小森 胤樹(こもり つぐき)
1971年、大阪府吹田市生まれ。関西大学大学院工学研究科修了大学卒業後、5年間糖尿病の診断薬の研究開発職に就く。2002年、環境を守る仕事を一生の仕事にしたいと林業に転職を決意、林業の仕事を覚えるため、岐阜県郡上市の林業会社に作業員として、転職。10年後、雇ってもらった会社の代表として6年間社長として、民間事業体の経営を行う。その後、森林総合監理士の資格取得をし、日本型フォレスターとして活動すべく、代表を辞職し、2021年、民間の森林総合監理士と市町村に林務行政支援を行う、フォレスター合同会社を設立し活動を開始。また、森林資源の利活用のため、国産材割り箸の普及啓発のため、株式会社郡上割り箸を2013年に設立。割り箸は、環境破壊ではなく、木材の有効利用であり、割り箸から日本の森林の利用の仕方を伝えている。
所属 フォレスターズ合同会社 代表社員、株式会社郡上割り箸 代表取締役 一般社団法人中濃地域内循環イニシアチブ 代表理事
introduction:
「日本の森林を守りたい!」、一人の男性のそんな熱い想いが輪となり生まれた株式会社郡上割り箸。「持続可能な地域社会を創る」ことを企業理念に掲げ、100%国産材を使った割り箸の普及活動に取り組んでいます。
今回は代表の小森さんに、日本の森の現状について、長らく森林を守る活動に従事してきて感じること、未来を担う子供たちに伝えたいこと、などについてお話を伺いました。
「割り箸=環境破壊」の誤解されたイメージから「割り箸=森林を守る」の正しいイメージ普及を目指して
–はじめに、御社について教えてください
小森さん:
「割り箸は環境破壊につながる」といった誤解を解き、「国産の木で作った割り箸を使っていくことが、結果的に森林を守ることになる」ということを伝えるために、郡上割り箸を立ち上げました。
私は、もともと環境を守る仕事がしたかったので化学を専攻し、その後研究職の道に進みました。30代になり、研究職とは別の視点から日本の環境を守るための面白い仕事がしたいと考え、2002年に郡上に移住し、林業の現場作業員として転職しました。
始まりは、同じく郡上に住んでいる主婦の方や行政の方などに「一緒に森を守って行く活動として、地元産の割り箸を作って啓もう活動したい」と声をかけ、共感してくれた有志7名と共に任意団体を作り、割り箸を作っては色々なイベントに提供するなどしました。林業関係者は僕含めて二人だけでしたね。
現在は、割り箸を自社製造するところまでには至っていないものの、国産の割り箸の販売を通して普及活動をしたり、教育現場で森林環境教育のお手伝いをしたりしています。また、国産材を使った積み木や木製品を作っています。現在、会社の事業として積み木などの木製品製造販売が主事業となっています。
「とにかく割り箸にしても、積み木などの木製品にしても日本の木を使って山に還元する」ということを大きな目的として、日々活動しています。
日本の森は使わないと荒れる。人々の関心をもう一度森林に向けさせたい
–そもそもなぜ山の資源に注目したのでしょうか。
小森さん:
皆さんは日本の森林面積は増えてると思いますか?減っていると思いますか?
この問いに、約半数の人は「減っている」と答えます。ですが日本という国ができてから2000年余り、国土面積に対してこれだけの森林が広がっているのは歴史上今が最大なんです。
でも、森に関心がない人たちは家の近くの裏山まで人工林が迫っていて、野生動物の住みかがすぐそこまできてるのも知らず、「森は減っている」と思っている人が多いのが現実です。
そして森に一切人が入らないために、どんどん荒れてしまっている現状があります。遠目に見ると山は緑です。ですが、ほったらかしになっているから、森の中は真っ暗なんです。もちろん地面に光が当たっていないから草も生えてないんですよ。
そのような森林は、雨が降ったら土砂が流れていってしまいます。だから今の川は、雨が降るとすぐ茶色くなりますよね。昔はそんなことなかったんです。
確かに、原生林のアマゾンで農地や牧場を作るために木を切ると、再生することはないので環境破壊に繋がります。
ですが日本の森、特に人工林に関しては、使わないことが環境破壊につながるんです。
その根本にあるのは、人々の関心が遠のいてしまったことが原因だと思っています。だから「山の資源にもう一度目を向けながら、地域環境に対して取り組む」ということをしていきたいと思いました。
割り箸を使うことが森林にもたらすメリット
–割り箸などの製品で国内の人工林を使うことが、環境破壊の防止に繋がるのですね。他にも割り箸を使うことで森林にもたらすメリットはありますか?
小森さん:
ここでは大きく3つのポイントに絞ってお話したいと思います。
1つ目は、【もともと割り箸は日本の森林資源の有効活用として生まれた商品】ということです。
割り箸は、奈良県の吉野地方が起源とされています。丸太から柱や梁を取るために製材をすると、端材が出ます。十分な厚みがある端材はさらに板を取りますが、板も取れない厚さの端材を有効活用するために、付加価値をつけたものが割り箸なんです。割り箸の厚みだからまだ材料として使えるわけです。
つまりもったいないから割り箸を作り始めた訳です。割り箸を作るために木を切り倒している訳ではないので、これは環境破壊とは言いませんよね。さらに、割り箸によって消費が生まれることで丸太の価値が上がる=山林所有者に還元され、林業関係者側にも収入が入るなど、良いことばかりです。
2つ目は【割り箸は燃料補助剤になる】ことです。
割り箸はとても乾燥しているので、いい燃料になります。生ゴミと一緒に割り箸を混ぜれば、焼却場では燃料補助剤になるんです。焼却場で使われるエネルギー代が減りますよね。
3つ目は【結局プラスチック箸よりも割り箸の方が環境に優しい】ことです。
洗浄する際も、特に飲食店の場合、高熱で洗浄処理をしないといけないのでエネルギーを使い、洗浄に水を消費して環境負荷を与えます。総合的に見ると、結局プラスチック箸の方が環境に負荷をかけているという研究データもあります。
また、マイ箸を持ち歩こうとよく耳にします。マイ箸を否定はしません。ですが、そのお箸を使った食事の後、テーブルに置いてある紙ナプキンで箸を拭くこともありますよね。その紙ナプキンに使われているパルプ量は、ちょうど割り箸1本分のパルプ量なんです。
良いものが必ず売れるとは限らない。だからこそ工夫を凝らして郡上割り箸を手に取ってもらいたい
–正しい知識を知ることは大切ですね。郡上割り箸の普及に関する活動もされているのでしょうか?
小森さん:
これまで色々やってきましたが、難しさを感じています。
例えば任意団体だった時期に、県からの補助金を活用して割り箸を何万膳も作り、「郡上おどり」という盆踊りイベントの期間中、街中の飲食店に5万膳ほど無料で配布しました。
他にも市内にある、スキー場の食堂にも7万本ほど配ったことがあります。その時は割り箸を使ってもらうことに加えて、地域にお金が落ちる仕組みにしようと考え、クーポンをつけたんです。スキー場から高速に乗るまでの間のお店約30軒にその割り箸クーポンを持っていくと割引になるといったものです。
この取り組みを通して、まずは地域の人たちや飲食店に国産の割り箸の良さを知ってもらえば、価値も感じていただけるはずだと考えていました。
しかし、結局無料だから使ってもらっていたんです。無料で配った割り箸が無くなったころ、続けて使いたいので購入したいというお店はごくわずかでした。
また、SDGsを謳っていた大手焼肉店に導入していただいたこともあります。焼肉店だと客単価も高いですし、プラスチックだと溶けてしまうので、箸のコストも含めて約4円であれば全店に入れたいとなりました。しかし1年経ったある日、メールで「コストカットのため割り箸が使えなくなりました」と連絡がきまして。
コスト面での課題解決を目指して、箸袋に広告を入れたこともありますが、うまくいきませんでしたね。
でも、最近になって少しずつ世の中が動く可能性、変化を感じてます。この取り組みを始めた14年前はSDGsなんて言葉はありませんでした。モノの値段がどのように決まっているのかを知った上で買いたいという人たちが増えてきました。その商品は持続可能な資源、人の営みで作られているのか、誰かを搾取して作られているのではないか。私は割り箸はそんな商品だと考えています。
人は知らないことに対して、行動は起こせません。国産の割り箸が環境破壊なのかどうなのかという問題以上に、適正価格で流通しているのかも大きな課題として見えてきました。
そのためには、僕は興味を持ってくれる人がいたらどこに行っても喋ります。あちこち話をしに行くことによって「一緒にプロジェクトをやりましょう」となるときもありますから。
そして将来的には、割り箸を適正価格で購入するのが当たり前になれば良いですね。そのためにも話し続けますし、知ってもらうための工夫を考えていきます。
–最近ではどのような工夫をされているのでしょうか?
小森さん:
例えば、 プレゼント”したくなる割り箸として「ありがとうが溢れる割り箸」があります。
これは箸袋に7種類のありがとうが書いてある商品です。1本だけに「 」にありがとうと、空欄のものがあるので、ここに感謝を伝えたい方の名前を書いてプレゼントできる仕組みになっています。
また、サッカーJ3のFC岐阜がホームゲームで試合を行う際は、屋台村にユニフォーム柄の箸袋を纏った割り箸を提供しています。
TABLE FOR TWOさんとタッグを組んだ割り箸もあります。20円で割り箸を購入していただき、そのうちの5円をアジアやアフリカの子供の学校給食に寄付するプロジェクトです。
私の考えに共感していただいた大阪の飲食店経営者の皆さんと組んで、カッコいい大人の割り箸という取組も広がっています。
こちらも寄付付き割り箸となっていて、集まった寄付金がシングルマザーや子供食堂の支援に使われています。
他にも、地元の小学校で6年ほど授業をしています。
子ども達を山に連れて行き、チェーンソーで木を切って見せる現場の授業を半日実施し、教室に戻って座学を行うという内容です。
割り箸について正しい知識を持ってもらうことはもちろんですが、林業を将来の職業選択のひとつにしてもらうことも目的のひとつです。
授業の後に感想文をもらうと、子どもたちは「自分の常識が常識ではなかったことに気づいた」といいます。私たち大人はそういう体験をどれだけさせてあげられるかが大切だと思います。
–最後に郡上割り箸さんが目指す未来、今後の展望についてお聞かせください。
小森さん:
1つは、割り箸が1本8〜10円で売れるようにすることを目指しています。一番安価な割り箸を製造している工場は、就労継続支援B型作業所として運営されている場合が多いです。今の常識における流通単価では、作業所だから作れる商品になってしまっていると思うんです。B型の作業所の平均給与は2,3万円/月です。作業所だから作れる単価になってしまっている。適正な価格で割り箸が売れるようになると、売り上げから給与が支払えるようになります。その結果彼らは納税者となり、労働人口が増えることになり、お金が回る仕組みに変わっていくと思います。安いから物を買うのか、誰がどんな価値で作っているからその価格で買うのか。今、社会の仕組みは大きく変わろうとしています。金融資本社会から共感資本社会へ向かっています。
社会の仕組みを変えていくために、割り箸の価値を多くの方に知ってもらいたい。
2つめは、国産の割り箸を全てFSC認証割り箸にすることを目指しています。森林認証を取得している割り箸であれば、循環可能な形で切り出した木材から作った割り箸ですから、それを燃やしてもCO2を排出したことにはカウントされず、より環境に良い形となります。
そして最後に、割り箸に関しては杉が一番適しているので、国産杉の割り箸をもう一度皆さんに手に取ってもらいたいですね。料亭に行かないと出てこない割り箸ではなく、皆さんが日常で当たり前に使うものになってほしいと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
株式会社郡上割り箸:https://gujowaribashi.com/