一般社団法人ぺアチル 代表理事 南 翔伍 さん インタビュー

南 翔伍
教育学部で教員免許(小・中・高・特別支援学校)を取得しつつ、子どもの貧困・障害に関するNPO法人で活動。自身で立ち上げた団体で「人には話づらい深刻な悩みを抱えた」中高生向けにお寺で語り合う活動を実施。
「社会問題を解決するためにはビジネスとITの力が必要だ」と考え、教員にはならず、渋谷のITベンチャー企業でデジタルマーケティングのアナリストに従事。その後、発達障害のある方への就労移行支援・法的被害の泣き寝入りを解決するプラットフォームなどの事業会社でマーケティング責任者、元ZOZO前澤友作からの出資をうけた株式会社小さな一歩の経営戦略室長として、日本の養育費未払い問題にビジネスとマーケティングの観点で挑戦。
養育費に関わらず、多様な困りごとがあるひとり親の方々の力になりたく一般社団法人ペアチル創業。
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2013/4 山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース入学
2013/6 知的障害・発達障害のお子さんが通う放課後等デイサービスの非常勤スタッフ開始
2014/8 行政委託による貧困世帯の子どもへの無料学習支援等の場づくり開始(NPO法人にて実施)
2015/5 スクールカウンセラーと協同で不登校・虐待などに悩む中高生向けの場づくり開始(任意団体「心友」設立)
2017/4 日本中の社会問題解決には「IT」が必要と考え、株式会社WILLGATE入社
2017/11 大人の発達障害のある方へ就労支援する株式会社ハッピーテラス入社(WEBメディア事業責任者に就任)
2019/4 株式会社クラスアクション入社(子育て世帯の詐欺被害などの法的被害者の泣き寝入り問題を解消するための集団訴訟プラットフォーム事業マーケティング責任者に就任)
2020/5 株式会社SHIRO創業
2020/8 株式会社小さな一歩入社(執行責任者に就任)
2022/5 母子生活支援施設、児童養護施設、自立援助ホームなど社会的養護施設への訪問開始
2022/9 ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」開発開始
2022/10 一般社団法人ペアチル設立
introduction:
ひとり親同士が繋がり、相談や雑談ができるトークアプリ「ペアチル」等を運営する一般社団法人ぺアチル。
孤独・孤立に悩むひとり親が、似た境遇の人と繋がることで、普段話せないことを話し、息抜きや癒しの時間が持てる。「ペアチル」はそんなひとり親家庭の課題解決に繋がっています。
今回は、代表理事の南翔伍さんに、ひとり親家庭の現状や課題、トークアプリ「ペアチル」についてお聞きしました。
子供の幸せは親の笑顔から ひとり親の課題解決に取り組む
–はじめに、一般社団法人ぺアチルのご紹介をお願いします。
南さん:
一般社団法人ぺアチルは、テクノロジーを活用し、ひとり親家庭の課題解決に取り組んでいる団体です。
ひとり親同士が繫がり、雑談や相談ができるトークアプリの開発をはじめ、AIを活用した掲示板「ペアチルの泉」で、会員の方々が相談事の回答を得られるようなサービス、就労支援など様々なサービスの展開を目指しています。
また、ひとり親の方々に役立つ情報を発信するメディア事業にも注力しています。
「情報・人・仕事とひとり親を紡ぐ」をミッションとし、人や仕事、情報から孤立してしまい経済的、精神的な負担を抱えてしまうひとり親の方々の負の連鎖を止めることを目的に活動しています。
–では、南さんがひとり親の課題解決に取り組むようになった背景、経緯などをお聞かせいただけますか。
南さん:
私も母子家庭で育ったということが、課題解決をしようと思ったきっかけだと思います。
大学時代からNPO法人などで、貧困家庭の子どもたちの支援など、社会課題の解決に向けて活動をしていました。
その中で感じたのは、子どもたちの課題を解決するには、親が笑って生活できる環境が不可欠だということでした。親が笑っていないと子どもは幸せになりにくいと実感したんです。ですから、社会人になったら、大人に関する社会課題も解決したいと考えていました。
しかし、対面で会えた人だけへのサポートでは限界があり、たくさんの人の役に立てるのは、やはりテクノロジーを使った支援だと考えました。そこで、学生時代は、教員を目指していましたが、この目標を持ったために、卒業後にIT企業に就職しました。
ITのベンチャー企業でのデジタルマーケティングをはじめとして、いろいろな企業でビジネスでどう社会課題を解決できるかと考えながら仕事をしました。
例えば、発達障がいがある方の就労支援、詐欺にあっても弁護士費用が払えずに、泣き寝入りせざるを得ない方々の支援、養育費の保証サービスの会社などです。
養育費の保証サービスの会社は、実業家の前澤友作氏の出資を受けて作られた会社ですが、そこでの事業で実感したのは、ひとり親の家庭を支援するには、子どもだけ、親だけ、また金銭的な側面だけの支援ではなく、包括的な課題の解決が必要だということでした。
このような経験から、多方面からの課題解決を目指して、ぺアチルを立ち上げました。
–ひとり親の方々の現状についてはどう感じていますか。
南さん:
ひとり親の方々は、境遇や状況は皆同じではなく、個々に様々な悩みや課題を抱えています。貧困も一つの課題ですが、貧困でなくても精神的に深刻な悩みを抱えている方が多くいます。
精神的負担には、二つの主な原因があると考えています。
一つは、身近に頼れる人がいないために、人とのつながりが不足していることです。
ひとり親だということで誹謗中傷を受けることもあり、ひとり親ということを周りに隠さざるを得ない方もいます。また、自分の親など頼れるところがない方も多いんです。
もう一つは、公的制度の情報などから孤立してしまっていることです。受けられる公的補助があるのに、情報が得られずに知らないままということも多くあります。
私も、子どものころから母を見ていて、自分達の周りには養育費など様々な問題があることを感じていました。母のように一人で悩むひとり親の方の孤独や不安を解消し、現状を変えるために、テクノロジーを使ったサービスを展開しています。
ひとり親の孤独を解消するトークアプリ「ペアチル」
–では、具体的な事業内容についてお聞かせください。
南さん:
一番注力しているのが、ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」のサービスです。
ひとり親の方々から、アプリについてのご意見を伺いつつ、一緒に開発してきました。
「ペアチル」は、現在ひとり親、またはひとり親の時期があった方限定で、すべての機能を課金なしで利用してもらえ、自分の選んだ相手とトーク機能を使いコミュニケーションがとれます。

同じひとり親でも、境遇が様々に違うために、本音で話せる相手を見つけるのは非常に難しいこともあり、プロフィールの基本情報と、どのような境遇であるのかがわかる境遇タグをもとに、自分に合った人の条件を細かく検索できるように工夫しています。

プロフィールは、年齢、子どもの人数や性別、ひとり親になった経緯や親子の自己紹介など。
境遇タグでは、「ADHDの息子がいる」「パートナーが離婚してひとり親になった」「子どもが成人したけれど家に引きこもっている」「自分とは異性の子どもがいる」などの細かい境遇を入力・検索できます。
この検索機能で、自分の求めている相手と、相談・雑談・励まし合い・愚痴の言い合いなどのコミュニケーションがとれ、子どもと一緒にお出かけできるひとり親を探すことなどもできます。
このほかにも、もっと気軽なおしゃべりがしたい方のために、「晩酌大好きです」「映画鑑賞大好きです」などの趣味のカードも登録できるようにしています。

また、現在は、一対一でのコミュニケーションしか取れませんが、ぺアチルならではのタイムライン機能を準備中です。
活発にやり取りして、活用いただいている方も多いんですが、登録はしたものの、最初のメッセージをどう送ったらよいかわからない、勇気が出ないという方もいます。
そのハードルを下げるために、皆さんが自由に呟けるタイムライン機能を追加して、気軽に交流をスタートするきっかけを作りたいと考えています。
今後も、もっと使いやすく、利用者のニーズに応えられるようなアプリにしたいと考えています。
–現段階では、どのような利用者の方々のニーズに応えられていると感じていますか。
南さん:
やはり、孤独感の解消だと思います。
ひとり親の方々にヒアリングなどする中で思うのは、皆さん私たちが思っている以上に孤独を強く感じているということです。
この問題を解決するための取り組みは、世の中にいろいろあるのですが、なかなか的を得た解決法になっていないと考えています。
インスタグラムやXなどのツールもありますが、自分の境遇をさらけ出してコミュニティに参加できる方の方が少ないですし、リアルなコミュニティには日々の仕事、家事、育児のために参加は難しく、そもそもその気力さえないことも多いですよね。
しかしこのアプリは、内向的な性格、オープンな場で自己開示したくない人、日々の暮らしで忙しい人でも繋がれるようなサービスを目指していますので、必要な方の役に立っていると思っています。
必要な人に必要な情報を届けるために
–他にはどのようなサービスを手掛けているのでしょうか。
南さん:
現在、専門家の方にお願いしてセミナーを開催しています。
自分に何かあったときの子どもの生活費などに悩んでいる方が多いので、司法書士に遺言書についてのセミナーや、ライフプランナーに保険についてのセミナーなどを開催してもらっています。
また、非常に重大な問題を抱えている方に対しては、専門家を紹介するようなこともしています。
ただ、現在はきちんとシステム化はしていませんので、これからの課題でもあります。
もう一つは、他企業と一緒に取り組んでいる学習支援・就労支援です。
デジタルリテラシーの基礎を、eラーニングで学習してもらい、その後、転職に繋がるような支援をしています。また、生活や仕事でとても有効活用できるChatGPTやPerplexity等の生成AIの使い方や育児・仕事での活用方法も教えています。
ひとり親家庭では、貧困がいちばんの課題だと思います。
そのためにひとり親に対する就労支援は、国などでも長きにわたって行われてきてはいるんですが、あまり効果が出ていません。理由としては、就労支援のプログラムに取り組んでも、日々の生活の精神的な負担や疲労などで学習どころではなくなってしまうということだと考えています。
そのために、ぺアチルでは、精神的な豊かさにフォーカスし、トークアプリの取り組みからスタートし、意味のあるものだと検証できましたので、今後、様々な支援活動もしていきたいと考えています。
–「ペアチル」は、内閣官房「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」へ参画していますね。
南さん:
はい。弊社の取り組みは、一団体だけで解決できることではありません。ですから、ほかの団体と連携するために、情報の共有やディスカッションできるのは大きなメリットではないかと考え、申請し審査を通過して参画しました。

また、ベビーテック(R) アワード2023では、保護者支援サービス部門で大賞を受賞しました。
ベビーテック(R) アワードはベビーテック市場の認知度向上と、優れた商品・サービスの普及を目的とした、BabyTechの商標を持つ株式会社パパスマイルが審査運営する、育児系ICT専門として国内最大級のアワードです。

このように、内閣官房のプラットフォームに参加したり、第三者の審査機関で評価されることにより、アプリを使ってみたいけれど不安がある方々にも、信頼して使っていただけるようになったと思っています。
–では、事業に取り組む中で感じている課題や問題点などはありますか。
南さん:
いちばんの課題は、届けたいひとり親の皆さんに届けきれていないことです。
使ってもらえれば良いと感じていただけますが、知ってもらうのが難しいんです。
まず、口コミでの広がりは見込めません。
例えば、snsやおしゃべりの中などでぺアチルを取り上げるということは、自分がひとり親であるということを宣言することになるんですね。それを望まない方はたくさんいるので、一般的なサービスのマーケテイングとは少し異なります。
そんな中で、いま注力しているのがメディア事業です。
情報検索は多くの方がしますから、ひとり親の方々に有益な情報を提供して、そこからぺアチルを知ってもらい、アプリに登録してもらうという方法をとっています。一般的なマスメディアや信頼性の高いメディアなどにも掲載してもらい、ぺアチルの信頼度も高めていきたいと考えています。

–最後に、今後どのように活動に取り組むのか、展望をお聞かせください。
南さん:
令和3年11月の調査でのひとり親家庭数は、母子世帯数119.5万世帯、父子家庭数14.39万世帯です。
その中の100万世帯くらいにはぺアチルを届けたい、ひとり親家庭にとってのインフラにしたいと考えています。ぺアチルがあれば、相談したい相手と繋がり、必要な情報が手に入る。専門家とも繋がれるというサービスにしたいですね。
今検討しているのは、専門家にチャットで相談できる機能を追加し、充実させること。
もう一つは、現在、WEB上では、ひとり親の方々に役立つ情報は、集約された情報源がないのが現状ですが、そこをしっかり集約させたいと考えています。コンテンツ数を増やし、一つ一つ整理して発信することに注力したいと思います。忙しい日々を送るひとり親の方々が、能動的ではなく、受動的に欲しい情報が手に入るようなサービスを作りたいと思います。
現在、他企業との協業をいろいろ進めています。今後もますます多くの企業と一緒に、ひとり親の方々の支援をしていきたいと考えていますので、ひとり親家庭への支援に興味がある企業の方々にもぜひ声をかけていただき、一緒に事業展開していきたいと思います。
–本日は、貴重なお話をありがとうございました。
一般社団法人ぺアチル公式サイト:https://parchil.org/
トークアプリ「ペアチル」公式サイト:https://service.parchil.org/
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