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医療的ケア児とは?増加傾向にある原因や医療的ケア児支援法についても

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医療的ケア児という言葉は、多くの人にとって聞き慣れないかもしれません。しかし、医療的ケア児は年々増加しており、日々の生活の中でさまざまな課題と向き合っています。

医療的ケア児とはどのような状態の児童なのか、医療的ケア児が安心して生活し、社会参加を実現するためには何が必要なのか、増加傾向にある原因や医療的ケア児支援法についても、わかりやすく解説します。

医療的ケア児とは

医療的ケア児とは、慢性疾患障害を持ち、専門的な医療ケアが必要な子どものことです。厚生労働省は、

「医療的ケア児とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童(18歳以上の高校生等を含む。)」

引用:厚生労働省『「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について』(2021年6月)

と定義しています。

【医療的ケアとは?】

医療的ケアとは

医療的ケア児は、医学の進歩によりNICUなどでの長期入院を経て、引き続き専門的な医療ケアを日常的に必要としています。例えば、

  • 人工呼吸器による呼吸管理
  • たんの吸引(気道にたまった痰を吸引器で取り除く)
  • 経管栄養(栄養を補給するための開口部から栄養を送り込む)
  • 気管切開の管理(気管に穴を開け、人工呼吸器や痰の吸引を容易にする)
  • 鼻咽頭エアウェイの管理(鼻から咽頭まで挿入する管で気道を確保する)
  • 酸素療法(鼻や口から酸素を送り込み、体内の酸素不足を解消する)
  • ネブライザーでの管理(薬液を霧状にして吸入し、気道の炎症を抑える)
  • 中心静脈カテーテルの管理(首や胸の静脈に挿入する管で、薬や栄養を投与する)
  • 皮下注射
  • 血糖測定
  • 継続的な透析(血液中の老廃物や余分な水分を人工的に除去する)
  • 導尿(膀胱に尿道カテーテルを挿入し、尿を排泄する)
    などが、この「医療的ケア」に該当します。

このような医療的ケアは、医療従事者だけでなく、家族や地域の人々によるサポートも重要です。社会全体で医療的ケア児を支え、安心して暮らせる環境を整備していくことが求められています。*1)

医療的ケア児にはどのようなサポートが必要なのか

医療的ケア児を取り巻く環境は年々整いつつありますが、まだ多くの支援が必要な状況です。医療的ケア児と家族が安心して日常生活を送るためには、どのようなサポートがあると良いでしょうか。

家族のサポート

医療的ケア児に一番そばで寄り添うのが家族です。しかし、医療的ケア児の自宅でのケアに、体力的にも精神的にも負担に感じる家族や、大切な子どものために頑張りすぎてしまう家族も少なくありません。

家族が自宅で医療ケアを行う負担を少しでも軽減するためには、

  • 必要な技術や知識の提供
  • 医療的ケア児の家族が直面するストレスや心理的負担を軽減するためのカウンセリング
  • 医療的ケア児の生活を支えるための住宅環境の整備や改善
  • 医療的ケア児が外出や通院を安全に行えるような移動手段の提供

などが必要です。

医療的ケアの提供

医療的ケア児は、人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケアが日常的に必要です。そのため、在宅での医療的ケアの提供や、レスパイト入院先※の確保が求められています。

また、医療的ケア児には、家族だけでなく、看護師やヘルパーなどによる適切なケアが欠かせません。定期的な健康状態のモニタリングと必要に応じた医療処置などのためには、専門的な医療機関に通うことが必要です。

※レスパイト入院

主に障がいを持つ児童や高齢者の介護者が一時的に休息を取るために、施設などに入所させること。この期間中、介護者が休息を取ることで、心身のリフレッシュやストレス軽減が図られる。

保育・教育の場の確保

医療的ケアが必要な子どもたちも、同年代の子どもたちと同じように教育を受ける権利があります。医療的ケア児が地域の保育園や学校へ通うことができるよう、看護師の配置や施設のバリアフリー化などの環境整備が必要です。また、特別支援教育として、それぞれの医療的ケア児の能力に応じた教育プログラムの提供も大切です。

その中で現在では、保育士や教員への喀痰吸引などの研修も検討されています。

経済的支援

経済的な支援も不可欠です。

医療的ケアには多額の費用がかかります。公的支援に加え、民間団体や企業による経済的支援など、家族への経済的な負担軽減のための取り組みや、公的な支援体制の整備が重要です。

社会参加の促進

他にも、学校や地域コミュニティとの交流機会を設けることで、医療的ケア児の社会参加が促されます。健常者との交流は成長にも良い刺激となります。

また、医療的ケア児の存在を広く知ってもらい、社会全体で支える体制を構築することが重要です。

医療的ケア児が社会で輝くためには、社会全体で支える環境の整備が求められています。*2)

医療的ケア児の現状

令和3年に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」により、医療的ケア児とその家族の生活は「社会全体で支援しなければならない」と位置付けられました。さまざまなデータを通して、医療的ケア児とその家族がおかれている状況を確認しましょう。

年々増加傾向にある

後ほど詳しく説明しますが、医療技術の進歩により、重度心身障害で厳しい状態の子どもたちの、救命率が上昇しています。このような背景から、生存者数の増加に伴い医療的ケア児は年々増え続けています。

【在宅の医療的ケア児の推計値(0~19歳)】

上のグラフからもわかるように、在宅医療的ケア児の数は、年々増加傾向にあります。

【年齢階級別の医療的ケア児数の年次推移<推計値>】

2つ目のグラフは、年齢階級別の医療的ケア児数の推計値の年次推移を表しています。このグラフからは、医療的ケア児の中では0〜4歳の乳幼児の割合が最も多いことがわかります。

医療的ケア児を支える家族のストレス

このような背景から、近年では家族が抱えるストレスに関する課題も見えてきました。

医療的ケア児を抱える家族は、24時間体制での看護や介護、医療機器の管理など、高度なケアを要する状況に置かれています。この負担は家族にとって精神的・経済的なストレスとなり、長期間にわたる介護疲れや社会的孤立感を引き起こすことがあります。

特に、夜中のケアや緊急時の対応は、家族にとって大きな負担となります。また、医療費や療育費の負担も重く、経済的な困窮に陥るケースもあります

サポート施設の不足

また、サポート施設に関する課題も指摘されています。

医療的ケア児を預けることができる施設や、家族が相談できる窓口はまだ十分ではありません。そのため、家族は孤立感を抱えてしまうことがあります。

近年、医療的ケア児を支援する施設やサービスは少しずつ増え始めていますが、医療的ケア児の全体数や増加傾向を鑑みても、まだ十分とは言えない状況です。

社会的認知の不足

これらの課題が見られる背景として、「医療的ケア児」に対する社会的認知が足りていない現状があります。

医療的ケア児に対する社会的な認知や理解は、高齢者や障害者などと比較して決して十分とはいえません。

また、学校現場での合理的配慮が不十分なケースも報告されており、医療的ケア児が地域社会で孤立していることも事実です。行政や私たち一人ひとりの医療的ケア児への理解を深めることが、これから一層重要となるでしょう。*3)

医療的ケア児が増えている原因

医療的ケア児の数が増加している原因は、医学の発展と社会の変化の両面から考えることができます。それぞれの面から、医療的ケア児が増えている原因を確認していきましょう。

医学の進歩

医学の進歩は、医療的ケア児の増加に大きく寄与しています。以前は生存が難しいとされていた重度の障害や疾患をもつ新生児も、現代の医療技術によって生命を繋ぎ留めることが可能になりました。

  • 新生児医療技術やNICU(新生児特定集中治療室)の発達
  • 重度心身障害児の平均寿命の伸長
  • 人工呼吸器や体外膜肺補助装置(ECMO)などの医療機器の発達

などが具体的な例です。

この結果、特別なケアが必要な子どもたち=医療的ケア児の数が増加しています。つまり医学の進歩により「助かる子どもの命が増えた」と言えます。

社会の変化

医療的ケア児やその家族への社会的な理解や支援が進むにつれ、これらの子どもたちが社会で生きるためのサポートは、年々受けやすくなっています。このような環境の変化も、医療的ケア児が増加している一因と言えます。

また、持続可能な社会の構築の重要性が広く認知されるようになっており、そんな中で医療的ケア児や発達障害児などの存在は、私たちに多様性を受け入れる社会の重要性を問いかけます。誰もが個性や能力を尊重され、安心して暮らせる社会を実現することは、未来を担う子どもたちのためにも不可欠です。

次の章では、医療的ケア児支援法について詳しく見ていきましょう。*4)

医療的ケア児支援法について

医療的ケア児支援法の正式名称は、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」です。この法律は、医療的ケアが必要な子どもたちとその家族を支援するために策定され、2021年6月に制定・施行されました。

この法律の目的は、医療的ケア児及びその家族が社会の一員として尊重され、安心して生活できるようにするための支援体制を整備することにあります。

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の基本理念

医療的ケア児支援法は、医療的ケア児とその家族が、地域社会の中で自立した生活を送ることができるよう、必要な医療サービスや福祉サービスが提供されることを基本理念としています。また、医療的ケア児とその家族が抱える様々な問題に対して、社会全体で支援する体制を整えることが強調されています。

国・地方公共団体による措置

国や地方公共団体は、医療的ケア児とその家族の支援に関して、連携して取り組むことが求められています。具体的には、

  • 医療的ケア児のための医療サービスや福祉サービスの提供
  • 支援センターの設置
  • 専門家による相談体制の整備

などが挙げられます。これらの措置により、医療的ケア児とその家族が必要とする支援を適切に受けられるようにすることが目指されているのです。

保育所の設置者、学校の設置者等による措置

保育所や学校など、医療的ケア児が日常生活の中で利用する施設の設置者に対しても、支援の提供が求められています。これには、医療的ケアが必要な子どもたちが安心して利用できるように、

  • 施設内での医療的ケアの提供体制を整える
  • 必要な設備の整備
  • 専門的な知識を持つスタッフの配置

などが含まれます。これにより、医療的ケア児が教育や保育の機会を平等に得られるようにすることが目的です。

医療的ケア児支援センターの設置

医療的ケア児支援法に基づき、各地域に医療的ケア児支援センターの設置が推進されています。これらのセンターは、医療的ケア児とその家族が直面する様々な問題に対応するための窓口として機能し、相談支援や情報提供、専門的なアドバイスの提供などを行っています。また、地域の医療機関や福祉施設との連携を促進し、医療的ケア児とその家族が必要とする支援サービスの提供をスムーズに行えるようにすることが期待されています。

医療的ケア児支援法は、医療的ケアが必要な子どもたちとその家族に対する社会の支援体制を明確にすることで、彼らが安心して生活できる環境を整えることを目指しています。この法律による取り組みを私たちも理解することは、医療的ケア児とその家族が抱える課題の解決に、社会全体で取り組む第一歩となります。*6)

医療的ケア児に関してよくある質問

ここでは、医療的ケア児に関するよくある質問をまとめ、わかりやすく解説します。

医療的ケア児は何歳までを指しますか?

医療的ケア児とは、特定の医療的なケアを必要とする状態にある子どもたちを指しますが、年齢に関しては法律上の明確な定義はありません。一般的には、18歳未満の子どもを指すことが多い傾向にありますが、ケアの必要性によっては成人に達した後も支援が継続される場合があります。

厚生労働省も、「18歳以上の高校生等を含む。」と定義しているほか、全国の医療的ケア児の年齢の調査では19歳まで含めています。

【医療的ケア児者の年齢(単数回答) 】

医療的ケア児は障害者ですか?

医療的ケア児は、必ずしも障害者とは限りません。障害を持つ子どももいますが、一時的な病気や事故による後遺症などで特別な医療的ケアが必要な子どもも含まれます。

そのため、医療的ケア児というカテゴリーは、障害の有無にかかわらず、特定の医療的ケアを必要とする全ての子どもたちを対象としています。

医療的ケア児は保険適用ですか?

医療的ケア児が必要とする医療サービスの多くは、健康保険や公的な支援制度の対象となります。しかし、ケアの種類や内容によっては保険適用外となる場合もあり、その際は自己負担が必要になることもあります。

具体的な適用範囲や支援内容については、地域の医療的ケア児支援センターや保険者に相談することが重要です。

医療的ケア児コーディネーターとはなんですか?

医療的ケア児コーディネーターは、医療的ケア児とその家族が必要とするさまざまなサービスや支援を総合的に調整し、サポートする専門家です。医療、福祉、教育など、多岐にわたる分野のサービスを円滑に利用できるように案内し、家族の負担軽減を図ります。

医療的ケア児支援センターとはどのような場所ですか?

医療的ケア児支援センターは、医療的ケア児とその家族が利用できる支援の窓口として設置されています。ここでは、

  • 相談支援
  • 情報提供
  • 専門的なアドバイスの提供

など、様々なサービスが行われており、医療的ケア児とその家族が抱える問題に対する支援を行います。

医療的ケア児は保育園に入れますか?

医療的ケア児も保育園に入園することが可能です。ただし、医療的ケアの必要性に応じて特別な配慮が必要な場合もありますので、事前に保育園と相談し、適切なサポート体制を整えることが大切です。

医療的ケア児を受け入れる保育園は、年々増えていますが、まだ十分とは言えません。*6)

医療的ケア児とSDGs

医療的ケア児の存在と彼らへの支援は、SDGsの目標達成において、実は重要な位置を占めます。ここでは、医療的ケア児がSDGsの目標達成にどのように貢献するか、多角的な視点から考えてみましょう。

SDGs目標3:すべての人に健康と福祉を

SDGsの目標3は、すべての人に健康と福祉を保障することです。医療的ケア児への適切な医療サービスの提供、家族への心理的支援、そして生活の質の向上は、この目標の達成に直接貢献します。

医療的ケア児とその家族が、必要なケアを受けられる環境を整備することは、社会全体の健康水準の向上にもつながります。

SDGs目標4:質の高い教育をみんなに

目標4は、すべての人に包括的かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進することです。医療的ケア児に対する教育の機会の提供は、この目標の達成に不可欠です。

医療的なニーズに対応した教育環境の整備特別支援教育の充実は、彼らが社会に参加し、自己実現を果たすための基盤を作ります。

SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう

目標10は、国内外の不平等を減少させることを目指しています。医療的ケア児への適切な支援は、社会的な不平等の解消に貢献します。特に、医療や教育、福祉サービスへのアクセスの平等性を高めることで、社会全体の公平性を向上させることができます。

医療的ケア児とその家族への包括的な支援は、彼らが直面する様々な障壁を取り除き、全ての人が平等に社会参加できる環境を整えることに寄与します。

このように、医療的ケア児への支援と彼らの社会参加の促進は、SDGsの目標達成に向けた重要なステップです。医療的ケア児とその家族が直面する課題に対する理解を深め、適切な支援を提供することで、より健康で公平な社会の実現に貢献できるのです。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

医療的ケア児が安心して生活できる社会を築くことは、日本の持続可能な成長にとって非常に重要です。一人ひとりが自分らしく生きることができる社会は、多様性を受け入れ、それぞれの能力や特性を最大限に活かすことができます。

このような環境は、新たな価値の創造や社会全体のイノベーションを促進する土壌となり得ます。また、医療的ケア児や発達障害児を含むすべての市民が支援を受け、社会参加を果たすことは、社会の包摂性を高め、誰もが尊重される文化を育むことに不可欠です。

医療的ケア児への適切な支援と理解を深めることは、彼らが持つ可能性を最大限に引き出し、全ての人が共生する持続可能な社会の実現に向けた、私たちにもできる第一歩なのです。

<参考・引用文献>
*1)医療的ケア児とは
厚生労働省『「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について』(2021年6月)
東京都福祉局『医療的ケアとは?』
厚生労働省『医療的ケア児について』
厚生労働省『医療的ケア児等とその家族に対する支援施策』
*2)医療的ケア児にはどのようなサポートが必要なのか
福岡市『医療的ケア児とは』
NHK『医療的ケア児 未来を育む支援の在り方を考える』(2023年11月)
*3)医療的ケア児の現状
厚生労働省『医療的ケア児について』
育成こどもシンクタンク『医療的ケア児』(2023年10月)
総務省『医療的ケア児とその家族に対する支援に関する調査』(2022年12月)
日本経済新聞『医療ケア児、小学校受け入れ体制遅れ 総務省、改善要請』(2023年3月)
日本経済新聞『医療的ケア児 働き育てる 24時間介助を時短・テレワークで両立』(2020年8月)
日本経済新聞『医療ケア児の受け入れ拡大 補助金制度、使い勝手改善』(2024年1月)
NHK『医療的ケア児に求められる支援 学齢期からの悩み』(2018年7月)
*4)医療的ケア児が増えている原因
厚生労働省『医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 報告書』(2020年3月)
*5)医療的ケア児支援法について
内閣府『こども・子育て政策の強化について(試案)』(2024年3月)
厚生労働省『「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について』(2021年6月)
*6)医療的ケア児に関してよくある質問
厚生労働省『医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 報告書』(2020年3月)
NHK『「医療的ケア児」あなたの悩み・必要と思う支援』(2016年4月)
NHK『【特集】医療的ケア児のいま 先輩に聞く学校の選択』(2021年5月)
日本小児科学会『学校における医療行為の判断,解釈についての Q & A』(2020年6月)
*7)医療的ケア児とSDGs
経済産業省『SDGs』