラーニングの資格とは

ディープラーニングの資格試験には、

  • 事業活用する人材(ジェネラリスト)→G検定
  • 実装する人材(エンジニア)→E検定

の2種類があります。それぞれに日本ディープラーニング協会が認定した事業者がトレーニングを提供します。

ディープラーニングの導入には、ディープラーニングについての知識が必要です。このような資格試験に挑戦して AIに関する様々な技術やビジネス活⽤のための基礎知識をしっかりと身につけておけば、キャリアアップにもつながる可能性があります。

この検定は2017年に始まったもので、まだこの資格を持っている人はそれほど多くないと考えられます。しかし、ディープラーニングの知識や技術は今後需要が高まることが予測されるので、資格を取得するメリットは十分にあります。

次の章ではディープラーニングの今後の展望について考えます。*7)

ディープラーニングの今後の展望

目覚ましい発展を続けるディープラーニングを応用したAI技術ですが、今後はどのように進んでいくのでしょうか?自動車の完全自動運転をはじめ運輸業の自動化やレジなしの決済システムなど、様々な研究が行われています。

将来の私たちとAIの関係を中心に考えてみましょう。

AIの民主化

「AIの民主化」とは、2017年にアメリカのAI研究者フェイフェイ・リーが提唱した概念で、AIを誰もが使える社会を目指すものです。実際に私たちはエンジニアでなくてもAIを利用していることからも、AIを利用することへのハードルはどんどん下がっていると考えられます。

今後、このような「AIの民主化」が進む中で、ディープラーニングの導入には

  • 自社の競争力の源泉となるものは自社開発する・自ら学習用データを用意する
  • そうでないものには既存の学習済みモデルを利用する

などの判断が必要となります。ディープラーニングに特化したハードウェアも開発されており、分野によってはAI・機械学習・ディープラーニングなどを効率的に導入することが鍵となることも多いでしょう。

私たちも、社会人として求められるITのスキルや知識の水準は上がっていく一途と考えられるので、最低限のスキルや知識は身につけておきたいものです。ディープラーニングも、ゆくゆくはもっと身近になり、事業内容・作業内容によっては使うのが当たり前で、それなしでは仕事にならないといった場面も想像できます。

【AI技術開発基本戦略】

シンギュラリティ(技術的特異点)

「シンギュラリティ」とは、科学技術の急速な発展により、人間の生活が決定的に変化する未来を指す言葉です。AI研究の世界的権威で発明家・未来学者のレイ(レイモンド)・カーツワイルは、2045年には人間の脳の能力を人工知能が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達すると予想しています。

しかし、よく囁かれている「いずれコンピューターが人間の能力を超え、人間と敵対して人間を滅ぼす」という未来については、人間の誰かが人間を滅ぼす目的を持ってAIを利用しない限り起こりにくいと考えられます。また、そのようなテロリストが現れたとしても、それを防ぐ側も必ず存在しています。

結局の脅威は人間といったところでしょうか。私たちには発展を続けるAIをどう使うかという責任があります。

AIが人間の脳の能力を超える「シンギュラリティ」を迎えても、私たち人間がAIとの良好な関係を維持し、お互いが支え合っていくことが大切です。そのためにも日々進歩するAIへの知識を深め、私たちも学習を続けましょう。*8)

ディープラーニングとSDGs

ディープラーニングのようなAI技術とSDGsは全く接点がないように感じる人もいるかもしれませんが、実はディープラーニングはSDGs目標達成にも貢献します。例えば、医療の場面でも画像による診断や遺伝子の解析など、ディープラーニングが応用されている技術は多くありますから、

に貢献しています。工業・農業・漁業などの産業においてのAIによる効率化は、

の目標達成に関わっています。また、気候予測や環境の管理などでもディープラーニングを応用した予測・異常感知システムが活躍しているので、

にも、技術面でさまざまに貢献しています。このように、ディープラーニングはSDGs目標達成のためにも重要な技術なのです。

まとめ

【AI搭載のロボットと楽しく触れ合う子供】

【AI搭載のロボットと楽しく触れ合う子供】
筆者撮影

ディープラーニングの知識を持って何かに取り組む人が増えることで、ディープラーニングのさらなる活用の可能性が広がります。すでにAIは私たちの生活の至る所で活躍していますが、将来的にはもっと多くの場面で私たちの便利で快適な生活を支えたり、社会問題を解決したりする力になっていくでしょう。

「AIによって自動化が進んだら、人間は無能になってしまうのではないか?」と考える人もいますが、先ほど「シンギュラリティ」について説明したように、どのようにAIを使うかは私たち人間の責任です。つまり、AIのせいで人間が無能になったり堕落したりするのではありません。

日本では少子高齢化が深刻な問題となっていますが、ディープラーニングによる自動化・効率化は、労働者人口が減少しても経済を支えるための重要な技術の1つと考えられます。AIにできることはAIに任せて、私たち人間はそれ以外のことを担うために時間を使えばいいのです。

「AIとどう生きるか」に不安を感じるよりも、AIを知り、あなたの知識とスキルの向上に努めましょう。私たちが社会や地球の将来のために考え、行動を続けるにあたって、AIは頼りになるパートナーなのです。

〈参考・引用文献〉
*1)ディープラーニングとは
特許庁『AI関連発明の出願状況調査 本調査のバックデータ』
総務省『人工知能(AI:エーアイ)のしくみ』
*2)ディープラーニングと人工知能・機械学習
日経XTECH『AI入門 エキスパートシステムとは異なる』(2019年4月)
総務省『令和元年番情報通信白書 第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0』
*3)ディープラーニングの仕組み
生理学研究所『「学んだ」ことが「身につく」ときの脳の変化〜運動学習で大脳皮質神経回路が変化し学習記憶が進む〜』(2022年7月)
総務省『令和元年番情報通信白書 第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0』
*4)なぜディープラーニングが注目されているのか
国立研究開発法人産業技術総合研究所『量子コンピューターとは?』(2022年5月)
intel『CPU と GPU の比較: 両方を最大限に活用する1』
*5)ディープラーニングのメリット・ディープラーニングのデメリット・課題
総務省『ディープラーニングの進展と人づくり』
総務省『人工知能(AI)の現状と未来』
SONY『ディープラーニングやAIの欠点とは?特徴や仕組み、欠点に対する対応策を解説』
*6)ディープラーニングによって課題解消が期待される分野と実用例
NRI『ディープラーニング(深層学習)Deep Learning』
特許庁『AI関連発明の出願状況調査』(2022年10月)
TOYOTA『トヨタの安全技術 TOYOTA Safety Technology 高速道路を走るとき 目的地までの走行をサポート』

日経XTECH『トヨタ、AI使う運転支援技術を「レクサスLS」「MIRAI」に搭載』(2021年4月)
TOYOTA『トヨタ、人とクルマが仲間のように共に走る高度運転支援技術の新機能「Advanced Drive」を搭載したLS、MIRAIを発売』(2021年4月)
農林水産省『赤潮発生・終息早期予測、底質改善技術』
農林水産省『赤潮発生海域予測モデルの開発』
*7)ディープラーニングを取り入れるには資格が必要?やり方は?
日本ディープラーニング協会『資格試験について』
*8)ディープラーニングの今後の展望
総務省『次世代人工知能推進戦略』p.103
総務省『進む「AIの民主化」第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0』
経済産業省『新たなデジタルスキル標準の検討について』(2021年12月)
経済産業省『AI人材育成の取組』
総務省『第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~』