#インタビュー

シンガーソングライターはたなかみどり|個の願いを解放し、地球全体との調和をつくる、新しい形の音楽フェスを!

はたなかみどり

はたなかみどり様(一般社団法人imi) はたなかみどりさん インタビュー

はたなかみどり

 “Life is Art”をテーマに活動中のシンガーソングライター。そして、音楽フェス「ICHI FES」の発起人でもある。
 新卒からグラフィックファシリテーターとして活動開始。企業のビジョンメイキングからまちづくりの対話まで、幅広く関わりつつ、同時にNVCの講師としても活動する。
 仕事が軌道に乗ってきた2020年に、幼い頃の夢であった、「シンガーソングライターとして生きる」と決め、自身初となるソロでの音楽活動を開始する。
その後3年間の活動の中で全国路上ライブツアーの開催や、CBCラジオドラマ「はじめの一歩」の主題歌書き下ろし、自身のアルバム制作等、幅広く活動を続ける。
 現在はファシリテーター/NVC講師としての活動も続けつつ音楽活動や、手帖等のクリエイター活動等も行っている。

introduction

一人の女性がひそかに抱き続けてきた夢の舞台を、自ら形にしたICHI FES。音楽ライブのほか、出店者が夢を叶えるブースやワークショップなど、さまざまなコンテンツを楽しむことができる新しい形の音楽フェスです。

今回は発起人のシンガーソングライターはたなかみどりさんに、ICHI FESへの想いや、音楽活動以外の取り組みについて伺いました。

友人の無謀なチャレンジに刺激され、本当にやりたかったことに気づけた。

‐‐はじめに、はたなかさんの活動内容のご紹介をお願いします。

はたなかさん:

2020年からシンガーソングライターとして音楽活動しています。2021年にはICHI FESという音楽フェスを立ち上げ4年目を迎えました。また、学生の頃に学び始めたNVC、いわゆるノンバイオレーションコミュニケーションの発信や、ワークショップなどにも取り組んでいます。今まで個人として活動してきましたが、現在は一般社団法人imiの設立準備中です。

‐‐シンガーソングライターとして活動し始めたきっかけを教えてください。
はたなかさん:

教育学部の音楽科を卒業後、新卒でフリーランスになり、グラフィックファシリテーターという仕事を始めました。企業の打ち合わせやまちづくりの現場に参加して、ステークホルダーの方の多様な意見を可視化していくことで組織に伴走支援する仕事ですね。

3年ほどでだんだんと仕事が安定してきた頃に、友人に対してピアノの先生をやることになりました。彼はまったくピアノが弾けないのに「3カ月後にエルトン・ジョンのYOUR SONGを弾き語りしてライブをする」と言い始めたんです!かなり無謀なチャレンジでしたが、彼は諦めずにやり遂げました。その決して諦めない純粋さに触れた時に、人の可能性って本当にすごいと思ったのと同時に、自分ももう一度こんなピュアな気持ちで音楽と向き合いたいと火がつきました。

そこから本当にやりたかったことを自分自身に問いかけてみて、「シンガーとして一人でやってみたかった」と気づいたんです。今までは自分は歌がうまくないから無理だとか、カリスマ性があるわけじゃないからやっていけないとか、自分で制限をかけていたんですよね。そのことに気づいたので、シンガーソングライターとしてやっていこうと決めて活動をスタートしました。

目指したのは一人ひとりの夢を応援し、地球にもやさしいフェス。夢の舞台は自分でつくればいい!

‐‐その後、音楽フェスICHI FESを立ち上げています。どのようなきっかけで始めたのでしょうか。

はたなかさん:

無謀な弾き語りのチャレンジをした彼は、コーチングの仕事をしていました。そのコーチングを受ける中で、自分の本当の願いとして一つの景色が浮かんできたんです。それが、学生の頃に見たap bank fesのやさしい景色でした。

ap bank fesは、音楽プロデューサーの小林武史さんやMr.Childrenの櫻井和寿さんらが設立したap bank主催の野外フェスです。「私はこういう景色の中で歌いたいと思っていたんだ!」と気づいて、「いつかap bank fesのステージに立ちたい」と宣言したものの、出演はどうしてもオファーありきの話なのでエネルギーがうまく回らず(苦笑)。「今出られないなら自分でつくればいいんだ!」と思い立ったところからICHI FESはスタートしました。


‐‐ICHI FESのコンセプトを教えてください。

はたなかさん:

ICHI FESでは4つのICHIを掲げています。一つ目の「今、この位置から一歩踏み出して未来をつくっていく」には、自分の夢や願いに忠実に生きていこうという想いが込められています。二つ目は「私達はひとつの大きないのちであるという繋がりの意識を育む」。これは、もともと一つの命が繋がり合っていたことを思い出していこうという意味です。三つ目の「市場のように人が集い交わる、楽しい“交差点”をつくる」は、シンプルに多様な人たちが混じり合って楽しいことをつくるということですね。四つ目は「地球一個分の暮らしを取り戻して自然とともに生きる」です。地球一個分では足りないとも言われていますが、そういう環境的な想いも込めています。

シンプルに言うと「個の解放と全体の調和」を大切にしているということです。個人個人の願いを生きることと、一つの生命体として地球の中にいる自分たちという感覚が調和することが、同時に起こる道を探りたいと思っています。ICHI FESは自己実現だけを伝えたいフェスではありません。自分たちは全体の中の一部だという感覚を持ち、相互に影響し合うシステムの中で生きているという認知があった上で、自分の夢や願いを語ることが大事だと思っています。

‐‐そういった想いの中で、ICHI FESが具体的に取り組んでいることを教えてください。

はたなかさん:

ほかのフェスにはあまりないコンテンツとして、YUME ICHIがあります。これは、例えばコーチングをやってみたい人がその場で提供してみたり、アクセサリーを作るのが好きな人が出店して販売してみたり、そういった小さな夢を叶える市場みたいなものですね。売り上げを上げる一般的な出店者のスタンスとは違い、みんな自己実現のために出店します。また、YUME ICHIに出店した人の中から何人かは、YUME ICHIステージで音楽と一緒に夢を語るプレゼンテーションをすることもあります。

環境的な話では、マイ食器やマイカトラリーの持ち込みをお願いしています。忘れた方もレンタル食器がありますし、出店者にも使い捨てはなしでとお願いしていているので、食器のゴミは出ません。また、食べ残しは全てコンポストで堆肥にしています。本当は電力についてもこだわりたいところですが、そのあたりは今後の課題ですね。

小さな取り組みですが、広く社会に対して何かしらのメッセージを発信したいとも思っています。能登半島地震の時はICHI FES for 能登プロジェクトを立ち上げ、チャリティCDを販売したり、能登へのメッセージを発信する機会を設けたりしました。

‐‐ICHI FESも4年目とのことですが、はたなかさんのやりたかったことや想いが徐々に伝わってきている感覚はありますか?

はたなかさん:

出演者やメンバーに「あなたが言っていたことって、こういうことなんだね!」と言われることが増えてきました。ICHI FESに関わることで自分の人生が変わっていく体験は、チームのメンバーが一番感じていると思います。

また、今までSDGsとあまり縁がなかった出演者のミュージシャンやお客さんが関心を寄せてくれるのも嬉しいですね。

2021年から毎年開催してきて2024年のフェスはお休みしましたが、次回は2025年か26年に開催したいと思っています。個人的には一日だけのフェスティバルという形ではないものにトライしてみたいです。例えば一日目はフェスティバル、二日目はフィールドを使った体験プログラム、最終日はセレモニーなどという「新しい形のフェスの形」をやってみたい気持ちがありますが、まだ私の頭の中だけの希望です。

音楽活動にもいい影響を与えるNVCの学び。

‐‐ NVCの活動についても教えてください。そもそもNVCとは何でしょうか?

はたなかさん:

NVC(Non Violent Communication)は、日本では非暴力コミュニケーション、共感コミュニケーションなどと呼ばれているコミュニケーションメソッドです。対話のプロセスを観察、感情、ニーズ、リクエストの4つの要素に分解して、互いの違いを尊重し合える信頼関係を築くことを目的としています。

もともと夫が立ち上げた「NVC ON-LINE」というコミュニティ型のサブスクがあり、私はその運用や、Instagram「やさしいNVC」での発信、合宿型のNVCリトリート、そしてNVCに用いるカードやジャーナルブックなどのツールの制作などに取り組んでいます。

‐‐NVCは日常のどのような場面で役立つのでしょうか?

はたなかさん:

NVCは、相手とケンカをしなくなるためのものではありません。夫婦関係でも子育ての場面でも、たとえケンカになったとしてもその後に修復の対話ができるようになることで、安心して言いたいことを言える関係を築けるようになります。身近な他者との関係性に変化が出てくるということですね。

また、自分との向き合い方が分かるようになります。特に日本人は、自分の気持ちを抑え込んでいる人が多いですよね。我慢して自分の嫌な感情などが出てこないように抑圧していたり。でも結局それは、感情の扱い方が分からないだけだと思うんです。NVCを実践するとその扱い方が分かるようになり、悲しい気持ちになったら自分でこうやって寄り添えばいいんだなと、自分との向き合い方が分かるようになるんです。

‐‐NVCとの出合いや学びが、自身の音楽活動に与える影響はありますか?

はたなかさん:
NVCを知ったことで、まず自分の感情の豊かさに気づきました。「これってこういう感情なんだ」という回路が繋がっていない感じから、すごく微細な感情のグラデーションのようなものが見えるようになりました。今まではざっくりと「楽しい!」「嬉しい!」とざっくりした分類だったものが、100種類ぐらいになったようなイメージです。

また、そもそも自分がいろいろなことを感じられるようになったことで、感情表現も豊かになりました。おそらくそれは創作活動にも影響があって、出てくる歌詞などアウトプットはすごく変わっているんだろうと感じています。

-NVCに興味を持ったら、何から始めればいいのでしょうか?

はたなかさん:

なかなかきっかけが難しいですよね。確かにそれはNVCコミュニティ全体の課題でもあると思っていて、それでinstagramの「やさしいNVC」を始めたんです。よりシンプルに分かりやすい入口ができたらいいなという思いで。そこで気になったら講座を受けてみてもらえるのも嬉しいですね。

ICHI FESで感じたことを、一日限りで終わらせないために。

‐‐現在一般社団法人imiの設立準備中とのことですが、設立に至った経緯や事業内容などを教えてください。

はたなかさん:

imiとしての活動の軸はまだ定めている最中ですが、設立に至るにはいくつか理由があります。一つは収益的な理由です。ずっとボランティアベースでICHI FESをつくってきましたが、フェスってすごくお金がかかるんですよね。私たちも毎年赤字が続いていたり、外部資金をつくってそれを使い続けていたり、フェス単体で採算を取るのは難しいと考えていました。そんな時に他のフェスを主催している先輩方から、社内の別事業で資金をつくり、フェスに投資するという形でやっているという話を聞いたんです。たしかに資金を得る手段が他にもあった方がいいなと思いました。

もう一つは、フェス以外の器をつくるためです。ICHI FESでは非日常的なやさしい世界観が広がる景色をつくっていますが、フェス1日ではそんなに深いところまで入っていけないと感じています。あくまでも音楽フェスの域は越えません。そのため、音楽で一つになることはできても、意識が変わったり明日からの行動が変わったりするほどのインパクトを与えるのは難しいんです。だからもっと別の形で、人と向き合ったり繋がったり対話したりできる器が必要なのではないかという話になりました。

例えばNVCのリトリートでも、人が変わっていく景色をよく見ていたので、継続的に関わり続けるコミュニティのようなものがあれば、フェスだけでは補えないもっと深い変容が起こるかもしれないし、もっと深いつながりが生まれるかもしれないと思っています。そしてそこで起こった変化や繋がりを持って、またフェスに来てくれる人がいるかもしれません。さまざまな循環が生まれるのではないかという期待があり、そういったことは法人化したらもっとやりやすくなると思いました。

‐‐新たな事業を始めるというよりは、今までの活動をより深く掘り下げていくイメージですね。その中で、自分の核として大切にしていきたいことはありますか?

はたなかさん:

「生きることは表現することである」という言葉を自分の軸に置いています。特に今の時代は正解が変わり続けるので、何に正解を求めたらいいのかすごく難しい。答えは外側ではなく自分の心の内側にしかないし、その内側の感じることに従って自分なりの表現をしていくことに喜びや幸せを見出せなければ、結構生きづらいと思うんですよね。そこを大事に思える人が増えたらいいと思いますし、自分自身もそうでありたいと思います。

‐‐最後に、今後の展望を教えてください。

はたなかさん:

一つは、そもそもimiで何をしていきたいのか、伝える機会をたくさん持ちたいと考えています。プレゼンテーションの機会をつくる、メディアを持つなど、発信する手段を増やしていきたいですね。そこから生まれる他の方との連携がもっともっと必要だと感じているので、一緒に何かできる人がいたら大募集中です!

もう一つは、今までto C向けにいろいろやってきましたが、例えばNVCは企業向けに研修という形で展開していきたいと思っています。ご一緒できる企業さんがいたら嬉しいですね。

また、ICHI FESも次回開催に向けて考えていこうという段階なので、ICHI FESの仲間も大募集中です!

-次回のICHI FESではどんな景色が見られるか楽しみですね。今日はありがとうございました。