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高次機能障害とは?症状や原因、治療法などをわかりやすく

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高次機能障害は、「高次(かなり進んだ)の機能障害(本来のはたらきをしない))」と、言葉の上で解釈することはできるかもしれません。しかし、実際にどんな症状が出てくるのか、高次脳機能障害とどうちがうのか、原因や治療はどうすればよいのかなどについて、広く理解している方は多くはないのではないでしょうか。

この障害は認知症と同じように高齢者に多いものの、大きなケガなどが原因でいつだれでも発症するかもしれないものです。しかし有効な対応方法や支援窓口もあり、研究も進みつつあります。是非一緒に学んでいきましょう。

高次機能障害とは

高次機能障害とは、文字通り「高次=程度の進んだ」「機能障害=本来の働きをしない」状態を言い、まだ解明されていない部分も多く、研究が進められています。

全国に約27万人いると推定されていて、年齢分布を見ると60歳以上の発症が多いことがうかがえます。

<高次機能障害患者の年齢分布>

出典:日本の高次脳機能障害者の発症数(2011年)(Web調査登録の127人の回答結果から)

高次脳機能障害と高次機能障害について

現在、「高次機能障害」と「高次脳機能障害」は、ほぼ同じものとして扱われています。

高次脳機能障害とは

厚生労働省の定義では、

「高次脳機能障害」は、一般に、外傷性脳損傷、脳血管障害等により脳に損傷を受け、その後遺症等として生じた記憶障害、注意障害、社会的行動障害などの認知障害等を指す引用:高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書について

とあります。

つまり、病気やケガ等で脳の一部を損傷したために、日常生活や社会生活に大きな制約がある状態をいいます。

高次脳機能障害との違い

しかし、両者には微妙にニュアンスの異なりがあると指摘される場合があります。

例えば「高次聴覚機能障害など、脳機能ではない高次機能障害もある」や「病気やケガによる損傷ではなく、精神的な要因で同様な症状が出る」といった見方です。

また、損傷しているかどうか、画像などで判断できないときもあります。現在の画像撮影技術では発見できない損傷部位でも、損傷した場合と同じ症状を発症する人もいます。

そこで現在は、障害認定等の支援対策を進める観点から、行政的救済配慮として、発達障害なども含めて、典型的な症状を示す多くの高次機能障害を「高次脳機能障害」にまとめて扱っているのです。

出典・参考:画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)給付請求事案の報告について
「高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書」の概要(厚生労働省)  
高次脳機能障害を理解する(国立障がい者リハビリテーションセンター)

高次機能障害の症状

ではその「典型的な」症状とはどのような症状なのでしょうか。

高次機能障害には、記憶障害など、いくつかの主要症状があります。具体的な状態・行動なども含めてみていきましょう。

高次機能障害の主要症状

障  害症  状備  考
記憶障害・物の置き場所を忘れる。・新しい出来事を覚えられない・同じことを繰り返し質問する。発症後の事が覚えられない前向健忘と、発症前の記憶がない逆向健忘があります。
注意障害・ぼんやりしている。・ミスが多い。・2つのことを同時に行うと混乱する。・集中していられる時間が短い。空間のある部分の刺激が受け取れない半側空間無視も含まれます。
遂行機能障害・計画的に行動できない。・指示がないと何もできない。・約束を守れない。
社会的行動障害・興奮し、時に暴力を振るう。・大声を出す。・自己中心的。
表は筆者作成(参考:主要症状の解説 | 国立障害者リハビリテーションセンター)

主要症状のうち、記憶障害が最も多くなっています。記憶障害・注意障害・遂行機能障害が社会的行動障害の原因となっている場合も少なくありません。

その他の症状には、片麻痺知的低下失認 ※、失語などがあげられます。

失認

感覚器の機能に問題はないが、対象となる刺激や事物を認識できない状態。

高次機能障害の診断方法

高次機能障害は大きく分けて、主症状の有無検査によって専門医が診断します。検査には

MRICT脳波検査神経心理学検査などがあります。

検査によって、脳に損傷部位が認められれば明らかに「高次脳機能障害」の診断がされます。また、医学的・学術的に脳に器質的病変の存在が明らかにされなくても、症状が顕著な場合は行政的に<高次脳機能障害=高次機能障害>と診断されることがあります。

高次機能障害が起きる原因

この章では、高次機能障害症状の中核となる「脳」に関する原因を中心に解説します。

原因➀脳血管障害

最も多い原因は脳卒中で、中でも脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、血管にできた動脈瘤が破裂する「クモ膜下出血」があります。

原因➁外傷性脳損傷

次に多いのは、外傷性脳損傷です。

交通事故やスポーツでのケガ、転倒や転落によっても高次機能障害が起こる事があります。そのほかに、低酸素脳症脳腫瘍脳炎なども原因になります。

また、外傷的な損傷でなくても、アルツハイマー病やパーキンソン病のように脳に起きる病理もあります。加えて、うつ病などのように精神的な疾患でも同様の症状を起こす場合があります。

本来は、脳血管障害や外傷性損傷が医学的な「高次脳機能障害」という概念です。しかし、脳内病理や発達障害やうつ病などの病気で同様の症状が現れた場合でも、行政的に「高次脳機能障害」として扱われる場合があることは、前章でお話した通りです。

参考:「これって高次脳機能障害?」 – きょうの健康 – NHK

高次機能障害の治療法

では、現在はどのような治療が行われているのか見ていきましょう。

中心はリハビリテーション

高次機能障害は確立した治療法はありません。脳に損傷がある場合は、その部位が再生することは無いと言われています。日常生活や社会復帰のためのリハビリテーションを行うことで、ある程度症状は改善されます。

しかし、発症から年数が経ってしまうと症状が固定してしまうので、早期に適切なリハビリテーションを行うことが大切です。

患者の方それぞれの症状は違います。その症状や程度に応じたリハビリテーションがありますので、種類などは次章の「よくある疑問」にお答えしながら解説を加えていきます。

参考: 国立障害者リハビリテーションセンター

治療を支援する制度・相談窓口

治療費は医療保険の適用対象で、高額療養費制度も利用することができます。障害の程度によっては、介護保険も使えます。

高次機能障害者に対する相談支援は、障がい者総合支援法によって位置づけられ、都道府県は専門的な相談支援機関や支援コーディネーターを配置することが定められています。

各都道府県の相談窓口は、<高次脳機能障害に関する相談窓口の情報>や各自治体のホームページ等で確認することができます。

現在、国立障害者リハビリテーションセンターを中核とする支援普及事業体制が進められており、より充実した支援体制が期待されています。

高次機能障害に関してよくある疑問

ここからは、高次機能障害に関してよくある疑問にお答えしていきます。

リハビリについて知りたい

医師の診断をもとに専門家の行う主なリハビリ法は、主に次のような療法です。

  • 理学療法:運動機能の回復、姿勢や集中力を養うための運動訓練、体力向上など
  • 作業療法:注意・集中を高めるためための訓練、日常動作の訓練など
  • 言語療法:言葉の理解や表現、記憶障害への対応など
  • 心理療法:本人の自覚を促したり、心情を表現させたり、家族や周囲の人への対応への働きかけなど

反復訓練が中心になりますが、記憶障害が顕著な場合は、メモを活用したり絵図と結びつけたりするといった記憶戦略法をとることもあります。

いくつかのリハビリを重複して行うことで効果を上げることもありますが、患者の負担になると逆効果になる場合があり、医師や療法士と相談しながら進めることが大切です。

引用:当事者・ご家族・一般の方向けQ&A/茨城県

子供っぽい行動を取るようになる?

社会的行動障害の症状である「状況や周囲の人のことを考えず、感情的で自己中心的な振る舞い」は、正に小さな子供の行為のようです。特に体調がすぐれないときや疲れているとき、騒々しい場所などでは多くなる傾向があります。その点も「子供っぽい」と言えるかもしれません。

しかし本人なりの理由や、そのような行動をとる時の共通条件がある場合が少なくありません。

よく観察すると、どんな時、どんな相手、どんな状況で子供っぽくなってしまうのかパターンが見つかることが多くあります。見つかれば、原因となる場所や人から遠ざけた環境で過ごすことで、落ち着いていられることが多くなります。

参考:高次脳機能障がいとは?(岩手リハビリテーションセンター)

家族が高機能障害になった際の対応の仕方は?

家族が高機能障害になった際、どのように対応すれば良いのでしょうか。

正しい理解を

高次機能障害のある方は、コミュニケーションがうまく取れません。言動が不一致だったり、自己中心的であったりする障害です。また、患者自身が言う「大丈夫!」は、問題を認めたくなかったり、解決を先送りしたかったりするための「方便」に使われることも少なくありません。それを前提として、医師や専門家から客観的で正しい知識をもとに、患者を理解しましょう。

ゆとりを持った対応を

「障害である」ことの認識と正しい知識は、ゆとりある対応の基にもなります。対応する家族がゆとりのない対応をしてしまうと、患者のプレッシャーになったり、回復への意欲を失わせたりします。自分の症状に悩んでいる患者も多いのです。

日常でのサポート例

とは言え、日々の忙しい生活の中では対応に苦慮するご家族も多いことでしょう。日常でのサポート例をいくつかご紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。

場  面サポート例
新しい情報を覚えられず、コミュニケーションがうまくいかない。〇話し方をゆっくり分かりやすくひとつずつする。音声だけではなく、メモ絵図写真などで伝えましょう。
〇物の置き場所は、目につきやすい決まった場所がお勧めです。
些細なことで怒ったり泣いたりする。この障害は環境の変化に弱くなります。不安定な感情を示す場所から離し、安心して過ごせる環境に移すことが有効です。落ち着いたら、患者のとった行動について一緒に話し合うとよいでしょう。
外出の際、目にする標識や図表の意味が理解できないことがある。図案化されたマークなどの理解が難しい時は、具体的な絵ジェスチャーを活用しましょう。
半側空間無視の方へ見落としてしまう側の情報を見直す習慣が身につくよう繰り返し声をかけてあげましょう。
表は筆者作成(参考:よくあるご質問 | 国立障害者リハビリテーションセンター,高次脳機能障害 障害特性|ハートシティ東京(東京都福祉局))


「安心して過ごせる環境」といっても、家や部屋、居住地区といったハード面だけではありません。

人混みに行くときは耳栓やヘッドホンをする、ラジオやテレビなどをつけっ放しで会話をしない、「約束はメモに書く」を家族みんなのルールにするなど、患者の症状に合わせながらも普段の好みを大切にした身近な環境整備も有効です。

高次機能障害は手帳をもらえる?

出典:知ってる?<5> 障害者手帳のカード化(新宿区立障害者福祉センター)

障害者手帳には、

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳

の3種類があり、それぞれ根拠となる法令に基づき必要な支援が受けられます。

高次機能障害として診断された場合は、精神障害者保健福祉手帳をもらえる可能性があります。

診断書写真を添えて申請書を市町村の担当窓口に提出し、都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターで審査が行われ、認められると交付されます。申請は家族や医療関係者が行うこともできます。

障害者手帳の取得によって、障害者雇用、納税や公共料金などで優遇措置やサービスを受けることができます。

近年はカードタイプにしている自治体が多く、更新手続きはオンラインでできるようになってきました。

出典・参考:障害者手帳について|厚生労働省,高次脳機能障害支援に関する制度

高次機能障害とSDGsの関係

高次機能障害について理解を深めたリ、関わったりすることは、SDGsの理念である「誰一人取り残されない」に深くかかわります。最後に高次機能障害とSDGsの関連についてまとめていきます。

SDGsの目標は17ありますが、そのうち高次機能障害ともっとも関連が深いのは、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉をです。

SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関連

目標3は「あらゆる年齢のすべて人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する」ことを目指し、13のターゲットを設定しています。

現在の「高次機能障害」を「高次脳機能障害」にまとめ、必要な行政サービスを受けやすくする措置は、医学的概念や文言上の問題を含んでいるとはいえ、この目標のターゲット3.8「経済的なリスクに対する保護を受け、必要な保健サービスを受ける事ができるようにする」ことの達成に貢献していると言えます。

制度やサービスがより洗練され、多くの人が利用しやすくなれば、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成、そしてSDGsの理念である「誰一人取り残されない」にも繋がります。

まとめ

高次機能障害について、症状や原因、治療法などを解説してきました。さらによくある疑問に答え、SDGsとの関連も解説してきました。

高齢化社会の日本では、認知症などとともに高次機能障害も見逃せない問題です。しかし次のような対策も見えてきています。

  • 脳血管障害による脳損傷が1番多い原因だとすれば、個人レベルでは規則正しい生活習慣で健康管理をし、予防に努めることが基本となるでしょう。
  • 福祉サービスを充実させることも大切です。だれがいつ発症しても安心して治療やサービスが受けられる社会が望まれます。
  • 中核となる脳へのアプローチにせまる医療関連の技術の進歩も今後期待したいところです。

このように、高次機能障害を取り巻く環境は、厳しい面を持ちながらも希望も見えています。ご自分が、ご家族が、知り合いの方が高次機能障害を発症しても、落ち着いて支援窓口を活用していきましょう。そのためにこの記事が少しでもお役に立てば幸いです。

<参考資料・文献>
日本の高次脳機能障害者の発症数
高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書について
画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)給付請求事案の報告について
高次脳機能障害を理解する(国立障がい者リハビリテーションセンター)
主要症状の解説 | 国立障害者リハビリテーションセンター
「これって高次脳機能障害?」 – きょうの健康 – NHK
よくあるご質問 | 国立障害者リハビリテーションセンター
高次脳機能障害に関する相談窓口の情報
図表9-1-8 高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業(厚生労働省)
当事者・ご家族・一般の方向けQ&A/茨城県
高次脳機能障がいとは?(岩手リハビリテーションセンター)
高次脳機能障害 障害特性|ハートシティ東京(東京都福祉局)
知ってる?<5> 障害者手帳のカード化(新宿区立障害者福祉センター)
障害者手帳について|厚生労働省
高次脳機能障害支援に関する制度
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
2050年の世界:英「エコノミスト」編集部
壊れた脳と生きる:鈴木大介・鈴木匡子(筑摩書房)