一般社団法人大崎町SDGs推進協議会 大保拓弥さん・井上雄大さん インタビュー

大保拓弥
1996年鹿児島県曽於郡大崎町出身。大学在学中に地域づくりに興味を持ち、大学卒業後にUターンし、2020年3月から一般社団法人テンラボへ合流、個人事業主へ。主に県内の場づくりや地域プロジェクトの伴走、各種イベントの企画等に取り組んでいる。地元である大崎町の地域づくりに取り組むため、2024年4月より合作株式会社へ参画。一般社団法人大崎町SDGs推進協議会では主に広報を担当する。現在は鹿児島市と大崎町の2拠点生活を実践中。

井上雄大
長野県安曇野市出身。大学で社会学を学び、社会課題に対する関心を深める。臨床検査会社での経理・財務業務を経て、移住と起業の促進を通じて地域活性を目指す「Next Commons Lab 南相馬」に参画。3年半、コーディネーターとして起業家の移住・伴走支援や行政との折衝、広報など広く事務局業務を担う。2020年よりオンライン講義と地域留学を通じて学ぶ教育プログラム「さとのば大学」に携わり、地域事務局と受講生伴走を担当。多様な関係者と協働してプロジェクトを進める仕事に魅力を感じ、2022年1月より大崎町に移住、合作株式会社入社。一般社団法人大崎町SDGs推進協議会専務理事。
introduction
鹿児島県の大崎町は、人口12,000人ほどの小さな自治体ながら、ごみの80%以上を再資源化するリサイクルシステムによって、国内外から注目を集めています。「リサイクルに成功した町」は、今や循環型社会「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」へと年々大きな進化を遂げています。
今回は、2022年の取材に続く第二弾として、大崎町SDGs推進協議会の大保拓弥さん、井上雄大さんに、様々なプロジェクトの現在を伺いました。
全ての資源が循環する持続可能な社会を作る
-2022年の記事※から2年半ほどが経ちましたが、「大崎町リサイクルシステム」は着々と進化しています。今回の取材にあたり、もう一度これまでの歩みの概要を伺わせてください。積極的にリサイクルに取り組み始めた背景や実績からお願いいたします。
※https://spaceshipearth.jp/osakicho/

大保さん:
直接のきっかけは、町内のゴミの埋立地の残余年数が逼迫したことです。新たなごみの処分方法が検討されましたが、焼却は維持費がかさむという試算により、却下されました。新たな埋立地を作ることも、迷惑施設というイメージにより周辺住民の理解を得る困難さが容易に想定されました。結果として、埋めるごみを減量して既存の埋立処分場を延命化することが選択され、1998年にリサイクルに取り組み始めました。2002年には生ごみや草木を堆肥にする有機工場が完成し、堆肥の販売を開始しました。2017年には、初年度と比較して約84%の埋立ごみの削減に成功しました。
住民の理解と協力を得つつ、ごみの分別は現在28品目となり、2006年から現在までに「リサイクル率日本一15回達成」という快挙を果たせました。



-「一般社団法人大崎町SDGs推進協議会」という組織自体が、自治体の環境課題解決において珍しい立ち位置にあると感じます。どのような役割をお持ちなのですか?
大保さん:
大崎町が積み重ねてきたリサイクルの取り組みを土台に、循環型の町づくりをより多面的に展開するために、2021年4月に設立された組織です。大崎町を始め、地元の放送局、信用金庫など多様な主体がパートナーシップを組んでいます。それぞれのステークホルダーの強味を生かすことで、自治体だけでは解決が難しい様々な課題に取り組んでいます。
協議会には大崎町役場もパートナーとして参画しており、町内企業とのコーディネートや議会への説明、その他の事務局業務(契約、会計、法務など)の一部も担っています。
活動の大きな方向性としては、「リサイクルの町から世界の未来をつくる町へ」というヴィジョンのもと、全ての資源が循環する持続可能な社会を作るために、「OSAKINIプロジェクト」という総称で、世界に新しい社会のカタチを実装していくことを目指しています。
住民・企業・行政三者の協力で成立するリサイクルシステム
-大崎町のリサイクル成功の基盤ともいえる、資源ごみの多品目分別収集について伺います。分類は28品目とのことですが、最初は反発もあったという地域住民の方々の理解はどのように深まっていったのでしょう?


大保さん:
リサイクルの仕組みを立ち上げた時は、ごみの細かな分別の実施に際して、役場のスタッフが住民の方々に丁寧な説明を重ねました。対象の156の集落でそれぞれに3回、合計450回以上の説明会を実施したとのことです。埋立処分場逼迫の現状や、それを回避するためになぜ細かな分別やリサイクルへの取り組みが必要なのか、などを自分ごととして理解していただくための努力を重ねた歴史があります。
役場は、ごみ出しの曜日なども含むシステムの前提を決定する役割ですが、それ以外の細かな部分は各集落で決めてもらっています。住民サイドには、ごみを出す世帯が原則的に加入する「大崎町衛生自治会」という、行政から独立した組織があります。初代の会長さんは、不法投棄されたごみを拾っては分別し、住民に辛抱強くリサイクルの必要性を説かれたそうです。そのような住民代表の方々の尽力もあって、分別への理解も深まっていきました。「大崎リサイクルシステム」は、住民・企業・行政の三者が協力することで成り立っています。


-ご高齢者、病気や障害をもつ方々など、細かな分別が負担になる場合、サポートはあるのですか?
井上さん:
ごみ出しが困難な方々について大崎町は、既にごみ出し困難者対策事業を実施しており、分別が難しい方への対策の検討を進めてます。集落によっては共助の仕組みがある程度機能しています。例えば、分別はできても足が悪くてごみ出しが出来ない方々を、近所の方が助け合っていると聞きました。とはいえ、全体が高齢化する中では限界があります。現在、行政の環境課と福祉を担う部署が連携しながら、ごみ出し・分別が困難な方に対する支援を始めているところです。
-22年の取材時には、そもそもの「ごみとなる物」を減らす努力や働きかけも必要、というお話が出ました。その後の進展はありましたか?
大保さん:
リサイクルの質を上げる、という視点から、地元の焼酎メーカーと連携した取り組みがあります。従来の焼酎の紙パックは、匂い移り防止のために、紙パックの内側にアルミが貼られていました。その状態では紙としてリサイクルができません。そこで、当協議会は、紙から紙へのリサイクルが可能な焼酎パックをメーカーが導入するための支援を行いました。
また、スーパーやコンビニなど町内の小売店で売られる物について、今後、地域事業者と協議しつつ、野菜を裸売りしたり、包装のプラを減らしたりするなど、上流企業との連携を深めたいと思っています。
-大崎町のリサイクルへのお取り組みは、ごく初期の段階から「産官民」が一体となってきたのですね。代表的な例をお聞かせください。
大保さん:
最も重要な存在は、20年以上リサイクルシステムを行政と一体になって立ち上げてきた廃棄物処理業者「そおリサイクルセンター」です。また、大崎町SDGs推進協議会の事業の推進は、合作株式会社が担っています。協議会の設立に先駆けて2020年に大崎町で登記した会社で、民と官の間を繋いだり、様々なコラボレーションを生み出す会社となっています。
ほかにも、連携プロジェクトなどで企業様と協働するケースがあります。

大崎町の資源循環を実感できる「体験型宿泊施設」
⁻そのような取り組みを生んできたOSAKINIプロジェクトについて伺います。まずは、2024年4月にオープンしたばかりの体験型宿泊施設をご紹介いただけますか。
大保さん:
「circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)」(以下GURURI)は、循環型社会「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」を体感できる「体験型宿泊施設」です。

大崎町は年間600人以上の視察者を受け入れています。そこが、GURURI誕生の背景となりました。大崎町のリサイクルの取り組みは、住民が行っている分別が支えている仕組みです。視察は住民の暮らしも体験していただきたいところですが、実際は、大崎リサイクルシステムの三つの要の施設、そおリサイクルセンター、埋立処分場(曽於南部清掃センター)、生ごみを堆肥化する大崎有機工場を回り、分別を体験することなくお帰りになる場合が多いんです。
視察の方々に町民の生活を体験していただきたい、大崎のリサイクルシステムに住民目線で触れ、資源循環に至る考え方や学びを実感として持って帰っていただきたい…GURURIは、そこがコンセプトとなっています。
建物は、空き家化していたもと教員住宅をリノベーションしています。建設、内装、家具の導入に至るまで、循環というキーワードを徹底して検討し、実践している宿になります。エネルギーも太陽光やバイオマスボイラーを導入しています。宿泊することで、廃材利用の木材を用いたバイオマスボイラーでお湯を温め、それをシャワーとして使うなど、自分でエネルギーを作って使う、という循環を体験できます。朝食は、スタッフがご用意した地域のおいしい食材をご自身で調理いただき、夕飯は、近くのスーパーで利用者様が食材を購入し、GURURIのキッチンで料理していただきます。そこから、食物残渣の処分法や、肉のパッ
ク・付随するラップなども洗って分別することや、様々な実体験をしていただけます。

主な利用者は視察者ですが、最近ではサステナブルな暮らしや実践に興味ある方の宿泊も増えています。キッチンなどがあるLDK棟と宿泊棟が渡り廊下で繋がっている形で、ツインとダブルのお部屋が1つずつあります。。LDK棟もエキストラベッドとお布団をリビングに出せば3人泊まれますので、宿泊者数は最大6名となります。宿泊費は2名で24,000円(素泊まり)、1人増えるごとに12,000円がプラスされます。
-宿泊者からはどのような感想が届きますか?
井上さん:
印象に残った感想の1つは、「大崎町の分別を経験して、ごみの種類が判っていなかったことを実感した」というものです。実に細かな例ですが、コンタクトレンズの容器はプラですが、蓋はアルミというケースが多いんです。ですが、ひっかけ問題のように、アルミに見えてもプラの蓋、というメーカーさんもあります。カップヨーグルトの蓋は、裏がツヤツヤと銀色でアルミのように見えますが、実はプラスチックのものもあります。自分で大崎町の分別を体験すると、そういう曖昧なところにも気づき、結果として「メーカーは材質を統一してほしい」「判別しづらいものは表示をしっかりつけてほしい」というような思いに至った、と言っていただきました。
あと、リサイクルにフォーカスしていても建物はおしゃれなデザインにしていますので、中に入った時に「おしゃれですね」「木の香りがいいですね」などとお褒めいただくことが多く、嬉しく思います。

資源循環システムを変える「ALL COMPOST PROJECT」
-「大崎町リサイクルシステム」のノウハウを他の自治体に伝えるプロジェクトにも力を入れられているとのことですが、ご紹介いただけますか。
大保さん:
「ALL COMPOST PROJECT(オールコンポストプロジェクト)」と称し、大崎町のノウハウを必要とする自治体さんにお伝えしています。日本の廃棄物処理システムの課題として、ほとんどの自治体が焼却処理に依存しているという実情があります。平均で直接焼却率は79.9%、リサイクル率は20.0%、廃棄物処理コストは1人当たり換算で約1.7万円です。さらに、焼却施設の7割以上が使用期間の20年を越えて老朽化が進んでいるんです。
大崎町が提供できるソリューションは、生ごみと草木の堆肥化です。有機物はごみ全体の3~6割を占めていますから、そこを減らせるだけでも、大幅に焼却ごみを削減します。仕組みもシンプルですから、1人当たりのごみ処理負担を下げることが可能です。かつ、焼却からの脱却で、CO₂を約4割削減する効果も期待できます。
具体的な流れをご説明いたします。
①現状調査:生ごみを堆肥化に切り替えることによる効果を調査します。
②研修:大崎町に足を運んでいただき、大崎有機工場で微生物が生ごみを分解する原理を学んでいただきます。実際に、大崎有機工場で、堆肥を仕込む行程を手作業で体験していただく場合もあります。生ごみをスコップで粉砕して、草木のチップを混ぜ合わせて、そこに温度計を差し、翌日に発酵、分解が進み温度が上がっている状況を実際に体験してもらいます。
③実証実験:当該住民の協力を得て、現地で生ごみの回収と堆肥化の実証実験をします。
④まとめ:結果のデータや状況をまとめ、本導入への判断材料として検証を開始します。

当プロジェクトに参加した長崎県対馬市と静岡県西伊豆市は2023年より実証実験をスタートさせ、これまで推進してきました。
ALL COMPOST PROJECTは、リユースエコノミーの最先端をいく大崎町から、国内の廃棄物処理システムを変えていくためのプロジェクトだといえます。現在は世界からも注目を集め、トリニダード・トバゴやグアテマラから研修を受け入れました。
井上さん:
ただ、「生ごみの堆肥化」が、すべての地域でのベスト・ソリューションというわけではありません。堆肥を作っても行先がないという地域もありますし、稲作地域であれば、液肥の方が良かったり、都市部であればメタンガスなどのエネルギーに転換する発酵の方が適している可能性があったりなど様々です。焼却施設の更新時期という課題を抱える自治体さんと、「廃棄物の未来をどう作っていけばいいのか」というところからディスカッションさせていただくのが、このプロジェクトの進め方です。
住民・事業者を巻き込み目指す「循環型のまちづくり」
-持続するまちづくりの一環として「移住者を増やす」ご尽力もされてきたとのことですが、どのような成果がありましたか?
大保さん:
2018年から、大崎町を出て進学する大学、大学院生、専修学校生などを対象に、将来大崎町に戻ってもらうことも視野に入れた「リサイクル未来創生奨学金」制度を開始しました。リサイクルの益金を年間100万円ずつ積み立てて運用し、月に5万円を貸与、利息は町が補助するかたちです。2024年現在、累計73名が利用、うち10人がUターンして就職しました。
過疎化が課題の自治体が多いなか、大崎町では移住者が増える傾向にあります。実は、当協議会のメンバーも移住者が多いんです。当協議会の仕組みの作り方や座組に興味があって移住したメンバーもいます。
-移住者の住居確保という意味もある「空き家の活用」にも取り組まれていますね。
大保さん:
空き家は全国的な課題の1つです。その中で2024年6月に、大崎町、当協議会、鹿児島大学、LIXILという産官学で「住宅改修における資源循環実証調査事業」をスタートさせました。社会問題となっている「空き家」を、①不動産資源としての空き家、②資源貯蔵庫としての空き家、という2つの観点から価値を再評価する、というものです。
空き家が放置され続けると、老朽化が進み、この2つの価値が共に失われます。それは、町にも持ち主にも不利益です。リノベーションして不動産として有効活用するか、解体して出る木材などの廃棄物を新たに活用する、あるいは売買するなど、様々な視点から精査します。
現在、リノベーションのモデルとして一軒を改修予定です。資源貯蔵庫としての空き家調査は数軒並行して実施しています。具体的には、解体現場を見せていただき、木材系のごみやコンクリ系のごみが一棟当たりどれくらい出るのか、そのうち再利用できるものはどれくらいあるのか、などを調査します。

また、空き家だけではなく、廃棄される予定の家具をアップサイクルする「メグルカグプロジェクト」も始動中です。昨年度は、小学校で使用されていた子ども用の椅子114脚、机117台をユニークなアイデアで利活用する団体、個人、企業を募集してアップサイクルの事例を構築しました。今年度は、主に福祉や教育事業者にしぼって家具をお渡ししています。

-生ごみ、家具、空き家に至る、まさにすべての廃棄物の循環を目指しているのですね!最後に、将来の展望をお聞かせください。
大保さん:
大崎町SDGs推進協議会として、地域住民の方々ともっと連携を深めていきたいと思っています。これまでの4年間、ビジョンマップに添って様々なプロジェクトを展開してきましたが、さらに地域の住民の方々、事業者さんを巻き込んだプロジェクトを進めていこうと、現在「循環型のまち」に即した企画を進めているところです。そういった方々と連携して、企業版のふるさと納税などで資金を獲得し、「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」の実現に向けて、事業実現に取り組んでいきます。

-全てが循環する大崎町へのさらなる進化が楽しみです。本日はありがとうございました。
関連リンク
一般社団法人大崎町SDGs推進協議会公式サイトhttps://www.osakini.org/signing-ceremony/
「circular village hostel GURURI 公式サイトhttps://hostelgururi.jp/