世界全体の課題として取り上げられる「貧困」。とくに開発途上国では貧困が原因で、いくつもの問題が起きており、その1つが「ストリートチルドレン」です。親がいない子どもというイメージの強いストリートチルドレンですが、それだけではありません。
本記事では、ストリートチルドレンの現状や問題、私たちにできることなどをまとめました。まずは、ストリートチルドレンとはどのような子どもたちかを知りましょう。
ストリートチルドレンとは
ストリートチルドレンとは、「町の通り(路上)で働いている、または生活している子どもたち」を指す言葉です。そして、ストリートチルドレンの「Street(通り)」には、道路や道ばた以外に「子どもを守る人がいない場所」という意味も含まれています。
6〜17歳の男の子が大半を占めている点も、ストリートチルドレンの特徴です。女の子は家事や子守などを手伝ってくれると期待されているため、ストリートチルドレンになりにくいと言われています。
世界には推定1億〜1億5,000万人以上のストリートチルドレンが存在する
現在、ストリートチルドレンの正確な人数を割り出すことは難しい※といわれていますが、国連の調査によると推定1億〜1億5,000万人以上にものぼるとされています。
※正確な人数を把握できない理由
- 子どもの存在や身元が、法的に認知・記録されていない
- 統計調査から除外されている
- 親が出生登録をしていなかった
などによるため。
彼らは通りへ出て、
- 食べ物や花を売る
- 信号待ちをしている自動車の窓ふきをする
- 荷物を運ぶ
- ごみ拾いをして、売れそうなペットボトルや金属を探す
- 通行人や観光客に物乞いをする
などを行い、生計を立てているのです。
これらの仕事を早朝から夕方まで行うため、学校に行く時間もありません。学ぶ機会を失うことで就職の選択肢も狭まり、貧困から抜け出せない負のループに陥ってしまいます。
ストリートチルドレンの定義
ここからは、ストリートチルドレンについてより深く理解するために、定義を確認していきましょう。
USAIDが定義するストリートチルドレンの4つのカテゴリー
アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)は、ストリートチルドレンの定義を下記の4つのカテゴリーに分類しています。
- 家がなく、家族からの支援もない子どもたち
- 定期的に家に帰るが、ほとんどの時間を路上で過ごす子どもたち
- 家族自体がホームレスで、家族とともに路上で生活している子どもたち
- 保護されているが、路上生活に舞い戻る可能性のある子どもたち
1番はイメージの通り、家がなく、家族からの金銭的支援を含めてサポートがない状態です。
1番目の貧困や家で暮らす人数が多く過密状態のため、自宅で生活することが難しい子どもです。なかには、性的・身体的虐待を受けていて帰りたくない子どもたちもいます。
3番目は、貧困や戦争、自然災害によって、家族と一緒に家を失った子どもたちです。
そして4番目は、施設で保護されているものの、路上生活の方が良いと感じ、もとの生活へ戻る危険性のある子どもたちです。なかには、見捨てられたり売られたりしても、「自分がお金を稼げば家族のもとへ帰れる」と思い、路上へ戻る子どももいます。
このようにストリートチルドレンの誕生には、さまざまな事情や問題が複雑に絡み合っています。
ストリートチルドレンの現状
ストリートチルドレンがどのような子どもたちかを理解したところで、続いては現状を見ていきましょう。
主に発展途上国が集中する地域に多い
現在、ストリートチルドレンの人口は発展途上国に集中しており、主にアジアやアフリカ、ラテンアメリカなどが挙げられます。
理由としては、
- 経済格差や自然災害、紛争などによる貧困
- 子どもを守る社会保障システムや児童福祉に関する法律が整っていない
- エイズ孤児であるため(サハラ以南のアフリカ諸国に多い)
- 家庭崩壊が起こりやすい
- 都市部への人口集中と疑似都市化(※)
などが考えられます。
とくにラテンアメリカにある、メキシコ、サンパウロ、リオデジャネイロ、ポゴタなどの都市には、親のいない、その日暮らしをしているストリートチルドレンが大勢います。
この問題に関しては、ラテンアメリカで信仰されている宗教も深く関わっているようです。
例えば、アジアは、儒教(※)の影響を受けており、家族との結びつきを尊重する傾向があります。対してラテンアメリカでは、「個人の権利や尊厳」を大切にするキリスト教徒が大部分を占めています。そのため、家族崩壊がアジアより起きやすいと考えられているのです。
また、ストリートチルドレンの状況は国によって異なります。彼らは今、どのような状況にあり、どのような問題に直面しているのでしょうか。
フィリピンのストリートチルドレンの現状
近年、経済成長を遂げているフィリピンですが、少数派の富裕層のみが経済成長の恩恵を受けている状態です。そのため貧困削減のペースが遅く、主要都市を離れると未だに多くの貧困地域が存在し、「世界一ストリートチルドレンが多い国」とも言われています。
ストリートチルドレンの理由は様々ですが、「しつけ」と称して体罰や暴力をふるうことも多く、それに耐え切れず家から逃げ出しストリートチルドレンになる子どもも少なくありません。
フィリピン全体のストリートチルドレンの正確な数を把握することは不可能ですが、首都マニラだけでも、20万人以上のストリートチルドレンが存在するとされています。
そしてフィリピンのストリートチルドレンは、USAIDの定義のなかでも、「定期的に帰るが、ほとんどの時間を路上で過ごす」ケースが最も多いとされています。人が集まる都市部で商売や物乞いを行っているため、離島や山岳地域にある実家に帰ろうとすると時間がかかることも理由だといわれています。
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バングラデシュのストリートチルドレンの現状
バングラデシュでは近年、経済成長によって貧困率が減少傾向にあります。しかし、未だに都市部と農村部の経済格差が大きく、ストリートチルドレンも150万人ほど存在すると言われています。
- 災害や病気によって親を失う
- 親や再婚相手から虐待を受けたため逃げ出す
- 家族と暮らしているがお金を稼ぐために路上で働く
など、様々な事情を抱えた子どもたちが路上生活を送っています。
とくに女の子は性被害に遭う可能性が高いため、髪を短く切り男の子の格好をしている子も珍しくありません。本来であれば、守ってくれるはずの大人がいないため、自分の身は自分で守らなければいけないのです。
なぜストリートチルドレンになってしまうのか?3つの原因
ストリートチルドレンになってしまう主な原因は3つあります。
①貧困
貧しい農村地域に暮らす人々は「都会に行けば収入の高い仕事に就ける」と考え、家族で移住したり子どもを出稼ぎに行かせたりします。それにより都市部の人口は急激に増加しますが、雇用先は増えていないため職に就くことすら難しい状態になります。これにより生活はさらに苦しくなり、子どもたちは路上で働かざるを得ません。
運よく仕事が見つかったとしても、良い仕事だとは限りません。雇い主は、低賃金でも文句を言わずに働く子どもたちを、違法だと知ったうえで採用します。
これにより、
- 子どもたちは、低賃金で長時間働かされる(児童労働)
- 児童労働によって、子どもの勉強する機会が奪われる
- 多くの子どもが採用されることによって、大人の就職機会を奪うことにもつながる
などの問題が発生するのです。
②戦争や紛争
戦争や紛争によって親が殺されたり、避難の際の混乱によって離れ離れになってしまったりと、1人で生きていかなければならない状況になり、ストリートチルドレンになる子どもたちも大勢います。
終戦し村に帰ったものの、家族や知っている人は誰もいない。運よく再会したとしても、親や知人は自分の生活で精一杯なため、子どもを捨ててしまうことも珍しくありません。
③家庭崩壊
なかには、自ら望んでストリートチルドレンになる子どももいます。その主な原因が、「家庭崩壊」です。
- 日常的に親に暴力をふるわれている
- 性的虐待を受けている
- 親は働かずに、子どもへ労働を強制する
- 新しい両親と上手くコミュニケーションがとれない
- 親が薬物やお酒に依存してしまい、子どもを育てられる状態ではない
など、家に対して居心地の悪さや命の危険を感じたことを理由に逃げ出します。路上には、同じ境遇の仲間が大勢おり、親といるより、ストリートチルドレンとして生きた方が良いと感じるのでしょう。
そして、この家庭崩壊には、先述した「貧困」が大きく関係します。
親は、低収入や職に就けないストレスを発散しようとして、薬物やお酒に依存。次第に、子どもやパートナーへ暴力を振るうようになり家庭崩壊が起こります。または、親もそういった家庭で生まれたため、自分がされたことを子どもやパートナーにしてしまうケースも珍しくありません。
ストリートチルドレンになることで発生する問題
さまざまな理由から、ストリートチルドレンとして生きる子どもたちには多くの危険が伴います。
悪い大人たちの標的になる
ストリートチルドレンは、「出生登録がされていない」「保護者がいない」「保護施設に入っていない」などの理由から弱い立場です。そのため、悪い大人たちの標的になり利用されることもあります。
虐待や性的暴行を受けたり犯罪行為を強制されたりと、都合のいいように使われているのです。ときには法的機関や政府関係者が、ストリートチルドレンの権利を奪ったり暴力をふるったりすることもあります。
薬物中毒になる可能性も
ストリートチルドレンは、虐待や差別によってできたトラウマ、路上生活の苦しさ、病気や飢えなどによって、心と体に大きな負担がかかります。一部の子どもたちは、そのストレスを発散するために薬物に手を出してしまうのです。
心と体が成長する大切な時期に薬物へ依存してしまうと、大人になってから後遺症に苦しんだり、問題行動を起こしたりする可能性が高くなります。
さまざまな病気を発症する
不衛生な環境での生活は、子どもたちがさまざまな病気にかかるリスクが高まります。呼吸器や耳の感染症、消化器系の障害、性感染症などの病気にかかりやすくなるのです。さらに、大半の子どもが裸足で生活しているため、足の裏は傷だらけになります。
しかし、病気やケガをしてもお医者さんに診てもらうお金がないため医療を受けられません。そういった理由から、病気やケガの痛みを緩和させるために薬物を使用することが当たり前となっているのです。
日本にもストリートチルドレンはいる?
現在日本には、ストリートチルドレンはいないと言われていますが、さまざまな事情から家に帰らず、一時的に路上で生活をする子どもたちはいます。
基本的に日本では、路上生活を行う子どもを発見した場合は保護するようになっています。各県や市町村でも、未成年の深夜徘徊を規制する条約や虐待への対応も定められており、そういった面では途上国と比較すると安全かもしれません。
ストリートチルドレンとは少し異なるケースの問題が起きていた
しかし、なかには、家族でホームレスというケースも存在します。
ある男の子は、両親が定職についておらず日雇いで生活をつないでいる状態でした。収入がある日は安いビジネスホテルに泊まり、ない日は野宿といった生活を送っていたそうです。
彼らは、居場所を転々としていたため住民票も削除されてしまい、「居所不明=存在しない人」として扱われました。そのため、厳しい生活を送っていたにもかかわらず、行政のサービスを受けられず放置されてしまったのです。
ストリートチルドレン問題を解決するための取り組み事例
ここからは、ストリートチルドレン問題を解決するために、国や団体、企業が行っている取り組みを確認していきます。
国の取り組み【フィリピン政府】
フィリピンでは、国の組織である「社会福祉事務所(DSWD)」を中心に子どもたちの救済を行っています。
支援内容としては、
- 就学支援の奨学金プログラム
- 補助的給食プログラム
- 収入向上プロジェクト
などがあります。
その他にも、フィリピンでは「大人の取り締まり」も強化しており、子どもに危険が及びそうな行為に対する取り締まりが厳しくなっています。とはいえ、子どもの人数が多いため、国家予算内では対応しきれていないという課題も抱えています。
団体の取り組み【ストリートチルドレンを考える会】
- 学習やセミナー
- SNSを活用して情報発信や質問への返信
- メキシコやフィリピンで暮らすストリートチルドレンたちと、交流できるスタディツアーの開催
- ストリートチルドレンに関する本やDVDの製作、貸出、販売
- ニュースレターの発行
- 海外NGOへの支援
- チャリティイベントの開催
- 訪問学習の受け入れ、出張講演
などの活動を行っています。
「ストリートチルドレンの現状を知る人が増えれば、子どもたちが明るい未来を掴める」と考えているため、情報発信やスタディツアーなどに力を入れているそうです。
企業の取り組み【有限会社 金大】
不動産業を行っている有限会社 金大は、「NGO法人Change the future for children」を2020年に設立。きっかけは、旅行で訪れたメトロマニラで多くのストリートチルドレンを目撃し、衝撃を受けたことだそうです。
主な活動として、メトロマニラのストリートチルドレンたちに、
- 温かい食事の提供
- 学用品や教育機会の提供と支援
- 大学卒業までの奨学金制度
などを行っています。
ストリートチルドレン問題を解決するために私たちにできること
ストリートチルドレンの解消に向けてさまざまな取り組みを行っていますが、私たち個人には何ができるのでしょうか。
ストリートチルドレンについて理解を深める
まずは正確な情報を手に入れ、ストリートチルドレンに対する理解を深めましょう。
情報収集の方法としては、
- 新聞
- NGOや国際組織のホームページ
- NGOや国際組織が作成しているパンフレット、映像、ニュースレターなど
- 専門書
- ストリートチルドレンに関する報告会や学習会などのイベントへの参加
などがあります。
「国境なき子どもたち」や「シャプラニール=市民による海外協力の会」「コンソーシアム フォー ストリート チルドレン」などを覗いてみましょう。
ストリートチルドレンのことやNGO、国際組織の活動を広める
ストリートチルドレンに対する正しい知識を身に付けた後は、TwitterやFacebookなどのSNSを活用して発信しましょう。ストリートチルドレンのことやNGO、国際組織の活動を広めたり、オリジナルのパンフレットを作成し、イベントで配布したりするのも良いかもしれません。なかには、カフェの一角を借りて、ストリートチルドレンたちの写真展を開催する人もいます。
支援や寄付をする
ストリートチルドレンのために活動している団体や、国際組織に寄付をしてみましょう。
例えば、「国境なき子どもたち」では、マンスリーサポーターとして毎日約50円ずつ寄付をする方法もあります。1日の金額はたったの50円ですが、1カ月で1,500円ほどとなり、1年続けると1人の子どもが職業訓練を受けられる金額になるそうです。
「フリーザチルドレン」では、ペンパルサポーターというユニークな支援方法も。
ペンパルサポーターは、月々3,000円の寄付を行いつつ、フィリピンで暮らす子どもたちと文通ができる支援方法です。集まった寄付金は、教育や保健、栄養などのプログラムの提供、子どもが暮らすコミュニティの自立支援などに活用されます。
まとめ
日本で暮らしていると、あまり考える機会のないストリートチルドレンの存在。しかし、世界全体でSDGsの目標達成を目指す現代では、他人ごとでは済まされない課題です。彼らがどのような状態で、どのような問題が発生しているのかを理解し、1人ひとりが行動へ移すことが求められています。
NGOやNPOのホームページを覗いてみたり、寄付をしてみたりと、無理のない範囲で自分にできることから始めてみましょう。あなたの行動が、ストリートチルドレンたちの笑顔につながります。
〈参考文献〉
・できるぞ!NGO活動 ストリートチルドレンを見つめる 子どもの権利と児童労働|石原尚子著 こどもくらぶ編
・ストリートチルドレンの年齢と数
・【早わかり】ストリートチルドレンの現状:定義、多い国、原因とリスク|国際協力を仕事に
・姿の見えない子どもたち 世界子ども白書2006 p.3|日本ユニセフ協会
・ストリートチルドレン|ユース・アドボケート・プログラム・インターナショナル
・ストリートチルドレンについてQ&A|ストリートチルドレンを考える会
・ラテンアメリカ宗教研究動向ー「宗教の社会学」の成立、展開、現在ー
・ストリートチルドレンについての事実|ストリートチルドレンのためのコンソーシアム
・25万人のストリートチルドレンを救済する方法|グローリアセブ
・途上国の恵まれない子どもを支援する、支援に参加する|国境なき子どもたち
・何が子どもたちを通りへ押しやるのか|名古屋大学高等教育研究センター
・フィリピンの恵まれない状況下にある子どもたちを支援|国境なき子どもたち
・ストリートチルドレンを救うダッカのシェルター【2022年5月の活動報告①】サステナブルタイムズbyユーグレナ