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盲導犬とは?仕事内容とやってはいけないこと、歴史と訓練方法を解説

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盲導犬と聞いたり街中で盲導犬の姿を見かけたりすると、私たちは「盲導犬が視覚障害者の人の道案内をしている」とイメージしがちです。しかし実際は、あくまで歩行の補助がメインであり、盲導犬と使用者のお互いが発する声やシグナル、動作によって、彼らは二人三脚で注意深く歩行しています。

本記事では、盲導犬の特徴や具体的な仕事、訓練のほか、盲導犬を連れた人を街中で見かけた際にやってはいけないこと・やったほうがいいことを紹介します。

彼らが実際にどのように歩行しているのかを知り、いざという時に助け合えるよう、マナーやルールをおさえていきましょう。

盲導犬とは

盲導犬とは、目が見えない人、見えにくい人が日常生活を安全に送れるようサポートする犬のことで、「身体障害者補助犬法」にもとづいて特別な訓練を受けています。

身体障害者補助犬とは

身体障害者補助犬とは、盲導犬・介助犬・聴導犬の三種の犬を指します。障害によってサポートする内容は異なりますが、「身体障害者の自立と社会参加を促進する」という共通の目的のもと活躍しています。

介助犬

肢体不自由者の日常の生活動作を以下のようにサポートします。

  • 落としたものを拾って渡す
  • 手の届かないものを持ってくる
  • ドアや冷蔵庫、引き出しを開け閉めする
  • スイッチを操作する
  • 歩行介助や起立、移乗の補助

聴導犬

聴覚障害者に音を伝え、音源へ誘導します。

  • 玄関のチャイム音
  • キッチンタイマー
  • 赤ちゃんの泣き声
  • 車のクラクション
  • 自転車のベル
  • 非常ベル

などの音を聞き分け、教えてくれます。

補助犬ウェルカムステッカー

これは、厚生労働省が補助犬の同伴促進を目的に作成したステッカーです。施設や店舗の入り口に掲示されており、補助犬の一般層への認知拡大と普及を目指しています。

※「身体障害者補助犬法」によって、公共施設や交通機関、病院、飲食店、ホテルなどの一般向けの施設には補助犬の同伴義務が課されており、入口にステッカーがない場合でもこれらの施設への同伴が認められています。

盲導犬の歴史

まずは、世界と日本の盲導犬の歴史をそれぞれみていきましょう。

世界の盲導犬の歴史

紀元79年のポンペイの壁画に、視覚障害者が犬を連れて歩く姿が描かれるなど、古くから人と犬の付き合いは始まっていました。盲導犬としては、1891年にウィーンの神父が訓練を始めたことが最初といわれています。

現在のように系統立てた訓練によって盲導犬が育成されるようになったのは、1916年ドイツのオルデンブルクに盲導犬学校がはじめて設立されてからです。

その後、ヨーロッパ全土に広がり、1930年代にアメリカでも盲導犬の訓練が本格化しました。現在、ドイツで約1万5,000頭、アメリカで約1万頭、イギリスで約4,700頭もの盲導犬が活躍しています。

参考:参考:Q&A盲導犬

日本の盲導犬の歴史

日本初の盲導犬は、1939年にドイツからきた4頭のシェパードです。失明した兵士の社会復帰のために導入され、そこから国内で盲導犬の育成が始まりました。それから約40年後の1978年に、道路交通法、道路交通法施行令の改正によって盲導犬のバスやタクシー乗車が認められるようになりました。

その後、同伴できる施設が法整備によって増えていき、盲導犬の育成・訓練施設も全国に広がっていきました。

身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別)によると、日本では現在836頭の盲導犬が稼働しています。 

盲導犬の仕事・役割

盲導犬の最大の役割は、盲導犬ユーザー※が安全に歩けるようサポートすることです。具体的には、

  • 立ち止まって曲がり角や段差を知らせる
  • 障害物をよける

ことで、盲導犬ユーザーの安全を確保します。

※本記事では、日本盲導犬協会の表記に合わせ、盲導犬を連れている人を盲導犬ユーザー(またはユーザー)と呼びます。

盲導犬は目的地までに必要な情報を知らせている

ここで押さえておきたいことは、盲導犬ははじめて行く場所の道案内をして、どこにでも連れて行ってくれるわけではないということです。

盲導犬ユーザーは、頭の中に入っている目的地までの道順を、盲導犬が教えてくれる角やポイントを確認しながら、目的地まで歩きます。その道中に障害物や階段、段差があれば盲導犬が教えてくれるのです。

このため、盲導犬ユーザーがはじめて行く場所や歩き慣れない道では、周囲のサポートや配慮が必要になります。

本記事の後半で、盲導犬ユーザーを見かけたときに私たちができることを紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

一番大切な仕事は「待つ」こと

一般施設や公共交通機関を利用する際、盲導犬はユーザーの足元で静かに待機しています。

盲導犬の仕事というと、「一緒に歩く」ことを一番先に思い浮かべますが、実は一番大切な仕事は「騒がずに待つこと」です。盲導犬の場合、目的地に着いたら、長時間待っていることが長くなるからです。

ある盲導犬ユーザーは、電車で1時間ほどかけて会社に通勤しています。仕事中の8~9時間、盲導犬はPCデスクの下でじっと待っています。そのため、指示された場所でずっと待つという訓練が欠かせません。

これらの待機もすべて盲導犬ユーザーの指示によるものなので、歩行中はもちろん、じっとおとなしくしてるときに盲導犬の注意を引くような行動は厳禁です。

盲導犬の特徴

盲導犬の特徴は、「ハーネス」と呼ばれる白または黄色の銅輪を身に着けており、外から見てわかるところに「盲導犬」と表示されています。

ほかには、チェーンカラーと呼ばれる金属の首輪とリードが必要です。

盲導犬の犬種

盲導犬の種類として一番多いのはラブラドールレトリバーで、全体の8割にも上ります。

参考:Q&A盲導犬

次いでゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパードの大型犬がメインで、小型犬が盲導犬になることはありません。

盲導犬は、止まる、歩くスピードをゆるめる、向きを変えるという動作で、段差や障害物などの情報を伝えます。盲導犬ユーザーはそれらをハーネスから読み取りますが、小型犬の場合、そもそもハーネスのハンドルを長くしなければユーザーの手に届かず、犬の動きが分かりにくくなってしまうのです。

さらに、もしユーザーが盲導犬の情報を読み違えて一歩踏み出そうとしても、30kg近い大型犬であればぐっと踏みとどまることができ、危険から守ることもできます。

盲導犬の適正は、知的な賢さや人間に友好的で穏やかで安定した性格を持っていることだけでなく、体格も大切なポイントといえるでしょう。

盲導犬との歩き方

盲導犬と歩くために最も大切な道具「ハーネス」にはハンドル(持ち手)がついており、盲導犬ユーザーはハンドルから伝わる微妙な動きから道の様子を感じ取ったり、犬が停止したりする合図を読み取っています。

そのため、盲導犬ユーザーがハーネスを引っ張ったり押したりして誤ったハーネスの持ち方をしてしまうと、盲導犬が伝えようとしているシグナルや情報を読み取ることができなくなってしまいます。

たとえば、盲導犬は、上りの段差があれば、一段目に脚をかけて停止します。ユーザーはハーネスの持ち上がる角度から段差の高さを判断します。

盲導犬とユーザーの集中力や注意深さ、シグナルの授受によって、盲導犬との歩行は成立しているのです。

次では、盲導犬になるための訓練について紹介します。

盲導犬になるための訓練

盲導犬の訓練は、一般的には1歳2か月から、遅くとも1歳6か月までには始まります。(人間でいうと大体20歳くらいに当たります)

訓練期間は施設や指導方針、指導者の経験値にもよりますが、長くて1年弱ほどです。

盲導犬として活躍するまで

盲導犬として訓練を始める前から、将来の盲導犬の候補犬としての育成や準備がはじまります。

盲導犬の候補として一番大切な目安は、父犬、母犬が過去に生んだ子犬のうち、何頭が盲導犬になったかということです。その親から子犬を繁殖し、2か月前後で「パピーウォーカー」と呼ばれる一般の飼育ボランティアに預けられます。候補犬たちは、1歳前後までは普通のペットとして十分な愛情を注がれながら生活することで、人への信頼感を養います。

関連記事:パピーウォーカーとは?なるための条件や登録方法、募集先の見つけ方も

「服従訓練」と「誘導訓練」

パピーウォーカーとの暮らしのあとは、専門施設で「服従訓練」と「誘導訓練」の二つを徹底的に訓練します。

服従訓練では、人の指示に瞬時に従って行動することを教えます。たとえば、ユーザーの指示に従って

  • 座る
  • 伏せる
  • 指示した場所で待つ
  • 呼んだらすぐにユーザーの所定の位置に来て座る
  • 落とし物を拾う

などの基礎訓練です。

誘導訓練では、ハーネスを体につけて

  • 段差や分岐を教える
  • 障害物を回避する
  • 横断歩道や踏切を渡る
  • 電車やバスの乗り降り

などを教えます。

盲導犬の危機回避訓練「利口な不服従」

盲導犬の仕事の中でも最も難しいのが「利口な不服従」とよばれるものです。たとえば、進行方向に車が止まっていて直進できず、どちらにも避けることができない場合、いくら盲導犬ユーザーが前に進むように指示しても踏みとどまり、異変を伝えます。

ユーザーの意思による誘導が基本ですが、ユーザーを危険から回避させるためにとても重要な訓練項目と位置づけられています。

盲導犬希望者との訓練「歩行指導」

専門施設での訓練を終えたあとは、盲導犬を希望する人と4週間の歩行指導を受ける必要があります。

この期間で、実際にパートナーとなる人との信頼関係を構築し、ユーザーが盲導犬を適切にコントロールできるよう集中的に訓練します。

すべての訓練を終えても、歩行指導がうまくいかずに盲導犬の使用を断念することが全体の1割は発生します。その理由としては、

  • ユーザーが頭の中で地図がイメージできず、自分がどこを歩いているか判断できない
  • ユーザーに残存視力があり、盲導犬の誘導ではなく自分の目で判断しがち
  • 犬の動きに合わせるのではなく自分の意志で盲導犬を引っ張ってしまう

などで、使用をあきらめるケースがあります。

パートナーとして盲導犬と生活をともにするには、盲導犬としての適正だけでなく、ユーザー自身の適正も求められるのです。

盲導犬を連れている人を見かけた際に私たちができること

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このように、盲導犬とユーザーは細心の注意を払って歩行しています。彼らが安全に歩くために、以下のことは決してしないようにしましょう。

盲導犬に対してやってはいけないこと①声をかけたり、触ったりしない

ハーネスを着けた状態の盲導犬は”仕事中”であり、ユーザーの指示や道の状況を察知しながら歩いています。そのため、声をかける、口笛を吹く、触れるなどで注意を引く行為はしないようにしましょう。

盲導犬に対してやってはいけないこと②食べ物を与えない

盲導犬に勝手に食べ物を与えることは絶対にしてはいけません。普段から人から食べ物をもらっていると、

  • それまでのしつけが崩れてしまう
  • もらえないときに催促するようになる
  • 排泄リズムがコントロールできなくなる

などの支障をきたします。

一方で、盲導犬ユーザーに対して私たちができることもあります。

盲導犬ユーザーに対して私たちができること:まずは見守り、様子によって声をかける

まずは、彼らの歩行を邪魔しないよう見守り、様子を見ることです。もし困っている様子だったら、盲導犬ユーザーに声をかけて、できることはないか訊ねてみましょう。

大切なことは、いきなり腕や肩にさわるのではなく、「盲導犬ユーザーさん(盲導犬をお連れの方)、何かお手伝いしましょうか?」と声をかけることです。

もし知り合いの場合は、自分の名前を言ってから話すようにすると、ユーザーも安心感を持って受け入れてくれるでしょう。

①信号を待っているとき

盲導犬には信号を判断することはできません。盲導犬ユーザーは、車や周囲の音などから安全を確認し、横断してもよいかを判断しています。そんな時に「赤ですよ」「青になりましたよ」の一言があると、大きな安心につながります。

②道に迷っていそうなとき

もしユーザーから誘導を依頼されたら、「どのように誘導したらいいですか?」と訊いてみましょう。

一緒に案内する場合は、盲導犬ユーザーの手があいている側の半歩前に立ち、自分のひじか肩を軽くつかんでもらい、

  • 「歩きますよ」
  • 「止まります」
  • 「左に曲がります」
  • 「階段を上ります、下ります」

などの情報を相手に伝えながら歩きましょう。

目的地に着いたら、

  • 「つきましたよ。ここまででよろしいですか?」
  • 「ではさようなら」

など、自分がそこからいなくなることをが相手に伝わるよう、あいさつしてから去りましょう。

参考:日本盲導犬協会

③駅のホーム上では声かけを!

線路へ転落する恐れがあり、視覚障害者にはとても危険な場所です。「お手伝いしましょうか?」など積極的な声かけが大切です。

盲導犬とSDGs「人や国の不平等をなくそう」の関係

最後に、盲導犬とSDGsの関係について確認していきましょう。

SDGs10で目指しているのは、国と国の間の不平等、国の中での不平等をなくすことです。

先進国と開発途上国での貧富の差、性別や人種、伝統的慣習による偏見や差別をなくすことはもちろん、視覚障害者が盲導犬によって自由に行動できる機会を得ることは、平等な社会参画を促します。盲導犬の普及や理解促進が、誰にとっても暮らしやすい社会の実現につながるのです。

まとめ

ユーザーが盲導犬を迎え入れたあとも歩行や日常生活における訓練は欠かせず、ペットよりも細やかなケアが必要になります。しかしそこには、苦労を上回るほどの喜びがあり、盲導犬は、目が不自由な人の行動や自由を支える大切なパートナーです。

もし街中で見かけたら、尊重と理解の気持ちを持ち、必要な場面で適切なサポートをすることが大切です。

参考文献・資料
盲導犬クイールの一生 石黒 謙吾ほか
Q&A盲導犬 松井 進
わかる! 盲導犬のすべて 松井 進
身体障害者補助犬の概要・利用方法
身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別)(厚生労働省)
International Guide Dog Federation
「身体障害者補助犬」ポータルサイト