特定非営利活動法人WE21ジャパン 高橋あゆみさん 橋本未希さん インタビュー

高橋あゆみ
2001年 WEショップマネージャーとしてWE21ジャパンの活動に参加
2003年 WE21ジャパンゾーンマネージャー
2007年 W.Co WEing事務局長
2009年 WE21ジャパン港南 事務局長
2013年 WE21ジャパン港南代表
2022年 WE21ジャパン理事
2024年 WE21ジャパン理事長
バブル景気にのってモノを買いため、浮かれていることにウンザリしていた頃に、リサイクルショップと出会う。夫の転勤で仕事を辞め、転勤先の福岡で、ボランティア活動、国際協力活動を始める。転勤で横浜へ。そこで「リユース・リサイクル」「ボランティア」「民際協力」の3つのコンセプトで成り立つ「WE21ジャパン」に出会い、「自分がやりたかったことはこれだ!!」と扉をノックし、現在に至る

橋本未希
横浜市育ち。アジアの途上国における貧困問題に関心があり、大学で国際協力について学ぶ中、インターンとして参加したNGOの活動報告会でWEショップに初めて足を踏み入れる。卒業後は新卒として一般企業に就職した後に、市民団体として国際協力に関わる仕事をするために退職、2021年より事務局広報スタッフとして入職し現在に至る。
introduction
1996年、英国の町に多々存在するチャリティショップを視察した女性たちがいました。日本にもこんな光景を根付かせたいという願いから、2年後、まず神奈川県厚木市に1号店が誕生し、本部組織のWE21ジャパンが設立されました。その後WEショップは神奈川県全域に広がり、WE21ジャパン・グループが形成されました。ボランティアに集う女性たちは、市民から寄付された衣類や雑貨をショップで販売し、その収益を環境破壊などの課題解決や市民と共に学ぶ「共育」にも繋げ、驚くべき多様な活動を展開しています。
今回は、高橋あゆみ理事長と橋本未希さんに、組織の背景や成り立ち、その現状などを伺いました。
社会課題に「気づき、考え、行動する」市民を拡げる

-まずは、活動の概要をご紹介ください。
高橋さん:
WE21ジャパンはネットワーク組織で、私たち二人が属している法人は本部として機能しています。システムとしては、神奈川を中心に33のWEジャパン地域NPOがWE21ジャパンと連携して「WE21ジャパン・グループ」を形成しています。

ミッションは、地球規模で起きている資源の奪い合いや環境破壊・貧困をなくし、環境や人権について考え・行動する市民を地域に拡げていくことです。
具体的な活動としては、各地域NPOがリユース・リサイクルのチャリティショップ「WEショップ」を運営し、ボランティアの参加により、地域の市民から寄付された衣類や雑貨を販売します。その収益は、様々な社会課題解決、市民と共に学ぶ「共育」活動、政策提言活動などに用いられています。

-組織が設立されたきっかけや背景を教えてください。
高橋さん:
1996年と1997年に、神奈川の女性たちがイギリスのチャリティショップの活動を視察しました。イギリスは古いモノを大切にする文化があり、古さに価値を見いだすという国民性があります。街の1ブロックの中に1つの店、もしくはそれ以上のチャリティショップがあり、市民から寄付されたものを販売し、様々な社会貢献活動に繋げています。
イギリスが関わった戦争によって、飢餓や貧困に陥った人々を支援しようと始まったのがそもそものチャリティショップの始まりです。収益を医療支援や教育支援に還元していくなど、同国では、チャリティの精神とシステムが生活の中に根付いているんです。
一方、日本にはもともと「もったいない」という文化がありました。昔は、着古した着物をふとんの外布に使ったり、その生地がへたればおしめにして、最後は雑巾として使い切る…そんなことを普通にやっていたんです。イギリスのチャリティ精神に感銘を受けた女性たちは、そのチャリティショップのシステムを日本に持ち帰り、「もったいない」文化と融合させて何かできないか?と考えました。当時の日本には、バザーや営利目的のリサイクルショップがあるくらいで、イギリスのようなチャリティショップはまだまだ少なかったんです。
視察から帰国した女性たちは、1998年、神奈川県厚木市に「WEショップ厚木一号店」を開設し、「WEジャパン」を設立、2000年に特定非営利活動法人の法人格を取得しました。そこから、売上で支援を行うチャリティショップの活動に共感した女性たちが神奈川のあちこちにWEショップを開店し,「WE21ジャパン・グループ」が形成されていきました。
-イギリスに視察に行った女性たちの行動には、どのような背景があったのでしょうか?
高橋さん:
1つには、時代の変化により生じてきた疑問がありました。1960年代半ばから高度経済成長の波に乗った日本社会は、以前なら国内で生産されたような製品も、労働賃金の安いアジアの人々の労働下で「大量生産」されたものを、「大量に消費」する生活様式が当たり前となり、それは資源の「大量廃棄」という問題を生みました。WE21ジャパンが設立された1990年代末期は、そうした大量廃棄による環境問題が地球規模の課題として捉えられはじめた時期でした。大量生産、大量消費社会が、誰かの犠牲の上になりたつままでいいのだろうか?私たちの生活はこれでいいのだろうか?と多くの人が気づき始めました。

もう1つのきっかけは、1995年の阪神淡路大震災です。今まであったものが一瞬にして壊れた経験は、日本人の意識に大きな変化をもたらしました。被災地には、誰かの役に立てばと全国から大量の物品や寄付金が寄せられ、奉仕活動も盛んになりました。あの震災は、ボランティアの文化が根付き始めるきっかけともなったんです。WEショップを開店し、活動の輪を広げる背景にもなりました。
「Women’s Empowerment」は女性に力を与える女性の力
-団体名の「WE」はWomen’s Empowermentの略語とのことですが、なぜあえて「女性」に「力を与える」なのでしょうか?
高橋さん:
empowermentは、支援対象の女性たちが力をつけるということと共に、組織を担う私たち自身の女性の力、という2つの意味を含んでいます。まずは背景を説明させていただきます。
私たちの組織のミッションの1つは「平和で公正な社会づくり」です。先程も背景としてお話したWE21ジャパンの設立時期は、2001年アメリカ同時多発テロ、それに端を発するアフガニスタンへの攻撃、2002年イラク戦争など、平和を脅かす出来事が次々に起きていました。
また日本は、第二次世界大戦中にアジア地域を侵略をした歴史があります。WE21ジャパンは過去の大戦への反省から、主にアジア地域の人々に対し、顔の見える関係を築いていくことで、草の根から平和を築いていくことを目指しました。
途上国では女性が経済的な力を持ちづらく、貧困に陥りやすい現状があります。世界の貧困の70%、非識字者の3分の2が女性だと言われています。WE21ジャパンは、アジア地域の途上国で特に弱い立場にある女性と子どもが困窮しないように積極的に支援していく方針で、「女性の活躍を応援する」ことを最初から大切にしてきました。
橋本さん:
そして、支援先の女性たちの応援だけでなく、WE21ジャパンの設立は、当時の女性の社会的立場の弱さからの脱却を目指す取組みだった、とも言えます。1990年代は、まだ女性の社会進出が進んでいない状態でした。専業主婦の女性が多く、男性は家計を支えていくべきだ、という分業意識がまだ強い時期だったと思います。
女性がもっと社会に出て活躍することが社会を活性化する、女性ならではの目線はコミュニティを活性化できる、と考えた女性たちが、自分たちの力で組織を設立してショップを運営しようと立ち上がりました。
WE21ジャパンは女性たちが力を寄せ合って21世紀を変えていこうという思いで活動しています。そこからWoman’s Empowermentが団体の名称に入りました。
民と民が草の根で繋がる「民際協力」活動
-それでは実際の活動内容を具体的にご紹介ください。まずは、ショップの取り組みからお願いいたします。

高橋さん:
現在33あるWE21ジャパン地域NPOは、合計42店の「WEショップ」(リユース・リサイクルのチャリティショップ)を運営しています。地域から参加したボランティアが、地域の市民から寄付された衣類や雑貨をショップで販売します。運営にかかる費用を除いた収益は、日本を含めたアジアの国々で環境破壊や女性や子どもの貧困などの課題解決に取組むNGOへの助成支援活動や、支援活動から見えてきた様々な社会課題を市民と共に学ぶ「共育(ともいく)」活動、課題解決を社会に投げかける政策提言活動などに用いられています。
2023年の例を挙げますと、WEショップの収益、寄付、募金などから、世界34の国と地域、125の支援プロジェクトへ、20,772,629円を支援しました。
寄付された衣類や雑貨は、ショップで販売する「リユース」が主となります。販売できなかった場合も無駄にはしません。その1つは「リメイク」です。ボランティアが中心となり、アイデアや技術を生かしてリメイクした作品をショップやイベントで販売します。もう1つは「リサイクル」です。連携している故繊維業者のナカノ株式会社を通して海外に古着として輸出したり、ウエス(工業用雑巾)や反毛フェルト(断熱材)、軍手などにリサイクルしたりしています。
他にも、羽毛布団やダウンジャケットを回収して再生羽毛に生まれ変わらせることや、携帯電話、天ぷら油、ガラス食器・陶磁器などもそれぞれリサイクルする体制を整えています。
神奈川県綾瀬市に、物流倉庫「エコものセンター」を運営しており、全国からこちらに直接寄付をお送りいただき、WEショップ、リサイクルに取組む企業やNGOなどが連携してリユース・リサイクルに取り組む仕組みができています。

-環境課題や貧困に取り組むNGOへの支援の例をご紹介ください。
橋本さん:
フィリピンのルソン島北部ベンゲット州の山岳地域への支援を挙げさせていただきます。山岳地帯の先住民族の方々は、病気になっても山を下りなければ病院に行くことができません。また、唯一の生計手段の農業は毎年夏に台風被害を受けることが多く、収入が不安定でした。その状況を解決するために、現地のNGOを通じて、手洗いの仕方から教える衛生教育や、暮らしを支え合うための協同組合づくりなどの事業を支援しました。
この活動は開始から20年以上が経過しています。現在は協同組合も自立しており、なるべく病院に行かなくて済むように自分たちでマッサージや針治療を学び健康管理をする保健活動をしています。また、現地で昔から風邪のひき始めの薬草療法として飲まれていたしょうが糖を商品化してフェアトレードを始めたんです。「森育ちのしょうがパウダー」という商品名で、WEショップでも販売しています。先住民族の方々は、その収益を基金として管理し、地域での保健活動を行っています。


私たちは、このような活動を「民際協力」と称しています。一般的な言葉とはいえません
が、国と国ではなく、民と民、つまり人と人同士の顔の見える関係作りを重視しているんです。相手を国として見るのではなく、「支援先の人々と私たちは同じ市民同士」という捉え方です。顔を合わせ、人と人同士での繋がりを大切に作ることで、「草の根」から平和を作れると考え、あえて「国際協力」ではなく「民際協力」としているんです。
-もう一種の収益還元活動「共育(ともいく)」とはどのようなものなのでしょうか?

高橋さん:
世界で起きている様々な問題を市民に伝え、共に学び考えるための活動です。テーマは多彩ですが、グループ全体で毎年取り組んでいる2つのトピックスをご紹介します。
1つは「貧困をなくそうキャンペーン」です。国連が10月16日を「世界食糧デー」に、10月17日を「貧困撲滅のための国際デー」に定めていることに合わせ、10月を「貧困をなくそう月間」として活動しています。市民の皆さんに対し、なぜ世界ではこのような状況になっているのか、日本にいる自分たちには何ができるのか、などを問いかけて啓発することを目的としています。
もう1つは「3.11を忘れないキャンペーン」です。東日本大震災が起こり、連動して原発事故が起きた時、私自身初めて、福島の原発の電気が福島の人々のためではなく、関東に送られていたことを知りました。そうであるなら私たちも何かをしなければ、と始まったキャンペーンです。職も住居も失って神奈川に避難したまま、いまだ故郷に帰れず原発裁判を行っている最中の方々がいます。関東に住む自分たちも福島をはじめとした東北の方々を応援しようと、市民と共に考え学ぶことをずっと続けています。
1人では何もできないが、大勢の力が集まれば何かが変わる
-チャリティショップの運営、リサイクルやリユースへの取り組み、国内外のNGO支援や共育など、こんなにも多岐にわたる活動がボランティアでなされているのは驚くべきことで、大きなモデルケースであると感じます。なぜそれが可能となっているのでしょうか?
高橋さん:
「1人では何もできないけれども、大勢の力が集まれば何かが変わる」という信念があります。人はいろいろな力を持っています。ショップを展開する時に、まず地域の皆さんの力を借りてやる、ということが最初のコンセプトとして出ていました。なので、寄付の品々を集めると同時に「あなたも一緒にボランティアとして参加しませんか?」というアプローチもしたんです。
実は初めは、寄付の品物なんて本当に届くんだろうか?ボランティアの募集に応じてくれる人はいるんだろうか?と案じていたんです。ところが寄付は集まりましたし、「きちんと働くことはできないけれど、1日の空いた時間を3時間くらい提供することならできる。それが誰かのためになるのなら嬉しい」と言ってくれる人たちがたくさんいたんです。これは驚きであり、やってみて分かったことでした。
そして、ボランティアをやってみたら楽しいし、誰かの役に立つ実感は嬉しい、という口コミが参加者の友人、知人に広まり、どんどん仲間が増えていきました。自分の得意分野を生かしたり、あるいは気が付かなかった自分の面を発見できたり、仲間ができたり…WE21ジャパンやWEショップは、参加者にとってそんな生きがいや居場所にもなりえたんです。義務のように強制される雰囲気であったなら、人は集まらなかったように思います。1人ではなく皆とシェアしながら、共に育っていきながら、誰かの役に立てるという実感がある。そんな楽しさがあってこそ続けてこれましたし、これだけのボランティアの参加につながったと感じます。


橋本さん:
WEショップは「市民の力で成り立ち運営する店」というコンセプトを大事にしています。最初の意志として、市民から寄付品をいただくこともそうですが、「いくばくかのお金、知恵、労力、時間を集めて持ち寄りショップを運営する」という想いがありました。チャリティショップにはいろいろな形態がありますが、WE21ジャパンは、市民の力で運営され、世界のいろいろな市民と繋がり草の根から平和を築く、というところを大切にしています。
-他者のためでありながら自分も豊かになるという、1つの生き方の活動体でもあるのですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。
高橋さん:
25年続けてきて、たくさんの支援者さんからのたくさんの寄付も、ボランティアパワーも、そもそもの成り立ちの根幹に「平和な社会」への想いがあります。これからも、世界の草の根の市民団体と繋がって活動することを変わりなく続けていきます。今までやってきたことを1つの誇りにしながら、大勢の市民の方々を巻き込んで、今後も続けていきたいと思っています。
-「WE」の中に「私たち」が集まる力と尊さも感じます。今日はありがとうございました。
関連リンク
特定非営利活動法人WE21ジャパン公式HP:https://we21japan.org/
WE21ジャパンInstagram:https://www.instagram.com/we21japan/
物品寄付の受付はこちら:https://we21japan.org/contribution
ご支援の受付はこちら:https://syncable.biz/associate/we21japan