#インタビュー

篠田株式会社|高齢者社会と闘う持続可能な街のかたちを求めて

篠田株式会社

篠田株式会社 篠田さん インタビュー

地元で創業100年以上

「自然と共生」をテーマに、土木資材の販売と施工、建設機械の販売と修理、環境商材の販売など、安全で快適な住みやすい街づくりをしています。 取り扱っている製品が多いため、国土交通省や自治体、土木のコンサルティング会社など、さまざまなお客様からご相談をいただいています。また、弊社は土木建設資材商社として創業より有余年の間、建設業界に携わっております。事業に係わる全ての方から信頼される企業である為、
・自然との共生
・地域の発展及び貢献
・時代の変化に対する柔軟性
を念頭において、SDGs達成に向けた取り組みをして参ります。

introduction

篠田株式会社は、主力事業である道路関連設備や防災対策を手がける一方、近年は10以上もの環境問題や地域の過疎化の解決を目指す事業にも取り組んでいます。

特に、岐阜県の山あいで自社製品だけで生活に必要なエネルギーを生み出す実証実験「ひるがのミニエコタウンプロジェクト」は、篠田株式会社の技術を集めた集大成の事業と言えそうです。

今回は代表取締役社長の篠田さんに、プロジェクトを始めた経緯や今後の展望について伺いました。

過疎化していく地方の現状に事業の転換を決意

––まずは御社のご紹介をお願いします。

篠田さん:

弊社は大正元年に創業し、私が社長になってからは来年でちょうど40年になります。現在の主力事業は、道路関連設備の施工と販売です。道路関連設備というのは、簡単に言うと信

号機を除いた道路から上についているもの、道路標識や防護柵、ガードレール、路面標示などの道路付帯設備が当てはまります。

また、土砂災害対策工事も弊社の売り上げを支える事業の一つです。例えば主力商品の一つに、プラティパスアンカー(表土崩壊対策製品)というものがあります。

これは地中に埋め込んで引っ張ることで強度が増し、大雨のあとなどの土砂災害で斜面が崩れることを防ぐ商品です。

こうした道路関連設備の施工や土砂災害対策工事は、いずれも自治体や、地方のゼネコンから仕事をいただいています。

––そのような主力事業を営む中で、どのような経緯で現在のように環境問題や社会問題の解決を目指すようになったのでしょうか?

篠田さん:

取り組みのきっかけは、工事を通じて目にしてきた地方の過疎化問題でした。昔から「高速道路ができるとそのエリアは死ぬ」というようなことが言われますよね。

高速道路ができるとその地域に住む人が少なくなり、商業活動が先細りになって、周辺地域が寂れていく。一般国道沿いの集落が限界集落になっていく。そういった光景を見てきて、何か変えなければいけないと思ったんです。

私たちの仕事は道路や関連設備を作ることですが、結局、人がいなくなれば、その需要もなくなります。都内などの人も多い地域では道路も常に綺麗にされていますが、私が住む岐阜県をはじめ、地方の人口が減少している地域では、ボロボロのガードレールが放置されているなんてことも珍しくありません。

このような状況が続けば、自分たちの仕事も先細りになっていくでしょう。その中で私は、会社が存続し続けるためには、どこかで時代に合わせた事業の転換を図らなければならないという思いもありました。

そこで、それまでとは異なる方向性の事業として、環境に関わる事業を始めることにしたんです。

現状、各プロジェクトは自分たちの技術や商品を世間に認知していただくために行っている側面も大きいのですが、いずれはこれらの環境事業もビジネスとして1本立ちさせ、会社の売り上げを支える事業へと育てていければと考えています。

持続可能な事業が、持続可能な地域も育てる

––環境に関わる事業として、代表的なものはどのような事業でしょうか?

篠田さん:

やはり、地元岐阜県の山あいの地域で実施している「ひるがのミニエコタウンプロジェクト」だと思います。このプロジェクトは、冬季の除雪機以外のすべてエネルギーを、弊社の商品を利用して自給自足で賄うことを目指すものです。具体的には、「木質バイオマスガス発電システム」を中心に、太陽光発電や太陽熱温水システムなどを併用しています。

「木質バイオマスガス発電システム」とは、木材をチップにして燃やし、ガス化して発電する仕組みです。ひるがのミニエコタウンでは、近隣10キロ以内の木材を使用することにしています。

木質バイオマスガス発電システム

また、蓄電システムに「バナジウムレドックスフロー電池」を使用していることも特徴です。リチウムイオン電池と比べて長寿命で、寒冷地でも使用できます。ひるがのプロジェクトが行われているのはスキー場の真裏の標高1,000メートルにもなる山あいなので、こうした設備が欠かせません。

他にも、先ほどご紹介した斜面を安定させるプラティパスアンカーや、「安ら木」という木製の防音壁など、弊社の商品が活用されています。

––このプロジェクトに「ひるがの」の町が選ばれたことにも、何か理由があるのでしょうか?

篠田さん:

この場所は長良川の源流近くにあり、かつては別荘地として栄えた地域です。しかし今では限界集落に近い状態になっています。このエリアを何とかしたいという思いが、プロジェクトの原動力でした。

ただ、最も大きな理由は「木」です。

ひるがのミニエコタウンは、もともとは管理が行き届いていない森林でした。何に利用されることもなく放置されている木を資源として活用できれば良いと思ったんです。

実は私は昔、日本トイレ協会というところに参加していました。ここでは、多くの方が登山を楽しむ穂岳など、登山道にあるトイレを綺麗な状態で維持するには、どのような方法があるかということをテーマに活動していたんです。今考えれば、現在の弊社の活動はそこから派生してるものが多い気がします。

日本トイレ協会の活動の中で私がやりたかったことの一つに、木材を利用した排泄物の分解があります。木の樹脂を粉々のチップの状態にして排泄物にかけるんです。

そうすると木の樹脂中にいる微生物の働きで、自然に分解されていきます。しかし、これは弊社の関連会社が「ソフィール」という水を循環させることで排泄物を分解する商品を扱い始めたことにより、諦める形になりました。※

そんな経緯で実現が叶わなかった「木材の活用」を、実現してみたかった思いもあるんでしょう。

※現在は篠田株式会社でも取り扱っており、富士山の5合目のトイレでも採用されている。

––土地の特性と御社の商品の強みが存分に活かされたこのプロジェクトですが、現状ではどのような成果が得られましたか?

防音壁の「安ら木」に関しては、すでに40件以上の採用実績があります。主に都内の公園や幼稚園で、騒音対策に利用されています。プロジェクトを通じて弊社の商品を「世間に知ってもらう」という目的は、ある程度達成されつつあるわけです。

ただ、上手く行っていることばかりではありません。弊社が開発している商品の一部は、未だ商品化が実現していないものもあります。これは日本のJIS規格に合わせた商品開発が難航しているからです。

現在、ひるがのミニエコタウンプロジェクトの中核を担っている木質バイオマスガス発電システムも、いずれはオーガニックランキンサイクルという別の種類の発電システムと併用したいと考えています。

ORC(オーガニックランキンサイクル)

オーガニックランキンサイクルとは、排熱発電の仕組みの一つで、ヨーロッパではすでに広く活用されています。ただ日本では、規格の壁が立ち塞がって商品化が実現していません。

弊社では今、そうした商品化の壁を打破すべく、長崎県の雲仙市というところで実証実験が計画されています。温泉の熱で発電して、介護施設に供給できるようにしようという取り組みです。

高齢者だけでも自立して生活できる仕組みを作りたい

–常に次の展開を見据えて活動している御社ですが、今後注力していきたいことはありますか?

篠田さん:

地域で農園などを開いて活動し、地方の過疎化にストップをかけたいです。弊社では現在、ミャンマーからの技能実習生を受け入れているのですが、彼らの力も存分に借りたいと思っています。

地域ごとに問題点や求められる活動は異なるでしょうが、それは今ある商材をすべて商品化することで足りると思うんです。

例えば、弊社では牛糞や籾殻を炭化させて肥料にし、さらにその排熱を発電に活用する「炭化ユニット」という商品があります。これを最終的には豚の糞や食料残渣も活用できるよう、商品の改良を進めています。

やっぱり日本の畜産は牛だけではなくて、豚も多いですしね。

さらに最近は、長崎県島原市の一部で人間の排泄物を肥料として活用するための取り組みも初めています。その地域も高齢化が進んだいわゆる限界集落なので、地域内でエネルギーを賄えるようになれば、高齢者だけでも自立して生活していく道も見えてくるのではないかと思っています。

–すべての取り組みが過疎化の対策へも繋がっているんですね。

篠田さん:

やはりそこがプロジェクトの出発点ですからね。他にも、災害時には、弊社のプラティパスアンカーの小型版が活用できるのではないかとも模索しています。

台風などで屋根瓦が飛ぶと、ブルーシートで応急処置をするのが一般的だと思います。あれを4台のドローンで小型アンカーを吊って、上から被せるようにできたら良いのではないかと思ったんです。

プラティパスアンカー 土砂災害応急システム

業者に頼めば結構何十万もの費用がかかってしまいますが、自分で対応できるのであればかなり出費が抑えられます。

通常、ブルーシートを使用する場合、土嚢袋を重しにするケースが一般的です。ただ、土嚢袋は結構重量があるので、担いで屋根まで登るというのは高齢者ばかりの集落ではいずれ対応できなくなります。

これは、私自身の経験も関係しています。というのも、最近高速道路で車のタイヤを交換したんです。タイヤがパンクしたので後ろに積んであるスペアタイヤに取り替えたのですが、そのタイヤのあまりの重さに驚きました。

スペアタイヤを取り付けるなどということは滅多にしないために気がつかなかっただけで、私の体も確実に衰えていたんです。

なので、性別とか筋力とか体力の問題は関係なくできる仕組みが必要ですよね。これらすべてのプロジェクトを実現するには多少時間がかかりますが、私が社長に就任して50周年となる10年後には、すべて実現させたいと思っています。

それまで介護の必要なく、元気に働くことも目標の一つですね。

–実現を楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。