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日本版DBSとは?対象や前歴、期間などを解説!最新情報も

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今、こども家庭庁の発足をきっかけに、子どもの人権の尊重と権利の保護、福祉の保障をすべく実効性のある取り組みが進められています。

その中の一つである「日本版DBS」について、本記事では、具体的な内容と参考にしている海外の取り組みをはじめ、小児性犯罪の現状や小児性愛(ペドフィリア)についても触れていきます。

「日本版DBS」について理解を深めるためには、そもそもDBSとは何か知る必要があります。そのため、本記事では、①DBSとは何か②海外の犯罪歴照会制度について説明してから、日本版DBSの詳細について解説していきます。

DBSとは

DBS(Disclosure and Barring Service)とは、大人が教育・保育現場やこどもが活動する場(部活や塾、学童、スポーツクラブなど)で働く際に、性犯罪歴などの証明を求める仕組みのことです。

「無犯罪証明書」とも言われ、欧米では職種に関わらず、雇用主は犯罪歴の証明書を求めることができる制度です。特に、イギリス、ドイツ、フランスの3国は、子どもに関わる職種については犯罪歴の照会を義務化しています。

海外のDBS(犯罪歴照会制度)は?

では具体的に、イギリス、ドイツ、フランスのDBSの内容を確認していきましょう。

イギリス

イギリスのDBSとは、法律や規則の名称ではなく組織名であり、公的機関です。

DBSが前歴開示(Disclosure)し、子どもや高齢者など社会的弱者と接する仕事には就けない「就業禁止者リスト」を作成、就業禁止を決定(Barring)しています。

イギリスは1986年、公立学校や公立病院などの公的機関に採用される人やボランティアを対象にした犯罪歴チェック制度を確立しました。2012年には、子どもと関わる全ての職種・ボランティアに対する犯罪歴チェックが義務化されました。

前歴情報は、イギリスの内務省が管理・保管し、DBSはそのデータベースを利用することで制度を運用しています。

ドイツ

ドイツでは2010年、こどもと接するあらゆる職業に雇用、配置する際は、拡張無犯罪証明書が必須になりました。2012年には、パートタイム職員やボランティアにも対象が拡大・義務化され、性犯罪などの有罪判決を受けた人はこどもに関する職種へ雇用、配置することは禁止されています。

フランス

フランスでは1899年に前科簿(裁判所の全決定が記録されているデータ)が制度化、2004年に性犯罪の加害者データをまとめたFIJAIS登録情報(重罪な性犯罪に加え暴力的犯罪、未成年者に対する犯罪も含む)が創設されました。

以上のように、ヨーロッパではかなり早い段階で再犯リスクを厳しく取り締まっていることがわかります。一方、日本ではこども家庭庁の創設とともに30年以上遅れてようやく議論が始まりました。

ここまでの内容を踏まえ、次から「日本版DBS」について詳しく見ていきましょう。

日本版DBSとは?対象や前歴、期間など最新の動向も

イギリスのDBSを参考に、日本での小児性犯罪に対処すべく導入を検討されているのが「日本版DBS」です。

現在の日本には性犯罪歴のある大人が「こどもに関わる仕事」に就くことを禁止する法律はありません。

そのため、過去に小児性犯罪を起こした大人でも、再び子どもに関する仕事に就くことが可能であり、再犯する事例が後を絶たないのです。再犯率の高さにおいて小児性犯罪には特筆すべきものがあり、これについてはのちほど詳述します。

次に、こども家庭庁が導入を進めている「日本版DBS」の具体的な内容について最新の動向(2024年3月現在)をチェックしていきましょう。

【関連記事】【2023年4月発足】こども家庭庁とは?目的や組織概要、最新情報、メリット・デメリット

日本版DBSの照会対象

照会対象となる性犯罪歴は刑法犯罪だけでなく、盗撮などの条例違反も入っています。対象者については新たに採用する人だけでなく、すでに雇っている人も含める方針です。雇用中の人に犯罪歴が確認されれば、子どもに関わらない部署への配置転換や場合によっては解雇も許容されるなどといったガイドラインを整備することを検討しています。

日本版DBSの照会期間

性犯罪歴を照会する期間については、過去の再犯状況なども考慮し、

  • 禁錮刑以上の場合は刑の終了後20年
  • 罰金刑以下は執行後10年

とする方向で調整しています。

日本版DBSの照会方法

性犯罪歴を確認する際は、事業者がこども家庭庁に申請します。同庁は、法務相に照会したうえで「犯罪事実確認書」を作成し、交付する流れです。事業者には一定の期間で犯歴を廃棄することを義務づけるとしています。

学校や保育園は義務化、塾やスポーツクラブなどの習い事は対象外

現状では、学校や保育所などには性犯罪歴の照会を義務づける方針です。学習塾やスポーツクラブなどの施設は認定制度を設け、制度に沿った運用をしているかどうか利用者にわかるようにする考えとなっています。

「職業選択の自由」「個人情報漏洩」の懸念

安心して暮らせる社会の実現に向けて有効だと思われる日本版DBSですが、導入にあたって懸念されていることがあります。それが、職業選択の自由に反するということです。これは、性犯罪歴の有無によって特定の仕事を禁止・制限することは、憲法で定められている職業選択の自由を制約する恐れがあるためです。

さらに、犯罪歴は不当な差別につながる要配慮個人情報として厳格な取扱いが求められるため、情報漏洩のないよう厳格な制度設計が不可欠としています。

これらはいずれも、加害者側の人権を配慮するものです。

しかし、個人の嗜好によって子どもたちが傷つけられることはあってはならないことであり、その余地を少しでもなくすことが国の責務であるといえます。

「STOP子どもの性被害」署名活動が展開

2023年8月からは、日本版DBSの対象範囲を学校や保育園だけでなく、塾や習い事、無償ボランティアも含めた「子どもと関わるすべての仕事」を制度の対象とすることを求める署名活動が始まり、現在(2024年3月)まで続いています。

出典:change.org

現時点で約8万6,000人の署名を得て、最終的には15万人からの署名を目指しています。

子どもの日常生活の場を「小児性犯罪の温床」にしてしまっている最大の原因は、子ども達が利用する現場に性犯罪者を立ち入らせない仕組みがないことです。署名の主催団体「認定NPO法人フローレンス」は、日本版DBSの対象範囲を「子どもに関するすべての仕事」にすべきとして署名活動を続けています。

ご興味のある方、賛同する方は、下記のリンクから該当ページを見てみてください。

子どもを性被害から守れるように。「#日本版DBS」は、子どもと関わるすべての仕事を対象にしてください! #STOP子どもの性被害

では、ここにきてなぜ日本版DBSの導入が検討されるようになったのでしょうか。

日本版DBS導入の背景

今回、日本版DBSが導入検討されることになった背景には、大きく以下の2つが挙げられます。

こども家庭庁の発足

2023年4月、子どもの人権と権利の尊重、教育と福祉の保障などを進める「こども家庭庁」が発足しました。

子どもが性犯罪・性暴力の被害に遭うことは、生涯にわたって心身に大きなダメージを与えます。教育・保育の従事者である大人と、それに従属せざるを得ない子どもという関係は、権力性と支配性が生じやすい構造にあります。

こども家庭庁は、児童虐待にも通じる小児性犯罪を未然に防ぎ、子どもの権利を法律によって守ることを目指しています。

小児性犯罪の再犯率の高さ

この表のとおり、性犯罪の再犯率は高いものから

  • 痴漢型
  • 盗撮型
  • 小児わいせつ型

と続きます。

小児わいせつ型の性犯罪で有罪確定しており、さらにそれ以前に2回以上の性犯罪前科がある人は、それらの前科も同じく小児わいせつ型であった割合は84.6%にも上ります。数回の刑事処分を受けているにもかかわらず、同じく小児わいせつ型の性犯罪を繰り返す者が一定数存在すると考えられています。

参考:性犯罪の再犯に関する資料

このことからも、性犯罪の前科がある人に対応する仕組みの創設は重要性が高いといえます。

日本における小児性犯罪の現状

ここからは、小児性犯罪の現状と事例を最新データと合わせて見ていきましょう。

子どもの性被害の現状

令和4年における性犯罪被害の認知件数は2,776件で、前年より増加しています。

※本グラフは少年(20歳未満)を対象にしたものです。

強制性交においては、0-12歳が2018年に比べて1.4倍以上になっています。

子どもへの性犯罪が増加傾向であり、前述したとおり性犯罪再犯のうち小児性犯罪が高い割合を示すことからも、日本版DBSの導入は喫緊の課題ともいえます。

小児性犯罪事件の一例

小児性犯罪の具体的事例をいくつか列挙します。

・東京都で、私立高校の教諭の男性(30)が、区立公園にある公衆トイレの女性用個室内で小学6年生の女児に対し、かくれんぼをしようと誘い、わいせつ行為に及んだとして逮捕。進路相談のストレスが原因と供述している。

・大阪府で、小学校の教諭の男性(35)が、教え子の男児11人の下半身を触り、その様子を撮影したとして強制わいせつ、児童買春、ポルノ禁止法違反などで懲役10年を言い渡される。認定されたわいせつ行為は約50件に上る。

・三重県で会社員の男性(28)が男児に対してわいせつな行為をしたとして強制性交等罪の疑いで逮捕。男児はスポーツ施設の更衣室で、ひとりで着替えているところを襲われた。

・愛知県で臨時講師の男性(30)が、勤務先の小学生女児に性的暴行を加えて逮捕。同様の事件で逮捕歴があったものの、改名して経歴を隠し、講師に採用されていた。

「小児性愛」という病 ―それは愛ではない 斉藤 章佳

性加害の大半は身近な人

子どもへの性暴力は家庭内で起きることが圧倒的に多い傾向にあります。家庭外に目を向けると、子どもを教育したり指導したりする場で起きることが多いといえます。

子どもへ性加害する人は、職業を通して行動化する特徴があるとされています。つまり、加害者たちは、子どもと接点の多い職業を意図的に選び、性加害しやすい環境をみずから整えているのです。

子どもにとって身近な大人というと、

  • 教員など学校関係者
  • 学童クラブのスタッフ
  • 保育士
  • 塾講師
  • スポーツインストラクター

など、いずれも子どもを指導する立場にあります。

特に学校と「教員」という圧倒的な優位性は、子ども自身がそれを”被害”と理解したり訴えたりすることを困難にします。今わかっているよりもずっと多い性被害が、今日もどこかで起きているのです。

小児性愛(ペドフィリア)とは

この章では、もう少し踏み込んで小児性愛者(ペドフィリア)について理解を深めていきましょう。

思春期前の小児を性的嗜好の対象とする人を小児性愛者(ペドフィリア)と呼びます。先天的・後天的かは現在も研究結果は出ていません。

逆境体験がペドフィリアを作る?

こちらの参考文献(「小児性愛」という病 ―それは愛ではない 斉藤 章佳)によると、クリニックに通院するペドフィリア患者に、以下の逆境体験が共通点として挙げられるそうです。

  1. 機能不全家族で育っている
  2. いじめ被害経験
  3. 同年代の女性との挫折経験

しかし、一般的にはこれらの逆境体験によって必ずしも子どもに性的関心を抱くようになるとは限らず、むしろ少数派ともいえます。共通点・加害者のバックグランドとしては看過できないものですが、「子どもに性加害をしてもいい」という病理の言い分にはなりません。

指向と嗜好の違い

インターネットの世界を中心に、「小児性愛はLGBTと同じ文脈で語られるべきで、これからはLGBTPZNの権利が認められるべき」という主張があります。

PZNとは、

  • P(Pedophilia)=小児性愛障害
  • Z(Zoophilia)=動物に対する性的嗜好
  • N(Necrophilia)=死体に対する性的嗜好

のことで、性的マイノリティで生きづらさを抱えているため、その権利は認められるべきというものです。この主張の根本には、指向と嗜好の違いが区別できておらず、被害者の存在が完全に抜け落ちていると指摘されています。

  • 指向=どの性別の人間を恋愛、性愛の対象にするか(恋愛・性愛の対象がない場合も含む)
  • 嗜好=何に対して性的に興奮するか

先述の主張はこの二つが混同しており、同性愛や両性愛も「性的欲求の問題」だと誤解しているとも言われています。子どもと性行為をしたいというのは、「嗜好」の問題であり、実際にそれを行動に移すのは犯罪です。

日本版DBSとSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」との関わり

最後に、日本版DBSとSDGsの関係について確認していきましょう。

SDGs4は、2030年までにすべての人々に対して、国や家庭・性別に関係なく平等に、教育を受けられる機会を提供することを目標としています。

全ての子どもには、質の高い教育を受ける権利があり、その環境を整えるのは大人の義務です。教育・保育現場で安全確保の措置を講じ、子どもが性犯罪に巻き込まれないようにする責任が、公的・民間に関わらず全ての教育従事者にあります。

その責務を達成するための手段として、日本版DBSは一つの大きな柱になるでしょう。

【関連記事】SDGs4「質の高い教育をみんなに」の日本の現状と企業の取り組み、私たちにできること

まとめ:子どもたちを性被害から守る仕組みと運用を

一人の大人の性的嗜好によって子どもが搾取されることはあってはならないことです。すべての人には等しく人権がありますが、人権保護のもとに子どもが心身にダメージを負ったり、その後の人生に負の影響を与えたりするリスクは、未然に防ぐ必要があります。

日本版DBSの制度設計と運用は、子どもを守るための実効的な仕組みとして早期の稼働が待たれます。

参考文献:
「小児性愛」という病 ―それは愛ではない 斉藤 章佳
「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」報告書(案)
性犯罪の再犯に関する資料
イギリスの DBS 制度について
GOV.UK
前歴開示および前歴者就業制限機構
子供の性被害
令和4年における少年非行及び子供の性被害の状況
イギリス・ドイツ・フランスにおける犯罪歴照会制度に関する資料
こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議におけるこれまでの主な論点
平成27年版 犯罪白書~性犯罪者の実態と再犯防止~
子供の性被害の現状と取組について
こども・若者の性被害に関する状況等について
「日本版DBS」犯罪歴照会期間 禁錮刑以上は終了後20年で調整へ
「日本版DBS」骨子案、近く与党に提示へ 安全確保措置が義務に