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教育業界はSDGs課題にどう取り組む?学校や企業の取り組み事例も解説

教育業界はSDGs課題にどう取り組む?学校や企業の取り組み事例も解説

2015年に国連で採択された、SDGs。だれ一人取り残さない、持続可能な世界をつくるために、2030年までに達成すべき国際的な目標です。

教育業界もこのテーマに対する関心は高く、多くの学校や教育機関においてSDGsを取り上げています。今回は教育業界におけるSDGsへの取り組みを、公立学校での勤務経験もある筆者が、学校・教育関連企業の2つの視点で紹介します。

教育業界(学校)が抱える課題

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学校に関するSDGsについては、

  1. SDGsの達成のためにも、学校現場が解決すべき課題の確認
  2. 授業におけるSDGsの立ち位置
  3. 実際の授業で展開されているSDGsプログラムの事例

の順番で詳しく掘り下げていきます。

まずは、学校現場が解決すべき課題の確認です。

学校のSDGsというと、生徒の授業プログラムばかりに目が向けられがちです。しかし、昨今の報道にもある通り、現代の学校現場は様々な課題を抱えており、これらを解決することも、SDGsの達成には不可欠だと言えるでしょう。ここではその中でも、SDGsとの関わりのある内容をいくつか取り上げます。

教員の負担が多く、志願者が減少している

今日の学校現場が抱える最大の課題は、教員の労働環境に関することです。

経済協力開発機構(OECD)が行う国際教員指導環境調査(通称TALIS)の結果を見ると、教員の指導・労働環境について、世界各国との比較をすることができます。2022年現在、確認できる最新の調査(2018年)には48の国・地域(以下、参加国)が参加しました。

日本の教員の1週間当たりの「仕事時間」は、小学校・中学校ともに参加国の中で最長でした。他国と比べて特に時間を要している業務は、「一般的な事務業務」や小学校では「学校運営参画」、中学校では「課外活動指導」などが挙げられます。一方で「職能開発活動」や、小学校における「教育相談」は他国に比べ従事時間が短く、教師としての質・能力を高めるため、また児童一人ひとりと向き合うための時間が不足していることが推測できます。公立小学校・中学校で勤務したことがある筆者の肌感としても、この結果は正しいように感じます。

また、精神疾患により休職・退職する教員も少なくありません。このようにわが国で学校教員の負担は大きく、SDGs目標8にあるターゲット「人間らしい仕事(抜粋)」が達成出来ていないとも言えます。

若者の教員志願者が減少

さらに、このことと関連して若者の教員志願者が減少しています。教員採用試験の倍率は年々減少しており、教員の質の確保が難しい状況です。自治体によっては1.0倍に近いところもあり、深刻な問題と言えます。

文部科学省や各自治体も、業務支援を行う職員の配置や、業務改善事例集の公開、業務の削減などに取り組んでいますが、抜本的な解決には至っていません。ちなみに教員の多忙化という問題の原因の一つに、通称給特法と呼ばれる、公立学校教員は限られた場合を除き、残業代が支払われないことを定めた法律があると言われています。

教育格差

教育格差も、日本の学校教育が抱える大きな課題です。

家庭の経済事情や、地域などにより、子どもの受けられる教育そのものはもとより、学習への意欲までも影響を受けてしまいます。

義務教育は無償、また高校も所得制限などの要件を満たせば授業料相当の給付金を受けられるなど、経済的な障壁は下がってきているように見えるかもしれません。しかし、原則無償とされている義務教育期間も、副教材や遠足・修学旅行などの参加費、そして制服や学習に必要な用具は各家庭が支出する必要があります。国と自治体が学用品費などを一部補助する就学援助制度などもありますが、十分であるとはいえません。

さらに経済的に困難な家庭は、そうでない家庭に比べて、家庭(主に親)の教育意識が低い傾向にあります。給付金などで支援を行っただけでは、格差が完全なくなることはないのです。

加えて、地域によっても格差があります。大都市圏とそれ以外の市部・町村部では学力テストの結果に有意な差があることが分かっています。

そして、高等教育(大学など)における給付型奨学金の受給率も欧米諸国に比べ低く、経済的な事情で高等教育機関への進学を諦める人も少なくありません。

これらの問題は、SDGsでは目標4「質の高い教育をみんなに」が大きく関係する目標です。中でも、

ターゲット4.1「2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育(=日本では中学・高校)を修了できるようにする。」

ターゲット4.3「2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。」

の2つのターゲットが、特に日本における教育格差の課題と言えます。

社会の変化スピードが早く、現場の対応が困難

技術革新が進むにつれ、社会の変化スピードが加速度的に早まっています。10年前の子どもと今の子どもとでは、成人までに身につけるべき能力も異なります。プログラミング教育が必修化されることは、10年前には多くの人が予想だにしなかったことでしょう。また、新型コロナ禍でオンライン授業も一気に広まりました。

さらに、通常学級においても特別な支援を必要とする児童生徒も増えてきているということを示す、文部科学省の調査に基づくデータがあります。

学校教育の内容も日々進化していますが、前述のとおり多忙である教員が、これらの変化についていくことは容易ではありません

繰り返しになりますが、授業プログラムの中にSDGsを盛り込むことは大切です。しかしそれと同時に、教員の負担や教育格差の是正にも取り組まなければならないことは理解しておく必要があるでしょう。

教育業界のSDGsの現状

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次に、小学校から大学まで校種別に、学校生活におけるSDGsの立ち位置についてご紹介します。

新学習指導要領での記載

学習指導要領とは、小・中・高・特別支援学校における指導の基準として、文部科学省が告示するものです。2022年現在、2017年から2019年にかけて改訂された学習指導要領が使用されています。この新しい学習指導要領には、「改定の経緯」として以下のようにSDGsやESD(Education for Sustainable Development;持続可能な開発のための教育)に繋がる記述も見られます。

(改訂の経緯)

今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく、また急速に変化しており、予測が困難な時代となっている。また,急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎えた我が国にあっては,一人一人が持続可能な社会の担い手として,その多様性を原動力とし,質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくことが期待される。

小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編より抜粋)

小学校 

小学校の新学習指導要領では、前文・総則のほか、家庭科や特別の教科 道徳(以下、道徳)で、「持続可能」というキーワードが登場します。

家庭科では「消費生活・環境」の単元で、「物や金銭の使い方と買物」や「環境に配慮した生活」の項目において、「課題をもって、持続可能な社会の構築に向けて身近な消費生活と環境を考え、工夫する活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する」と記載されています。

もちろん家庭科・道徳以外の教科や活動でも、SDGsに絡めた指導・取り組みを展開することができ各学校で工夫されたプログラムが実施されています。

中学校

中学校では、社会科(公民分野)や理科、英語等の教科でSDGsに関連する教育が行われています。ほかにも、総合的な学習の時間や特別活動、生徒会・部活動などの課外活動でも、積極的にSDGsに関する事項を扱う学校が多く見られます。

SDGsに関する学習は、世界の様々な課題について詳しくなることや、持続可能な社会の構築だけが目標ではありません。SDGsを教育のツールとして使うことで、批判的・多面的に考える力やコミュニケーション能力といった、生きていくうえで必要な様々な力をはぐくむことも期待されています。

高等学校

高校では学習指導要領の改訂により、2022年度からこれまでの「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」(以下、探究の時間)となりました。この探究の時間において、SDGsを題材にする学校が多く見られます。

また中学校と同じく、生徒会や部活動でSDGsに関する取り組みを行う学校もあります。最近では私立校を中心に、学校全体でSDGsを取り上げる高校も増えており、それを特色の一つとして掲げるケースもあるほどです。

さらには、大学のAO入試で課される小論文でSDGsが題材として取り上げられることもあり、SDGs教育は進路対策の面でも必須になってきているといえます。

大学

大学の役割は、教育基本法により「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する」とされています。そのため、SDGsのような社会的課題を研究し、成果を世の中に展開していくことは、大学の社会的意義ということができます。

高校までの教育指導要領のように全国一律に定められた指導方針はありませんが、ほとんどの大学で全学規模の取り組みを行っています。

また、

  • 学科や学部の枠を超えた「共通科目」としてSDGsに関する講義を行う大学
  • SDGsに特化した教育・研究を行うゼミを設置している大学

などのように、SDGsを積極的にプログラムに組み込む大学も見られるようになりました。

教育業界のSDGsへの取り組み事例

続いては、学校が具体的にどのような取り組みを行っているのか、校種別にご紹介します。

杉並区立西田小学校

東京都杉並区にある西田小学校は、2014年にユネスコスクールに加盟しました。ユネスコスクールとは、ユネスコの理念や目的に賛同し教育活動・学校運営を行う「学校の国際的なネットワーク」です。日本では、ユネスコスクールがESD推進の拠点校と位置づけられています

その中で西田小学校が2020年度に行った取り組みは、「ミミズコンポスト」です。「給食の残菜や鉛筆の削りカスなどがミミズの力によって土になる」ということを、ミミズの飼育から始め、「ESD子ども報告会」での発表まで長い期間を通して学びます。生物の多様性や自然の循環といった理科的な視点の学習はもちろん、地球環境を守るという意識の醸成にも繋がります。

相模原市立鳥屋中学校

相模原市立鳥屋中学校
出典:相模原市

神奈川県相模原市にある鳥屋中学校は、山間部に位置する全校生徒30名の小規模校です。相模原市は2020年にSDGs未来都市に認定されており、「SDGs未来都市計画」に基づいて様々な取り組みを行っています。

市の取り組みの一つとして、鳥屋中学校で市職員によるオンライン授業が実施されました。その後も学校で学びを深め、3年生の生徒一人一人が17の目標から気になるものを一つ選び学園祭で発表するという取り組みも行っています。

発表の様子は以下のページで見ることができるので、興味のある方は見てみてくださいね。

>>発表会の様子はこちらから

東京立正高等学校

東京立正高校は、東京都杉並区にある私立の学校です。当サイトでも以前取材させていただきました。

こちらの学校もユネスコスクールに加盟しており、「“自らが身近で取り組める課題を考える”ことを全校で模索するための取り組み」を行っています。その軸となっているのが「イノベーションコース」の生徒によるSDGsに関する取り組みです。地域との交流、企業による出前授業、教科横断型学習、海外研修、さらには他校との協働など、多様な取り組みを行っています。地域交流も、ただ交流やボランティアを行うだけでなく、

  • 子ども食堂に関わる人々の話を聞く
  • 実際にイベントを企画する

などの試みを通し、生徒の成長につなげています。さらに併設の中学校ではSDGs特化型入試を行うなど、さまざまな先進的な取り組みを行っています。

上智大学(上智学院)

上智大学を運営する学校法人上智学院では、サステナビリティ推進本部を設置し、職員として学生を登用するなど独自の取り組みを行っています。

学生職員の発案によりこれまでに、

  • 学生向けイベントの企画(理解促進)
  • 学生食堂での白飯小盛りボタンの設置(残飯減量)
  • ウォーターサーバーの設置(プラゴミ削減)
  • 特設サイトの公開(情報発信)

などが行われてきました。

学生を職員として登用することで、

  • 学生ならではの視点でユニークな企画ができる
  • 学生主導であることにより、他の学生に興味を持ってもらいやすい

という利点もあります。

【企業】教育業界が抱える課題

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ここまで、学校現場とSDGsの関わりについて取り上げてきました。続いては、塾や通信教育などの企業が抱える課題についてご紹介します。

少子化

教育企業の抱える最大の課題は、なんといっても少子化です。

報道にもあるとおり、出生数は1981年以降減少し続けており、今後もこの傾向は続くことが確実視されています。教育業界の「顧客」である子どもの数が減ることは、市場の縮小につながります。また大学受験業界に関しては、少子化に加え大学数の増加により浪人する人数の減少もみられます。

一方で、教育内容や学習方法の多様化が進み、従来にはなかった商品・サービスも生まれています。例えば、児童生徒向けプログラミングのスクール・教材や、AO入試に特化した塾、成人向けの学習サービスなどが挙げられます。

インターネット上の無料教材の台頭

YoutubeやWebメディアを中心に、インターネット上で無料で学べる教材を多く見つけることができるようになりました。これまでプロ講師の授業を売りにしてきた企業にとっては、大きなライバルと言えるでしょう。

一方で、リモート形式による個別・少人数の授業なども行えるようになり、新たな形態の教育サービスも生まれています。いずれにしても教育業界の企業が生き残るには、時代の変化についていけるかが大きなカギであるといえるでしょう。

【企業】教育業界の現状

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続いて、教育業界の企業を取り巻くSDGsに関する現状についてご紹介します。

入試の題材にSDGsの観点が導入

近年、中学校入試ではSDGsの視点から出題される問題が増えてきています。気候変動や環境問題といった理科的問題の他、ジェンダー平等や貧困・平和問題など社会時事的な問題も出題されています。

中学入試受験者を対象にする塾では、このような出題に対応する必要性が出てきており、大手学習塾の中には、SDGsに特化した教材を作成している所もあるほどです。入試突破のためのSDGsに関する知識習得だけでなく、学習を通してSDGsの理念に共感できる子どもが育つことも期待できます。

e-ラーニングなど新しい形に特化した企業が成長

教育業界企業の売上高ランキングを見ると、通信教育や塾などの大企業に並び、オンライン型外国語学習や企業向けオンラインビジネススクールなども上位にランクインしていることが分かります。

また、新型コロナの感染が広まって以降は、学校現場でのICT活用も急速に広まりました。この波に乗ったオンライン学習支援システムなどを提供する企業も、売上を伸ばしています。

【企業】教育業界のSDGsへの取り組み事例

最後に、教育業界の企業によるSDGsへの取り組み事例をいくつか取り上げてご紹介します。

株式会社公文教育研究会

「KUMON」で知られる公文教育研究会は、2017年より世界最大規模のNGOであるBRACと協働で、バングラディシュにおいて公文式教育を普及させる活動を始めました。

BRACが貧困層の子供向けに運営する「BRACスクール」は、現在バングラディシュ国内に約15,000校あり、同国の識字率向上に大きく貢献してきました。そのBRACスクールでは、さらに質の高い教育を行うため、公文式の教育が導入されることが検討されています。現地での検証実験の結果、算数の習熟度向上のほかにも、自己肯定感や学習意欲の向上といった効果も見られました。

この事業の大きな特徴は、中高所得層向けの教室運営で得た利益を、貧困層への無償提供に活用する仕組みを目指していることです。2022年10月現在、首都ダッカでは3教室が運営されており、2023年中に14箇所まで増やすことを目標としています。教室運営の収益が安定し、BRACスクールに公文式学習が導入される日が、着々と近づいています。

リソー教育グループ

「TOMAS」や「伸芽会」などの学習塾を運営するリソー教育グループは、「すべては子どもたちの未来のために」という企業理念のもと、SDGsへの取り組みを積極的に行っています。

子どもたちが進学のための勉強以外に、スポーツや芸術などにも打ち込むことを応援する「勉強プラスワン」と銘打った企画を実施。プロによるコンサートの開催や、スポーツ大会の後援・協賛はそのうちの一つです。これらは、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」に繋がる活動と言えます。また、公益財団法人日本環境協会の主催する「こどもエコクラブ」への支援は、教育企業ならではの取り組みです。

ほかにも、環境保護団体への支援、チャリティイベントの開催や義援金の寄付なども行っています。

まとめ

この記事では、学校と企業の二つの軸から、教育業界におけるSDGsへの取り組みをご紹介しました。

現代の子どもたち、そしてまだ見ぬ未来の人々がこの地球で長く平和に暮らしていくためにも、教育業界におけるSDGの取り組みは非常に重要です。また、加速度的に変化の進むこの時代において、教育業界も機敏な変化が求められています。

参考文献
文部科学省-教委135-1-2 平成29年3月31日公示 新学習指導要領等における持続可能な社会づくりに関連する主な記載(抜粋)
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課-通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について 
文部科学省国際統括官付 (日本ユネスコ国内委員会事務局)-SDGs実現に向けた文部科学省の取組
国立教育政策研究所-教員環境の国際比較:OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書
埼玉県立総合教育センター-学力向上BOOKLET「目指せ!持続可能な社会の担い手をはぐくむ教育」
ユネスコスクールSDGsアシストプロジェクト-杉並区立西田小学校
杉並区立西田小学校
相模原市立鳥屋中学校
相模原市SDGs one by one-「市によるオンラインSDGs授業!中学生もSDGs!」
相模原市SDGs one by one-「中学生が学園祭でSDGsを発信! 「ぼくたちはどう生きるか ~SDGsを通して~」」
東洋経済online-公立学校教員採用選考試験「小学校で過去最低の2.5倍」、低倍率のカラクリ
ベネッセ教育総合研究所-教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 [2007年~2008年]
【私塾界8月号】SDGsカリキュラムが次々と入試に「的中」する理由
朝日新聞-中学入試、SDGs多様な切り口で定番に 2022年度の頻出問題は
業界動向serach.com-教育業界 売上高ランキング
公文教育研究会-貧困層の子どもたちへ持続的な教育支援を目指して  
公文教育研究会-持続可能な教育支援と国際貢献  
公文教育研究会-プレスリリース「BRACと「BRAC Kumon Limited」との三者間ライセンス契約締結」
日本貿易振興機構-公文式教室、成績優秀者の受賞セレモニーを開催